この記事は2025年9月26日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:自民党総裁選のQ&A(2025年9月26日)」を一部編集し、転載したものです。

目次
アンダースロー
「自民党総裁選のQ&A」
- 「日本経済の将来像」を占ううえで、今回の自民党総裁選はどのような意味を持つのか?
- 給付金と消費減税に多くの候補が慎重姿勢を示していることをどう考えるのか?
- 物価高対策をどう評価するのか?
- 経済政策の方針をどう評価するのか?
- 社会保障政策をどう評価するのか?
「日本経済の将来像」を占ううえで、今回の自民党総裁選はどのような意味を持つのか?
答:自民党が、経済政策でも「解党的出直し」、つまり抜本的な転換ができるかどうかが注目されます。国民の生活より、財政の状況への配慮を優先するかのような、国民の支持を失ったこれまでの経済政策からの転換です。政府は「経済あっての財政」という立場ですが、国民には緊縮財政に見えています。
これまでの経済政策を継承して、部分的な修正で済まようとする候補(小泉氏、林氏)、官民が連携する投資と需要の拡大の積極財政によって国民の生活を優先する抜本的な転換を試みる候補(高市氏、小林氏、茂木氏)で、立場の違いは明確です。「日本経済の将来像」を左右する、重要な違いを自民党は判断することになります。
給付金と消費減税に多くの候補が慎重姿勢を示していることをどう考えるのか?
答:自公政権は、衆参両院で過半数の議席がありません。総裁選では減税の議論が下火でも、野党との連立・連携を目指していく中で、野党が主張する減税策を取り入れていくことになると考えます。
参議院選挙の民意は、明らかに給付金ではなく減税でした。減税に前向きな候補は野党との連立拡大にも前向き(高市氏、小林氏、茂木氏)、減税に消極的な候補は連立拡大に慎重(小泉氏、林氏)と、立場の違いがあるようです。
減税策を進めない限り、国民の支持は回復せず、野党との連立拡大による政治の安定は望めないと考えます。
物価高対策をどう評価するのか?
答:目先の物価高の負担軽減策より、究極の物価高対策は、景気を良くすることです。中小企業も安心して賃上げができるようになることです。物価上昇率が高水準でも、賃金がそれ以上に上がる環境になるからです。
現在、国民が生活に苦しんでいるのは、足元の物価上昇それ自体より、景気が十分に強くないからです。官民連携の投資と需要の拡大の積極財政で、景気をできるかぎりよい状態を維持していこうという考え方が、「高圧経済」と呼ばれます。政府の関与をできるだけ小さくする新自由主義からの完全な決別です。高市氏の経済政策は、この「高圧経済」の考え方から生まれています。野党では、国民民主党と参政党も、「高圧経済」に賛成であるとみられ、選挙の結果で、国民にも支持されていると考えます。
「高圧経済」は、自公政権の野党との連立・連携に向けた、基礎の考え方になり得ます。政権の安定にためにも、現実的です。小林氏と茂木氏も近い考え方のようです。一方、小泉氏と林氏は、岸田・石破政権の路線の継承で、新自由主義をベースに部分的に修正していく「新しい資本主義」となります。
経済政策の方針をどう評価するのか?
答:官民連携の投資と需要の拡大の積極財政により景気をできるだけ良くする「高圧経済」の実現は、世界的な潮流です。経済と社会の課題を解決していくためには、民間だけの投資では不足になってしまうからです。官民連携の投資・需要の拡大の競争になっているとも言えます。この競争に日本が置いて行かれれば、国際的なポジションの更なる悪化を招きます。
将来への政策ですので、財源は国債でよいはずです。経済成長の促進で、将来世代の負担にはなりません。どれほど大胆にできるかは、財政目標をどうするのかに左右されます。現在の基礎的財政収支の黒字化ではない、新たな柔軟な財政目標に転じる必要があります。高市氏は国債発行による政策発動を否定していません。その他の候補は、国債発行に慎重で、政策発動が不十分になるとみられます。
社会保障政策をどう評価するのか?
答:現在の社会保障は、100年間、日本経済が永遠にマイナス成長であることが前提になっていて、社会保険料がまだ足りないという結論になっています。この実質成長率の前提を、ほとんどの候補が主張している1%に伸ばすと、年金基金がどんどん膨張するほどに、年金財政がよくなり、社会保険料の引き下げも可能になります。
積極財政によって景気をできるだけ良くする「高圧経済」の方針の下、経済成長にとれほど有効な政策が打てるかが社会保障の持続性を左右します。将来を過度に悲観する前提で、社会保険料を引き上げすぎ、現役世代が疲弊し、経済成長を阻害するという本末転倒な状態です。
高市氏が主張する「高圧経済」の実現が、少子高齢化の中でも、社会保障制度を持続的にします。その他の候補は、悲観的な前提による解決策の範囲を出ていません。林氏は、社会保障と税の一体改革として、増税と社会保険料の引き上げに進んでいくとみられます。
図:世界的潮流を踏まえた産業政策の転換=「経済産業政策の新機軸」(経産省)

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