独立系システム開発の大手、富士ソフトが上場企業の看板を返上し、株式市場から「退出」する決断を下した。筆頭株主で物言う株主として知られるシンガポール投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズとの2年に及ぶ対立に終止符を打ち、経営のフリーハンドを取り戻すのが狙いだ。
物言う株主に嚙みつかれた挙句に、株式の非公開化に救いを求めるケースとしては東芝の一件が記憶に新しいが、今後、広がりを見せるのだろうか。
株主構成の整備を最優先に
富士ソフトは米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)によるTOB(株式公開買い付け)を受け入れる形で株式を非公開化する。KKRは5583億円を投じて富士ソフトの全株式取得(1株8800円)を目指す。今年最大級のTOB案件で、9月中旬にも買い付けが始まる。
富士ソフトをめぐっては23%あまりの株式を保有する筆頭株主の3Dが非公開化を含めた企業価値向上策を要求し、対立が続いていた。米投資ファンドで同じく物言う株主のファラロン・キャピタル・マネジメントも9%超を保有する。
この海外2社に合わせて約3分の1の株を買い占められていた富士ソフトは「経営上の課題である株主構成を整備することが最重要だ」と判断し、KKRと連携することにした。3D、ファラロンのいずれも保有するすべての株式をTOBに応募する。
TOBが成立すれば、富士ソフトは東証プライム市場への上場が廃止となる。これにより3Dの影響力を排除し、KKRの傘下で将来の再上場に備える。
3Dが富士ソフト株を新規に約9.3%保有したことが判明したのは2021年12月。翌2022年9月には保有割合が20%を超えた。
3D、過度な不動産投資を問題視
3Dは富士ソフトに企業統治の改善や資本の効率化を求めて、株主総会で自らが推す取締役の選任などを求めてきた。富士ソフトが本業のもうけの多くをオフィスビル開発に振り向け、こうした過度な不動産投資による低資本効率を問題視してきた。
富士ソフトは今年1月、独立社外取締役で構成する特別委員会を設置し、KKRを含む複数の買収提案の是非について検討を始めた。3Dは富士ソフトの取締役会が買収提案を否決した場合、1年間で総額750億円の自己株式取得を行うことを求めていた。
富士ソフトは昨年末、サイバネットシステム、ヴィンクス、サイバーコム、富士ソフトサービスビューロの上場子会社4社にTOBを行い、完全子会社化した。今回、富士ソフト本体も非公開化し、株式市場からいったん「退出」することになった。