この記事は2024年3月29日に「The Finance」で公開された「ReFi(再生金融)とは?取り組む分野や事例を解説」を一部編集し、転載したものです。
本稿ではReFiの特徴やメリットと注目を集める背景についてわかりやすく解説しています。加えて、国内、海外におけるReFiプロジェクト事例についても紹介しています。
ReFi(再生金融)とは?
ReFi(再生金融)とは、「Regenerative Finance」の略称で、日本語では「再生金融」と訳されます。2015年に経済学者のジョン・フラートンによって提唱された「Regenerative Capitalism(再生資本主義)」を基にしており、社会的課題や環境問題に対して、経済システムが適切に機能し、環境や社会にプラスの影響を与えるように再構築されるべきだという考え方に基づいています。ReFiは、この考えを金融活動に応用したもので、投資や貸し出しなどの金融サービスを通じて、社会的、環境的に持続可能な社会の実現を目指しています。
ReFiの大きな特徴の一つは、ブロックチェーン技術の活用です。ブロックチェーンとは、ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、個々の取引履歴などを鎖(チェーン)のように連結することで、データの破壊や改ざんを困難にし、正確な取引を行えるようにする仕組みのことです。
ブロックチェーンは改ざんが困難である仕組みであるため、投資家や利害関係者はプロジェクトに対して、透明性の高い取引が可能になります。
ReFiでは、ブロックチェーンを活用することで、お金を生み出すために環境を破壊するという考え方から、環境を保全するあるいは再生する方が経済システムとして優れており、インセンティブも大きくなるという状態を目指しています。
(1)ReFiが注目を集めている背景
ReFiが注目集めている背景には、全世界的な気候変動対策や社会的課題への解決に取り組む機運が高まっていることが挙げられます。昨今は、全世界で大規模な気候変動などが急速に進んでおり、環境や社会に対して持続的にポジティブな影響をもたらす新しい資本主義の形が求められています。
その中で、金融分野では環境問題等を経済的な側面から解決を図る取り組みが広がっています。たとえば日本では三井物産子会社がReFiのサービスとして、NFT取引による炭素クレジット売買を実施しています。さらに事業共創カンパニーである株式会社Relicは、株式会社博報堂キースリーらとWeb3.0やブロックチェーン技術を活用した事業者支援プラットフォーム「ReFi Lab」を発足し、ReFiへの取り組みを進める下地を整えています。
さらにReFiが注目集めている背景として、「GX(Green Transformation)」が挙げられます。GXとは、脱炭素社会の実現に向けてクリーンエネルギーへの転換を進めていく取り組みのことです。日本政府はGXの推進について、10年間で150兆円規模の投資を実現することを目指す「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。
このGXの目標実現に向けて、ReFiはグローバルな資金調達が可能な点やブロックチェーン技術を活用したデータの透明性の確保などの点から有効だと考えられています。
参照:炭素クレジット売買にNFT取引「ReFi」 三井物産系
参照:事業共創カンパニーのRelic、博報堂キースリーらとWeb3.0やブロックチェーン技術を活用した事業者支援プラットフォーム「ReFi Lab」を発足
参照:「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました
(2)ReFiと相性の良いカーボンクレジット・DAO
日本政府は2050年時点での二酸化炭素排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルへの取り組みをスタートさせています。このカーボンニュートラルへの取り組みをより加速させるのが、カーボンクレジットです。
カーボンクレジットとは、削減・吸収した二酸化炭素をクレジットの形で取引可能にした制度のことで、クレジットの創出者は新たな収入源を得ることができ、クレジットの購入者は温室効果ガスの削減目標を達成できるメリットがあります。つまりカーボンクレジットを購入することで、環境に配慮した企業であるとアピールすることも可能です。
従来、カーボンクレジットは中央集権的に管理されており手続きが煩雑である、国や地域によってクレジットの基準が異なるなどの課題を抱えていました。しかし、ブロックチェーン技術を活用することで、透明性があり効果的な取引が行えるようになります。
また、カーボンクレジットをトークン化することで、カーボンの質によって価格の変動が可能になります。つまりカーボンクレジットの質を担保し、課題を解決することがReFiの取り組みによって期待できます。
カーボンクレジットの詳しい内容については、以下の記事を合わせてご確認ください。
参照:カーボンクレジットの仕組みや種類、デメリットを徹底解説!
さらにDAO(Decentralized Autonomous Organization)とも相性が良いのがReFiの魅力です。
DAOとは「分散型自律組織」と訳され、中央管理者がいない管理、運営を行う組織を指す言葉です。特定のリーダーがおらず、該当プロジェクトに参加するメンバーの投票などによって、組織の意思決定が進んでいきます。Web3.0時代における新しい組織形態として、注目が集まっており、ReFiの活動もDAOのような体制で運営されることが多くなっています。
なお、DAOについては以下の記事に詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
参照:DAOとは?分散型自律組織をわかりやすく解説【2022年12月最新版】
(3)DeFi(Decentralized Finance)の考えを活用するReFi
ReFiと似た単語として「DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)」が挙げられます。DeFiとは、ブロックチェーン技術を活用して、銀行などの金融機関などを介在せずに金融サービスを提供する「分散型金融サービス」のことです。銀行などの管理者(中央管理者)を挟まずに、ユーザー同士が直接取引を行えるのがDeFiの特徴です。
ReFiは、DeFiの考えを活用しており、ブロックチェーン技術を活用して透明性かつ効率的に取引を行い、資金を集め、持続可能な社会の実現を目指しています。
ReFi(再生金融)が取り組むべき分野
(1)気候変動への対応
地球温暖化などの影響が深刻化している今、持続可能な社会の実現を目指して再生可能エネルギーの推進や温室効果ガス削減など、気候変動への対応を進めることが求められています。
カーボンクレジットの取引や再生可能エネルギープロジェクトへの投資にReFiを活用することによって、ブロックチェーン技術のメリットである取引の透明性を確保するとともに、グローバルな取引を実現することが可能となります。
透明性のある取引によって、企業が環境問題に対して真摯に取り組んでいる証明にもなり、気候変動への効果的な取り組みにもつながります。
(2)生物の多様性を回復
生物の多様性とは、地球上のさまざまな生物が互いにつながりあい、調和することを指します。人間の経済活動による環境汚染や気候変動の影響で多くの生態系が破壊されており、生物多様性が喪失してしまうと、生態系への影響は甚大であると考えられています。
ReFiでは森林管理の改善や持続可能な農業プロジェクトの推進、サポートを行うことで、生態系の保全と回復に努めています。また、生物の多様性は海洋生物から森林など、あらゆる動植物が対象となっており、これらを経済活動と結びつけることで、価値を生み出しています。
(3)社会的不平等の是正
社会的不平等とは、経済活動によって生じた格差や貧困などを指します。たとえば昨今では、銀行の活用ができない、クレジットカードが利用できない、スマートフォンを活用した支払いができないなど、正規の金融サービスを享受できない層が生まれています。
JICA(独立行政法人国際協力機構)によれば、こうした正規の金融サービスへのアクセスができない人たちは世界に約17億人いるとしています。
ReFiでは、こうした社会的不平等の是正を目指し、正規の金融サービスを誰もが享受できるように、低所得者層へのサービス拡充や金融サービスを提供している企業への投資を促すなど、人々の経済活動の平準化を目指しています。誰もが金融サービスを受けられることで、貧困の削減や社会的基盤の再構築につながります。
世界のReFi(再生金融)プロジェクト
(1)Klima DAO
Klima DAOとは、カーボンクレジット市場に焦点を当て、炭素排出削減による気候の安定化や生物の保全などのプロジェクトを支援するために構築されているオープンソースコミュニティです。Web3.0とブロックチェーン技術を活用することで、世界中のあらゆる人がコミュニティに参加でき、炭素排出削減のプロジェクトなどに参画できます。
Klima DAOは、起業家や環境保護の活動家、Web3.0のデベロッパーなどから結成された「DAO」という特徴があり、コミュニティにおいて影響力の大きい貢献を行なった者に対して、インセンティブを付与し、市場を活性化させる仕組みとなっています。
Klima DAOでは「Klimaトークン」と呼ばれるネイティブトークンを発行しています。このKlimaトークンは、仮想通貨としてKlima DAO内で利用ができ、ユーザーは自身で気になるプロジェクトへ投資ができます。
(2)Nori
Noriは2017年にアメリカで設立されたスタートアップ企業で、ブロックチェーンを活用した二酸化炭素除去に関わるカーボンクレジットの取引が行えるマーケットプレイスを提供しています。
Noriの大きな特徴は、大気中のカーボン除去のみを扱っている点です。具体的には、大気中の二酸化炭素を収集して土壌に返す再生農家をはじめとするサプライヤー(供給者)と、脱炭素に積極的に取り組む企業や個人(購入者)、炭素除去取引のバリデーター(検証者)をつなぎ、サプライヤーが販売している炭素除去プロジェクトに関するNFTを個人や企業が購入できる仕組みです。
たとえばSTEPN(ステップン)というNFTプロジェクトは、ランニングなどの運動によって仮想通貨を稼げるゲームとなっており、プラットフォーム内で活用できるNoriトークンを獲得できます。ここまで購入されたトークンはCO2換算で59,000トン分となっており、大きな効果が現れています。
(3)MOSS
MOSSとは、ブラジルを拠点としたアマゾン地帯の森林破壊や土地利用変化に関連する温室効果ガス排出量を監視する団体のことです。MOSSでは独自のアルゴリズムを活用して、気象データや現地情報をリアルタイムで分析し、アマゾン地域の森林伐採の状況や動植物のモニタリング情報を提供しています。
MOSSでは、カーボンクレジットトークンである「MCO2」を発行しており、カーボンオフセットを希望する企業や個人が購入し、森林、エネルギーなど、ユーザーが貢献したいと考える分野などに投資が行える仕組みとなっています。
MOSSではアマゾンの環境保護プロジェクトを進め、これまで約6億5000万本の木を保護し、1MMヘクタールにおよぶ広大な環境の保全を行なった実績があります。
(4)Regen Network
Regen Networkとは、リジェネラティブ農業をコンセプトに行っている農家を対象とした環境保全活動を支援するプロジェクトのことです。リジェネラティブ農業とは、環境再生農業と訳され、農業を推進する際に農地の環境維持に取り組むのはもちろんのこと、利用している土地の改善や再生を目指す活動のことを指します。
Regen Networkでは、これらを実現させるために土壌などの生態系をモニタリングし、環境の回復するような変化に対してインセンティブが出るような仕組みとなっています。ブロックチェーン技術を活用して、Regen Networkに取り組みに賛同する農園がプロジェクトの登録を行い、カーボンクレジットの申請を行うと、買い手に対してクレジットを売ることが可能になります。
(5)Return Protocol
Return Protocolとは、ブロックチェーンを活用して気候変動問題の解決に取り組む企業や個人に対して、気軽で楽しく支援することを目的としたプラットフォームです。
Return Protocolではカーボンクレジットの売買を行うプロジェクトを対象に支援を行え、プロジェクトに対して個人や企業がどれくらいの貢献度があるかを可視化できる仕組みを採用しています。この可視化できる仕組みは「Impact Identity」と呼ばれ、Return Protocolでは貢献度がランクによってユーザーが閲覧できるゲーム要素として活用されています。
また、自身と同じプロジェクトに資金提供をしているメンバーとはコミュニティが構築される仕組みとなっており、コミュニティ内でつながることも可能です。
日本のReFi(再生金融)プロジェクト
(1)MORI NFT
JE FOREST株式会社が運営しているMORI NFTは、森林のCO2吸収量にフォーカスしたNFTプロジェクトを行っています。MORI NFTでは、森林整備事業に基づいたNFTが発行されており、ユーザーはNFTの購入や所有を通じてサポートする仕組みとなっています。
MORI NFTは、「MORI NFT」と「i Green NFT」という2種類のNFTが発行され、プロジェクト開始時には「MORI NFT」が販売され、購入されると収益の一部がプロジェクトに関わる森林再生活動に役立てられます。
「i Green NFT」はプロジェクトが進むにつれ、CO2排出量の削減が確認されると、購入者にインセンティブという形で配布されます。配布された「i Green NFT」を受け取ったユーザーは、第三者へ販売することも可能です。
2段階のNFTを設定していることで、資金調達とインセンティブの役割が明確になっており、ユーザーにとってもわかりやすい仕組みになっています。2023年3月には広島県庄原市の森林整備プロジェクトの「MORI NFT」が販売され、すべて完売するという成果も挙げています。
(2)SINRA
SINRAは気候変動問題へのアクションとして始まった、「地球上の自然が再生し続ける状態」と「地域経済が持続可能に運営される世界」の両立を目指すRegenerative NFTプロジェクトです。
三重県尾鷲市でプロジェクトは進められており、「Regenerative NFT」を用いて、自然本来の価値の可視化と人々の関与を促進する取り組みになっています。
「Regenerative NFT」は、蝶をモチーフとしたNFTとなっており、環境保全活動への参加を証明することはもちろんのこと、コミュニティへの参加権も付与されています。NFTの販売益は、自然資源保有者と地域に還元され、地域活性化やさらなる環境保全や再生に活用されます。
地方自治体がNFTを活用して行う世界初の環境保全プロジェクトとして注目を集めており、現在までに200トン分の二酸化炭素削減に貢献しているとしています。
(3)オフ・エミッション
オフ・エミッションは、株式会社テックシンカーが展開しているサービスで、CO2排出量の可視化やカーボンオフセットなどに貢献することが可能です。
オフ・エミッションは、個人が簡単にカーボンクレジットを購入できる点が魅力で、煩雑な手続きを必要としていないのが特徴です。元来、NFT取引は膨大な電力消費が問題視されており、環境に良いプロジェクトに参画しているはずなのに、環境に負荷をかけてしまっている課題がありました。
しかし、オフ・エミッションはNFTコントラクトアドレスを提示するだけで、機械学習に使われる消費電力と地域のCO2排出強度を考慮したCO2排出量が計算され、取引上で発生したCO2を実質ゼロにするオフセットクレジットが購入できます。
(4)aNET ZERO
aNET ZEROは、全国の主要コンクリートメーカー50社が提供する脱炭素経営プラットフォームです。コンクリートに関する記録を「残す」「わたす」「いかす」をテーマとして、最先端の脱炭素系コンクリートを社会に実装し、サプライチェーン排出量のNET ZEROを2050年より前倒しで実現することを目指しています。
炭素の削減記録をNFTに納め、ウォレットを介してゼネコンや発注者にリレーして取引履歴を残し、炭素削減の根拠データを「Decarbo Badge Factory」のトークンとして開発しました。
また、米マサチューセッツ工科大学(MIT)系ベンチャーのTRAMと提携し、社員の通勤や出張時に排出される炭素発生量をリアルタイムに把握できる取り組みも進めています。
(5)伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社は、農業分野におけるカーボンクレジット普及に向けた実証実験を新潟大学と共同でスタートさせました。具体的には、農地における温室効果ガスの排出量の可視化を行い、データを基にして削減に貢献した活動実績のNFT化を進めていきます。
将来的なカーボンニュートラルの実現を目指し、堆肥や緑肥などの有機物を用いた土づくりを通して、農地を含めた土壌での二酸化炭素(CO2)の排出を抑える「炭素貯留」を行うとともに、確実で精度の高いデータを取得するための、データ管理の仕組みも検証予定です。
実証実験を通じて、炭素貯留によって創出される信頼性の高いカーボン・クレジット取引の仕組みを構築し、市場の活性化による社会全体のGX(グリーン・トランスフォーメーション)の実現に貢献していきたいとしています。
まとめ
日本でも世界でもReFiの取り組みは広がっています。気候変動への対応、生物の多様性の回復、社会的不平等の是正など、昨今抱えている課題解決にReFiは注目を集めており、今後もさらに拡大していくと考えられます。
持続可能な社会の実現に向けて、より一層ReFiに目を向けてみると良いでしょう。