この記事は2025年6月6日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「供給超過幅が拡大し、年後半にかけて原油先物価格は下落へ」を一部編集し、転載したものです。


供給超過幅が拡大し、年後半にかけて原油先物価格は下落へ
(画像=Animal/stock.adobe.com)

トランプ関税が原油市場を揺るがしている。4月2日、トランプ米大統領が相互関税を発表した直後に原油価格は急落。4月初めに1バレル=70ドルを超えていた米ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物価格は、わずか1週間足らずで1バレル=60ドルを割り込んだ(図表)。この間、米中間で関税引き上げの応酬が展開されたことや、OPECプラスのうち自主減産に参加している有志8カ国(ロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、イラク、アルジェリア、カザフスタン、オマーン)が減産縮小の拡大(増産)を決定したことも価格下落に拍車をかけた。

4月9日、米国が相互関税の一部を一時停止すると発表した後、急速な価格の下落は下げ止まった。しかし、それ以降も1バレル=60ドル近辺での低調な推移が続いている。

価格が上向かない一因として、米国の関税政策の先行きが見えない点がある。5月10、11日に行われた米中協議では、互いに引き上げた高関税部分を一時的に停止することで合意し、米中対立の激化懸念はやや後退した。これにより原油価格は一時的に持ち直したが、現状は猶予期間が設けられたに過ぎない。米関税政策や、米中対立に伴う世界経済の減速懸念が、原油価格の上値を抑える状況は当面変わらないだろう。

一方、供給側では、OPECプラスによる生産増が価格の下落要因となっている。OPECプラスの有志8カ国は、4月以降も3会合にわたって自主減産縮小(増産)の拡大を決定。7月までに、日量約140万バレル分の自主減産を巻き戻す予定となった。これは、3月に発表された当初計画よりも半年早いペースである。自主減産を巡っては、イラクやカザフスタンなどで生産超過が続いており、主導役のサウジアラビアが一向に改善しない減産違反の是正に見切りをつけ、自主減産の枠組みの早期解消にかじを切ったとみられる。

米国では、足元の原油価格の低下を受け、生産拡大に鈍化の兆しが見られる。現在のWTI原油先物価格は、主要鉱区におけるシェールオイル企業の新規生産の平均的な採算ラインとされる1バレル=65ドルを下回って推移している。4月以降、将来的な増産余力を表す掘削リグの稼働数や新規掘削の申請数も減少している。米国の生産拡大の鈍化は、OPECプラス側の増産には好都合であり、生産シェアを回復するチャンスにもなり得る。

以上を総合すると、世界経済の減速によって原油需要の伸びは緩やかになる一方で、生産余力のあるOPECプラスの増産に支えられた供給の拡大が需要の伸びを上回り、供給超過が拡大する方向へ進む見通しである。原油相場は、現在の1バレル=60ドル近辺から、年後半にかけて緩やかな下落傾向が続くと見込まれる。

供給超過幅が拡大し、年後半にかけて原油先物価格は下落へ
(画像=きんざいOnline)

伊藤忠総研 主任研究員/浅岡 嵩博
週刊金融財政事情 2025年6月10日号