自分の財産を孫に相続させたいという祖父母も多いことでしょう。
しかし、子どもと異なり、孫への相続には一定のハードルがあります。
どのようにしたら孫に相続させられるのか、孫の遺産分割割合はどの程度になるか疑問な点も多くあります。
本記事では孫に相続をおこなう場合のメリット・デメリットと、孫へ相続する方法について解説します。
- 孫に遺産分割をすることで相続税を節税できる
- 孫に遺産分割をすると相続税額が2割加算される
- 孫へ確実に相続させたいのであれば遺言書を作成する
目次
孫に遺産相続させることはできるのか?
残念ながら、孫は正式な法定相続人にはなれません。
しかし、相続がまったく不可能ということではなく、特別な方法を用いれば遺産を相続させることは可能です。
何もしなければ法定相続順位に従って相続財産を分けられてしまうので、孫に相続させたいという想いがあるなら、ここで紹介する方法も含めて、早めに対策を打っておく必要があります。
孫に相続させるメリット
始めに孫に相続させるメリットについて確認しておきましょう。
1.相続税を節税できる可能性がある
孫に相続させることで相続税を節税できる可能性があります。
相続は通常親から子どもへ相続されて、いずれ子どもから孫へ相続されるので、相続税が2回発生します。
はじめから孫に相続させれば、相続税の支払いが1回で済むので節税になります。
2.祖父母の希望に沿った相続になる
かわいい孫にも財産を遺してあげたいという祖父母の希望に沿った相続になるメリットもあります。
子どもがすでに他界している場合はもちろんですが、存命の場合でも子どもに任せるのではなく、祖父母が孫の将来のために指定して遺すことで、想いを形にすることができます。
3.教育費や生活基盤の支援となる
相続税の負担を軽減しながら、家族の資産を早い段階で次世代に移転できます。
特に若い世代に対して、教育費や生活基盤の支援となり得ます。
孫に相続させるデメリット
孫に相続させるには以下のようなデメリットも生じます。
1.相続税額が2割加算される
孫に相続させると、相続税が2割加算されるデメリットがあります。
これは、相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を得た人が、被相続人の一親等の血族(子どもや両親)および配偶者以外の場合に、その人の相続税額に2割相当の金額が加算されるルールがあるためです。
孫は二親等のため2割加算されます。
また孫を養子縁組した場合でも2割加算の対象になるので注意が必要です。
2.親族間でトラブルになるおそれがある
孫に相続させることで親族間に相続トラブルが発生するおそれがあります。
孫は法定相続人ではないので、孫に相続させると、ほかの法定相続人の相続財産が減ってしまいます。
理解がある相続人ばかりなら問題ないのですが、不満を持つ相続人がいると、遺産分割協議が進まないほか、遺留分(法律で最低限保証される金額)を請求される可能性があります。
問題解決を弁護士に依頼した場合は高額な報酬が発生するので、金銭的な負担が生じることも考慮しなければなりません。
3.資産を適切に管理・活用できない
相続時に孫が若すぎる場合、資産を適切に管理・活用できない可能性があります。
金銭管理能力が未熟であれば、相続した資産を浪費してしまうリスクがあります。
孫の法定相続順位は?
相続においては、以下のように法定相続の順位が決められています。
第一順位 | 子ども(孫など直系卑属) |
---|---|
第二順位 | 両親(祖父母など直系尊属) |
第三順位 | 兄弟姉妹(甥・姪) |
配偶者は常に相続人になります。
孫は法定相続順位一位の子どもが亡くなっている場合の代襲相続人という立場です。
したがって、子どもが存命している場合は孫が法定相続人になることはありません。
孫が相続するためには、後で述べる特別な方法を利用する必要があります。
孫の遺産分割割合はどれくらい?
代襲相続で孫が相続できるとして、遺産分割割合はどの程度になるのでしょうか。
ケース別に以下のように配分されます。
子どもと孫が相続する場合
妻と長男が亡くなり、子ども(被相続人から見て孫)が2人いて、長女・次女は存命で子どもがいない場合は、以下のように分割されます。
【例】相続財産240万円 相続人:長女・次女、長男の子ども2人
・子ども
240万円×1/3=80万円(2人で160万円)
・孫
80万円×1/2=40万円(2人で80万円)
長女と次女は法定相続分の80万円ずつを受け取ります。
亡くなった長男の子ども2人はそれぞれが、長男が受け取るはずだった80万円を半分ずつ受け取ります。
孫だけが相続する場合
妻も子どもも亡くなっている場合は、孫が相続します。
分割割合は、孫の人数によってケースごとに異なります。
【例】相続財産240万円 相続人:長男の子ども2人、長女の子ども1人
・長男の子ども
120万円×1/2=60万円(2人で120万円)
・長女の子ども
240万円×1/2=120万円
長女の子どもは長女が相続する120万円をすべて受け取ります。
長男の子どもは長男が相続する120万円を2人で受け取るので、1人当たり60万円となります。
遺産分割の割合を決める方法4選
遺産分割の割合を決めるには以下の4つの方法があります。
遺産相続争いにならないように、順を追って進めていく必要があります。
1.遺言どおりに決める
基本的に遺言書がある場合は、記載されている内容が尊重されます。
遺言書には誰に何をどれくらい相続させたいかという、被相続人の希望や想いが示されています。
可能であれば被相続人が記載した遺言の内容に沿って分割することが望ましいです。
ただし、特定の人に偏った内容になっているなど問題があれば、必ずしもそのとおりにする必要はありません。
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2.相続人全員の合意で決める
遺言書が無い場合は、遺産分割協議で相続人全員が合意して決める必要があります。
遺産分割協議においては、分割割合は平等でなくても問題ありません。
被相続人の世話に多大な貢献がある人に多めに相続させたいというケースもあるでしょう。
そのような場合も、相続人全員が合意すれば遺産分割協議は成立します。
逆に1人でも反対する相続人がいれば別の方法を考えなくてはなりません。
3.法定相続分に従って決める
相続順位 | 相続割合 | |
---|---|---|
第一順位 | 配偶者1/2 | 直系卑属1/2 |
第二順位 | 配偶者2/3 | 直系尊属1/3 |
第三順位 | 配偶者3/4 | 兄弟姉妹1/4 |
遺産分割協議で合意を得られなかった場合は、法定相続分に従って分けることになります。
法定相続分とは、民法第900条で定められている遺産分割割合です。
分割割合は上表のように、相続順位に従って相続割合が決まっているので、個人的な思惑に関係なく、公平な相続をおこなうことができます。
4.裁判所の手続きを利用して決める
遺産分割協議で相続人全員の合意が得られなかった場合は、家庭裁判所の手続きを利用して解決することもできます。
家庭裁判所での手続方法には、「調停手続き」と「審判手続き」があります。
・調停手続き
家事審判官(裁判官)と調停委員会が間に入り、再度話し合いを持つことで解決を図る手続きです。
・審判手続き
調停委員からの提案に相続人が納得いかず、調停不成立になった場合に、裁判官が法律的な側面で分割割合を判断する手続きです。
いずれの手続きも法定相続分をベースに判断されるので、基本的に平等に分割されるものと考えてよいでしょう。
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孫に相続させる方法3選
孫は法定相続人ではないので、普通に相続がおこなわれると、財産を受け取ることができません。
孫に相続させるには、以下のような方法をおこなう必要があります。
1.遺言書に記載する
孫へ確実に相続させたいのであれば、遺言書を作成するのが一般的です。
遺言書の内容が最も尊重されるので、孫が法定相続人でなくても相続させることができます。
相続割合も指定できますが、法定相続人には「遺留分」を請求できる権利があります。
あまりにも孫に偏った遺言内容である場合はトラブルに発展するおそれがあるので注意が必要です。
2.被相続人と養子縁組する
被相続人と孫が養子縁組して財産を相続させる方法もあります。
養子であっても実子と同じように法定相続人になれます。
ただし、法定相続人になれる人数は限定されています。
実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。
養子縁組して法定相続人になると、相続税の「未成年者の税額控除」を利用することができます。
法定相続人が未成年の場合、「満18歳になるまでの年数×10万円」が相続税額から控除されます。
【例】未成年者の相続人が15歳8ヵ月の場合
1年未満の端数は切り捨てられるので15歳で計算。
満18歳までは3年となります。
3年×10万円=30万円が控除されます。
3.代襲相続させる
子どもが亡くなっている場合は、代襲相続で孫が子どもに代わって財産を受け取ることができます。
代襲相続は民法第887条第2項で定められているため、遺言書に記載したり、養子縁組をしたりしなくても相続人として認められます。
孫が複数人いる場合は、法定相続分をすべての孫で分け合うことになります。
したがって、特定の孫に多く財産を渡したいなら遺言書の作成や養子縁組のほうが適しています。
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孫に生前贈与する方法4選
相続以外にも、生前贈与によって孫に財産を渡すことができます。
贈与であれば自分が存命の間に渡せるので安心感のある方法といえます。
孫に生前贈与するには以下の4つの方法があります。
1.暦年贈与を利用する
最もオーソドックスなのは、「暦年贈与」で少しずつ贈与していくことです。
暦年贈与は、基礎控除が110万円あるので、110万円以下であれば非課税で贈与することができます。
ただし、同じ金額を同じ時期に毎年贈与すると、「定期贈与」とみなされるおそれがあります。
たとえば、1,000万円を10年間に渡り毎年100万円を同じ時期に贈与すると、1,000万円を贈与したとみなされて贈与税が課税されるケースがあるので注意が必要です。
定期贈与とみなされないためには、贈る金額や時期を毎回変える、1回ごとに贈与契約書を作成するなどいくつかの方法があります。
また法改正によって、相続開始7年以内に贈与された場合は、相続財産にカウントされるので注意が必要です。
孫に贈与したいなら早い時期から行ったほうがよいでしょう。
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2.教育資金や結婚・子育て資金として渡す
孫の教育から将来の結婚まで気にかける祖父母もいるでしょう。
まだ小さな孫であれば、幼稚園や小学校にかかる教育資金を援助したいと考えるかもしれません。
ある程度年齢が高い孫なら、結婚資金や子育て資金を贈与するのも有効な方法です。
教育資金や結婚資金を孫に一括贈与する場合は、一定額が非課税になる以下の「非課税制度の優遇措置」を利用できます。
【教育資金の一括贈与】
30歳未満の孫が、教育資金に充てるために金融機関等との一定の契約に基づき、祖父母などの直系尊属から信託受益権を取得した場合や、書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合、書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等から有価証券を購入した場合に、信託受益権等の価額のうち1,500万円まで贈与税が非課税になります。
この優遇制度は2026年3月31日までにおこなった贈与が対象になります。
参考:国税庁「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」
【結婚・子育て資金の一括贈与】
18歳以上50歳未満の孫が、結婚・子育て充てるために金融機関等との一定の契約に基づき、祖父母などの直系尊属から信託受益権を取得した場合や、書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合、書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等から有価証券を購入した場合に、信託受益権等の価額のうち1,000万円まで贈与税が非課税になります。
この優遇制度は2025年3月31日までに行った贈与が対象になります。
参考:国税庁「父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」
3.住宅取得資金として渡す
孫もいずれは独立して家庭を持つことが予想されます。
一緒に暮らしているのであれば、孫と将来について話すこともあるでしょう。
孫がマイホームを持つ夢があるなら、住宅を取得するための資金として渡すことも選択肢の一つです。
その場合に利用できるのが以下の制度です。
【住宅取得資金の一括贈与】
祖父母などの直系尊属から、18歳以上の孫が自分が住むための住居の新築、取得または増改築の対価を贈与された場合、一定の要件を満たせば、非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税になります。
この制度には、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円(新築等をする家屋の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は、1,000万円以下)という年収制限があるので注意が必要です。
この優遇制度は2026年3月31日までに行った贈与が対象になります。
参考:国税庁ホームページ№4508「直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の非課税」
4.孫を生命保険金の受取人にする
孫を生命保険金の受取人に指定して贈与することも可能です。
死亡保険金は受取人固有の財産であるため、遺産分割の対象になりません。
そのため、孫に財産を渡しやすい方法といえます。
死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税が課税されますが、孫は相続人ではないため、相続税の非課税枠を利用することができません。
孫が代襲相続や養子縁組で相続人になった場合は、「相続人1人につき500万円」の非課税枠を利用することができます。
たとえば、受け取った保険金が1,500万円だった場合、法定相続人が3人いれば500万円×3人=1,500万円が非課税枠となるため、相続税はかかりません。
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相続税と贈与税の税率比較
相続と贈与を税率の面でどちらが有利か比較すると下表のようになります。
贈与税の税率比較
基礎控除後の 課税価格 |
税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続税の税率比較
法定相続分に応ずる 取得金額 |
税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円以超 | 55% | 7,200万円 |
課税価格1,000万円以下の区分では、贈与税率30%に対して相続税率は10%で、贈与税のほうが20%も高くなります。
課税価格3,000万円以下の区分では、贈与税率45%に対して相続税率は15%で、その差は30%に拡大します。
税率だけで判断すると贈与は不利になりますが、孫に財産を渡しやすいというメリットがあります。
税率を考えて相続を選択したい場合は、先に述べた「遺言書の作成」「養子縁組」「代襲相続」などの方法を使って孫に相続させる必要があります。
どちらを選択するかは、各家庭の状況に応じて判断するとよいでしょう。
まとめ|孫に相続させたい気持ちを生前に家族に伝えておくのが理想
被相続人にとって一番心配なのが、相続を巡って親族間で遺産争いが起こることでしょう。
そうならないためには、孫に相続させたい希望がある場合は、生前から家族や親族にその意向を伝えておくことが大事です。
あらかじめ意向を聞いておけば、法定相続人もどれくらいの割合なら了承できるか、被相続人に意見を述べることができます。
孫の将来を心配する被相続人の願いを叶えるためにも、家族・親族の理解を得たうえで相続を迎えることが望まれます。
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孫へ教育資金を生前贈与するメリットと贈与の方法や注意点を解説
(提供:ACNコラム)