株式会社ゼロイン
(画像=株式会社ゼロイン)
大條 充能(だいじょう みつよし)――代表取締役社長 兼 CEO
1984年株式会社リクルート入社。総務部にて社員向け全社イベントを担当し、まれな才能でリクルートのお祭り男として注目されるように。1991年から始めた社内報での破天荒な人生相談コラムが評判となり、『ダ・ヴィンチ』など同社発行のメディアに拡大、キラーコンテンツとなる。1997年リクルートを退社、翌年株式会社ゼロインを設立。『熱いぜ!! 悩まない人生方法』(宙出版)、『社会人のオキテ』(実業之日本社)など著書多数。
1996年の創業以来、「すべての"働く"を元気にする。」を企業理念に掲げ、バックオフィス領域に特化した3事業を展開。エンゲージメントや生産性向上といった人・組織の多様な課題に対し、戦略立案と実行の両軸で企業を元気にしている。組織として目指す「ありたい姿」をお客様とともに描き、その実現に向けた変革に伴走する、共創型のアプローチが特長。変化・変革に幅広く対応できる柔軟性と、お客様のことを深く理解した提案力を強みとする。

目次

  1. これまでの事業変遷
  2. 自社事業の強みやケイパビリティ
  3. これまでぶつかってきた課題や変革秘話
  4. 今後の事業展開や投資領域
  5. メディアユーザーへ一言

これまでの事業変遷

—— 御社は1998年創業ということですが、その時代になぜこういったBPO事業をされたのかというところからお話を伺いたいと思います。

株式会社ゼロイン 代表取締役・大條 充能氏(以下、社名氏名略) 私が幸いにしてリクルートを創業した江副の下で総務を学んだことが大きな競争優位となっています。リクルートには14年間在籍しました。総務にいたのは最初の6年で、その後リクルート事件で株をダイエーに売却するなどの変革があり、新しい経営体制になりました。

江副は管理統制型の総務ではなく、風土を醸成する総務を重視していました。江副が目指していた総務は、今でいうモチベーション経営、当時は心理学経営と呼ばれていました。管理や統制が重視されていた時代において、総務が主体的に考え組織づくりに取り組むという発想は、当時としては革新的な考え方でした。ですが私は、今後このような総務が世の中に求められることを確信し、この分野での独立を決意しました。

—— 江副さんは新しい世代の経営者として、まさに神様のような存在でしたね。総務部門の発想もすごいですね。

大條 リクルートではバックオフィスに優秀な人材を配置し、採用や人材教育、風土醸成に力を入れていました。会社が自動的に回る仕組み作りに投資していたと思います。

—— 管理に偏りがちな総務部門を「組織を作る部門」として考えることは非常にしっくりきます。

大條 当時のリクルートで総務は非常に大きな役割を果たしていたと思います。1998年に私はリクルートで初めてプロフェッショナル契約社員の認定を受けました。その後リクルートとは三年間契約でプレイングとしてやりながらも、上乗せでいただいた退職金をもとに会社を立ち上げました。それが株式会社ゼロインの始まりです。

当時は江副時代の総務を知らない世代も増えていて、また金融不況という背景もありました。これはBPOのチャンスだと考え、創業第一号の顧客はリクルートにしようと決めて、1年かけてリクルートの総務部門に営業し、BPOを獲得しました。

—— その後どのような理念を持って、どのように会社を大きくしていったのですか?

大條 当時のアウトソーシングの概念は、決められた仕事を決められた通りに行う「定型業務」でした。ですが総務の仕事というのは、各部門の人からオーダーされる、定義しづらいさまざまな業務を言いますよね。各部門がやって欲しいと思っていることに柔軟に対応し、従業員が働きやすい環境をつくることが総務の本質です。

そこで、業務委託費を決めるための要件定義を行う一方で、受益者負担のもと業務委託外のさまざまな業務にも柔軟に対応する形で作ったのがリクルートの総務BPOモデルです。

決まった要件だけを行うのではなく、新たな要請に応じて顧客とともに要件定義しながら運用を作り上げていくスタンスを大切にしています。

株式会社ゼロイン
(画像=株式会社ゼロイン)

自社事業の強みやケイパビリティ

—— 事業の強みについて詳しくお聞かせいただけますか。

大條 我々の強みは、新卒採用を2000年から24年間続けていることです。また、中途採用でも総務未経験者を積極的に採用し、育成することに力を入れてきました。その結果、総務を熟知した社員が200名もいることが当社の強さですね。

ただ単にオペレーションスキルを磨くだけでなく、組織風土をつくるプロの総務として、総務の仕事を通じて顧客が達成したい目的を理解し、その実現に向けて伴走することを重視しています。例えば、オフィス設計や社内報、周年イベントなど、経営者がどのような風土を作りたいかを理解し、それを実現するためのサポートをしています。

—— 総務の役割が単なる事務作業ではないことがよくわかります。

大條 特に、コロナ禍で企業がワクチン接種を進める際、多くの総務が業務の増加を嫌がりましたが、当社はそのような時こそ総務が必要な役割を果たすべきだと考え、積極的に動いていきました。創業以来、誰かがやらなければならないことを率先して行う姿勢を大切にしています。

—— その姿勢が御社の強みとして現れているのですね。

大條 そうです。ですが、このような姿勢は一夜にしては築けません。新卒や総務未経験の中途社員を独自に育成してきたことが、他社にはない我々のサービスの源流にあります。

これまでぶつかってきた課題や変革秘話

—— これまでの課題や変革についてお聞かせいただけますか?

大條 第一期の成長期は、リクルートとともに築いてきたものでした。初めは総務のBPO事業からスタートしましたが、リクルート社内のニーズに応じて新たな事業を展開しました。例えば、社内イベントやミッション・ビジョン・バリューの浸透を支援するコミュニケーションデザイン事業や、オフィス環境の設計を行うファシリティデザイン事業がその一例です。

その結果、リーマンショック前には売上を20億円規模まで成長させることができました。しかし、リーマンショックが直撃し、リクルートからのサービス削減要請により売上は一気に12億円まで減少しました。なんとか乗り越えましたが、一社への依存度を見直し、より多角的な成長戦略を模索する必要性を認識しました。

—— その後の成長戦略はどのように立てられたのでしょうか?

大條 リーマンショックを契機に、我々は「リアクション型」から「アクション型」へと大きく舵を切りました。つまり、リクルートからの依頼に応じる形だけではなく、自ら市場に出向いて顧客基盤を拡大する戦略に転換したのです。

具体的には、デジタルマーケティングの導入やアウトバウンドセールス、セミナー開催など、顧客開拓のための施策を積極的に展開しました。また、リクルート出身者が他社へ転職した際に当社のサービスを推薦してくれるという「プル型」の仕事も増え、これが我々の大きな支えとなりました。

—— デジタル化や自動化が進む中で、競争環境の変化にも直面されたと思います。その中での戦略はいかがでしたか?

大條 近年、バックオフィスのデジタル化や効率化ツールが増えていますが、我々の立ち位置はそれらと競合するものではありません。むしろ、SaaSや他のアウトソーシングサービスを活用し、クライアントの課題を総合的に解決する役割を担っています。 クライアントが新しくサービスの導入を検討する場合は、導入目的や要件の整理、社内での運用に向けたオペレーション設計など、クライアントの要望に応じて導入支援を行うこともあります。こうした柔軟な対応が、我々のサービス価値として認識されています。

—— コロナ禍での影響とその後の成長についても教えてください。

大條 コロナ禍では、イベント事業が一時停止し、売上が32億円から18億円まで落ち込みました。しかし、直近では売上24億円を見込むまでに回復しています。この間、BPOを中心としたバックオフィス支援事業の需要が増え、我々の提供するサービスが再び注目されるようになりました。

現在、BPOの主要顧客数は約30社で、社員110名が現場でサービスを提供しています。また、オンライン対応や短期的な支援などを含めると、さらに多くの顧客と取引をしています。

今後の事業展開や投資領域

—— 今後の事業展開や投資領域についてお伺いさせてください。

大條 我々は法人のバックオフィス支援に特化したソリューションを提供し続けるという軸をぶらさずに事業を展開していきます。ただ、企業が抱える課題は日々変化しており、その変化に対応し続けることが重要だと考えています。

特に、派遣モデルでは解決できない課題も多く、例えば派遣社員の交代時に発生する引き継ぎコストや、長期間在籍する派遣社員が組織に与える影響などが挙げられます。こうした課題を解決するために、我々は「自立化支援コンサルティング」と呼んでいますが、クライアント企業が自ら最適な総務運営を行えるよう支援しています。この分野への投資を強化していき、総務戦略支援をさらに高度化していく予定です。

——自立化支援コンサルティングについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

大條 自立化支援コンサルティングは、クライアント企業が自ら最適な総務運営を行えるよう支援するものです。BPOのように人を派遣するのではなく、オンラインで総務のノウハウを提供し、どのような状況でも運用がスムーズにいくようナビゲートします。 さらに、自ら考え行動する「自律型」総務への変革コンサルティングも展開しています。総務組織として目指す“ありたい姿”を総務メンバー自らが考え、その実現に向けて自律・自走する組織カルチャー変革を支援するものです。 これらのサービスは、総務の実務経験を持つスタッフが対応するため、他社には簡単に真似できない仕組みとなっています。現在、地方の企業でも導入が進んでおり、ユニバーサルサービスとしての広がりを見せています。

—— 例えば5年後のゴールをどのようにお考えですか?

大條 当社は「隠れた会社」として、取引先やサービス利用者にしか知られていない存在でした。しかし、バックオフィス最適化の分野でゼロインが日本一であると認知される会社になることを目指しています。

このためには、企業文化の構築支援を通じて、クライアントの価値を最大化するというブランディング活動にさらなる投資をしていきます。その一環としてIPOも視野に入れていますが、IPOはあくまで手段です。時価総額のつきやすいタイミングを見極め、慎重に進めていく考えです。

—— 現在、IPOに向けた具体的な準備状況はどうなっていますか?

大條 実はコロナ以前にショートレビューを行いましたが、一旦ゼロリセットしました。現在、IPOは急がず、タイミングを見計らっています。私自身、株式の約7割を保有しており、ベンチャーキャピタルの関与もありません。そのため、経営の自由度が高く、焦ることなく顧客や事業に集中できています。

時価総額が適切に評価され、次の成長戦略に資する資金調達が可能な状況になるまで、慎重に検討を続けていく予定です。その間、ブランディング強化やリード獲得のためのデジタルマーケティングにも引き続き力を入れていきます。

メディアユーザーへ一言

—— 最後に、メディアユーザー、特に企業の経営者様に向けて一言いただけますでしょうか?

大條 管理部門というのは、これまで日本では決まったことを管理・統制することが主流でした。しかし、最近ではリクルートやサイバーエージェントのように、フレキシブルな風土を作ることに投資する企業が増えてきました。

多くの企業はトップダウン型の経営を行っていますが、私はそれでは日本が元気にならないと感じています。根本的には、社員一人ひとりが主体的に考え行動するボトムアップ型の経営が必要です。本質的なエンゲージメントというのは、労働条件や給与の良さだけでなく、メンバーに仕事を選択する意思決定権が与えられていることです。そこで成功と失敗を繰り返しながら、自分の中でキャリアを積んでいくことが重要です。

我々のミッションは、企業視点では本質的なエンゲージメント状態を作り、社員視点では自分の意思で仕事をするという両面を作っていくことです。多くの会社がこのような環境を整えていない中で、私たちは本質的に会社の風土を変えたい、働くことを元気にしたいと考える企業をサポートしていきます。ぜひご相談いただければと思います。

氏名
大條 充能(だいじょう みつよし)
社名
株式会社ゼロイン
役職
代表取締役社長 兼 CEO

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