この記事は2025年1月17日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「鶏・豚肉の堅調な消費とは対照的に、需要低迷が続く牛肉」を一部編集し、転載したものです。


鶏・豚肉の堅調な消費とは対照的に、需要低迷が続く牛肉
(画像=naka/stock.adobe.com)

(農畜産業振興機構「食肉(牛肉・豚肉・鶏肉)の需給動向」ほか)

日本の1人当たり食肉消費量は2022年度で年間34キログラムあり、内訳は鶏肉14.6キログラム、豚肉13.1キログラム、牛肉6.2キログラムだった。00年以降の推移を確認すると、豚肉・鶏肉の消費量は共に緩やかに増加している。一方で、牛肉は03年の米国での牛海綿状脳症(BSE)発生に伴って消費量が減少し、その後はほぼ横ばいで推移。16年度からコロナ禍前の19年度にかけ、「肉ブーム」などで微増に転じた。

食肉とよく対比される魚介類の消費量は00年代前半から減少が継続しており、11年度には食肉の消費量と逆転。22年度は一人当たり年間22キログラムとなっている。漁獲量と魚介類消費量の減少が、食肉の中でも比較的安価な鶏肉・豚肉の消費量増勢に大きく影響していると考えられる。

しかし、食肉の消費が伸長する中でコロナ禍以降、牛肉の消費量に陰りが見え始めた。図表に20年以降の国内における牛肉や豚肉、鶏肉の輸入と国産の推定出回り量を示した。これを見ると、20年から23年にかけて豚肉と鶏肉の出回り量が緩やかに増加しているのに対し、牛肉だけは明確な減少傾向にある。国産品・輸入品別に見れば、円安の影響などから輸入品の需要が減ったため、牛肉全体の出回り量が減少していることがうかがえる。

コロナ禍で食肉の需要を牽引してきたのは、内食需要に伴う家計消費だった。『家計調査』によると、家計(全国1人当たり)の食肉購入数量は、コロナ禍当初の20年度は牛肉(10.4%増)、鶏肉(11.7%増)、豚肉(8.8%増)と前年比で大きく伸びた。21年度は前年の反動で総じて減少したが、牛肉は22年度、23年度も減少しているのに対し、豚肉と鶏肉は23年度に増加に転じている。

コロナ禍前後での変化を見るために19年度と23年度の購入金額・数量を比較しても、牛肉が9.6%減となっている半面、豚肉と鶏肉の数量はそれぞれ6.4%、9.7%と堅調に伸びている。コロナ禍で外食から内食へと需要が変化する中でも、牛肉需要の拡大は一時的であったことが分かる。

要するに、先行き不安から来る消費者の低価格・節約志向を受け、牛肉購入量の落ち込みが目立ち、豚肉や鶏肉とは対照的な動きとなっている。足元でも、食品の輸入価格が高水準で推移する中で安価な食肉へのシフトが加速しており、しばらくは牛肉需要の低迷が続きそうだ。

鶏・豚肉の堅調な消費とは対照的に、需要低迷が続く牛肉
(画像=きんざいOnline)

農林中金総合研究所 部長/長谷川 晃生
週刊金融財政事情 2025年1月21日号