この記事は2025年6月13日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「市場拡大とともに変容する日本のテキーラ市場」を一部編集し、転載したものです。


難路が見込まれるロングエンドゾーンの需給安定化
(画像=yu_photo/stock.adobe.com)

(テキーラ規制委員会「Exportaciones por destino」ほか)

日本におけるテキーラの消費動向に変化が生じている。メキシコのテキーラ規制委員会(el Consejo Regulador del Tequila A.C.=CRT)によれば、メキシコから日本へのテキーラ輸出量は、2019年におよそ220万リットルだったが、新型コロナ禍の到来によって20年には120万リットルまで減少した(図表)。しかし、22年には250万リットルに回復し、23年以降は380万リットル超まで爆発的に増加している。

テキーラという名称は、メキシコ中部ハリスコ州内の地域に由来している。そのネームバリューと高い品質を維持するため、原産地や生成方法に関する各種のルールが厳格に定められている。生産者はそれらをすべてクリアすることで、初めてその名称を冠した酒類の販売が認められる。廃糖蜜などを混ぜることなく、原料となるリュウゼツラン科の植物である“ブルーアガベ”のみを使用した純度の高いテキーラは「100%アガベ」と呼ばれる高級品である。

日本のテキーラ輸入で顕著な傾向の一つは、100%アガベが急増していることだ。24年におけるメキシコから日本への100%アガベの輸出量は約120万リットルで、18年と比較すると100万リットル超増加しており、増加率は417.6%にも及ぶ。23年から24年にかけて、メキシコから日本へのテキーラの輸出総量は前年比で約0.8%の微減となったものの、100%アガベに限れば同44.0%増になっている。

ところで、100%アガベが中期的にシェアを拡大する傾向は決して万国共通ではない。メキシコ産テキーラの主要輸出相手国の中でも、最大の輸出先である米国や、英国、イタリア、オーストラリアなどの一部の国では、日本と同じような傾向を示している。一方、米国に次ぐ輸出先であるスペインやドイツでは、輸出総量に占める割合は10%にも満たないままだ。

日本では、テキーラ市場が拡大するにつれ、高価格帯の製品が消費される傾向が強まっている。テキーラは“パーティードリンク”というイメージが先行しがちだが、足元ではリラックスした家飲み用の嗜好品としての消費も増えている。

米国を中心とする諸外国では、愛飲する多くのセレブリティーの存在や、洗練されたボトルデザインによって、テキーラは高いステータスを獲得している。そうしたスタイリッシュなイメージが日本にも徐々に浸透し、人気が高まった面もあろう。1本当たり数万円単位で販売される最高級品の取り扱いも増えており、日本の酒類市場に新風を吹き込んでいる。

市場拡大とともに変容する日本のテキーラ市場
(画像=きんざいOnline)

日本貿易振興機構(ジェトロ) 調査部米州課 課長代理(中南米)/佐藤 竣平
週刊金融財政事情 2025年6月17日号