2000年当時、日本ではほぼ知られていなかった「歯のホワイトニング」。その市場の可能性を信じ、「面白そうだから」と事業を始めたのがホワイトエッセンスだ。単なる技術力だけではない。
多くの歯科医師が抱える「経営の悩み」に寄り添い、強固な信頼関係を築く独自のフランチャイズモデルで、今や330院を超える規模にまで成長した。黎明期から市場をリードしてきた同社の強さの秘密と、オリックスとの提携で描く次なる成長戦略に迫った。
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坂本 佳昭(さかもと よしあき)──代表取締役
東京都生まれ。医療機器メーカーや流通のフランチャイズ本部勤務を経て、2003年、株式会社エイ・アイ・シーを設立し、代表取締役に就任。2019年に社名をホワイトエッセンス株式会社に変更し、現在に至る。
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審美歯科市場の黎明期とホワイトエッセンスの誕生
── 事業の変遷について教えてください。
坂本氏(以下、敬称略) 新卒で入社した歯科医療機器メーカーで11年間勤務した後、別の業界に転職いたしました。その後、2003年に創業し、最初のホワイトエッセンスを渋谷に開設いたしました。現在では、歯科医院のフランチャイズとして330医院以上を展開しています。
ビジネスモデルとしては、既存の歯科医院の一部を改装し、歯を削らずに行えるホワイトニングや、歯のクリーニング、口腔内マッサージといった審美歯科サービスを提供しております。
── 創業当初は、審美歯科という分野は一般的ではなかったかと思いますが、この分野に目をつけられたきっかけは何ですか?
坂本 おっしゃる通り、2000年当時、日本の歯科市場においてホワイトニングという概念はほとんどありませんでした。アメリカでは一部の富裕層がホワイトニングを行っていましたが、日本国内での認知度は非常に低かったのです。
たとえば、渋谷のスクランブル交差点で500人にインタビューしても、ホワイトニングに関心を示す人は一人いるかいないかという状況でした。
── そのような状況下で、どのようにしてこの事業の将来性を見出したのですか?
坂本 アメリカで流行している文化が日本でもいずれ流行すると言われていて、アメリカでお金持ちがホワイトニングをしているのを見て、日本でもいずれ流行するかもしれないと感じたのです。
しかし、それ以上に何か面白そうだから始めたというのが正直なところです。その後、日本でもコスメブームなどをきっかけに「歯も白くしたい」というニーズが高まり、市場が拡大していきました。先行してノウハウを蓄積していたことが、現在のポジションに繋がったと考えています。
── 近年、美容医療や審美に関する意識は非常に高まっていますが、そうした時代の流れは、御社にとって追い風となっていますか?
坂本 そうですね。2000年当時は、洋服やコスメ市場が拡大し、美容整形も徐々に認知され始めていましたが、まだ「美容整形をする人は普通ではない」という風潮もありました。そのような時代に、誰も手をつけていない市場に飛び込んだことが、結果的に市場の拡大と合致したと考えています。
── 創業以来、大きな方向転換はなく、ホワイトニングを中心とした審美歯科サービスを一貫して提供しているのでしょうか。
坂本 大きな方向転換はありませんが、市場のニーズに合わせて、サービス内容を細かく調整してきました。
たとえば、創業当初は「安ければ良い」という考えで、多くの店舗にクリーニングチェアを並べ、効率を重視した施術を行っていました。アメリカで10万円していたホワイトニングを1万円で提供し、メディアでも何度も取り上げられました。
しかし、お客様はもっと心地の良い体験を求めていることが分かり、個室化や施術レベルの向上を図りました。それにともない料金体系も変更しましたが、結果、リピートしてくださるお客様が増え、ライフタイムバリューも向上しました。現在では、10年以上通ってくださるお客様も多くいらっしゃいます。
ホワイトエッセンスの強み:歯科医師との強固な関係性と技術力
── 御社の強みはどこにあると分析されていますか?
坂本 周囲からは、歯科医師の先生方に対するグリップ力が強みだと言われます。過去には、大手企業がホワイトニング事業に参入しましたが、歯科医師との関係構築が難しく、撤退していったケースが多くあります。
加盟してくださる歯科医師の先生方との信頼関係を大切にし、経営方針や契約内容を尊重することで、足並みを揃えて事業を進めることができています。
── 技術面での優位性についてはいかがですか?
坂本 ホワイトニングやクリーニングの技術においては、世界一だと自負しております。ホワイトニングの薬剤や機器に関しては薬事承認を受けており、特許も取得しています。
また、5年間続けて通ってくださった方の口腔内の健康状態が著しく改善するというデータもあります。これらの技術力や、それを支える薬剤や機材、トレーニングプログラムは、弊社の差別化要因です。
しかし、経営者としての視点で見ると、お客様や歯科医師の先生方が、そこまで技術的な詳細を理解しているわけではありません。
歯科医師の先生方が弊社に加盟される動機は、経営課題の解決やスタッフの生産性向上、人材マネジメントのサポートといった点にあります。歯科医師の先生方は、予防歯科を志している方が多いのですが、予防歯科だけでは事業として成り立ちにくいという現実があります。
弊社が経営サポートを提供することで、結果的にホワイトニングやクリーニングといったサービスが、歯科医師の先生方にとって経営安定化の手段となるのです。
弊社のビジネスに参画することで、結果的に予防歯科を実現できるという哲学に共感してくださる先生方が多くいらっしゃいます。楽をして儲けたいという動機ではなく、本質的な歯科医療を提供したいという思いを持った方々が、弊社の加盟希望者の7割を占めています。
── 技術力はもちろんですが、歯科医師の先生方の経営課題を解決できる点が、御社の最大の強みと言えるのですね。
坂本 その通りです。もちろん、ホワイトニングの効果は非常に高く、お客様に驚いていただけることも多いのですが、それが直接的な加盟の動機になるというよりは、お客様が喜んでくださることで、歯科医師の先生方もその価値に気づき、より深くコミットしてくださるというパターンが多いのです。
美容医療との違い、組織の成長
── 美容医療業界では、利益追求のために過度なアップセルが行われるケースもありますが、御社では、利益と医療行為のバランスをどのように取っていますか?
坂本 美容医療は、体の健康に直接的な良い影響を与えるものではない場合もありますが、外見のコンプレックスを解消し、心の健康に貢献できるのであれば、それは素晴らしいことだと考えています。
一方で、弊社のホワイトニングは、歯が白くなるだけでなく、歯周病や虫歯の予防効果があるというエビデンスが揃っています。歯のクリーニングも同様に、健康効果が期待できます。
見た目の美しさだけでなく、噛み合わせの改善や、プラークが付きにくい素材の使用など、健康と美容を両立させる技術を導入しています。
また、売り上げを意識してお客様に高額なコースを押し付けるセールスは禁じておりますし、さらに、全額返金保証制度を設けるなど、お客様に経済的な負担をかけないよう配慮しています。
── これまでにぶつかった壁や、それをどのように乗り越えたかを教えてください。
坂本 現在も課題と感じていることですが、加盟院によってサービスのレベルにばらつきがあることです。本来、チェーンであれば、どこでも同じ料金、同じ接遇、同じ技術、同じ結果を提供すべきですが、院長先生の人間性やスタッフの働き方によって、レベルに差が出てしまうことがあります。この格差を縮めるために様々な施策を打っていますが、依然として残る課題です。
── 組織の規模拡大に伴う壁はありましたか?
坂本 当初は、医院数を大きく拡大するつもりはありませんでした。しかし、持続的な成長と株主の期待に応える会社にするためには、足りない部分を補っていく必要がありました。
フランチャイズモデルのため、資金調達の必要性も低く、規模拡大を目指すという壁に直面したというよりは、IPOも意識して、各ポストに必要な人材を配置していく過程で、様々な人材との融合が課題となりました。
オリックスとの提携の理由
── 2023年にオリックスと提携されたそうですが、その経緯を教えてください。
坂本
フランチャイズビジネスモデルの成長戦略においては、医院数が重視されるため、海外事業や新規事業の準備を進めていました。それらの事業を軌道に乗せるためには、自社だけのリソースでは足りないと考え、オリックス様のような事業会社との連携が有効だと判断しました。
── 数ある企業の中からオリックス様を選ばれた理由は?
坂本 ファンドからのアプローチも多くありましたが、事業会社とのシナジー効果を重視しました。オリックス様はヘルスケア部門を強化しており、人間ドックや医療機器メーカーといった分野で連携できると考えました。
── 今後について、国内での展開、海外進出、新規事業などについて教えてください。
坂本 現在、歯のホワイトニングやクリーニングに加え、マウスピース矯正やセラミック治療といった事業も拡大しています。自社工場への設備投資も行い、新しいセラミック歯やマウスピース矯正の開発、そして医療機器の診断機器の開発を進めています。
また、ホワイトニングにおいても、日本国内における薬事承認品における最高濃度のホームホワイトニングをリリースするなど、毎年新しい製品を開発・提供していく予定です。今後は、フランチャイズ歯科医院展開だけでなく、医療機器や新しい診療メニューの開発を通じて、国内外への販売を目指していきます。
現在300超の展開で、500医院までは見えていますが、加盟歯科医院数を増やすだけでなく、1医院あたりの売上規模を拡大することも重要だと考えています。競合が増える中で、各医院の求心力を高めていく必要があり、周辺環境を見ながら戦略を考えていく必要があります。
お客様の多くは、30代以上のビジネスの最前線で活躍されている方々です。ホワイトエッセンス加盟歯科医院でホワイトニングやクリーニングを受けていただくことで、見た目が美しくなるだけでなく、歯周病や口臭、虫歯の予防といった健康効果も期待できます。将来的にも、ご自身の歯で食事を楽しめる生活を送るお手伝いができれば幸いです。
- 氏名
- 坂本 佳昭(さかもと よしあき)
- 社名
- ホワイトエッセンス株式会社
- 役職
- 代表取締役