この記事は2024年12月19日に「テレ東BIZ」で公開された「マクドナルド出身社長の 常識を超えた型破り経営術:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
目次
絶品料理とスイーツが大人気~老舗カフェチェーン「珈琲館」
1970年創業の国内では老舗のカフェチェーン「珈琲館」が変化を遂げている。
さいたま市の住宅街にある南浦和店は、ランチ前の午前11時ですでに満席。「おいしい」「種類が豊富」と、食事が売りのカフェに変わっていた。例えば「焼きたてホワイトグラタンパン」(930円~。店舗によって価格は異なる)は香ばしいフランスパンをくり抜き、チキンが入ったホワイトソースを詰めて焼き上げた一品。「炭火焼ビーフとしめじの贅沢ボロネーゼ」(980円~。現在は販売終了)には挽肉ではなく、炭火で香ばしく焼き上げた牛肉を使い、食感と食べ応えを押し出している。
▽香ばしいフランスパンをくり抜いていて焼き上げた「焼きたてホワイトグラタンパン」
多くのカフェチェーンでは、フードメニューはセントラルキッチンで作られ、各店舗で温めて提供されているが、「珈琲館」ではほとんどが店内で手作り。何度もテスト販売を繰り返し、自信のあるメニューに刷新したという。
また、創業した頃からあったホットケーキをよりおいしくするため、ほぼ全ての店舗に専用の銅板を導入。熱伝導率が劇的にアップし、生地の水分を飛ばさず、ムラなく焼き上げることができるようになったという。
「トラディショナル・ホットケーキ ホイップクリーム付き」(730円~)は味わい深く進化。冬のこの時期は限定メニュー「とろける濃厚チョコソースのホットケーキ」(1,280円~)も販売。スフレタイプのふわふわ食感が主流の中、昔ながらのホットケーキが大人気になっている。
▽味わい深く進化した「トラディショナル・ホットケーキ ホイップクリーム付き」
看板のコーヒーも人気。他のチェーン店では、コーヒー豆は多くて5~6種類だが、「珈琲館」では11種類から選ぶことができ、評判となっている。ほとんどのカフェチェーンでは豆をあらかじめ挽いておくが、「珈琲館」では風味を損なわないよう、客のオーダーが入ってから豆を挽き、一杯ずつ丁寧に抽出するコーヒーにこだわっている。
熾烈なカフェ業界をリードしているのは「スターバックスコーヒー」「ドトールコーヒーショップ」「コメダ珈琲店」の3強。そんな中、「珈琲館」は全国に215店舗(2024年12月)、中高年層を中心とした新たな顧客を引き込んでいる。
地域密着型の店舗だけでなく、2023年は東京・銀座にも初出店。大人向けの優雅な喫茶店として、確かな評判を呼んでいる。「珈琲館」の売り上げはここ4年でアップ。コロナ前の約140%になった。
「珈琲館」を運営するC-Unitedは、東京・港区の芝大門に本社を構え、社員は約1,000人。
「珈琲館」は個人オーナーの店から始まり、チェーン展開で拡大していったが、外資系やセルフ業態店の台頭による経営難から、2008年、UCCグループが買収。それでも業績は伸び悩み、2018年に投資会社に事業譲渡。そしてC-Unitedが経営を引き受けた。
親会社が何度も変わることに、社員は「正直、『またか』と。訳が分からないまま親会社が代わり、その時は期待していなかった」(珈琲館東日本事業部・坂部勇樹)と言う。
そんな「珈琲館」を蘇らせたC-United社長・友成勇樹(61)は「僕は成功してうまくいっている事業が欲しいと思わない。うまくいっていないほうが『何とかしてあげたい』『何とかできるのではないか』と思うから」と言う。
低迷するカフェチェーンを次々と繁盛店にする戦略とは?
常識を超えた経営術1~業績低迷のカフェチェーンを次々買収
「珈琲館」の再生に成功した友成は2020年、「カフェ・ベローチェ」(全国164店舗)の買収に動く。それまで喫煙席が充実しているカフェチェーンだったが、業績が伸び悩んでいた上、屋内での喫煙を原則禁止にする法律もでき、客足が大幅に鈍ると見込まれていた。
▽「カフェ・ベローチェ」(全国164店舗)の買収に動く
だが友成は「持っている商品群とか使い勝手の良さは、たばこを吸わない人にも十分通用すると思った」と言う。
ポテンシャルを評価し、買収に踏み切った友成。ところが、その直後に新型コロナウイルスが猛威をふるい、売り上げの見通しが全く立たない事態に陥った。
「ギリギリなところで運営をやめるという決断もできたけど、勝算はありました」(友成)
「カフェ・ベローチェ」の客は多くがビジネスパーソン。仕事の合間に立ち寄ったり、デスクワークをしたい人たちのニーズがあった。そこで店内のコンセントを増設し、テーブルと椅子も低いものに変えることで、作業しやすい環境に改善。ビジネス客に向けフードメニューも刷新した。
「サイズ感も手軽なので仕事をしながら飲食できます」(銀座みゆき通り店店長・根本香織)
仕事をしながら片手で食べられるよう、ホットドックや、具材に趣向を凝らしたオリジナルのサンドを充実させ、サンドイッチも9種類に増やし、全て店内で調理。忙しいビジネスパーソン向けのメニューを充実させた。
こうして客のニーズを掴み、食事提供による客単価の大幅アップに成功したのだ。
まだコロナが収束しきっていない2022年、友成はまた赤字カフェチェーンの買収に打って出る。全国で約182店舗を展開する「カフェ・ド・クリエ」。元はサッポログループが運営していたカフェチェーンだったが、長らく業績不振で手放したところ、C-Unitedが名乗りを挙げたのだ。
▽全国で約182店舗を展開する「カフェ・ド・クリエ」の買収に動く
もともと女性客が多かったことに目をつけた友成は、女性客を徹底的に伸ばす戦略に出た。
ブルーベリーやバナナなどフレッシュフルーツを使ったスムージーは朝食や軽食代わりになると大人気に。さらには糖質オフ麺のパスタなど、健康を意識したメニューに大幅リニューアル。女性客が多いという特徴をより強化したことで「カフェ・ド・クリエ」は息を吹き返した。
友成は客のニーズをとことん突き詰め、3つのカフェチェーンを立て直したのだ。
常識を超えた経営術2~社内の大学で独自の人材育成
友成が人材育成で大切にしていることがある。
「主に従業員同士の店舗を運営するにあたってのビジネスコミュニケーションのやり方を教えます。店のほとんどの問題がコミュニケーションから発生するから」(友成)
そのために2022年に導入したのが「珈琲大学」。アルバイトやスーパーバイザーなど、職種ごとに独自のプログラムでトレーニングする社内の教育機関だ。
例えば店長の育成プログラムでは、アルバイトからの信頼を築くための戦略として「打ち解けること、しかし立ち入らないこと」などと伝える。他にも「上司と部下との友情は良いものか?」など、微妙な人間関係にまであえて踏み込んで教育している。
コミュニケーションだけでなく、コーヒーの知識や技術も指導。現場のスタッフだけでなく、全ての社員が授業を受けているという。
「コーヒーの知識を理解することで、採用面で社員といろいろなコミュニケーションが取れてやりとりが進められ、いいことだと思います」(人事部・鈴木慎太郎)
C-Unitedは3つのブランドを合わせると今や業界5位まで躍進している。
「50年続いたブランドをあと50年続けるための分岐点に私は立ったと思います。だから古いものは大切にしながらも、現代にアレンジした成長をしていかないといけない」(友成)
大学生で借金2,000万円!?~外食業界を生き抜く風雲児
友成の人生は常に飲食業と深く関わってきた。1963年、銀座や虎ノ門で飲食店を営む両親の元に生まれた。その店には各界のスターたちが訪れていたという。
だがその後、家業が廃業し、両親は離婚。母1人子1人の生活は食べるものにも事欠き、親戚に分けてもらうこともあったという。
転機は高校時代。アルバイトをしていた焼肉店の店長から「レストランマネジメント」という本をもらった。飲食店経営のノウハウが事細かに書かれたこの本が、人生を決定づける。
▽飲食店経営のノウハウが事細かに書かれたこの本が人生を決定づける
「テーブルセッティングから損益計算のやり方、店での冷凍冷蔵庫の扱いなど、どうやってレストランを管理するかが論理的に書かれている。当時の日本の飲食業はどんぶり勘定、水商売、経験と勘に頼るのが基本でしたから」(友成)
高校生だった友成は無我夢中で読み、外食産業で生きていこうと決意する。
20歳の時、夜間大学に通いながら自らの名義で融資を受け、新宿にレストランをオープン。自家製ハンバーグが評判を呼び、ランチタイムこそそれなりに繁盛したが、夜は客のニーズに合わず閑古鳥が鳴く。気づけば銀行からの借入金は2,000万円に膨れ上がっていた。
▽20歳の時、夜間大学に通いながら自らの名義で融資を受け新宿にレストランをオープン
「大学4年になってそのまま店の経営を続けようかどうしようかと思ったが、このままだと借金が膨れる。家も引き払って、店に住むしかない人生になって……」(友成)
レストラン経営をあきらめた友成は、就職を決断。選んだ会社が「日本マクドナルド」だった。ここでのしあがり、2,000万円の借金を返そうと意気込んだのだが「「最初は手取りで13万5,000円ぐらい。借金の月々の返済が12万8,000円で1万円残らない。生活できないので消費者金融で借りるしかない。そんなことを最初の1年はやりました」と言う。
それでも死に物狂いで働き、当時10年程度かかると言われた店長に3年で昇格。30歳で地域を統括するスーパーバイザーになった。さらなるチャンスが訪れたのが34歳の時だ。
「日本は店舗数では世界で2番目の国。その大きな国から本社の中枢部門に日本人がいない、『誰かください』とアメリカサイドから話があって、僕は英語ができたので、『おまえ行ってこい』と」
アメリカ本社へ出向くと、命ぜられた職場がシカゴの「ハンバーガー大学」だった。
▽マクドナルドが創設した幹部教育の総本山「ハンバーガー大学」の指導役に抜擢された
マクドナルドが創設した幹部教育の総本山だ。世界中のマクドナルドから幹部候補生たちが研修に訪れ、友成がその指導役に抜擢された。
だが、思わぬ洗礼を受けることになる。新たな生徒たちの歓迎会で挨拶をすると、「こんな若造が」「なぜ日本人?」と、会場から大ブーイングが起こったのだ。
「『お前に教わることなんてない』と」(友成)
友成と共に働いていた、当時の状況を知る市川洋一(C-United常務)は「生徒から質問されて答えられないことがあると、必ず持ち帰って、質問を調べて、翌日に英語でレポートにまとめて生徒たちに渡していたそうです」
友成は誠意を尽くした指導で生徒たちの心を動かし、信頼を勝ち得ていった。
プレタ・マンジェ、モスフード…~外食と歩んだ波乱万丈の半生
アメリカから帰国し、再び「日本マクドナルド」で働きはじめた友成に、新たな転機が訪れる。「日本マクドナルド」の創業者で、当時の社長・藤田田さんの指揮の元、2001年、イギリスの人気サンドイッチチェーン「プレタ・マンジェ」と合弁契約を結び、日本で展開することになった。その社長に任命されたのが当時38歳の友成だった。
▽「プレタ・マンジェ」の社長に任命されたのが当時38歳の友成さんだった
有機野菜を謳った「プレタ・マンジェ」の高級サンドイッチは日本でも話題となり、13店舗に拡大。マクドナルド時代に同僚だった「ウェンディーズ・ジャパン」の紫関修社長は、当時の状況をこう語る。
「当時、日本のサンドイッチのマーケットはそんなに大きくなかった。マクドナルドのオペレーションは効率化されていて。対極とは言わないけど、手作りで、価格もワンランクもツーランクも上。マーケットを作っていくことに苦労したと思います」
そこに予想外の事態が起こる。
「アメリカのマクドナルドが絶不調になって、ハンバーガー事業以外から全部撤退することになった。『日本も引き揚げなさい』となり、1年半で撤退することに。『冗談じゃない』と。だって腹を決めて転籍までしたのに『やっぱりやめる』……それでマクドナルドのグループを離れました」(友成)
マクドナルドを離れた後は「モスフードサービス」のグループ会社「モスダイニング」の会長などを務めた後、投資会社からのオファーで「珈琲館」の再建に乗り出した。
以来、友成は全国に180軒以上あるフランチャイズ店をめぐり、オーナーたちの意見に耳を傾けている。
この日、訪ねた亀有店のオーナーからは、商品の開発会議にアルバイトたちも出席して、意見を出させて欲しいとの提案が。友成は「面白い、やりましょう」と即決した。 友成が社長になり、「珈琲館」は大きく変わったという。
「聞き耳を立ててくれる。FC店が意見を言える環境をつくってくれたので、言いやすい。以前もそれに近いものはありましたが、本部とフランチャイズ店で隔たりがあり、言いにくかった」(亀有店オーナー・鈴木義則)
京都の錦市場近くに大型店舗~海外に打って出る試金石に
友成は京都で新たな構想に向け、動き出していた。京都の錦市場は多くのインバウンド客が訪れる人気の観光地。そのそばに工事中の建物があった。
「2025年3月に出店する京都の大型店です。海外でも通用する『珈琲館』をつくる。外国人が気に入ってリピートしてくれるのか、チャレンジしようと」(友成)
一等地での95坪もの大型店は「珈琲館」では初の試み。外国人観光客が多いここをテストの場にし、海外へ勝負に打って出ようというのだ。
▽2025年3月に出店する京都の大型店「珈琲館」海外へ勝負に打って出る
これまで以上にコーヒーのクオリティーを高めようと、店内には焙煎所も設置。内装には石を薄い板状に加工した和モダンの特別素材を使用する。日本流の喫茶店にとことんこだわるというのだ。
「2025年で『珈琲館』は55周年を迎えますが、これから先の50年は海外に向けて発展していきたい。1つの分岐点になればいいなと思っています」(友成)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
裕福な少年時代、だが小学5年の時に家業が倒産、両親が離婚。外食でリベンジを果たそうと、大学2年のとき新宿2丁目にレストランを開業。しかし客層がわからず、2年で廃業し、2,000万円という借金が残る。
日本マクドナルドに就職。25歳という異例の若さで店長に。30歳でスーパーバイザーに、34歳で渡米。自費でMBAを取得。借金を完済したのは37歳。「根っからの明るい性格」と友成さんは言ったが、大学2年で負った借金は重かったと思う。見事に飲食で返した。「カフェ=地域の安らぎ」を取り戻そうとしている。