この記事は2025年10月31日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「成長志向型と資本効率重視型が併存するサービス産業の投資傾向」を一部編集し、転載したものです。


成長志向型と資本効率重視型が併存するサービス産業の投資傾向
(画像=Drobot Dean/stock.adobe.com)

(日本政策投資銀行「設備投資計画調査」)

今回はサービス業の設備投資について概観する。本稿で取り扱うサービス業とは、映画・娯楽、宿泊・ホテル、その他サービス(クリーニング、セキュリティー等)を指し、金融や情報通信、小売は含まない。

日本政策投資銀行が8月に公表した「2025年度設備投資計画調査」によれば、サービス業の24年度国内設備投資実績は、前年度比24.0%増と大きく伸びた。25年度の投資計画も同11.6%増で、さらなる投資が見込まれる。投資動機を水準化した指標では、24年度は前年度よりも「能力増強」以外の全項目で伸びた(図表)。一方、25年度計画では、能力増強が同10.4%ポイント増、維持補修が同26.2%ポイント増と伸長しているが、その他の項目では伸びが鈍化あるいは減少している。

こうした調査結果や企業の開示情報を踏まえると、足元の旺盛な需要に加え、将来の成長が見込まれる分野においては、新規物件開発や大型改修など積極的な投資が続いていることが確認できる。他方、資材・人件費の高騰や人口減少による需要の不確実性を背景に、既存施設の高付加価値化や運営効率の改善を重視する投資が増えていることも示唆される。すなわち「成長志向型投資」と「資本効率重視型投資」が併存する構造といえる。

成長志向型投資では、インバウンド需要の回復を受け、ホテル開発やテーマパークでの新規投資が再加速している。これらは、サービスの量的拡大に加えて「非日常性」や「体験価値」の提供を軸に、消費単価の引き上げを狙うものが多い。

資本効率重視型投資では、新規建設を抑制しつつ、既存物件の改修や用途転換による収益性向上を図る動きが広がっている。例えばホテル業界では、婚礼需要の減少を踏まえた宴席場の多目的空間への改装や、老朽化施設のリノベーションによる新たな顧客層の開拓など、顧客ニーズやライフスタイルの多様化に対応した戦略が見られた。これらも、ADR(平均客室単価)の上昇を意識した「質の強化」を重視する動きといえる。

DX投資では、スマートチェックイン機やキャッシュレス決済端末の導入など、事業効率化や顧客満足度向上を目的とした既存領域での活用が進む。加えて、観光AI事業や需要予測サービス、二酸化炭素(CO2)排出量可視化サービスなど、DX自体を新たなビジネス創出の手段として積極的に展開する事例も見られた。

サービス産業は、自然災害やパンデミックによる人流縮小、技術進展による既存サービス・設備の陳腐化、価値観の多様化による顧客ニーズの変化など、外部環境の影響を受けやすい。こうしたビジネス環境の変化に柔軟に対応しつつ、投資の質と柔軟性を確保することが、企業の競争力向上のカギとなる。今後の動きに注目したい。

成長志向型と資本効率重視型が併存するサービス産業の投資傾向
(画像=きんざいOnline)

日本政策投資銀行 産業調査部 副調査役/山本 美紗
週刊金融財政事情 2025年11月4日号