この記事は2024年12月25日に「CAR and DRIVER」で公開された「【九島辰也のカーガイ探訪記】Mロードスターを堪能したからこそ、アルピナが気になる(2025年1月号)」を一部編集し、転載したものです。

Mロードスターを堪能したからこそ、アルピナが気になる

【九島辰也のカーガイ探訪記】Mロードスターを堪能したからこそ、アルピナが気になる(2025年1月号)

これまでの人生、輸入車ばかりを乗り継いできた。その中で占めるドイツ車の割合は大きい。特集冒頭にデータでお知らせしたが、まさにそのとおりだ。といってもほとんどが中古車なのでそこに属しはしないが、ドイツ車に信頼を置いているのは確かである。

所有してきたのはメルセデスやBMW、アウディ、それとポルシェ。なぜかVWとは縁がない。空冷ワーゲンバスは専門誌の取材でたくさん乗ったけど、購入までには至らなかった。

そんな中で最もインプレッシブなモデルはBMW Mロードスターだろう。2001年型だったと思う。E30のプラットフォームを使ったZ3ベースだ。自身初めての新車で、とても大切に乗っていた。

好きなポイントはたくさんある。まずはダカールイエロー2と呼ばれたボディカラー。鮮やかな黄色がオープンカーにはよく似合っていたし、黒の幌ともマッチしていた。黄色が薄めのダカールイエロー1よりも好み。そしてあのスタイリング。レトロモダンな感じがいい。とくに「M」はリアにファットなタイヤを履くためフェンダーがかなり膨らんでいた。そのマッチョさがたまらない。

でもいちばんの注目は、やはりエンジンだ。M専用3.2リッター直6DOHCは321psで、E36型M3の後期と同じユニットを積んでいた。ただあちらは6速MTだったのに対し、Mロードスターは5速MT。6速のギアボックスを置くスペースがなかったのが理由だ。なので、高速道路ではもうひとつ上のギアがあったら音は静かで快適なのに、なんて思っていた。

このエンジンは曲者だった。渋滞にハマったまま帰宅するとアイドリングがバラついた状態が続く。なので、一旦小休止してから夜の第三京浜を横浜まで往復しなくてはならない。そこでエンジンを丁寧に回してあげると、M本来の高回転型エンジンのフィーリングが蘇るのだ。

Mロードスターは約4年間所有したが、これがその後に大きく役立つことになる。それは「M」と「アルピナ」の違い。たいていの場合、頭ではわかっていても感覚的にどう違うのかはあまり理解されていないと思う。現に当時アルピナの日本代理店はそう口にしていた。だが、Mの走りが体に染み付いていると、アルピナとの違いはよくわかった。というか、全然違うことを手に取るように感じる。絶対的なパフォーマンスを実現しながら上質な手応えと空間を持つアルピナは、サーキットメインでクルマの開発をしてきたMとはまったく別のベクトルで設計されていた。

そんなアルピナだが、2026年から商標権をBMWに移す。内燃機関の終焉から未来を見通せなくなったアルピナと、そのブランドバリューを欲するBMWの思惑が合致したのだ。もちろん、その背景にはEU主導のBEV化の潮流がある。その流れを鑑みてのアルピナの判断。彼らは今後、これまで販売してきたモデルの修理やメンテナンス、レストアを専門とするらしい。

それはそれでアルピナの正しい判断かもしれない。でもブランド譲渡を下すのはちょっと早かったかもしれない。

EU主導のBEV化は明らかに鈍化している。そうであれば、もっと高効率のガソリンエンジンとマイルドハイブリッドで楽しい走りのアルピナがつくれたかも。なんて思うのはたぶんワタクシだけ?  Mを所有したからこそわかるアルピナの魅力。いつか手に入れたいモデルのひとつである。

くしまたつや/モータージャーナリスト。2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『Car Ex』副編集長、『American SUV』編集長など自動車専門誌の他、メンズ誌、機内誌、サーフィンやゴルフメディアで編集長を経験。趣味はクラシックカーと四駆カスタム

Writer:九島辰也


(提供:CAR and DRIVER