の記事は2025年2月12日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.266『20~29歳層の都区部への転入加速と、0~9歳層の転入控えの発生 東京都の転入・転出傾向Part3』」を一部編集し、転載したものです。


20~29歳層の都区部への転入加速と、0~9歳層の転入控えの発生 東京都の転入・転出傾向Part3
(画像=Ardian/stock.adobe.com)

目次

  1. この記事の概要
  2. 各地域の年齢層別人口増減
    1. 【都区部人口】
    2. 【周辺3県と都下の人口】
    3. 【43道府県の人口】
  3. 転出元地域の人口からの検討
  4. 都区部からの転出動向
    1. 【50~59歳層の転出増加の要因】
    2. 【周辺3県と都下への転出動向】
    3. 【43道府県への転出動向】
  5. 都区部への転入動向
    1. 【周辺3県と都下からの転入】
    2. 【43道府県からの転入】
  6. おわりに
  7. 補論

この記事の概要

• 10歳階級別にみた東京都区部への転入者数や東京都区部からの転出者数は、その転出元となる地域の当該年齢層の人口の規模に連動する傾向がある。

• また人口の規模だけではなく「転出意向」の強弱も、一部の年齢層においては時間とともに変化し、転入・転出数に影響していることが伺われる。

• 「周辺3県と都下」「43道府県」ともに、0~9歳層の都区部への「転入控え」傾向がみられるようになっている。

Vol.263「東京都の転入・転出傾向Part1」、Vol.264「東京都の転入・転出傾向Part2」では、東京都・都区部・都下との間の46道府県からの転出・転入動向、都区部の「20~29歳層」「30~39歳層・0~9歳層」「50~59歳層」の転出入動向を概観した。

これらの転出・転入数は各年齢層の意向・事情を反映しているのは確かであるが、そもそもそれらの年齢層の人口にも依存していると考えられる。例えば、20~29歳層の各地方から都区部への転入数は、同年齢層の「都区部へ転入をしたい」という意向の強さ・事情の有無と、各地方におけるその年齢層の人口規模によって決まると思われる。また、人口規模が一定の場合でも、「転出入の意向の強さ」が時系列的に変化する可能性もある。

そこで本レポートでは、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」(総務省)、「住民基本台帳による東京都の世帯と人口」(東京都)、「住民基本台帳人口移動報告」(総務省)のデータに基づき、都区部以外の日本を大きく埼玉・千葉・神奈川と東京都下の「周辺3県と都下」、1都3県以外の「43道府県」に分け<1>、転出入の元となる地域の人口と転入・転出人口との比較を行う(図表は三菱UFJ信託銀行が作成)。

各地域の年齢層別人口増減

次ページの図表1~3は、「都区部」「周辺3県と都下」「43道府県」の年齢層別の各年初における人口の推移を示したものである。年齢層の切り方については、原データは100歳までの5歳階級であるが、ここでは10歳階級別移動データに合わせたものとしている。また、移動データの集計対象が2017年までは日本人のみ、2018年からは外国人を含む総数となっているため、年初人口も2017年までは日本人のみ、2018年からは外国人込みの値としている<2>。各グラフ中の点線部分は、2017年までの「日本人のみ」から2018年以降の「外国人込み」への移行部分を示している。また3つのグラフとも「60歳以上」の層の人口が特に多いため、「60歳以上」だけ全て右軸表示となっている。

注1.Part1、Part2においては、都区部から見た地域区分を「埼玉県」「千葉県」「神奈川県」「東京都下」(以上「周辺3県と都下」)、「北関東以北」「中部」「近畿」「中国・四国」「九州・沖縄」(以上「43道府県の各地域」)としていたが、都区部に対する転入・転出傾向は全体として「周辺3県と都下」と「43道府県の各地域」に大別できるとみられるので、本レポートでは「周辺3県と都下」と「43道府県の各地域(以下「43道府県」)」の2つの地域に集約して分析を行う。
2.2012年7月から、改正後の住民基本台帳の法律が施行され、年初人口としては2013年から外国人込みの数値が発表されている。しかし、移動データへの外国人人口の反映は2018年からであるので、年初人口の「日本人のみ」から「総数(外国人を含む)」への区分の切替えも、移動データの内容に合わせたもの。

【都区部人口】

図表1は都区部の人口推移を示している。これは、都区部からの転出のベースとなる人口と見ることもできる。

図表1にみられる動向を特に2018年以降について確認すると、「0~9歳層」「30~39歳層」「40~49歳層」の、年少者と中間の年齢層は減少トレンド、「50~59歳層」「60歳以上」の中高年層は一貫して増加、「10~19歳層」「20~29歳層」の若年層は2019年、2020年に一旦ピークとなり減少したが、2023年からはコロナ禍の一段落を反映してか、反転、増加している。

20~29歳層の都区部への転入加速と、0~9歳層の転入控えの発生 東京都の転入・転出傾向Part3
(画像=三菱UFJ信託銀行)

【周辺3県と都下の人口】

図表2は「周辺3県と都下合算」の人口変動をまとめたものとなる。これは、都区部への転入のベースとなる人口を示している。

都区部と同様に、「50~59歳層」「60歳以上」の中高年層が一貫して増加しているが、都区部とは異なり、「10~19歳層」「20~29歳層」の若年層が2023年から増加するような動きは見られず、「20~29歳層」は微増、「10~19歳層」は微かに減少傾向を示している。「0~9歳層」「30~39歳層」「40~49歳層」の、「年少者と中間の年齢層の減少」は都区部と似ているが、「0~9歳層」については都区部とは異なり、2019年からすぐに減少が始まっている。

20~29歳層の都区部への転入加速と、0~9歳層の転入控えの発生 東京都の転入・転出傾向Part3
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【43道府県の人口】

図表3は都区部と「43道府県」を合算した人口の動向を示している。これも、都区部への転入のベースとなる人口を示している。

ここでは、「50~59歳層」「60歳以上」の中高年層が一定の水準である以外は、全ての年齢層において人口の減少傾向が続いている。他には、「20~29歳層」が2022年からほぼ横ばいとなっているのが目立つ程度となっている。

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転出元地域の人口からの検討

ここまで、都区部と「周辺3県と都下」「43道府県」をそれぞれ合算した人口の推移を見てきた。以下では、都区部と各地域との間の転入・転出数と人口との関係を検討する。各年の転出・転入者数、年初人口は2012年の水準を100として指数化する<3>。図表4から図表7において、人口の推移の時間経過を示した。グラフの各線に示している●印はコロナ禍前の最後の年となる2019年の年初を示している。線中の破線部分は集計対象が日本人のみから外国人込みに切り替わった、2017年と2018年の間を示している。従ってこの部分については、2017年から2018年にかけての日本人の部分の変動と、2018年の外国人の算入によって数値が膨らむことの両方の要因が入っていることになる。また、縦横軸が交わる点は2012年の水準となる。

都区部からの転出動向

図表4・図表5は、都区部から「周辺3県と都下」、また都区部から「43道府県」への動きを示したものである。横軸が各年初の都区部の人口の水準を示し、縦軸が都区部からの転出者数の水準を示している。

左下から右上に伸びる線は、2012年を基準とした年初人口の変化率と転出者数の変化率が等しくなる水準を示している<4>。この線より上側にグラフの各線が位置した場合は「人口の変化率よりも転出の変化率が大きい(実質的に転出者が増加している)」、下側に位置した場合は「人口の変化率よりも転出の変化率が相対的に小さい(実質的に転出者が減少している)」とみることができる。

【50~59歳層の転出増加の要因】

Part2において、「50~59歳層」の都区部からの転出者数が年々増加していると指摘したが、都区部から「周辺3県と都下」への転出について見た図表4、都区部から「43道府県」への転出について見た図表5ともに、斜め線(人口増減率=転出増減率)に沿うような変化となっている。

20~29歳層の都区部への転入加速と、0~9歳層の転入控えの発生 東京都の転入・転出傾向Part3
(画像=三菱UFJ信託銀行)

注3.「転入」といった場合、転出と対を成す、もともとの転入・転出(いわばグロスの転入・転出)と、転出も加味したネットの「転入超過」と呼ばれる転入があるが、ここで分析対象とするのはもともとの転入・転出(グロスの転入・転出)である。
4.例えば、都区部への転入数(縦軸)と都区部人口(横軸)がともに100であったものが、両方とも10%減少した場合は、両方とも90の水準となってこの線上に乗ってくる。言い換えれば、この線上に乗っている(あるいは極めて近いところで推移する)ということは、2012年を100とした場合の、都区部からの転出者数の変化が都区部人口の増減に比例している、ということになる。

2023年の都区部の人口の指数は147であるのに対し、転出者の指数は図表4で162、図表5では148となっている。これは、2012年対比で2023年の都区部における「50~59歳層」の人口が47%増加したのに対し、2023年に都区部から転出した同年齢層の人数も「周辺3県と都下」に向けては62%増、「43道府県」に向けては48%増となったことを示している(図中、灰色矢印)。

図表4・図表5ともに「50~59歳層」の線が概ね斜め線(人口増減率=転出増減率)に沿っていることから、2012年から最近までの「50~59歳層」の都区部からの転出者数の増加は、「2012年以降、50~59歳層の人々の間で都区部からの転出の機運が年々高まっている」ということではなく、2012年から2023年にかけて都区部における「50~59歳層」の人口の増加が、この年代層の転出増をもたらしたもので、意識・行動の変化が主な要因ではない、ということであると考えられる(但し図表4の「周辺3県と都下」においては、ここ数年転出が増加しており、コロナ禍を契機に転出機運がやや高まったらしいことが考えられる)。

【周辺3県と都下への転出動向】

図表4において「0~9歳層」「30~39歳層」「40~49歳層」を見ると、コロナ禍が始まると共に、これらの年齢層の転出が増加したことが確認できる。 各線の終点である2023年では、転出数自体はコロナ前の2019年の水準に戻ってきたが、この間に都区部の当該年齢層の人口は減少(2023年の点は以前より左シフト)している。よって斜め線(人口増加率=転出増減率)からの乖離は以前より大きい状態にあり、これらの年齢層における「転出傾向」は、人口の規模と比べると以前よりまだ高めであることが推察できる(図中、赤色矢印)。

【43道府県への転出動向】

図表5に見られる43道府県への転出傾向としては、2012年以来「0~9歳層」では、横軸の人口は増加傾向であるものの転出数は漸減、「40~49歳層」でも人口は増加傾向であるものの転出数は横ばいである等、43道府県への転出の減少がみられる。ただ、図表4と同様、2020年頃に「0~9歳層」「30~39歳層」「40~49歳層」にわずかながら43道府県への転出増加の動きがみられる。また、「60歳以上」の層においては、2019年以降同年齢層の都区部人口が殆ど変わらないにもかかわらず、転出者数の増加が続いている

都区部への転入動向

図表6、図表7で、「周辺3県と都下」「43道府県」から都区部への転入動向を確認する。

【周辺3県と都下からの転入】

図表6は、「周辺3県と都下」から都区部へ転入した人数を縦軸に、各年の周辺3県と都区部の年初人口の合計を横軸にとり、それぞれ指数化、その推移を示したものである。(ここでは都区部への転入の状況を確認する為、その母集団である「周辺3県と都下」からどの程度都区部へ転入したのかをみている)。

一見して明らかであるのは、各年齢層の線の位置が「20~29歳層」「10~19歳層」を除き、概ね斜め線(人口増減=転出増減)近傍(人口変動に比例)ないしその下側にあることである。

前述の通り「斜め線沿い」は転出入がほぼ人口に比例していることを示している。また「斜め線の下側」は、転入元の地域の人口の伸びほど都区部への転入が伸びていない、ないしは転入元地域の人口の減少ペース以上に都区部への転入ペースが減少していることを示している。

いずれにせよ「都区部への転入の減少」が起きていることになる。

「0~9歳層」について見ると、2019年の丸印よりも後の時点であるコロナ禍の期間中においては、周辺3県と都下の人口が指数では90前後であるのに対し転入数の指数は直近でも80、最も低い時期は70近い水準であることから、最近では「0~9歳層」とそれを伴う層の都区部への転入が相当程度減少している可能性がある(図中、赤色矢印)。

20~29歳層の都区部への転入加速と、0~9歳層の転入控えの発生 東京都の転入・転出傾向Part3
(画像=三菱UFJ信託銀行)

【43道府県からの転入】

「43道府県」から都区部への転入動向を示したものが、図表7である。

これを見ると「43道府県」の「0~9歳層」は当初は斜め線に近い変化をしていたが、コロナ禍以降は斜め線よりもかなり下に位置している。これは、コロナ前は比較的人口に比例した動きであったものが、コロナ禍をきっかけに、「0~9歳層」とそれを伴う層の都区部への所謂「転入控え」のようなものがあったとも考えられる(図中、赤色矢印)。

一方「20~29歳層」を見ると、直近では人口の指数は91、転入数の指数は151となっている。即ち、転出元の地域の人口が9%減少しているにも拘らず転入者は51%増となっていることになり、この期間の「43道府県」の「一定人口当たりの都区部への転入数」(いわば転入率ないし転入性向とでもいうべきもの)は2012年に比べ66%ほど上昇していることが推定される。

「30~39歳層」の場合は、2023年の都区部への転入者数の指数は103と、転入者数だけ見た場合は2012年の水準とほぼ同じであるが、転出元の地域の人口の指数値が77と2012年の概ね四分の三に減少している<5>。従って、都区部への転入率は2012年に比べ34%程度増加していることになる(図中、灰色矢印)。

またこの間、「0~9歳層」の都区部への転入数はかなり減少している。その親世代に当たると思われる「30~39歳層」の一定割合が「0~9歳層」の動向と近い動きをしていると仮定すると、「0~9歳層」と関わりのある「30~39歳層」の都区部への転入数も相当程度の減少傾向にあると推定される。一方、「30~39歳層」の転入数は全体としては横ばいであることから、「0~9歳層」と関わりのない「30~39歳層」の転入数については、増加傾向にあることが考えられる。

20~29歳層の都区部への転入加速と、0~9歳層の転入控えの発生 東京都の転入・転出傾向Part3
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注5.「43道府県」の30~39歳層の総人口は、2012年(日本人のみ集計)の約1,209万6千人から2023年(外国人を含む)の約930万5千人まで11年間で23.1%の減少となっている(図表3参照)。これはスタート時点の2012年において、団塊ジュニア(出生年の中央が1973年頃とされる)が39歳となっており、当初2012年の30~39歳層に含まれていた団塊ジュニア層の後半が、それ以降30~39歳層から抜けていくことにより、このような大幅な減少が発生したと考えられる。

おわりに

以上、東京都区部を中心とした、コロナ禍前後での年齢層別・地方別の人口の転出・転入動向を転出元の地域の人口との比較で見てきた。

コロナ禍をきっかけに、「0~9歳層」「30~39歳層」「40~49歳層」の「周辺3県と都下」への転出傾向が一時的に急上昇したこと、都区部からの「50~59歳層」の転出が年々増加してはいるが、これは都区部内の同年齢層の人口の増加とほぼ連動しており、「50~59歳層」の行動変容によるものではないことが確認できた。

また、「0~9歳層」の都区部への転入においては、「周辺3県と都下」と「43道府県」のどちらから見ても、当該年齢層の人口自体の減少よりも大きな転入減少が発生しており、いわば全国的に「0~9歳層とそれを伴う層の都区部への転入控え」のような現象が起きているらしいことも確認できた。

今後はこのようにして流入した人口が都区部内でどのような動きをしているか検証したい。

補論

右図はP3の図表4から「0~9歳層」「30~39歳層」「40~49歳層」を取り出したものである。

各年齢層とも、2012年(縦・横=100の軸の交点)から●印のある2019年までは、ほぼ斜め線に沿って推移しており、都区部での各年齢層の人口と、周辺3県・都下への転出者数がほぼ連動していることが分かる(点線四角枠)。

2019年を過ぎると人口(左右方向)がほぼ変わらない中、転出者数が急増した後、最近は転出者数も落ち着く傾向となっている。

20~29歳層の都区部への転入加速と、0~9歳層の転入控えの発生 東京都の転入・転出傾向Part3
(画像=三菱UFJ信託銀行)
三好貴之
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部