この記事は2025年6月6日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「自律反発一巡の日本株、上昇のカギとなり得る3つの材料」を一部編集し、転載したものです。

5月前半の日本株は、4月の急落からの戻り基調が継続し堅調な推移を示した。TOPIXは5月13日まで13連騰したほか、日経平均株価も上昇基調が続き、両指数とも米国による相互関税発表前の水準を回復した。米国が英国や中国と通商交渉の合意を発表し、米関税政策への警戒が後退したことも日本株の上昇を後押しした。ただし、5月後半は上昇一服となり、やや上値の重さが意識される展開となっている。
TOPIXの12カ月先予想PER(株価収益率)は14.6倍(6月3日時点)となっており、2015年以降のヒストリカル平均並みの水準まで回復した。割安感に着目した買いが一巡したとみられる。
目先予定されるイベントを中心に、日本株をさらなる上昇に導く三つの材料について考察したい。一つ目は、日本独自の材料である株主還元やグループ経営の見直しなど資本効率改善の進展だ。東証上場企業の自社株買い発表額は、好調だった昨年をさらに上回るペースで、今後の日本株の需給を支える役割が期待される(図表)。
また、6月は株主総会シーズンとなり、ガバナンス改革に動く企業が多いとみられる。足元では親子上場解消の動きが活発化しており、年初からのTOB件数は前年同期比約2倍と増加基調にある。企業が経営資源の効率化や、構造改革の取り組みを積極化する動きは、海外マネーを呼び込む契機となろう。
二つ目は、米国と各国の通商交渉の進展である。6月15日から17日にかけてカナダで主要国首脳会議(G7サミット)の開催が予定されており、トランプ大統領が各国首脳と対面し、交渉を進める可能性が高い。日米間では閣僚級協議を重ね、米国が求める自動車の安全基準見直しや米国産農産物の輸入拡大のほか、造船分野での日米協力などを視野に議論を詰めている。G7サミットでの実施が見込まれる日米首脳会談で、それらの議論が合意に至れば日本株は選好されやすくなるだろう。
三つ目は、米国において予算法案の成立が想定される点である。5月22日に議会下院で可決されたため、今後は上院での可決に向けて、共和党内での調整や必要に応じて法案の修正なども行い、米国の独立記念日である7月4日までの成立を目指す。
過度な財政拡張策は金利上昇につながる懸念もあるが、バランスを保った法案となれば、米国経済を押し上げる効果が期待される。米下院歳入委員会は、予算法案により米国のGDPが3%超押し上げられると試算している。
共和党寄りの意見として割り引いてみる必要はあるが、個人や企業への減税が米国景気を回復に導くことが期待できよう。米国経済の回復は、今後の日本株にとっても追い風となると筆者はみている。

大和証券 投資情報部 ストラテジスト/高取 千誉
週刊金融財政事情 2025年6月10日号