新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。

創業までの経緯
—— 2015年に株式会社Relicを創業されたと伺いましたが、その経緯や背景についてお聞かせください。
株式会社Relic 代表取締役CEO・北嶋 貴朗氏(以下、社名・氏名略) もともと起業は高校生の頃から目指していました。そのため当時から新卒入社は、起業を応援してくれる会社に入りたいと考えていました。新卒で入社したのはワイキューブという人材系のベンチャー企業でした。
ワイキューブには、3年間働けば独立資金を提供してくれるという制度がありました。当時、リクルートに行くか、ワイキューブに行くか、と考えたのですが、ワイキューブの方が経営に近いところで仕事ができるのではないかと考えてワイキューブに入社しました。しかし、私が入社した時期はちょうどリーマンショックの影響で売上が下り坂の状態にありました。社会人生活が始まった時には、売上の7割を支えていた事業が傾いていました。
その結果、新規事業を立ち上げないと会社が成り立たない状況になり、たまたまですが、私は新規事業チームにアサインされました。ゼロからの事業立ち上げは非常に難しいうえに、売上30数億円の会社の命運を支える事業を作るという命題はとても厳しいものです。
1年半ほど経った時、会社はワークシェアリングという形での休業状態に入り、私のキャリアは中断されました。この経験を通じて、既存事業で成果を伸ばすことと、ゼロから新規事業を立ち上げることは全く違うものと痛感し、会社には意欲的な人もたくさんいて、既存の事業は伸ばせても、新規事業を作るとなると成果を出せるとは限らない。それは創業者であっても同様ですね。そういったことがわかったという意味ではゼロからの経験をさせてもらったのは良い経験でした。
—— その後、どのようにキャリアを進められたのでしょうか。
北嶋 起業するにはゼロから1を作り上げる経験が必要だと感じ、転職を決意しました。新規事業に強みを持つコンサルティングファームで3年間働き、外部からの支援という立場で新規事業に携わりました。
その後、DeNAで新規事業の担当者を3年間務め、さまざまな立場や角度から新規事業という分野に関わること経験は、私にとって非常に貴重なものです。
特に印象的だったのは、DeNA時代の案件で、大手子供服メーカーとのECサイト構築事業です。その会社には素晴らしい資産がありましたが、社内にデジタル人材が不足しており、EC事業に乗り遅れていました。DeNAとその会社で一緒になって新規事業として取り組んだ結果、非常に好調な成果を作ることが出来ました。この成功例を日本の産業全体で再現できれば、日本経済に貢献できるし、それを自分の人生の使い方にするのは非常に面白いと感じていました。
—— その経験がRelicの創業につながったのですね。
北嶋 そうです。Relicだけでなく、さまざまな会社と横断してオープンイノベーションの仕組みを作りたいという想いが、創業の原動力となりました。日本の企業は自社が持つ資産を活かせていない点が大いにあると感じていますが、そこを改善することで日本全体に貢献できると考えています。

飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— 飛躍的な成長を遂げたターニングポイントについてお聞かせ願えますか?
北嶋 新規事業を支援するという観点からすると、当時の市場環境は、企業内での新規事業への意欲は高まっていましたが、実際に新規事業立ち上げの経験のある人材が不足していました。そのため、多くの会社が自分たちで新規事業の立ち上げをやり切れない状況でした。
また、当時のコンサルの支援というのは、海外のフレームワークをそのまま持ち込んだり、それぞれのコンサルの成功体験の焼き直しをあてはめたりしていましたが、各社の事情であったり必要となるエッセンスは各社毎に異なるため、単純に当てはめるだけではうまくいきません。事業を成功させるためには、プロダクト、ファイナンス、プロフェッショナルの3本の柱を一貫して提供することが必要だと考えました。このポジショニングこそが、当社の成長にとって非常に重要でした。3つを揃えるのは非常に大変でしたが、そこにこだわったことが大きかったです。
—— その3本の柱はどのように揃えていったのでしょうか?
北嶋 事業プロデュースというプロフェッショナルサービスから始め、そこで得た資金でサービスに合うプロダクトを揃えていきました。通常はベンチャーキャピタルの出資金をプロダクトに充てるケースが多いのですが、それではサービスにフィットするプロダクトにならないと考え、自前でサービス提供から地盤を作ることにこだわっています。
また、私たちは最初からVCからの投資を受けないと決めていました。自分たちのサービス提供で得た収益でプロダクト開発までつなげることを大切にしており、DeNA時代に感じた、出資を受けるからこその窮屈さや難しさがあったからこそ、現在もこの考えを大切にしています。
当社は創業当初からあえて上場しないというスタンスでやっていますし、それに共感してくれるメンバーと共に事業展開を進めています。エクイティファイナンスをしないのは、出口を求められるからです。最初から出口を見越したプロダクト提供ではなく、サービスと相乗効果を出せるプロダクト提供でないと、新規事業の立ち上げはうまくいかないと考えています。
—— 御社の資金調達事情についてもお聞かせください。
北嶋 政策投資銀行の資本性ローンで4000万円を調達できたことは大きかったですね。自己資本扱いになるので、そこからレバレッジをかけて民間からも、合計1億円を調達できました。サービスとプロダクトの両輪が回っていながら資金がある状態を、2期目の期初で実現できたのが大きかったです。
—— 御社の事業を展開するには、プロフェッショナルな人材の存在が大切だと感じましたが、人材を集めることの大変さについてはどうですか?
北嶋 人材は命ですので、経験者をいかに揃えるかが大事です。当社の創業時のメンバーは5人中4人がDeNA時代のメンバーでした。企画、制作、開発が社内で完結できる体制でスタートできたことが大きかったです。創業メンバー集めは創業の1年前から始めていました。1年ほどかけて口説いたり準備をしたりしていました。前職でのクライアントやDeNAで関係した人たちに挨拶に行ったときに応援してもらえたことも大きかったですね。
—— 資金面での苦労もあったのでは?
北嶋 確かにプロダクトに投資しすぎて、残高が13万円になり、行き詰りかけた時もありました。DeNAでの担当者時代はPL責任はあってもBS責任はなかったので、経営者になってからBS面の重要性、資金調達の苦労を感じました。
経営判断をする上で重要視している点
—— 経営判断をする際、どのような点を重要視しているのか教えていただけますか?
北嶋 上場しないという方針と関連しますが、私たちの会社はビジョンドリブンで設立しました。リスクを取って起業し、挑戦する人が報われる会社にしたいと考えています。そもそも、Relicという社名の由来は、内村鑑三氏の著作「後世への最大遺物」で書かれている、「後世へ何を遺すべきか」「誰でも後世に残せる価値あるものは何か」という問いから来ています。遺せるもの=遺物の英訳がrelic、それが社名の由来です。資金調達において外部の株主がいないので、短期的な業績を気にせずビジョンを追求できるのが大きな利点になります。
そのため、ビジョンに反していないかどうかもとても大切です。創業当初から、ビジョンをブレイクダウンした「Relic-ism」と照らし合わせて判断することを徹底しています。グループ全体でのコンセプトとして、令和時代の渋沢栄一のような取り組みを目指しています。人に挑戦の機会を提供し、事業家として成長する可能性をどこよりも提供したいと考えています。一番成長の機会、打席に立てる会社にしようとしています。
—— 具体的にどのような取り組みをされていますか?
北嶋 本物の修羅場でこそ人は育ちます。その成長のための仕事やチャンスを提供することを大切にしています。よく考えれば当たり前ですが、支援される挑戦者からすると、挑戦していない会社に支援されても気持ち悪いですよね。だからこそ当社自身が挑戦することを大事にしています。挑戦者以上に挑戦する、それだけアクセルを踏んでいる自負があります。だからこそ支援の事業サイクルを回せてきたと思います。
DeNAの南場氏の言葉で、「人が育たないリスクは取らない」という言葉がありますが、これが非常に心に響いています。お金がなくなるリスク、仕事が失敗するリスク、は取っても、人が育たないリスクは取らない。このスタンスがRelicの地盤にも響いている部分です。
今後の事業展開や投資領域
—— 今後の事業展開や投資していきたい領域について、ご教示いただけますでしょうか?
北嶋 Relicは新規事業に特化する会社として、国内でトップの規模を誇っていると自負して差し支えない実績を持っています。これからは1000の会社、1000の人材を育てていきたいと考えています。ありがたいことに、多くの大企業から相談が集まってきていますので、この勢いで進めていきたいですね。このご相談頂いている新規事業の種を、しっかりと育て、世に羽ばたかせたいと思っています。
そして、事業支援の会社から、事業を生み出す会社へと進化させていきたいです。具体的には、ホールディングス体制に移行し、Relicホールディングスの傘下として、スタートアップスタジオを通じて、今後もスタートアップをどんどん生み出していく形を取ります。ここで1000社を配下に作りたいと考えています。ちょうど本日(取材日:10/29)12社目にあたる株式会社knoctave設立のリリースを行いました。
Relic本体とRelicホールディングスは、あえて上場は目指しません。しかし、生み出したスタートアップの会社はIPOを目指すもよし、何らかの形でイグジットを目指すもよしとしています。グローバルで勝負できるスタートアップが出てきてもおかしくありませんし、そういった企業を作っていきたいです。
グループ全体で1000社を目指し、トップライン3000億円を実現したいと考えています。さらに2035年までには、グループ全体で海外売上比率を51%にしたいですね。日本発で、グローバルで勝負できる事業に育てていきたいと思っています。
メディアユーザーへ一言
—— 最後に、読者の皆様へ一言メッセージをお願いできますか?
北嶋 私は今までの経験からもっと多様な起業のあり方が許容されるべきだと思っています。起業するならスタートアップでなければならない、ユニコーンを目指さなければならないという風潮は少し窮屈だと感じます。起業はもっと自由であるべきです。事業が最も良い形で世の中に提供されるためには、どのような形が最適かはそれぞれ異なるはずです。
起業のあり方には多様性がある一方で、ビジョンと事業体制がリンクしているか、その一貫性を大切にしなければなりません。エクイティやデッドといったファイナンスも、自分の会社に合った方法があるはずです。当社は起業したい、チャレンジしたいという方を全方位的に支援しています。どこかで一緒に挑戦することができれば嬉しいです。
—— 本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
- 氏名
- 北嶋 貴朗(きたじま たかあき)
- 社名
- 株式会社Relic
- 役職
- 代表取締役CEO