
◾️泥沼の暴露劇
キム・スヒョンは「太陽を抱く月に」「星から来たあなた」「サイコだけど大丈夫」などのドラマに主演し人気を博してきた。
2024年上半期に韓国のケーブルチャンネルtvNで放映された「涙の女王」は、「愛の不時着」を超え同局の歴代最高視聴率を記録し大ヒットした。日本だけでなく中国や東南アジアなどでも人気が高い。
そんな人気俳優を大型スキャンダルが直撃した。交際相手とされたのが女優の故キム・セロンだったことも波紋を広げた。キム・セロンは子役として注目を集め、演技力が高く評価されてきた。
しかし、2022年5月に飲酒運転で事故を起こし芸能活動が事実上停止。復帰が難航し、生活にも支障が出ていると伝えられる中、今年2月に24歳の若さで亡くなった。遺書などはなかったが、自殺ではないかと見られていた。
遺族はキム・セロンが未成年だった頃からキム・スヒョンと6年に渡り交際していたと主張し、2人が頬を寄せ合う写真やキム・スヒョンが軍服務中に送った手紙などを公表した。写真は2016年に撮影されたもので、当時キム・セロンは16歳、キム・スヒョンは28歳だったとされていた。
キム・スヒョンの所属事務所は当初、「全くの虚偽事実」と交際を否定した。だが、影響は広がり続け、キム・スヒョンの活動にも支障が生じると、事務所側は急遽公式声明を発表し、事態の鎮静化を図った。
「キム・セロンが成人となった2019年夏から2020年秋まで交際していた。未成年時代に交際していたという主張は事実ではない」
「(未成年時代の交際を裏付けるとされる写真については)全てキム・セロンが成人してから撮影されたものだ」
当初は交際そのものを否定していたのに、「成年してからの交際」は認めた。それでも、未成年時代の交際については強く否定した。
だが、ネット上では写真の撮影時期をめぐって憶測が飛び交い、キム・セロンの日記の存在も取り沙汰されるなど疑惑の払拭には至っていない。
◾️相次ぐ広告契約解除、不買運動も
キム・スヒョンはグローバルな人気を背景にアウトドアブランド『アイダー』をはじめ、『ホームプラス』『新韓銀行』『トゥレジュール』『プラダ』『ジョー・マローン・ロンドン』など多数の企業の広告モデルを務めてきた。その数は16社に及ぶとされる。
だが、未成年者との交際疑惑により急激にイメージが悪化し、消費者の間にはキム・スヒョンを広告モデルとしている製品を買い控える動きも出てきた。
「キム・スヒョンをモデルに据え続けるのは『未成年と成人の交際に問題はない』と認めるのと同じこと」
「問題のあるモデルの商品を買うことで、他人から『論争に構わず購入する人』どころか『その芸能人を擁護する人』と見られるのが怖い」
専門家はこうした消費者の反応は当然だと指摘する。「芸能人を通じて形成されるブランドイメージは一般の商品より期待値が高く、その分失望も大きい」ためだ。
こうした状況を受け、広告業界ではキム・スヒョンとの契約を解除する動きが広がっている。韓国の化粧品ブランド「ディント(Dinto)」は「キム・スヒョンとの広告モデル契約を解除する」と発表した。イタリアの高級ブランド「プラダ」も「問題の重大性を考慮し、双方合意のもと協業を終了した」と明らかにした。
また、韓国のベーカリーチェーン「トゥレジュール」も、3月中に終了予定だったキム・スヒョンとのモデル契約を更新しない方針を決定。各企業は公式SNSからキム・スヒョンの写真を削除するなど対応に追われている。
出演中のバラエティ番組や次回ドラマにも影響が及んでいる。現在出演中のMBCバラエティ番組『グッドデイ』には視聴者から降板要請が殺到、出演継続が不透明な状況となっている。4月に公開予定だったディズニープラスのTVシリーズ『ノックオフ』も、スケジュール調整が避けられない見通しだ。
◾️法的処罰、莫大な違約金は?
キム・スヒョンの広告出演料は2012年当時で1年10億ウォンとされ、年間の広告収入は500億ウォンに達するとも言われた。「涙の女王」の出演料は1回当たり3億ウォンだったという。
モデル料や出演料が高額な分、違約金の支払いも莫大な額になると見られている。広告の契約書には「法令違反や社会的物議をかもした場合、広告費の2~3倍に達する違約金を支払う」という条項が入るのが一般的だ。こうした点を考慮すれば、キム・スヒョンの違約金が200億ウォンに達するとの推定もある。
未成年者と成年の交際をめぐっては「道義的責任」が問われるのは当然だ。一方で、法律上の処罰は交際過程で性行為があったか否かが重要になる。韓国の法律では被害者が「13歳未満」であれば、相手が何歳であっても、また性行為の同意があったかどうかに関係なく「未成年者に対する法定強姦罪(未成年者強姦罪)」が適用される。
被害者が「13歳以上16歳未満」の場合は、相手が「19歳以上」であれば処罰の対象となる可能性があるが、その場合は未成年者に対する違法行為が存在することを証明する必要がある。
逆に言えば、性的行為などが一切なく「健全な交際関係」であれば、成人を処罰する法的根拠は存在しない。
未成年者との交際が事実だったのか、事実だった場合、健全な交際だったのか否か。
キム・スヒョン側と遺族の主張は対立しており、事実関係が不透明なまま、キム・スヒョンへの批判が過熱しているのが実情だ。
キム·スヒョン側は「公開的に是々非々を選り分けることは、故人の名誉を回復するために適切ではない」と遺族側の暴露に懸念を表明したうえで、「母親に会って十分な説明をしたい」と呼びかけた。
遺族側は「未成年者時代から恋愛したことを認め、公式的に謝罪」するよう求めている。
韓流トップスターをめぐる一連の騒動は、韓流全体のイメージを引き下げるかもしれない。