中古車販売大手のビッグモーターが、中古車販売事業を分社化して伊藤忠商事<8001>に譲渡する方向で最終調整が進んでいることが報道で明らかになった。それによると旧会社は中古車販売事業を切り離し、創業者の兼重宏行前社長ら創業家が約100億円を出資した上で訴訟対応や債務返済に当たる方針だ。不祥事処理としては旧ジャニーズ事務所の分割と同様のパターンだ。

会社分割で創業家を切り離し

一方、伊藤忠が企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)と共同で新会社を設立し、ビッグモーターの中古車販売や車検などの整備事業を引き継ぐ。

譲渡金額は明らかになっていないが、「生き残り」の選択肢がほとんどないビッグモーター側の状況から見て高額にならない可能性が高い。さらには旧会社を残したことから、伊藤忠らが出資する新会社は訴訟や債務などのリスクを免れそうだ。

新会社は社名変更し、創業家と完全に切り離すことにより、保険金水増し請求や店舗付近の街路樹を意図的に枯らしたなど一連の不祥事による負のイメージを一新する。自動車関連事業を手がける伊藤忠としては、全国の消費者と直接接触できるチャネルを持つことができる。

自動車販売連合会によると2023年通年の軽自動車を含む中古車登録(販売)台数は356万2068台で、新車の477万9086台の7割を超える大市場だ。新車も中古車も販売会社の1台当たり利益率は20%程度だが、仕入れが予測できる新車販売と違い、中古車販売ではその時の在庫次第。顧客の求める車がなければ、ビジネスチャンスを逃す。自社在庫が3〜5万台とされるビッグモーターの巨大在庫を手に入れれば、中古車セールスで優位に立てる。

伊藤忠にとってシナジーが大きい中古車販売事業

そのほかにも中古車販売に付随する車検や修理、保険などの収入も見込める。伊藤忠は傘下に大手保険ショップの「ほけんの窓口グループ」があり、シナジー効果は大きい。

伊藤忠はこれまでも自動車関連企業のM&Aを実施している。2011年に子会社を通じて、欧州でタイヤ小売事業を展開する英Kwik-Fitグループ(エディンバラ)を約848億円で子会社化。2012年にマツダ<7261>から工作機械や自動車部品を製造・販売するトーヨーエイテック(広島市)の株式70%を210億円で取得して子会社化した。2017年には「メルセデスベンツ」などの高級輸入車を販売するヤナセ(東京都港区)にTOB(株式公開買い付け)を実施し、約65億円で子会社化している。

同様のスキームは旧ジャニーズ事務所が2023年に本業の芸能事務所事業を新会社のSTARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)に継承し、旧会社はSMILE-UP.(スマイルアップ)に社名変更の上、創業者のジャニー喜多川氏による性加害問題の被害者への対応や補償のみを手がけるのと同じスキームだ。

旧ジャニーズ事務所の会社分割による事業譲渡がビッグモーターでも採用されることで、不祥事を起こした企業の再建手段として再びクローズアップされた格好となった。

文:M&A Online