この記事は2025年6月13日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「賃貸借契約の種類に見る賃料上昇の可能性」を一部編集し、転載したものです。


賃貸借契約の種類に見る賃料上昇の可能性
(画像=jittawit.21/stock.adobe.com)

不動産の価格上昇には、収益還元法の観点から利回りの低下または賃料の上昇が必要である。しかし、現在は利回りが横ばいで、価格は高止まりしている。不動産市況の好調が続くのかを見極める際には、さらに賃料水準を引き上げることができるか否かが重要になってくる。

オフィス市場では、新規賃料の上昇が続いている。オフィス仲介大手の三鬼商事の調査によれば、2025年4月時点で東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の平均賃料は、前年同月比4.69%増と15カ月連続の上昇となった。また、日本不動産研究所と三鬼商事は、東京都心5区の賃料が26年に前年比3.4%増、27年に同2.9%増との見通しを示している。

賃貸マンション市場も堅調だ。マンション価格の高騰から購入を断念した層が賃貸に流れており、25年の年始以降は一段と賃料が上昇している。好調な不動産市況は継続するものとみられる。

もっとも、新規賃料の上昇はすぐには収益へ反映されず、新テナントの入居とともに段階的に反映される。Jリートが保有するオフィスビルを例にとると、年間のテナント入れ替えは全区画の1割弱にとどまる。入れ替え率がこれより高い物件は、一般に競争力が弱いため、空室期間が長く、賃料も新規賃料水準よりも低くなる。

現入居テナントの賃料を更新時等に引き上げられるかは、賃貸借契約の内容に影響される。普通借家契約では同条件での更新が前提となり、賃料引き上げは困難なことが多い。一方、定期借家契約では契約終了後に再契約となり、賃料を見直す機会が得やすく、交渉が決裂してもテナントを入れ替えることができる。

ただし、定期借家契約の賃貸マンションは、入居希望者から敬遠されやすい。国土交通省によれば、22年度に民間賃貸住宅に住み替えた世帯のうち、93%が普通借家契約を結んでいる。

一方、オフィス市場では、大型ビルにおける定期借家契約の採用率が高い。日本ビルヂング協会連合会によると、延べ床面積3,000平方メートル未満の中小規模ビルでは、46%が全区画で普通借家契約を採用しているが、延べ床面積5万平方メートル以上の大型ビルでは、37%が全区画で定期借家契約を採用している(図表)。つまり、長期的な視点で投資を行う場合、一般には大型オフィスの方が新規賃料と既存テナントの賃料との差を縮めやすく、価格の上昇トレンドにも乗りやすい。

不動産は個別性が強く、Jリートであっても賃貸借契約の内容は守秘義務を理由に非公開となっているケースが多い。そうした中で、今後は個別不動産の価格が賃料上昇の波に乗れるか否かによっていっそう選別され、二極化が進むことが予想される。投資家や担保権者には、物件ごとの丁寧な精査と的確な見極めが求められよう。

賃貸借契約の種類に見る賃料上昇の可能性
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 准主任研究員/渡邊 布味子
週刊金融財政事情 2025年6月17日号