要旨
AI関連銘柄を原動力としたグローバル株高局面が継続
グローバル市場では、4月における株価調整後、5~6月には株高トレンドが復活しました。その背景としては、米国景気のソフトランディングの下、FRB(米連邦準備理事会)がFF金利を年内にある程度引き下げるという期待感が市場で醸成されたことが挙げられます。しかし、マグニフィセント7と呼ばれるテクノロジーの銘柄群など、AI(人工知能)関連銘柄が継続的に上昇した点は、株価上昇の背景としてより重要でした。
短期的には、米利下げ織り込みの進展で株高継続の見込み
私は、今後、インフレの低下に対する期待感がさらに高まり、FRBの利下げがより本格的に金融市場に織り込まれることで株価の上昇局面が短期間継続するとの見方に変更したいと思います。今後想定される利下げの織り込みは、マグニフィセント7以外の銘柄に押し上げ効果をもたらすとみられますが、マグニフィセント7の銘柄群も上昇する公算が大きいと考えています。
年末にかけては米景気減速が株価の重石となり、銘柄選択が重要に
グローバル株価が短期的な上昇局面を終えた後は、これまでの見立て通り、年末にかけて株価が横ばい圏に入るとの見方を維持します。これは、欧米の経済成長率が、今年末から2025年にかけて、共に、「強くもなく、弱くもない」、潜在成長率程度の水準となる可能性が高いとみているためです。株価が横ばい圏に入ることで、個別企業の成長性や将来性に焦点があたる形で銘柄が選択される傾向が強まっていくとみられます。
AI関連銘柄を原動力としたグローバル株高局面が継続
グローバル市場では、4月における株価調整後、5~6月には株高トレンドが復活しました。時価総額で世界最大である米国市場の代表的株価指数であるS&P500種指数は4月に4.2%下落した後、5~6月の2カ月間で8.4%上昇しました。5~6月には、主として2つの要因が株価の上昇を支えてきたと考えられます。第1が、AI(人工知能)関連銘柄の継続的な上昇でした。マグニフィセント7と呼ばれるテクノロジーの銘柄群(エヌディビア、マイクロソフト、アルファベット、アップル、アマゾン、メタ、テスラ)が相場をけん引してきました。ブルームバーグ米国大型株価格指数(米国の時価総額上位500社で構成される浮動株時価総額加重平均指数)はS&P500種株価指数とほぼ同様の動きをする指標ですが、これからマグニフィセント7を除いた指数の5~6月における上昇率は、3.6%にとどまりました(図表1)。これに対して、マグニフィセント7の銘柄を同じウエイトにして算出したブルームバーグマグニフィセント7価格指数の5~6月における上昇率は19.6%に達しました。
株価上昇を支えたもう第2の要因が、米国景気のソフトランディングの下、FRB(米連邦準備理事会)がFF金利を年内にある程度引き下げるという期待感でした。4月には米国景気の強さを示す経済指標が続いたことがインフレの高止まりやFRBによる高金利政策の継続への懸念をもたらしたのに対して、5~6月は景気の減速やインフレの落ち着きを示す指標が多く発表されました(図表2)。特に、5月分のインフレ指標が市場の想定を下回る内容になった点は、パウエルFRB議長によるややハト派的なコミュニケーションとともに、金融市場に安堵感をもたらし、それ以降の株価上昇をサポートしたと考えられます(当レポートの6月13日号⦅「5月分米CPI統計で金融市場に安堵感」⦆をご参照ください)。
短期的には、米利下げ織り込みの進展で株高継続の見込み
さて、私は今春の段階で、グローバルな株高局面は4-6月期のどこかまで続くとの見方をしていました(当レポートの3月14日号、「グローバル株高局面はいつまで続くか?」をご参照ください)。株価の上昇が継続するとみていたのは、FRBによる年内の利下げに対する金融市場の確信が強まり、それが織り込まれることで株価に上昇余地があるとの見方に立っていたためです。その想定通り、グローバル株価は、5~6月中を通して上昇基調を続けました。
想定外だったのは、6月末時点でも、FRBによる年内に2回程度の利下げについての金融市場の確信度がまだそれほど強くなっておらず、マグニフィセント7を除いたベースでは株価の上昇が限定的であった点です。この事実をふまえて、私は、今後、インフレの低下に対する期待感がさらに高まり、FRBの利下げがより本格的に金融市場に織り込まれることで株価の上昇局面が短期間継続するとの見方に変更したいと思います。今後想定される利下げの織り込みは、マグニフィセント7以外の銘柄に押し上げ効果をもたらすとみられます。また、マグニフィセント7については、米国の個人投資家が株を追加的に購入する余裕を持っていることや(この点については当レポート先週号「米国株式:個人投資家に買い余力」をご覧ください)、個人投資家のテクノロジー銘柄に対する強い期待感に変化がないようにみえることをふまえると、大幅な下落は考えにくく、むしろ短期的には上昇を続ける公算が大きいと予想します。
年末にかけては米景気減速が株価の重石となり、銘柄選択が重要に
他方、グローバル株価が短期的な上昇局面を終えた後は、これまでの見立て通り、年末にかけて株価が横ばい圏に入るとの見方を維持します。これは、欧米の経済成長率が、今年末から2025年にかけて、共に、「強くもなく、弱くもない」、潜在成長率程度の水準となる可能性が高いとみているためです(図表3)。
欧州の景気は、2023年における低迷期を経て、1-3月期から底打ちの動きを強めており、今年後半の成長率は潜在成長率程度にまで改善すると見込まれます。ユーロ圏ではECB(欧州中央銀行)が6月の理事会で今回のサイクルでの初めてとなる利下げを実施しましたが、年末までに複数回の追加利下げを実施することが景気に追い風になると予想されます。米国景気は、既に減速基調が強まっていますが、今年後半には欧州と同様、潜在成長率程度の軌道を辿ると見込まれます。欧米経済の両方について景気の上振れを想定していないのは、インフレの再加速に対する懸念が払しょくされない中で、中央銀行当局による政策金利の引き下げが緩慢なペースとなり、少なくとも2025年末までは政策金利が中立金利を上回る、つまり、金融政策が景気に対して抑制的に作用する、とみているためです。こうした景気の前提に立つと、欧米企業の企業業績には、「大きく上振れもしなければ、下振れもしない」との見方が強まり、株価が横ばい圏で落ち着く公算が大きいと見込まれます。
株価が横ばい圏に入ることで、金融市場では、マクロ的な景気の動きが株価に大きく影響するこれまでの傾向から、個別企業の成長性や将来性に焦点があたる形で銘柄が選択される傾向が強まっていくとみられます。
リスクとしては、11月5日の米大統領選挙に伴うリスクが重要です。トランプ氏が勝利する可能性が強まる場合は、財政赤字拡大への懸念から米国の長期金利がやや上振れたり、中国からの輸入品に高率の関税が課される懸念から、中国関連銘柄のパフォーマンスが低下する可能性があります。他方、株価に対するアップサイドのリスクとしては、生成AIのより積極的な活用が視野に入る中、マグニフィセント7の諸銘柄や、AIの活用によって恩恵を受ける銘柄により多くの資金が集まる可能性を挙げたいと思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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