株式会社シーエーシー(以下、CAC)が開発した『hashigake(ハシガケ)』は、プロフィールの共通点とカレンダーの空き時間を使って社員同士を自動的にマッチングし、1on1の機会を作るコミュニケーションサービスだ。
そこでは部署を超えた15分のトークが交わされる。新たに生まれた人間関係が、思ってもみなかった業務への足掛かりになったケースもあるという。コミュニケーションに新たな風を呼び込む『hashigake』や新規事業開発について、プロダクトオーナーの平井健太郎に話を聞いた。
>>組織活性化を図る1on1コミュニケーション『hashigake(ハシガケ)』プロダクトサイト
2013年に株式会社シーエーシーに新卒で入社。2016年から業務自動化分野における新規事業に参画し、2018年以降は統括PMとして複数プロジェクトをリード。2023年に新規事業開発本部に異動後、様々な企業、社員の声を聴く中で多様化の時代におけるコミュニケーションの希薄化と、その解消の困難さを痛感。この課題を解決するため組織活性化支援サービス『hashigake』を立ち上げ、現在は責任者として事業開発をリードする。
——2022年の異動は大きな転機だったと思います。技術部門の統括プロジェクトマネージャーから、どういった経緯で新規事業開発本部に異動になったのでしょうか。
平井 2021年末に「来年から立ち上がる新規事業開発本部に異動になります」とメールが届きました。異動のことは薄々、把握していたのですが、多くのプロジェクトを統括する立場にあって、引き継ぎなどは大丈夫だろうか、という心配はありました。もちろん、新しいものが好きなタイプでもあり、ワクワクした気持ちもありました。
2022年前半は引き継ぎをしつつ新規事業開発本部にも入りつつという形で、後半は子どもが生まれたことで育児休暇を取得しました。実質、新規事業開発に専任し始めたのは2023年からです。
――『hashigake』の企画がスタートしたのは2023年6月と伺いました。
平井 アイデアを練る段階で紆余曲折があって、今の『hashigake』のもとになるものを考えたのが6月末でした。それをまず社内で試してみよう、となったのが8月。1ヶ月間試した結果、事業化できると手応えを得て事業計画書を作成し、10月に事業計画の社内承認を得て、12月に対外的なWebサイトを公開しました。
――改めて、どういったサービスなのかを教えてください。
平井 一言でいうと、上下関係のないランダムな1on1を作るサービスです。通常の1on1は上司と部下、上下関係の中で実施するものですが、『hashigake』は部門をまたいだ横のつながりや、新入社員から社長までポジションを飛び越えたつながりを生み出してくれます。そこでは仕事の話に限らず、自分の人生や悩みなど、テーマはさまざまで、上下関係は基本的になくて、社員が社長の悩みを聞く、ということもあると思います。
――どういったきっかけでこの『hashigake』の構想が生まれたのでしょうか?
平井 CACで10年過ごしていることもあり、自社で使えるプロダクト、自社の抱えている課題を解決できるプロダクトを作りたいと思ったのが出発点です。そのほうが自分ごととして捉えられますから。
構想当時はリモートワークが広がっていて、会議がかなり増えたという声が聞こえていました。その声を深堀りしていくと、出社していたときは雑談や数十秒のコミュニケーションの中で解決していたことが、オンライン会議の中に詰め込まれるようになっていき、例えば30分で終わる朝会が1時間半掛かってしまった、という事例もありました。会議が増えているのにコミュニケーションに満足していない状態で、問題の根幹にあるのはコミュニケーションの量と幅、つまり、話せる相手の数や、話せる内容の幅なのではないか、というところから着想を得ました。
――『hashigake』のプロダクト名はどのようにつけたのですか?
平井 橋を架ける。そのままではあるんですけど(笑)。会社という1つの組織の中でも、実際にはいくつもの部やチームという島があって、それぞれが離れているというイメージがありました。それぞれの島に橋を架けてつなげていくというイメージから『hashigake』とつけました。
――構想から4ヶ月と短い期間で社内でのトライアルを終えています。
平井 最初はいい効果が出るかどうかが未知数でした。たぶん出るだろうという感覚だけあって、とにかくやってみないと、と。まずは開発パートナーの会社にプロフィール登録の画面だけ作ってもらい、社員の皆さんに登録してもらいました。マッチングの部分やカレンダーに会議招待を送る部分は、私が手作業やエクセルマクロで動かしていたので、リスケしたいといったイレギュラーなリクエストも私のほうで手動で対応していました。
システムを作るのに2、3ヶ月かけるよりも、自分が作業して1ヶ月でトライアルが用意できるのであれば、そっちのほうがいいかなと思って、当時は自分で手を動かしていました。
――社内でトライアルをした際の反響はいかがでしたか?
平井 『hashigake』は最初から「それっていいね」と言ってくださる方と、「話す人は自分で決めたい」「勝手に決められても初対面の人と何を話していいかわからない」と否定的な意見の方と反応が二分していました。実際に体験してもらうと、最初にネガティブな反応だった方々の3分の2くらいが好印象に変わっていきました。その反応の変化が事業化していく自信になりました。
――実際にどういったフィードバックがありましたか?
平井 初めての人同士で話して「こんな人がいるんだ」「こんな話ができました」という声のほか、「10年ぶりに話しました」「部門が変わって長らく会話できなかった人と近況を報告しあうことができて、すごくいい時間になりました」といった声が印象に残っています。2024年3月から当社で本導入していて、そちらでもさらに多くの好反応をいただいています。
――印象的なエピソードはありますか?
平井 同じ新規事業開発本部にいる仲間が、『hashigake』とは別の企画でインタビュー相手を探していました。ただ、そのインタビューターゲットが特殊でなかなか見つからなかったそうなんです。その話を『hashigake』でしたら、お相手の方が「知り合いに該当する人がいます」と教えてくれて、そのままインタビューにつながったということがありました。
ほかには、自分のキャリアや仕事に関する考えを話し続けている中で、その方自身の会社に対する帰属意識が高まったという声もありました。
――現在はMVP版(テスト製品)として他社にも導入されていると伺いました。どういった反響がありましたか?
平井 プロジェクトチーム単位で仕事を進める企業のケースですが、その会社の新入社員の方からうれしい声をいただきました。その方はどうしてもコミュニケーションを取る範囲がチーム内に限られて、いろいろな人と話したいけどどうしていいかわからない状態だったそうです。それが『hashigake』を使ってチームを飛び越えたコミュニケーションを取ることができて、すごく良かったと言ってもらえました。
――『hashigake』の開発において壁にぶつかった経験はありますか?
平井 壁しかないですよ(笑)。ここまでポジティブなフィードバックの話をしてきましたが、その一方で懐疑的な意見も同じくらいありました。スケジュール通りに開発が進まないということもありましたし、壁は本当にたくさんあります。なので、そこをどう乗り越えるか、くぐり抜けるか、迂回するか。心折れずにやり続けていけるかだと思います。
――壁にぶつかっても進み続けられる原動力はどこにあるのでしょうか。
平井 自分でやっていて楽しいですし、ワクワクしながら仕事をしていることが大きいのかなと思います。
ネガティブな声があったとしても、その一方で、やっぱりポジティブな声もあります。「CACの文化として根付いてほしい」と言われたことがあって、もっと続けていかないと、と気が引き締まることもありました。そういう声のおかげで、壁があっても止まらずにやっていこうと思えています。
また、ほかの新規事業の影響も受けています。CACには音声感情解析『Empath(エンパス)』秘書室システム『Olive(オリーブ)』などすでに事業として形になっているものが多くあり、引き離されないようにしないといけない、自分の存在価値を示さないといけない、といい意味で刺激を受けています。
――平井さんにとって、新規事業開発とは?
平井 正解がないものだと思っています。まだ世の中にないもの、あっても広まっていないものを広めていくことだと思うので。なので正解を探すのではなく、自分がやっていることを正解にしていくというのが新規事業開発だと思います。見つけるのではなく作るという感覚ですね。
――『hashigake』の今後のスケジュールを教えてください。
平井 今は会社全体でマッチングするようになっているのですが、属性を絞ったマッチングもできるようにする予定です。同年代でのコミュニケーションを増やしたい、中途入社で入ってきた人たちの交流を深めたい、といったニーズに応えるためです。
それから少しずつMVP版の導入企業を増やし、一つひとつの声を大事にブラッシュアップしていこうと考えています。その上で年内に正式版をリリースして、2025年からより多くのお客さまに広めていきたいと思っています。
――将来、『hashigake』がどういうサービスに成長していってほしいですか?
平井 5年後の未来を考えたときに、企業の中の基幹サービスにしていきたいと思っています。企業内のコミュニケーションはすでにいろいろな形がありますよね。チャットツールもありますし、会議もあれば1on1もあります。そういった特定の関係を深めていくサービスの根底に『hashigake』があればいいなと。
既存のツールは能動的にコミュニケーションを取っていくものですが、『hashigake』があれば自ら動かなくても、例えば週1回であれば毎月4人と新しく関係性を築いて、コミュニケーションの幅を広めていくことができる。コミュニケーションを生み出す根っこになっていってほしいと思います。
――最後に、『hashigake』を通して実現したいことをこちら(フリップボード)に書いていただけますか。
平井 5年よりも先の未来をイメージしました。企業内外を超えて、地域をまたぎ、国をまたいでコミュニケーションのつながりを自動的に広げていける世界を作りたいと思います。
今まで起こってきたイノベーションは誰か1人が考えて起きたというよりも、各個人が持っているものが掛け合わさって起こった事例が多いと思います。それぞれの会社、個人が持つ知見やナレッジが『hashigake』でのコミュニケーションを通じて掛け合わさることで、これまでにないくらいのスピードで、あらゆる場所でイノベーションが巻き起こる世界を実現できたらいいなと思っています。
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(提供:CAC Innovation Hub)