ニューラルグループ株式会社
(画像=ニューラルグループ株式会社)

画像・映像解析AIを核に2018年に創業したニューラルグループは、創業からわずか2年7ヵ月で上場。以降、都市開発・広告・マーケティング領域での社会実装を進め、1万社超のクライアントを抱える成長企業へと進化を遂げてきた。

「AIに許された時間は短い」と語る重松路威社長は、コアサービスから生まれるキャッシュフローを武器に、すでに2〜3年先を見据えた技術投資・商品開発を進めている。

「AI×リアル産業」の融合が加速する中、IPOを経てなお進化を続けるニューラルグループの戦略と、その背景にある経営哲学を聞いた。

重松路威(しげまつ・ろい)──代表取締役社長
東京大学工学系研究科修了。2006年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2010年からベインキャピタルでのPE投資経験を経て、2016年にはマッキンゼー・アンド・カンパニーの共同経営者であるパートナーに就任。同社では東京支社、独フランクフルト支社、米シカゴ支社に勤務。2018年にファッションポケット株式会社(現・ニューラルグループ)を設立。
「AIで心躍る未来を」をミッションに掲げ、最先端の物体・人物認識AI、及びエッジ端末への実装技術を武器に、自社ソリューション・プロダクトの企画→開発→販売を一気通貫で行う。AI技術の研究開発と売上創出を並行で行う「イノベーション領域」と、AIの社会実装を推進する「コアサービス領域」を軸に、社会環境の変化や新技術の急速な進展を踏まえた研究開発及び事業活動を推進している。

目次

  1. なぜ今、AI企業を立ち上げたのか。逆風下の創業と「時間との勝負」
  2. 「上場まで2年7ヵ月」スピード重視の理由とは
  3. 「あえてエクイティを選ぶ」上場の裏にあった戦略と覚悟
  4. 「非連続成長を起こす好循環サイクル」事業フェーズの転換点
  5. 「キャッシュフローを武器に」次なる投資戦略とは

なぜ今、AI企業を立ち上げたのか。逆風下の創業と「時間との勝負」

── 前身となる会社を立ち上げられた2018年は、既にAIブームが始まっていたのでしょうか?

ニューラルグループ株式会社 代表取締役CEO・重松 路威氏(以下、社名・氏名略)

当時、AIブームの第1波はすでに一巡しており、社会の空気も変わり始めていました。 たとえば、2012年〜13年頃にかけて画像認識や音声認識の技術が一気に進化し、いわゆるディープラーニングの波が来たわけですが、その数年後になると、「AIは怖い」「個人情報は大丈夫なのか」といった不安の声が社会全体に広がっていた時期でもあったんですね。

── ブームの終盤という認識だったのですね。

重松 そうです。しかも、国内外にはすでに名の知れたAI企業がいくつもありました。我々は極めて遅いタイミングでのスタートだったわけです。 逆に言うと、中途半端なアプローチでは勝ち目がない。だからこそ、「確実に勝てる技術」を武器に、本当に価値のあるプロダクトをつくっていこうと決めていました。

ニューラルグループの歩み
(画像提供=ニューラルグループ株式会社)

── 立ち上げ当初はどのような事業展開をしていたのでしょうか?

重松 まずはAIの画像・映像解析技術に特化したプロダクトの開発から始めました。特に高精度な物体・人物認識に強みを持っていて、それを活かしたライセンスビジネスが初期フェーズの主軸でした。

単純にプロダクトを売るのではなく、大手企業に技術提供し、その使用権に対して対価を得るというモデルですね。ここで最初の信頼と売上をしっかり確保できたのは大きかったです。

「上場まで2年7ヵ月」スピード重視の理由とは

── 創業からわずか2年7ヵ月での上場。極めてスピーディーですよね。

重松 これは偶然ではなく、最初から「時間との戦い」だと思っていたからです。AIは注目されるがゆえに、胡散臭くも見られやすい。だからこそ、社会的な信頼を得ることが事業継続の生命線でした。

創業して半年後には監査法人にも入ってもらい、IPOの準備を本格化させました。当時は「監査難民」といわれるほど監査法人の空きがなかった時期で、普通は1年〜1年半待つのが当たり前。でも、我々の本気度と戦略を理解してくださった監査法人と巡り合えたのが大きな転機になりました。

── 「とにかく早く社会に認知されなければならない」という使命感があったんですね。

重松 そうです。AIの領域は技術もマーケットも急激に変化しますから、じっくりと時間をかけて準備しているとチャンスを逃すんです。

むしろ「今しかない」と思って、IPOというハードルを早期に超えることで、対外的な信用・採用・資金調達のすべてにおいてレバレッジを効かせようと考えました。

「あえてエクイティを選ぶ」上場の裏にあった戦略と覚悟

── VCやPEファンドの資金を活用せず、あえて公募市場に出た理由は?

重松 あえて言えば「厳しさを選んだ」という感じですね。 もちろん、VCからの資金調達も選択肢としてありましたし、当時はいわゆるドライパウダー(待機資金)も潤沢で、出資を検討するVCから声もかけていただいていました。 ただ、VCからの出資というのは、ある意味「温室」です。短期的には成長を後押ししてくれますが、社会的な信頼形成という意味では、マーケットに出て自らの足で立つほうがはるかに難しいし、意味もあると思うんです。

── 自らを「鍛える」道を選んだと。

重松 まさにそうです。実際、上場企業になるとそのプレッシャーは半端じゃない。四半期ごとに問われる説明責任、透明性、社会からの注目、そのすべてが、逆に我々の成長を加速させる要素になったと思います。

事実、上場後は一気にお客様の幅が広がり、現在では1万社を超える企業や顧客に支えられています。

ニューラルグループのコアサービス
(画像提供=ニューラルグループ株式会社)

「非連続成長を起こす好循環サイクル」事業フェーズの転換点

── 現在の事業フェーズをどう位置づけていますか?

重松 創業期は「技術をどう売るか」というフェーズでした。上場後は「お客様の声を聞き、技術をどう活かすか」。今はまさにそこから次のステージへ向かっているタイミングです。

たとえば、AIの活用領域として、都市開発・広告・マーケティングなどに広がっています。これらの分野で、どんなAIが求められているか、どんなプロダクトがあれば業界が変わるのか。そのニーズが、これまで以上に明確に見えてきているんです。

── まさに、未来を先取りする形で動けるようになっていると。

重松 そのとおりです。今は、2、3年先の社会ニーズに向けて、先回りして開発・投資を行うことができます。これは1万社を超える顧客からのリアルなフィードバックの蓄積があるからこそ可能なことなんです。

社内ではすでにAIエージェントや大規模言語モデル(LLM)といった領域でも独自技術を持ち、スピード感をもって開発を進めています。こうした技術を使って、数年先の社会課題を先に解決していく。これが我々の戦略の中核です。

ニューラルグループの事業モデル
(画像提供=ニューラルグループ株式会社)

「キャッシュフローを武器に」次なる投資戦略とは

── 現在、営業キャッシュフローがプラスになっているとのことですが、それをどう使っていく予定ですか?

重松 我々は今、強いコアサービスを構築しつつあります。これにより、資金的な余裕が生まれてきており、次のフェーズへの投資が可能になっています。

具体的には、新規プロダクトの開発に加え、戦略的M&Aも視野に入れています。我々の中核技術とシナジーのある企業や技術領域には、積極的にアクセスしていきます。 ただし、「急成長=なんでも買収」ではなく、あくまで「意味のある拡張」をしていく。収益性と将来性、両方があるかどうかを厳密に見極めながら進めています。

── 読者には個人投資家も多いのですが、伝えたいことは?

重松 AIはいまや私たちの生活や社会に欠かせない存在になりつつありますが、だからこそ「どんな会社がAIをつくっているのか」「その会社は信頼できるのか」が問われる時代になっています。

我々は単なる「技術屋」ではありません。社会にとって本当に必要な技術を、どう届けるか。その覚悟と戦略を持って、この業界で戦っています。

この記事を通じて、少しでも我々のビジョンや姿勢に共感してくださる方がいたら、ぜひ応援していただけるとうれしいです。


※ 2025年7月取材時点

氏名
重松路威(しげまつ・ろい)
社名
ニューラルグループ株式会社
役職
代表取締役社長

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