相続にトラブルは付きものです。
相続トラブルは自分で解決できるものもあれば、弁護士に依頼しなければ解決が難しい複雑なものもあります。
そこで重要になるのが、どのようにして相続トラブルに強い弁護士を選ぶかです。
本記事では選ぶためのポイントや費用の相場などについてわかりやすく解説します。
弁護士選びの参考にしてください。
- 税理士、司法書士、行政書士、弁護士の中で相続トラブルに対応できるのは弁護士だけ
- 弁護士費用を安く抑えるコツは初回無料相談の弁護士事務所に相談をする
- 安さだけでなく弁護士との相性も含めて総合的に判断し弁護士を選ぶ
目次
相続トラブルは弁護士に相談するのが解決の近道
一般社団法人相続解決支援機構がおこなった「相続トラブルとその解決に関する調査」(2023年)によると、「相続時に相続人と揉めたことがあるか」との問いに、33%の人が「揉めた経験あり」と答えています。
3人に1人は何らかの相続トラブルを経験していることになります。
被相続人の意思が示された遺言書があれば問題ないのですが、遺言書が無い場合、遺産を分けるのは基本的に遺産分割協議によっておこないます。
同じ被相続人の子どもでも、それぞれ家庭を持っている場合は経済状況が異なります。
少しでも多く遺産をもらおうとして遺産相続争いに発展するのは、テレビドラマでもよく題材になる話です。
遺産分割協議で話し合いがまとまらない場合、相続人の間で解決するには限界があります。
そこで出番になるのが弁護士です。
第三者であり専門家でもある弁護士が仲介することで、冷静に遺産分割協議を進めることができます。
弁護士に相談することがトラブル解決の近道といえるでしょう。
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相続で弁護士ができること
相続トラブルを依頼する前に、弁護士が相続に関してどのような業務をおこなえるのかを把握しておく必要があります。
相続に関して弁護士は以下のような業務が可能です。
・戸籍謄本等の収集を含む法定相続人調査
・残高証明書等の収集を含む相続財産調査
・相続放棄や遺言検認の申し立て
・遺産分割協議書の作成
・預貯金の解約払い戻し
・有価証券の名義変更
・相続トラブルの解決
このほかにも可能な業務があると思われますので、ケースによって担当の弁護士に相談すると良いでしょう。
弁護士と他の専門家との違い
相続に関して依頼できる専門家には、弁護士のほかに税理士、司法書士、行政書士がいます。
それぞれ役割が異なるので、相談する内容によって選びます。
法定相続人調査や相続財産調査は4つの士業が共通でできるので、それ以外の可能業務の有無を確認しておきましょう。
専門家 | できること | できないこと |
---|---|---|
税理士 | ・相続税の計算・申告 ・税務相談 ・税務調査対応 |
・法的手続きの代理 ・訴訟の代理 |
司法書士 | ・遺産分割協議書の作成 ・不動産の名義変更(登記) ・相続放棄の手続き支援 |
・税務相談・申告 ・訴訟の代理 |
行政書士 | ・相続関係説明図の作成 ・遺産分割協議書の作成 ・相続手続きの代行 |
・税務相談・申告 ・訴訟の代理 ・登記業務 |
弁護士 | ・遺産分割の紛争解決 ・訴訟の代理 ・遺言書の無効確認 ・法的なアドバイスおよび代理人業務 |
・税務申告の直接的な手続き(税理士が行おこなう) |
以下で詳しく解説します。
税理士|相続税の相談できる税の専門家
税理士は、相続税が発生する場合に相談できる税の専門家です。
相続税額の正確な計算、申告書の作成、税務調査への対応など、相続税に関する全ての業務を代行します。
相続税を合法的に減らすためのさまざまな手法を提案し、具体的な節税プランを作成します。
また、遺産の評価額算出、相続税の観点からのアドバイスをおこない、円滑な協議進行をサポートします。
さらには、銀行口座、不動産、株式など、被相続人の財産を幅広く調査し、その評価額を算出することも税理士は可能です。
しかし、遺産分割協議における紛争、遺言の有効性など、法律的な問題の解決は税理士にはできません。
これは弁護士の業務範囲になります。
また不動産の相続登記もできず、これは司法書士しかできません。
ただし、相続税が発生する以外のケースでは依頼可能な業務は少ないといえます。
相続財産が基礎控除「3,000万円+法定相続人の数×600万円」以下であれば相談する機会はほぼないでしょう。
司法書士|相続登記をおこなう登記業務の専門家
司法書士は、相続登記(不動産の名義変更)をおこなう登記業務の専門家です。
司法書士は不動産の相続登記手続きを代行します。
また、相続に不動産が含まれる場合、遺産分割協議書の作成をサポートします。
そのほかにも、相続に関する各種届出書類の作成を代行し、銀行口座、不動産などの調査をおこない、相続人確定のための資料を作成します。
相続に関連する業務も一部可能ですが、相続トラブルの解決はできません。
また、相続税の申告や自動車の名義変更もできません。
司法書士に相談するのが適しているのは、「相続財産に不動産が含まれていて、相続トラブルが発生していない」ケースです。
行政書士|行政への申請手続きを得意とする専門家
行政書士は、名前のとおり行政への申請手続きを得意とする専門家です。
行政書士は、相続開始の届出、相続関係説明図の作成、相続財産の調査報告書の作成など、行政機関への各種届出を代行します。
また、相続に関する補助金申請手続きを代行でき、預貯金の払い戻しや有価証券の名義変更も依頼できます。
しかし司法書士は、相続税の計算、不動産登記などはできず、相続トラブルは弁護士の独占業務なので、これもできません。
弁護士への相談が必要なケース
遺産分割協議の決裂以外にも弁護士に相談したほうが良いケースはあります。
たとえば、遺言書の内容に問題がある、遺留分を侵害している、隠し子が現れた、相続人の一部が財産を使い込んでいた、借金の額が多いなど専門家に依頼しないと解決が難しいケースです。
このように素人では手に負えない場合は、費用がかかっても弁護士に相談したほうが無難です。
弁護士へ相談する必要がないケース
相続人間の仲が良い場合は、円満に相続が進むので、弁護士への相談はほぼ必要ないでしょう。
相続人が1人しかいない場合も争いが起きる要素がないので相談不要です。
また、相続人が複数いても、財産が現金や預貯金だけという場合は分割が容易なので、トラブルに発展する可能性は低くなります。
弁護士に依頼するメリット
弁護士に解決を依頼するにはコストもかかるため、できれば自分で解決したいと考える人もいるでしょう。
しかし、弁護士に依頼するには以下のようなメリットもあるので、コスト以上の成果を得られる場合があります。
1.相続全般について相談できる
相続トラブルだけでなく、相続全般について相談できるのが大きなメリットです。
相続税の申告(税理士)や相続登記(司法書士)、自動車の名義変更(行政書士)など他の専門家に任せたほうが良い業務もありますが、それ以外の多くの相談に対応できます。
2.他の相続人と交渉してくれる
相続で気を遣うのが、他の相続人との交渉です。
弁護士に依頼すれば交渉を代行してくれるので、相続人との人間関係が悪くなることを避けられます。
親族間では感情的になる話し合いも、交渉のプロである弁護士が入ることで冷静に進み、解決が早まることが期待できます。
3.遺産分割のアドバイスをしてくれる
遺産は分割の仕方によって不公平が生じ、トラブルのもとになります。
特に相続財産の中に不動産がある場合は要注意です。
分割が難しい場合、弁護士にアドバイスを受けることで、法定相続割合に応じた公平な遺産分割を実現できます。
相続人全員が納得することで、遺産分割協議がスムーズに進みます。
4.将来起こり得るトラブルを予防できる
遺産分割協議が始まる前に弁護士に依頼することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
どうしても相続トラブルが起こってから弁護士に解決を依頼するケースが多くなりますが、始めから遺言書の作成や遺産分割協議書の作成を依頼するのも有効な方法です。
5.払い過ぎた相続税の還付を受けられる
弁護士に依頼することで、払い過ぎた相続税を還付してもらえる場合があります。
自分で提出した相続税申告書に誤りがあることを弁護士が発見し、改めて申請書を提出することで国から税金が還付されるケースが発生します。
相続トラブルに強い弁護士を選ぶ7つのポイント
相続トラブルに強い弁護士を選ぶには、以下の7つのポイントをクリアしていることが重要です。
1.ホームページを持っているか
ホームページできちんと情報を発信しているかは大きな選択のポイントです。
ホームページすら無いようでは相談者も不安になるでしょう。
弁護士費用も公開していればなお安心です。
SNSのみで告知している弁護士はいつでもアカウントを削除できるため、信頼性の観点でやや不安があります。
最低限ホームページがあることを基準にするとわかりやすくなります。
2.相続トラブル解決の実績が豊富か
相続トラブルを多く解決していれば、能力が高い弁護士と判断できます。
実績については弁護士事務所のホームページをご確認ください。
豊富な実績があれば、ホームページに掲載されているケースが多いです。
もし、掲載されてない場合は、相談時に確認してください。
相続トラブルに関する実績が掲載されてない場合や相談時に明確に答えられない場合は、その弁護士の得意分野ではないことが考えられます。
3.弁護士費用について明確な説明があるか
相談者にとって最も気になるのが、弁護士費用がいくらかかるかという点です。
トラブル解決の難易度によって費用も変わるので、明確に金額や費用の内訳を説明してくれる弁護士なら安心して依頼できます。
ただし、弁護士事務所のホームページに料金の記載がない場合は、いくらが正解なのかわからないため、いわれた金額を鵜呑みにせず、相場と比較することが大切です。
4.相談者に不利な情報も伝えてくれるか
依頼を受けたいばかりに、相談者に有利な情報だけ提供し、不利な情報を伝えない弁護士は問題があります。
面談の際に交渉がまとまらなかった場合の対応や、余分に費用がかかる可能性があることなどをきちんと説明するかチェックが必要です。
5.他の専門家と連携しているか
司法書士、行政書士、税理士など他の専門家と連携しているかも判断ポイントの1つです。
相続手続きの中で弁護士ができる業務は限られています。
相談内容が業務範囲外だったときに、提携している他の専門家を紹介してもらえれば、自分で探す手間が省けます。
6.話しやすい弁護士か
相談する際に大事なのは話しやすい弁護士かどうかです。
いくら能力の高い弁護士でも、上から目線で語る、難しい専門用語ばかり使うなど、相談者にとって相性が悪いと判断した場合は、無理に依頼しないほうが良いでしょう。
7.契約書を作成しているか
トラブルの解決を依頼する際にきちんと契約書を作成する弁護士は信頼できます。
口約束だけとか、パンフレットを渡されただけでは不安が残ります。
多くの事務所では契約書を作成しますので、作成しないようであれば質の悪い弁護士事務所と判断することができます。
弁護士比較サイトを利用する方法もある
弁護士事務所のホームページを一つひとつ訪れるのは手間がかかると感じる人もいるでしょう。
簡単に相続トラブルに強い弁護士や費用を知りたい場合は、弁護士比較サイトを利用するのが便利です。
たとえば、東証グロース上場企業が運営する「ベンナビ相続」では、全国の弁護士事務所の実績や費用を比較検討できます。
登録からの経験年数や初回相談料、得意とする業務内容などが記載されています。
なかには諸費用の明細を公開している弁護士事務所もあるので参考になります。
弁護士費用の相場
弁護士費用には相談料、着手金、弁護士報酬などがあります。
「ベンナビ相続」に登録している弁護士事務所のうち、東京・神奈川・千葉・埼玉の首都圏にある弁護士事務所の費用をピックアップしてみました。
相談料は、弁護士に相談したときに発生する費用です。
着手金は、弁護士に依頼したときに発生する費用で、相続財産によって変化します。
報酬金は、依頼者の希望に沿った結果となった場合に発生する費用で、「回収した金額の〇%」などと取り決めます。
【弁護士費用の一例】※費用は税込
A弁護士事務所(東京都港区)
相談料:初回無料(以降30分5,500円)
着手金:遺産分割事件22万円~、遺言書作成11万円~、遺留分侵害額請求22万円~
報酬金:遺産分割事件22万円~、遺留分侵害請求22万円~
B弁護士事務所(横浜市神奈川区)
相談料:初回無料(30分)
着手金:交渉11万円~、調停22万円~、訴訟33万円~(別途実費)
報酬金:相続手続のみの場合は経済的利益の5.5%、他の相続人等との争いがある場合は経済的利益の13.2%
C弁護士事務所(千葉県松戸市)
相談料:5,500円(30分)
着手金:22万円~
報酬金:経済的利益の5~20%
D弁護士事務所(さいたま市浦和区)
相談料:初回無料(以降30分5,500円)
着手金33万円
報酬金:経済的利益の11%
相談料の相場は30分5,500円で、着手金の相場は11~33万円程度です。
報酬金に関しては経済的利益に対するパーセンテージが多いため相場はありません。
なお、このほかに弁護士の日当、移動費(交通費)などがかかります。
費用は各事務所によって異なり、依頼内容や財産額などの条件次第で目安金額より多くなる場合があります。
弁護士費用を抑えるコツ
弁護士費用はある程度高い金額がかかるので、なるべく抑えたいのが本音でしょう。
費用を少しでも抑えるには、事前にできるいくつかの方法があります。
可能なものがあれば実践しましょう。
1.最初に無料相談を利用する
弁護士への相談料の目安は、30分5,000円、1時間1万円程度ですが、無料相談を受け付けている弁護士事務所もあります。
無料相談を利用すれば、5,000円~1万円程度の相談料を節約できます。
最初に無料相談を受けて、依頼した場合の諸費用が納得できる金額であればそのまま依頼するのも良いでしょう。
先に紹介した「ベンナビ相続」に掲載されている弁護士事務所は、多くが初回相談料無料です。
2.複数の弁護士を比較する
弁護士事務所は1ヵ所だけでなく複数訪ねて比較し、条件や相性などが合った弁護士を選ぶようにしましょう。
1日でも早くトラブルを解決したいという思いから、最初に訪れた事務所の対応が悪くなければ、すぐに決めてしまうケースもあります。
しかし、ほかにも同じような対応でもっと費用が安い事務所があるかもしれません。
ただし、安さだけで決めてしまわないようにしてください。
3.トラブルの初期段階で相談する
トラブルが発生したら、なるべく初期の段階で相談したほうが解決は早いでしょう。
素人が対応すると話がこじれてしまい、トラブルがさらに複雑になる恐れがあります。
トラブルの初期段階で弁護士に相談したほうが、結果的に費用が安く済む場合もあるので、早めの判断が必要です。
4.法テラスを利用する
法テラスを利用することで、弁護士費用を抑えることが可能です。
法テラス(日本司法支援センター)とは、経済的に困難な方や法律に詳しくない方でも、安心して法律の専門家(弁護士や司法書士など)に無料で相談ができるよう国が設立した機関です。
主に離婚、借金、相続、労働問題などの日常的な法律問題に対応しています。
経済的に余裕がない人を対象に、訴訟費用や弁護士費用を立て替える「民事法律扶助制度」があります。
訴訟の必要がある場合でも、経済的な理由で法的手続きを諦める必要がなくなります。
相続トラブルに強い弁護士を選ぶときの注意点
相続に強い弁護士を選ぶときには、以下の点に注意する必要があります。
1.ランキングや口コミを鵜呑みにしない
インターネットで紹介されている「弁護士事務所ランキング」は、ほとんどが総合ランキングであるため、相続トラブルに強い事務所がどこかは判然としません。
大きな事務所がランクインする傾向があるので、あまり参考にならないでしょう。
同様に口コミも個人の見解なので、必ずしも実態を表しているとは限りません。
鵜吞みにせずホームページ等で内容を確認しましょう。
2.相続トラブルに強いわけではない
弁護士事務所に所属するすべての弁護士が相続トラブルに強いとは断定できません。
弁護士にはそれぞれ得意分野があります。
相続トラブルに強い弁護士もいれば、交通トラブル、離婚問題などに強い弁護士がいるなど、各自に得意分野があります。
ある程度人数の多い弁護士事務所なら相続トラブルに強い弁護士が担当するでしょうが、個人事務所の場合は、ホームページの解決事例などを見て得意分や判断する必要があります。
3.窓口の弁護士がそのまま担当するとは限らない
弁護士事務所を訪ねて、窓口になった弁護士と気が合う場合もあるでしょう。
そのまま依頼したいところですが、相続トラブルに強い別の弁護士が担当になる場合があります。
あくまで相続トラブルを解決してもらうために訪れたのですから、ある程度割り切って依頼することが必要です。
まとめ|信頼できる弁護士を見つけて相続をスムーズに進めよう
トラブルが多い相続の問題で弁護士の存在は欠かせません。
トラブルの内容にもよりますが、素人では解決が難しい問題は、専門家に依頼したほうが解決は早いです。
相続人はほとんどの場合親族です。
費用はかかりますが、親族との人間関係を円満に保つためならお金に代えられません。
相続人の間に禍根を残さないためにも、専門家の力を借りて相続をスムーズに進めるのは有効な選択肢といえます。
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(提供:ACNコラム)