贈与税の配偶者控除の適用要件は?デメリットやメリットと注意点を解説
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

「夫婦間の生前贈与には、贈与税の優遇措置があると聞いたことがある」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

配偶者に、ご自宅や家を取得するための資金を贈与するときは、一定の金額まで贈与税がかからない「贈与税の配偶者控除」という制度を使うことができる場合があります。

当記事では、贈与税の配偶者控除について、どのような場合に使えるのか、まずはデメリットを解説し、それからメリットや注意点についても解説します。

この記事でわかること
  • 贈与税の配偶者控除の適用要件がわかる
  • 贈与税の配偶者控除は最大2,110万円まで非課税
  • 不動産取得税や登録免許税が課される点に注意

目次

  1. 贈与税の配偶者控除なら夫婦間の贈与税は非課税になる
  2. 贈与税の配偶者控除の適用要件4つ
  3. 贈与税の配偶者控除のデメリット2つ
  4. 贈与税の配偶者控除のメリット3つ
  5. 贈与税の配偶者控除を選択する際の注意点2つ
  6. 贈与税の配偶者控除の計算方法
  7. まとめ

贈与税の配偶者控除なら夫婦間の贈与税は非課税になる

贈与税の配偶者控除の適用要件は?デメリットやメリットと注意点を解説
(画像=78art/stock.adobe.com)

贈与税の基本的な概要や贈与税の配偶者控除について解説します。

1.贈与税とは生前贈与を受けた財産に対して課される税金のこと

贈与税とは、生前贈与を受けた財産に対して課される税金のことです。

個人が他の個人から金銭や不動産などの財産を贈与された場合、その贈与額が一定の非課税枠(年間110万円)を超えると、その超過部分に対して贈与税がかかります。

この税金は受贈者(財産を受け取った人)が納める義務があります。

贈与税の目的は、不公平な財産の集中を防ぎ、所得格差を是正することです。

また、相続税の回避を防ぐための措置でもあります。贈与税の税率は累進課税方式で、贈与額が大きいほど高い税率が適用されます。

贈与税の課税対象となる財産は、「贈与を受けた財産」と「贈与を受けたものとみなされる財産」です。

預貯金や現金、不動産、有価証券、貴金属、一定の利権、など幅広い財産が含まれます。

夫婦や親子でも財産のやりとりをすると「贈与」となり贈与税の対象となります。

その年の1月1日から12月31日までにもらった財産が110万円を超える場合は、翌年の2月1日から3月15日までに確定申告をおこない納税をしなければなりません。

2.常識的な金額であれば生活費や教育費には贈与税はかからない

ただし、夫婦や親子、兄弟姉妹など扶養義務のある人から生活費として支出されるお金や、教育費の振り込みなど、常識的に認められる金額で必要なものには通常はかかりません。

結婚や新入学のお祝い金、お年玉、お見舞い、香典なども一般的相当と認められる範囲であればかからないことになっています。

3.贈与税の配偶者控除の概要|婚姻期間が20年以上の夫婦間が該当する

贈与税の配偶者控除は、通称「おしどり贈与」とも呼ばれています。

一般的な世帯で、自宅を購入するときに夫婦の協力は欠かすことはできないことでしょう。

自分の死後も配偶者が安心して生活できるようにしたいと思うのは、自然なことと考えられます。

婚姻期間が20年以上の夫婦間で、配偶者へ居住するための不動産、または居住するための不動産の購入資金を生前贈与する場合は、特例として、一定の範囲まで贈与税がかからないとされています。

「夫から妻へ」贈与した場合も「妻から夫へ」贈与した場合も同様の取り扱いになります。

参考:国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

贈与税の配偶者控除の適用要件4つ

贈与税の配偶者控除の適用要件は?デメリットやメリットと注意点を解説
(画像=ohayou!/stock.adobe.com)

続いては、贈与税の配偶者控除の適用要件を解説します。

以下の要件にあてはまる人が配偶者控除の対象となり適用することができます。

1.夫婦の婚姻期間が20年を過ぎたあとにおこなわれた贈与であること

贈与税の配偶者控除は、前述したとおり結婚から20年以上経過した夫婦の間で、20年経過したあとに贈与をおこなう場合に適用されます。

この特例の場合の「夫婦」とは、「民法の規定によって効力が生じた婚姻に基づく配偶者」をいいます。

・内縁関係は配偶者控除の対象とはならない

内縁の妻・夫などの事実婚の場合も、基本的には民法の規定に基づく配偶者と同様に見なされます。

しかし、事実婚の場合は、法律上の夫婦ではないため、「配偶者控除」という税法上の優遇措置が適用されることはありません。

2.居住用不動産または居住用不動産取得のための資金であること

贈与税の配偶者控除は、居住用不動産や居住用不動産を購入するための資金を贈与した場合に、基礎控除110万円以外に上限2,000万円、合計2,110万円まで控除できて、贈与税がかかりません。

居住用不動産とは、国内にあるもので、おおむね居住のために使用する土地の上に存する権利または家屋のことをいいます。

土地と建物の両方の場合だけでなく、土地だけ、建物だけの贈与であっても、要件を満たせば適用できます。

店舗併用住宅や店舗兼住宅の場合も住居部分は適用が認められています。

住居部分がおおむね90%以上なら、店舗部分もすべてに適用を認められます。

3.贈与された翌年の3月15日まで居住しその後も居住する予定であること

贈与税の配偶者控除は、居住用の不動産ではないセカンドハウスや投資用不動産は対象になりません。

適用するには、贈与がおこなわれた翌年の3月15日までその不動産に住んで、その後もずっと住むということが要件となっています。

購入資金を贈与する場合は、翌年の3月15日までにその住宅に住み始めなければなりません。

したがって、売却することになっている不動産に贈与税の配偶者控除を使うことはできません。

4.過去に今回の贈与者からこの特例の贈与を受けていないこと

贈与税の配偶者控除は、今回の贈与者からこれまでに特例の適用を受けたことがない場合に使うことができます。

贈与税の配偶者控除は、同じ配偶者からの贈与に複数回の適用を受けることはできません。

なお、適用を受けるには、適用後に贈与税額がゼロになる場合であっても、一定の書類を用意して贈与税の申告が必要です。

関連記事
夫婦間の贈与税はどんな場合に発生する?10個の事例で解説

贈与税の配偶者控除のデメリット2つ

贈与税の配偶者控除の適用要件は?デメリットやメリットと注意点を解説
(画像=tomatoko/stock.adobe.com)

まずは、贈与税の配偶者控除に関するデメリットを確認しておきましょう。

1.相続税対策に効果的とはいえないケースもある

夫が亡くなり財産を妻が相続する場合、または妻が亡くなり財産を夫が相続する場合は、相続税の「配偶者の税額軽減」という特例があります。

亡くなった方の配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に相続した遺産額が、1億6,000万円もしくは法定相続分のいずれか多い金額まで、相続税は課税されないという制度です。

たとえば、夫が亡くなった場合、妻は必ず法定相続人です。

遺産の法定相続分までならどれだけの財産を相続しても妻の相続分は課税されません。

生前贈与は相続税の税負担を軽減する目的でおこないますが、この特例があるので、贈与税がかからないようにすることは、相続税の節税対策としては効果があまりないようです。

・贈与税の配偶者控除を適用した場合は小規模宅地等の特例を使うことはできない

また、相続には小規模宅地等の特例の制度があります。

この制度は、亡くなった方と生計を一にしていた親族は、一定の要件を満たす宅地等の課税価格を80%減額して相続できるというものです。

たとえば、夫が所有する自宅の土地の評価額が2,000万円であっても、妻が相続する際には400万円の評価額であるとみなされます。

2,000万円分の相続財産を贈与したつもりでも、実際に減らしたのは400万円分だけということになります。

さらに相続の場合は、贈与税の配偶者控除の要件と異なり、相続したあと住む予定がなく、その土地を売却したり貸したりしたとしても、小規模宅地等の特例は適用することができます。

贈与税の配偶者控除を適用した場合は、小規模宅地等の特例を使うことはできません。

2.不動産取得税と登録免許税が課される

贈与税の配偶者控除の適用によって贈与された自宅は、相続した場合と異なり手続きの費用がかかります。

贈与税の配偶者控除で贈与税はかかりませんが、配偶者から不動産を取得したということで、不動産取得税が課税されます。

不動産取得税は、固定資産評価額に税率をかけて算出します。土地の場合は1.5%です。

2,000万円の土地を贈与された場合は、30万円必要です。相続した場合は課税されません。

自宅の名義変更の登記手続きには登録免許税が必要です。

登録免許税は、贈与の場合は固定資産評価額の2%で、2,000万円の土地なら40万円必要です。

一方、相続した場合は、固定資産評価額の0.4%となるので8万円で済みます。

なお、贈与された不動産に課税される不動産取得税は、税負担を軽減する特例措置が適用される場合がありますので、別途確認が必要です。

贈与税の配偶者控除のメリット3つ

贈与税の配偶者控除の適用要件は?デメリットやメリットと注意点を解説
(画像=78art/stock.adobe.com)

続いては、贈与税の配偶者控除のメリットを解説します。

1.最大2,110万円まで贈与税がかからない

最大のメリットは、最大2,110万円まで贈与税がかからないという点です。

贈与税を計算する際には、その年の1月1日から12月31日までの1年間に、贈与によって受け取った財産から110万円を引いて、残りの金額から計算します。この110万円は、基礎控除で、すべての贈与に適用されます。

贈与税は他の税金に比べて、税率が高い税金です。

しかし、贈与税の配偶者控除を活用する場合は、この特例での2,000万円と基礎控除の110万円を合わせて、合計2,110万円まで贈与税を納めなくてよいことになります。

2.生前贈与加算の対象外になる

生前贈与がおこなわれたあと贈与した方が亡くなると相続が発生します。

相続が開始される前3年から7年以内に贈与された財産は、その時点の相続財産に合わせて相続税の課税対象になります。

この制度には、生前贈与をして相続税の節税対策を過剰におこなうことを防ぐという目的があります。

しかし、贈与税の配偶者控除を適用して贈与された財産は、3年から7年以内に相続が発生しても相続財産には含まれません。

贈与者が高齢になり、配偶者に贈与すると相続税の節税効果などが得られると判断される場合は有効でしょう。

3.相続発生後の住居を確保できる

相続が発生すると、亡くなった方の財産は、相続人全員による協議や家計裁判所の調停・審判によって分けられます。これを遺産分割といいます。

贈与税の配偶者控除を適用して生前に贈与した財産は、相続開始後の遺産分割の対象になりません。

相続が発生したときに、子どもと不仲な関係の家族の場合でも、配偶者の住居は確保できます。

そのうえで遺産分割がおこなわれることになるので、配偶者は安心して暮らしていくことができます。

関連記事
贈与税がかからない方法ってある?贈与税が非課税になる特例の内容を徹底解説

贈与税の配偶者控除を選択する際の注意点2つ

贈与税の配偶者控除の適用要件は?デメリットやメリットと注意点を解説
(画像=miya227/stock.adobe.com)

贈与税の配偶者控除を選択しようするときの注意点をご紹介します。

贈与税の配偶者控除を選択する際の注意点2つ

1.贈与申告書の提出が必要

贈与税の配偶者控除を適用して、贈与された財産の贈与税額が0円になるときもあるでしょう。

その場合でも適用を受けるには贈与税の申告が必要です。

必ず、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに、最寄りの税務署に贈与税の申告書を提出しなければなりません。

申告書を提出しなければ、贈与税の配偶者控除を適用したかどうか税務署で判別できません。

非課税になりませんので気をつけましょう。

2.贈与税申告方法を理解しておく

・e-Tax(電子申告)で申告する

贈与税の申告は、紙の申告書で作成して提出することもできますし、e-Tax(電子申告)で申告することもできます。

e-Tax(電子申告)での申告は、事前に利用開始のための手続等を済ませたあと、国税庁ホームページ「確定申告書作成コーナー」で画面の案内に沿って金額等必要事項を入力し申告書を作成して送信します。

・紙の申告書は住所地の所轄税務署に持参か郵送

紙の申告書は、住所地の所轄税務署の受付窓口に持参するか、時間外収受箱に投函して提出することができます。

贈与税の申告書には次に記載する以下の書類を添付します。

1. 受贈者の戸籍の謄本又は抄本(居住用不動産等の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成されたものに限る)
2. 受贈者の戸籍の附票の写し(同上)
3. 居住用不動産の登記事項証明書、もしくはその他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証明するもの

居住用不動産を購入するための資金ではなく、居住用不動産の贈与を受けた場合は、上に記載した3種類の書類のほかに、贈与を受けた居住用不動産を評価した評価証明書などの書類の提出も必要です。

土地・建物の登記事項証明書の請求は、法務局でおこないます。

登記所または法務局証明サービスセンターの窓口での交付請求、郵送での交付請求のほかに、自宅からインターネットでオンラインによる交付請求をおこなうことが可能です。

関連記事
贈与税申告に必要な書類は?自分でもできる書類の書き方や手続きの流れを解説

贈与税の配偶者控除の計算方法

贈与税の配偶者控除の適用要件は?デメリットやメリットと注意点を解説
(画像=mimi@TOKYO/stock.adobe.com)

贈与税の配偶者控除を適用せずに贈与をおこなう場合と、贈与税の配偶者控除を適用して贈与をおこなう場合では、納める税金はそれぞれいくらになるのでしょう。

計算例を使って計算してみましょう。

国税庁のサイトには、「贈与税の速算表」が掲載されています。

贈与税の速算表は2種類あり、夫婦間の贈与の場合は、「一般贈与財産用」の速算表を使って計算に使用します。

一般贈与財産用(一般税率)

2024年中に夫から妻へ2,500万円贈与したとしましょう。

・贈与税の配偶者控除を適用しなかった場合

贈与財産
2,500万円 - 贈与税の基礎控除110万円 = 基礎控除後の課税価格2,390万円

基礎控除後の課税価格
2,390万円 × 贈与税の税率50% - 控除額250万円 = 945万円

となり、贈与税は945万円納めなければなりません。

2.500万円から贈与税を945万円納めると、2,500万円-945万円=1,555万円なので、手元に残るのは、1,555万円です。

・贈与税の配偶者控除を適用した場合

贈与財産
2,500万円 - 贈与税の基礎控除110万円 - 贈与税の配偶者控除2,000万円 = 課税価格390万円

課税価格
390万円 × 贈与税の税率20% - 控除額25万円 =53万円

となり、贈与税は53万円納めればよいことになります。

まとめ

贈与税の配偶者控除の適用要件は?デメリットやメリットと注意点を解説
(画像=paylessimages/stock.adobe.com)

本記事では贈与税の配偶者控除の適用要件やメリットやデメリット、注意点について解説しました。

贈与税の配偶者控除を適用することが、相続が発生したときに効果的かどうかはご家庭によって異なります。

贈与や相続に詳しい税理士、弁護士、司法書士などの専門家に相談し、適用要件やメリットやデメリット、注意点をよく理解したうえで判断することをおすすめいたします。

(提供:ACNコラム