不動産投資の出口戦略とは
不動産投資の出口戦略とは、保有している投資用不動産をいかに有利な条件で売却し、投資を終了するかを計画的に考える戦略のことです。多くの投資家が物件購入時に注目するのは利回りや立地条件などですが、実際には売却時の戦略こそが投資成功の鍵といえます。
不動産投資では、物件を売却して初めて最終的な投資成果が確定します。保有期間中にどれだけ安定した家賃収入を得ていても、必ず成功するとは限りません。売却額が購入額を大幅に下回り、その損失が家賃収入で得た利益を上回ってしまうと、結果として投資全体で損失となる可能性があります。
一方で、適切な出口戦略により物件を高値で売却できれば、保有期間中の賃貸収益と合わせて大きな投資成果を得ることが可能です。さらに、適切なタイミングで物件を売却できれば、その売却資金を活用してより収益性の高い物件への買い替えや、投資ポートフォリオの拡大が可能になります。
不動産投資の出口戦略で考えられる3つのパターン
不動産投資の出口戦略には、大きく分けて以下の3パターンがあります。
- 収益物件として買い手を探す
- 自己居住用として買い手を探す
- 相続・資産承継する
それぞれ詳しく解説します。
1. 収益物件として買い手を探す
収益物件として売却する場合は、その物件を投資用不動産として、次の投資家に引き継ぐ形になります。買い手となるのは、賃貸経営をしている投資家や不動産投資会社です。
この売却方法では、保有期間中の運営実績が重要な評価要素となります。投資家や不動産投資会社は物件の収益性を重視し、購入の判断をするためです。
具体的に、買い手の投資判断に大きく影響する要素は以下のとおりです。
- 入居率の維持状況
- 適切な家賃設定の実績
- 建物の維持管理状況 など
安定した賃貸収入の実績があり、将来的な値上がり益が見込める物件ほど、買い手から高い評価を受けやすくなります。修繕履歴や設備更新の記録なども、物件の価値を証明する重要な材料となるため、保有期間中から適切な記録管理を行うことが大切です。
2. 自己居住用として買い手を探す
自己居住用としての売却とは、自宅を探している方に売却する方法です。主に区分マンションや戸建て物件で選択される戦略で、一般の住宅購入者が買い手の対象となります。
この売却方法では、投資用物件としての収益性よりも、住宅としての魅力をアピールすることが重要です。たとえば、間取りの使いやすさや設備の充実度、最寄駅までのアクセス、周辺環境の住みやすさなどが評価のポイントです。
また、現在の入居者に購入を打診するケースもあります。長期間居住している入居者であれば、物件の魅力や住環境を十分に理解しており、購入に前向きな場合も少なくありません。自己居住用として買い手を探すケースでは、仲介手数料の節約や売却期間の短縮といったメリットも期待できます。
3. 相続・資産承継する
物件を売却せずに家族や相続人に引き継ぎ、継続的な家賃収入を次世代に残すことも選択肢の一つです。相続税評価額は時価より低く算定されるため、現金で相続するよりも税負担を軽減できます。
また、安定した家賃収入により、相続人の生活基盤の支えとなることも期待できます。生前贈与をすれば家賃収入が受贈者(受け取った人)に帰属するため、相続税の納税資金を用意することも可能です。
ただし、相続人に投資用不動産を相続する意思があるか、また物件の管理や賃貸経営を継続できるかは不確かです。資産を有効に活用するためにも、事前に準備を整え、家族間や相続人での合意をしっかりと形成しておくことが大切です。あわせて、管理会社との連携体制を築いたり、相続人に賃貸経営に関する知識を伝えておくことも重要です。
不動産投資で物件を売却するのに適したタイミング
不動産投資において、売却のタイミングは投資成果を大きく左右する重要な要素です。具体的には、以下のようなタイミングが売却に適しているといえます。
- 長期譲渡所得へ切り替わるとき
- 減価償却期間が終了するとき
- デッドクロスが発生する前
- 市場環境が変化したとき
- 大規模修繕工事を行う前
- 入居者が退去したとき
それぞれ詳しく解説します。
1. 長期譲渡所得へ切り替わるとき
物件の保有期間により、売却益に対する税率が異なります。売却した年の1月1日時点で取得から5年以内の場合は短期譲渡所得となり、税率は所得税と住民税を合わせて約39%です。一方、5年を超えて保有した場合は長期譲渡所得となり、税率は約20%です(※)。
長期譲渡所得の税率は、短期譲渡所得の半分近くまで軽減されます。売却益が出そうな場合は、長期譲渡の適用を受けられるタイミングでの売却が基本戦略となります。ただし、長期譲渡の判定は取得日から5年ではなく、「売却した年の1月1日時点で取得から5年超」である点に注意が必要です。
取得日から丸6年経過すれば、いつ売却しても長期譲渡の適用を受けられます。税負担を軽減するためにも、6年を一つの目安として覚えておくとよいでしょう。
※参照:土地や建物を売ったとき|国税庁
2. 減価償却期間が終了するとき
減価償却期間が終了すると、帳簿上の利益が増加し、所得税・住民税の負担が重くなります。結果として、同じ家賃収入を得ていても手元に残る利益が減少するため、売却を検討するよいタイミングです。
このタイミングで売却を検討することで、税負担の増加を避けながら、次の投資機会の資金を確保できます。所有する物件の減価償却期間を確認しておき、前もって売却の準備をしておくのがおすすめです。
3. デッドクロスが発生する前
デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態のことです。この状態になると、帳簿上は利益が出ているにもかかわらず、手元の現金は減少していくという現象が起こります。
税金を支払うための現金が不足すると黒字倒産のような状況に陥る可能性もあります。
4. 市場環境が変化したとき
不動産市場は常に変化しており、よいタイミングを見計らうことで有利な売却を実現できます。
売却に最適なタイミングは、主に物件価値の上昇が見込める時期です。地域の再開発によって新駅の建設が決まったり、近くに大型商業施設ができる予定が発表されたりすると、その地域の需要が高まります。こうした前向きなニュースが出たときは、物件価格が上がるタイミングで売却することで、大きな利益を得られるでしょう。
また、不動産投資が盛んになっている時期も売却の好機です。金利が低下したり、投資家の間で不動産への注目が高まったりすると、買い手が増えて物件価格も上昇傾向になります。
5. 大規模修繕工事を行う前
建物は、一般的に築15年から20年頃になると大規模な修繕が必要です。安全に生活できる環境を維持するために外壁の塗り直しや屋根の修理、配管の交換などを行います。修繕費用は物件や規模によって異なりますが、マンション1棟で数百万円から場合によっては1,000万円を超えることもあります。
修繕工事を行う前に売却できると、修繕費用を負担せずに、その分を次の投資資金に回すことが可能です。ただし、修繕が必要な状態の物件は売却価格が下がる可能性もあるため、大規模修繕工事前の売却が、必ずしもよい選択とは限りません。修繕費用と売却価格の下落分を比較して、どちらが有利かを不動産投資会社の専門家にも相談しながら判断しましょう。
6. 入居者が退去したとき
入居者が退去して部屋が空いたときというのは、特に自己居住用としての売却に適したタイミングといえます。入居者がいる状態で売却しようとすると、内覧の日程調整が難しく、買い手候補に十分に物件を見てもらえません。また、生活感がありすぎると、購入検討者が自分の住まいとしてイメージしにくいこともあります。
一方、空室であれば買い手の都合に合わせて何度でも内覧が可能です。部屋全体をじっくりと確認してもらえるため、物件の魅力を存分にアピールできます。また空室期間中に、壁紙を新しくしたり設備を更新したりするリフォームを行い、物件の印象を向上させてから売却もできます。
不動産投資の出口戦略を成功させる3つのポイント
不動産投資を成功させるためには、売却時だけでなく、投資開始時から売却まで一貫した戦略的思考が必要です。以下の3つのポイントを押さえることで、より確実な出口戦略の実現が可能になります。
- 購入時から「売却しやすい物件」を選ぶ
- 物件価値の維持・向上を考える
- 出口戦略までサポートしてくれる不動産投資会社を選ぶ
それぞれ詳しく解説します。
1. 購入時から「売却しやすい物件」を選ぶ
売却しやすい物件の特徴の一つとして、需要が見込める以下のような「立地条件」が挙げられます。
- 駅から徒歩10分以内
- 主要駅へのアクセスがよい
- 周辺に商業施設や病院がある など
立地は後から変えられない要素であり、将来的な人口動態やまちの発展性もしっかりと検討する必要があります。
また、売却時の買い手候補を増やすために、金融機関の融資が受けやすい物件を選ぶことも欠かせません。たとえば、築年数が古すぎる物件や再建築不可物件、違法建築の可能性がある物件は担保価値が低く、融資が下りない可能性が高いです。
2. 物件価値の維持・向上を考える
安定的に入居者を確保し、高い価格で売却するためには、適切な管理運営が欠かせません。物件価値を維持・向上させることで、不動産投資の成功につながります。たとえば、設備の劣化を最小限に抑えるため、定期的な点検と必要な修繕を怠らないことが重要です。
また「予防保全」の考え方で、小さな不具合のうちに対処することが、長期的なコスト削減と物件価値の維持につながります。市場のニーズに合わせた設備更新やデザイン性の向上により、物件の競争力を高められます。
ただし、リフォーム費用と賃料・売却価格の上昇効果は、慎重に比較検討しなければなりません。やみくもに改修を行うのではなく、費用対効果を十分に検討したうえで実施することが成功の秘訣です。
3. 出口戦略までサポートしてくれる不動産投資会社を選ぶ
不動産投資は長期間にわたる投資であり、購入から売却まで一貫してサポートしてくれるパートナーの存在が欠かせません。特に、不動産投資初心者の場合は、運営中にさまざまな悩みが出るものです。その都度、自分で調べたり専門家に相談したりするのは手間と時間がかかります。
物件の紹介から購入サポート、保有期間中の管理、売却までを総合的にサポートしてくれる会社であれば、担当者に質問でき素早く疑問を解決できます。また、担当者の異動や会社の方針変更によりサービス品質が低下するリスクを避けるためにも、上場企業のような組織としての安定性と継続性を重視することが大切です。
不動産投資の出口戦略に成功したオーナーにインタビュー
RENOSYオーナーのNさんは、新卒の頃から不動産投資に興味を持っていたものの、流動性の低さや採算性への不安から踏み切れずにいました。転職した友人たちが次々に不動産投資を始める姿を見て、2020年頃についに投資をスタート。
当初は空室リスクが最大の不安で、実際に1件で数カ月の空室が発生した際には「これが同時に4件、5件と起きたらどうなるのか」と心配になったそうです。しかし投資を続けるうちに、3件目の購入頃から出口戦略が明確になり、購入時のポイントも理解できるようになってきたといいます。
2021年に6,000万円弱で購入した都心のタワーマンションを約3年後に8,000万円台半ばで売却し、手残り1,500万円の利益を獲得できました。
【ご購入時データ】 年齢:30代 職業:証券会社勤務 購入件数:2件(区分) 購入年月:2021年2月(東京都1件)、2022年4月(大阪府1件) 売却件数:1件(区分) 売却年月:2024年10月(東京都1件) |
不動産投資は出口戦略まで考えて始めよう
不動産投資において、出口戦略は投資成果を決定する重要な要素です。物件を購入する前から、どのような方法で、どのタイミングで売却するかを戦略的に考えることが成功への第一歩となります。
税制上の優遇措置を活用したタイミングでの売却や物件価値の維持・向上を図る管理運営、信頼できるパートナーとの長期的な関係構築など、多角的な視点から出口戦略を検討することが大切です。出口戦略を明確にしてから投資をスタートすることで、より確実で収益性の高い不動産投資を実現できるでしょう。
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