年間述べ300万人のZ世代・ミレニアル世代が訪問するロールモデル就活・転職サイト「talentbook」を運営するtalentbook株式会社。法人向けに「社員インタビューAI」を搭載した採用広報ツールを提供し、累計1,200社以上が導入。採用ブランディング施策の戦略から実行支援までをワンストップで提供している。
同社を率いるのは、大手PR会社を経て創業、兄弟で共同代表取締役を務める大堀航氏だ。創業から現在に至るまでの事業変遷、成長の要因、活況の人材市場が今後どうなっていくのか、同社の展望とあわせて聞いた。
目次
トヨタをはじめ1200社が導入
── 創業から現在までの事業変遷を教えてください。
大堀 はい。2014年に創業し、当初は企業の広報・PRの経験を活かし、企業のストーリー発信プラットフォームを作ろうという思いでスタートしました。
当時、ウォンテッドリーさんをはじめ、様々なサービスが登場する中で、企業が採用においても自ら情報発信していく必要性が高まっていました。そこで、私たちは企業に勤める社員一人ひとりの「物語」を発信するプラットフォームに特化してサービスを始めました。
コロナ禍を経て、特に大手企業では、ダイレクトリクルーティングやIT人材の採用、新卒採用におけるジョブ型雇用など、採用のあり方が変化しました。SNSの普及や価値観の多様化が進む中で、企業の情報発信はより一層重要になっています。
選ばれる側から選ぶ側へと変化する採用市場において、企業の対応における情報発信の必要性を強く感じていました。多くのお客様から「入社してくれた社員は、社員の話を聞いて入社を決めた」という声をいただく中で、社員一人ひとりが採用の武器となることを実感しました。
talentbookを活用し、社員が未来の社員を引きつけていく「採用ブランディング」こそが重要だと考え、2020年頃から大手企業様への支援を本格的に開始し、現在に至ります。
── 累計導入社数は1,200社ほどで、その多くは大手企業だそうですね。大手企業との取引が始まったきっかけは何ですか?
大堀 日経225銘柄の企業様を中心に、多くのお客様にご支援させていただいています。最も象徴的なお客様はトヨタ自動車様です。
トヨタ自動車様は自動車業界の変革期において、ソフトウェア人材の採用強化が急務でした。しかし、「トヨタ=ものづくり企業」というイメージが強く、ソフトウェア領域の重要性を伝える情報発信に課題を感じていらっしゃいました。そうした中で、当社のサービスにたどり着いていただいた形です。
── 導入企業は特定の業種が多いのですか?
大堀 特定の業種に偏りはありません。
当初はモビリティ領域、特にDX化が進む企業様からのご依頼が多かったですが、その後、金融系、建設・インフラ系など、多岐にわたって広がっています。どの業界においても、採用における共通の課題を抱えていらっしゃると感じています。
── スタートアップやベンチャーへのアプローチはいかがですか?
大堀 ベンチャー企業は、採用における情報発信の必要性を強く感じており、攻めの姿勢で取り組まれているケースが多いです。そのため、社内に情報発信に積極的な人材がいらっしゃる場合、内製で対応されることも少なくありません。
「社員はロールモデル」「一人のキャリアが、誰かの人生を動かす。」
── 創業から10年以上が経ち、導入社数、事業規模ともに拡大しています。これまでの成長を支えてきた大きな要因は何だと考えていますか?
大堀 他社が注力していない領域に力を入れてきたことだと考えています。
多くのお客様は、大手求人サイトや人材紹介サービスを利用しても、採用がうまくいかないという課題を抱えています。その中で、採用活動においても広報的なアプローチが必要だと気づき、企業の魅力や働く場所の魅力を伝えることに特化してきました。
私たちは、社員を「ロールモデル」ととらえ、社員を軸とした採用ブランディングに特化することで、お客様に選ばれる理由を確立できたと考えています。
── 採用ブランディングに注目したきっかけは何ですか?
大堀 当初は採用領域を専門としていたわけではありませんでした。企業の広報活動に営業していましたが、メディアに取り上げられることだけが広報の全てではないと気づきました。
一方で、社員のストーリーを発信することで、採用活動にダイレクトな効果が出やすいというアドバイスを多くの方からいただきました。採用における情報発信の重要性に気づいたことがきっかけです。
── 兄弟で共同代表とのことですが、役割分担はどのように?
大堀 私が広報や営業などお客様との接点を担当し、弟(大堀海氏)がコーポレートや経営企画などを担当しています。業務が重なることもありますが、基本的には役割分担を明確にしています。私も引き続きお客様のもとへ伺うこともあります。
── 経営において、譲れない信念やこだわりは何ですか?
大堀 二つあります。一つは「一人のキャリアが、誰かの人生を動かす。」という信念です。これは、私たちの事業サービスはもちろん、社員一人ひとりが社内外の誰かにとってのロールモデルとなるような会社でありたいという思いの表れです。
もう一つは、事業開発において、常に顧客の声に耳を傾けることです。戦略や計画も重要ですが、お客様の声から始まり、すべてがそこから生まれるという姿勢を大切にしています。
── その信念を従業員に浸透させるために、どのような工夫をしていますか?
大堀 「つよく、やさしく、かっこよく。」というバリューのもと、社員一人ひとりがロールモデルとなるためにどうあるべきかを追求しています。毎月、その行動指針を体現した社員を表彰する「TYK(つよく、やさしく、かっこよく。)」という制度を実施しています。
たとえば、営業担当者がお客様とのコミュニケーションを粘り強く続けた結果、受注につながった事例などを共有し、ナレッジ共有とモチベーション向上を図っています。
新サービス「ロールモデル診断」をリリースへ
── HRマーケットの今後の成長性について、どのように見ていますか?
大堀 HRマーケットは今後も成長すると見ています。特に、私たちが注力している「採用ブランディング」市場は、コンテンツ制作やSNSを通じたコミュニケーション実行が中心となります。
今後は、採用支援、特に採用に直結する支援領域を強化する方針です。
── 具体的には、どのような事業展開を考えているのですか?
大堀 これまで培ってきたコンテンツ制作のノウハウとAIを活用し、企業と求職者のマッチングを強化していきます。
具体的には、10月16日に「ロールモデル診断」という新サービスをリリースしました。求職者が自身の職種や価値観を選択すると、自分に合ったロールモデルとなる社員や、同じような価値観を持つ先輩社員を見つけられるサービスです。これにより、企業は学生とのエンゲージメントを高め、内定辞退率の低下につなげられます。
「ロールモデルから仕事を探す」という新しい文化を根付かせたい
── 組織面での強みと課題を教えてください。
大堀 強みは、人材系、広告系、IT系など、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっていることです。このダイバーシティが、お客様の社員の様々な魅力を引き出し、コンテンツ化するという主戦場において、他社にはない強みとなっています。
課題としては、これまでフルリモートで事業を行ってきましたが、今年から徐々に出社に切り替えています。クリエイティブなソリューションを生み出すためには、物理的な刺激やオンラインではないコミュニケーションが重要だと考えており、出社頻度を上げながら、より推進力のあるカルチャーを醸成していきたいと考えています。
── 今後の資金調達計画についても教えてください。
大堀 新規サービスである採用支援領域が順調に成長すれば、さらなる成長加速のためにエクイティファイナンスを検討したいと考えています。また、ファンド期限を迎えたVCの株をセカンダリーファンドが引き受ける動きもあり、株主構成の入れ替わりも含めた資金調達を進めています。
── M&AやIPO、さらには今後の構想についてはどう考えていますか?
大堀 証券会社や監査法人とは既に契約を結んでおり、企業価値を高めることを最優先に考えています。その過程において、IPOは重要な位置づけです。タイミングを見計らいながら、慎重に判断する方針です。
日本の人口減少や売り手市場が進む中で、転職支援のニーズは依然として高いままです。自分に合った仕事が分からないという理由が転職理由の第一位であることから、ロールモデルとなる先輩社員を見つけることができれば、日本の労働市場の流動性はさらに高まるはずです。
私たちはロールモデルとの出会いによって、誰もが自分らしいキャリアを歩むきっかけになる社会を創造したいと考えています。価値観の近い先輩や、まったく知らない分野の先輩を見つけることで、求職者はより良いキャリア選択ができるようになります。
この新しい文化を、様々なプレーヤーと共につくり上げていくことが、私たちの大きな挑戦です。
- 氏名
- 大堀 航(おおほり こう)
- 社名
- talentbook株式会社
- 役職
- 共同代表取締役