チケットの不正転売や流通課題を解決するため、2022年に創業した株式会社チケミー。ブロックチェーン技術を活用し、適正な価値の発見と提供を目指す同社は、自社開発体制で顧客の声を迅速に反映。演劇業界での成功を足がかりに成長を遂げ、SNS時代のファンとの関係性深化を重視した新たなチケット流通モデルを提唱する。2030年には、時価総額1000億円での上場を目指す同社の、エンタメの力を活用した多角的な事業展開について聞いた。
創業から3年、サービスは自社開発。大手事業者との提携でブレークスルー
── チケットについては不正転売が社会問題になり、よく騒がれている印象がありますね。
宮下氏(以下、敬称略) 当社は2022年に創業して、当初はブロックチェーン技術を活用したチケットサービスとして事業を開始したのですが、その目的はまさに、日本におけるチケットの不正転売問題や流通に関する課題を解決し、適正な価値の発見と提供をプラットフォームとして実現することです。
弊社のミッションは「あるべき場所にあるべき価値を届ける」というもので、これまで届けられなかったお客様にチケットを届けたり、転売の差額を主催者様に還元したりする仕組みを提供しています。
この仕組みにより、チケットの価格が適正に設定され、エンターテインメントの提供者側も売上を向上させられるようになりました。
弊社の優位性は、機能的な差分よりも、チケットサービス会社としては珍しい自社開発体制にあります。内部に開発組織を持ち、すべてのサービスを自社開発することで、お客様の声をいち早くサービスに反映させるサイクルを、創業以来3年近く継続してまいりました。これが弊社の大きな強みです。
── 創業から3年間で成長を遂げた秘訣や、ブレークスルーとなった出来事があればお聞かせください。
宮下 創業からサービスをリリースするまで、約1年間は事業内容について熟考する期間がありました。その後、サービスをリリースし、最初にブレークスルーとなったのは、演劇などを手掛けるホリプロ様との提携です。
特に、演劇業界で有名なブロードウェイミュージカル「カム フロム アウェイ」という作品で弊社の仕組みを導入いただいたことが大きな転機です。
最も良い席をリセール可能とし、差額が主催者様に還元されるこの仕組みにより、もともと2万円のチケットがお客様からのオファーで15万円で売れる事例が生まれました。
差額の90%近くが主催者様に還元され、1枚あたりの売上が大幅に向上する実績を築けました。この実績が、その後の事業拡大における大きな転機となりました。
── 現在、営業やマーケティングはどのように展開されているのでしょうか。
宮下 事業部があり、自社で営業活動を行っていますが、少人数であり、社員の多くは開発メンバーなんです。
営業手法自体は、他の企業と大きく変わることはありませんが、エンターテインメント業界で体系的に営業活動を行っている企業は多くないため、新しい手法を取り入れつつ、開拓を進めている状況です。
マーケティングは基本的にオウンドメディアを活用しています。大規模な案件もあれば、比較的中規模の案件も手がけています。
SNS時代のチケット流通 独自サイト構築サービスも提供したい
── 現在、最も関心のあるトピックや、市場全体の動向について思うことは?また、特に注力している点や強化していきたい領域はどこですか?
宮下 市場全体として、チケットプレイガイドはSNS普及前の、かつてのモデルであり、現在のチケット販売はプラットフォームへの依存度が低下していると感じています。
アーティストや主催者にはすでに強固なファンベースがあり、それが可視化された状態で販売が行われるため、チケット販売以外の価値を提供しない既存プラットフォームでは、手数料への納得感が薄れています。
これまでは母数拡大が重要でしたが、今後は利便性やコスト削減に加え、SNSを活用し、キャストやプロデューサーとファンとの距離を縮め、関係性を深めるような、新たなチケットプラットフォームが求められています。
── 今後の戦略についてはどうお考えですか?
宮下 これまでのプラットフォーム主導型モデルは変化し、今後は個別のブランディング維持とプラットフォームメリット最大化の二軸が重要です。
かつてAmazonのアルゴリズム活用が流行しましたが、現在はブランディング強化のため自社サイトを構築し、ユーザーを囲い込む手法が主流です。商品が少ないうちはアルゴリズムが有効でも、増えれば自社サイト構築が有利になります。
チケット業界も同様で、多くの人に知ってもらう場と、自社ブランディングを強化しコミュニティを育む自社サイトの両立が必要です。
今後は、共通在庫でのプラットフォーム販売と、お客様が独自のチケットサイトを構築できるサービスの提供を目指します。
チケットに限らない販売プラットフォームを 2030年には上場も
──新しい事業や新規事業の構想はありますか?
宮下 申し上げたように、今後はプレイガイドというよりも、各社がそれぞれ非常に簡単に管理できるサービスを提供していきたいと考えています。
エンターテインメントは、人に何かを購入させるという点で、どの産業にも強い力を持っていると感じています。
たとえば、好きなアイドルが身につけているものは買いたくなるものです。今はチケットという一つに限定して事業を展開していますが、IPや販売元を集約できれば、さまざまなものを販売できる強力なプラットフォームを構築できるのではないかと考えています。
あらゆるものをチケット化して販売していきたいです。弊社の現在の主なターゲットは、ライブエンターテイメントや演劇、ステージといった領域です。
──ファイナンス戦略についてはいかがですか?たとえばIPOの構想などは?
宮下 2030年に時価総額1000億円での上場を目指しています。これを実現するためには、まず市場でのシェアを確保することが非常に重要だと考えています。
時価総額が高いということは利益が高いということであり、利益が高いということは、その価値を継続的に提供し続けられていることを意味します。
価値を継続的に提供するためには、市場において意味のない価格競争が起こらない状態を作らなければいけません。意味のない価格競争とは、新しい価値への投資よりも、既存機能の低価格化、つまりコスト削減に注力してしまうことです。
そうした競争を避け、売上を伸ばす競争をし続け、常に利益を保つ構造を作るためには、無駄な競争はせずに市場の中で優位性を確立していくことが重要ですし、私もそうありたいと考えています。
──事業成長に伴う、人材や組織拡大、M&Aに関するお考えはいかがでしょうか。
宮下 組織やマネジメントを画一的に導入すると、特にエンターテインメントを愛する人々は自ら考えるため、楽しくなくなってしまいます。それよりも、自分が「仲間だ」と思える最高のメンバーと最高の仕組みを構築することが重要です。
弊社では、外部委託ではなく社内完結を重視し、。人を急激に増やすのではなく、AIなどの技術を活用して圧倒的なアウトプットを出すことを目指し、本当に心の底から一緒に働きたいと思える人たちと、着実に会社を成長させていきたいですね。
どんな人でも、生きていく中でお金に関わる場面は多いと思います。 だからこそ、お金そのものに振り回されるのではなく、自分の「好きなこと」や「やりたいこと」を実現するために、お金をどう使うか・どう活かすかという目的を持つことが大切だと感じています。 その目的を最大限に生かせる手段を選び取れるよう、私自身も常に意識していたいと思っています。
- 氏名
- 宮下 大佑(みやした だいすけ)
- 社名
- 株式会社チケミー
- 役職
- 代表取締役CEO

