株式会社Novera

スマートミラー開発から始まり、肌診断AI「skinsense」で独自の地位を確立、「日本製のデジタル肌診断AIとしては、数少ない存在」というのは、株式会社Noveraの遠藤国忠代表取締役CEOだ。同社は現在、生成AIの波をとらえ、エンジニアと求人案件を瞬時にマッチングするAIエージェントプロダクト「EngineerMatch」を主力に据えている。少数精鋭のチームで「世界で戦えるプロダクト」を追求し、“人材業界のAmazonのような存在”を目指すという同社の野望に迫った。

遠藤国忠(えんどう くにたか)──代表取締役CEO
1988年生まれ。2011年、株式会社サイバーエージェントにエンジニアとして新卒入社。プロデューサーやディレクターとして数々のプロジェクトを歴任した後に、パーソナルデータビジネスに可能性を感じ、2017年Noveraを創業。
株式会社Novera
2017年創業。人材の能力のAI化や人材と求人案件のマッチングなど人材×AIをテーマとし、美容部員の知見をAI化した肌診断「skinsense」や、エンジニアを即時マッチングするAIエージェントプロダクト「EngineerMatch」を提供している。複数のAI関連特許を保有し、今後2年間で様々な業界にAIエージェントプロダクトを展開する予定。
企業サイト:https://novera.co.jp/

目次

  1. 日本製デジタル肌診断AIとしてほぼ唯一の存在
  2. 生成AIの波を捉え、AIエージェント「EngineerMatch」を主力に
  3. 「ワクワクすること」を少人数で追求する
  4. 世界中の人材をつなぐプラットフォームで「業界初のAIによる人材仲介プラットフォーム」を目指す

日本製デジタル肌診断AIとしてほぼ唯一の存在

── 創業から現在までの事業変遷について教えてください。

遠藤氏(以下、敬称略) 2017年1月末に創業し、9年目です。最初はハードウェアの鏡、いわゆるスマートミラーを作っていました。AIを搭載し、顔の状態をセンサーで検知してAIで診断し、声優さんの声で話しかけてくる鏡です。

当時、IoTがバズワードで、家電がインターネットにつながる時代が来ると感じていました。前職のサイバーエージェントでゲームプロデューサーなどを務め、サービスの運用や企画には強みがあったため、物がインターネットにつながるIoT分野で勝機があるのではないかと思い、会社を立ち上げました。

このスマートミラーは、トップレベルの声優さんを起用したこともあってバズり、当時は朝の番組やNHKなどにも連日出演するほど注目され、予約もたくさん入っていましたが、十分な価値を提供できないと感じ、生産前に中止しました。

主な理由は、AIの訓練データが圧倒的に不足していたことです。数百台を販売しても、当時の状況ではデータが足りず、AIの精度を上げることは困難でした。

そこで転換し、アプリとしてデータを収集し、AIを訓練して精度を上げることにしました。特に肌診断の精度向上に注力しました。

このピボットが結果的に会社を救うことになります。もし生産を開始していたら、その後のコロナ禍で中国での製造が滞り、資金繰りも困難になっていたでしょう。お客様からの予約も入っている中で、工場がいつ稼働するか分からない状況では、会社はつぶれていたと思います。

コロナ禍を経て、肌診断AIをBtoB向けに展開する「skinsense」をリリースしました。化粧品会社、メーカー、ドラッグストア、イオンさまなど様々な企業に提供しています。このAI肌診断は、受託開発も含めて事業の柱となりました。

競合がほとんどいないニッチな市場で、ツールの選定コンペの際は海外の会社が1社ある程度です。そのため、メーカーなどが検討する際には、僕らともう1社、あるいは自社で開発するか、海外から探してくるかという選択肢しかありません。

この独自性が市場でのイニシアチブが取れた大きな要因です。百貨店などで見かける肌診断も、最近はデジタル化が進んでいますが、その裏側で僕らの技術が使われていることもあります。

日本製のデジタル肌診断AIとしては、僕らがほぼ唯一の存在です。

生成AIの波を捉え、AIエージェント「EngineerMatch」を主力に

── 生成AIが爆発的に普及し、AIを取り巻く状況は大きく変わりましたが、早くからAIに取り組み始めたのですね。

遠藤 僕らがAIを始めた当時はまだAIは挑む人が少ない分野でしたが、今や「AIで仕事がなくなる」と言われるほど、その可能性が認識されるようになりました。

長年AI業界に身を置く中で、受託開発には限界があり、スケールしにくいと感じていました。特に日本国内の受託ビジネスは内需が中心で、海外から日本のAI開発を依頼されることはほとんどありません。

受託で大きく成長するには海外に拠点を置くしかなく、それは全世界との競争を意味します。僕らの強みはプロダクト開発の企画、運用、実行力です。プロダクト開発は非常に難しく、経験がなければできません。多くのAI企業が受託や研修に偏る中で、僕らはリスクをとりながらプロダクトで世界にスケールできるビジネスを狙ってきました。

そこに拍車をかけたのが、AIエージェントというトレンドです。インターネットが登場した時もすごかったですが、当時一世風靡した先輩起業家たちが「今の方がやばい」と口をそろえるほど、AIの爆発的な進化はすさまじいです。

その中で間違いなく来るのがAIエージェントだと確信しています。今でなければ市場を取れるプロダクトは作れないという危機感を持ち、社運を賭けて取り組んでいます。

── AIエージェントについて詳しく教えてください。

遠藤 注力しているのが、SES(システムエンジニアリングサービス)企業向けのAIエージェント「EngineerMatch」です。これは、エンジニアのスキルシートを預かり、自動で営業を行うプロダクトで、10月に正式リリースしました。

既に30社以上と契約しており、正式リリース前から20社が決まるほどの需要があります。商談すれば7割が決まるという、経験したことのないほどのニーズの高さです。

なぜこれほどニーズがあるかというと、SES企業には「こういう人いませんか」という案件メールが2秒に1通届くような状況だからです。もはやスパムに近い状態で、人間では処理しきれません。

結果として属人的な対面営業に頼らざるを得ないわけです。超売り手市場であるにもかかわらず、効率化が進んでいない。エンジニアが不足している中で、この非効率は大きな課題です。

僕らのAIエージェントは、様々なフォーマットのスキルシートを受け取り、企業からのメール問い合わせに対して最短1分で自動で最適なエンジニアを提案します。先方より面談や質問があった場合にのみ人間が対応することで、営業活動が大幅に効率化されます。

たとえば新卒1年目の社員でも、AIエージェントがトスアップ案件に対応するだけで営業ができるようになるわけです。エンジニアのマッチングには専門知識が必要で属人化が進んでいます。僕らのプロダクトを使えば、誰でも高い精度でマッチングができます。

「ワクワクすること」を少人数で追求する

── 経営者としてのこだわりや譲れない点、大切にされていることは何ですか?

遠藤 僕らは「ワクワクしないことはやらない」というスタンスを大切にしています。スマートミラーも肌診断も、競合がいないニッチな市場で独自のプロダクトを追求してきた結果、そうなっていました。ビジネスとしてもっと売り上げを立てられる部分はたくさんあると思いますが、独自性を追求する中で、無意識に「同じことをやっても面白くない」という思いが強くあります。

もちろんビジネスは甘くないので経営においては、共同創業者の堀江(COOの堀江優氏)が僕のストッパー役を担っています。僕が「ワクワク」を追求する一方で、堀江がそれを現実的なビジネスに落とし込む役割です。

たとえば、「1億や2億を目指すなら起業する必要はない」という考えのもと、常に世界で戦えるプロダクトをどう作るか、という視点を持ち続けています。日本国内での足元を固めることはもちろん重要ですが、結果的に世界で通用するプロダクトにできるかどうかが、僕の最大のこだわりです。

日本の人口減少やデジタル赤字を考えると、海外に展開できるプロダクトを作らないこと自体がリスクだと考えています。

── 少数精鋭で事業を展開されていますが、組織面での課題はありますか?

遠藤 現在、役員2人と社員1人(育休中)という超少数精鋭で事業を行っており、開発や営業は業務委託のパートナーと協業しています。役員である僕ら自身も開発に携わっています。これは、少人数でユニコーン企業を創出する「少人数ユニコーン」という言葉が海外で生まれているように、AI時代においては非常に重要な戦略です。

AIの進化はあまりに速く、半年後、1年後にどのようなスキルが必要になるか予測が困難です。そのため、長期的な社員採用はリスクが高いと考えています。

もちろん、CxOのような経営層は必要であり、今後は優秀な人材を増やしていく予定ですが、基本的には業務委託や外部パートナーとの連携を重視しています。僕らが開発も行うことで、顧客と直接対話して得た解像度の高い情報を、最も正確にプロダクトに反映させられます。

AIツールを活用すれば、プログラミングの大部分をAIに任せられるため、元エンジニアである僕が経営と開発を兼任し、迅速にプロダクトをPMFまでもっていけます。

世界中の人材をつなぐプラットフォームで「業界初のAIによる人材仲介プラットフォーム」を目指す

── 資金調達についての経緯と今後の計画を教えてください。

遠藤 これまでは主にエクイティで資金調達をしてきました。上場企業3社やCVC、そしてゴールドマン・サックス出身者をはじめとする著名な個人投資家から、累計で約2億円を調達しています。コロナ禍で借り入れたデットも数千万円ありましたが、既に完済しています。

今後はデットでの調達を積極的に考えています。「EngineerMatch」のような人材紹介・仲介ビジネスは、事業として収益化しやすく、ニーズも明確なため、銀行からの評価も得やすいと考えています。

特に地方では、人材派遣を行うSES企業が地域に根ざしていますが、エンジニア不足は深刻です。僕らのプロダクトを使えば、県内で2ヵ月以内に動ける人材を可視化できるため、企業は不足している場合はすぐにリモート可の募集に切り替えるといった決断ができます。地域のITプロジェクトが早く進むことで、地方自治体や地域の企業にとっても大きなメリットとなるため、地方自治体や地方銀行との連携も進めています。

── 今後の事業拡大プランや未来の構想、特に重点的に取り組む領域を教えてください。

遠藤 今後もAIエージェントプロダクトに全力を注ぎます。バーティカルな市場で受け入れられるプロダクトを僕らから積極的に出していかなければ、会社としてシュリンクしてしまうという強い危機感があります。

たとえばエンジニア人材は国内では圧倒的に不足しており、特にAIやブロックチェーンといった先端技術の領域ではさらに人材がいません。AIがこれだけ普及してきた時代で(自分たちが)英語ができない、リスクがあるといった理由で海外人材を活用しない時代でもなくなってきています。ハードルはどんどん下がっており、東南アジアをはじめとする海外に、日本の仕事を求めるエンジニアがたくさんいます。

僕らのAIエージェントは、世界中からスキルシートを預かり、瞬時にマッチングを可能にします。人間が言語の壁や国境を越えて人材を探す手間をかけずに、AIが最適な人材を見つけ出し、企業とつなぐプラットフォームを構築したいと考えています。

まずは日本で最も多くのスキルシートを持つAIエージェントとなり、次に海外のエンジニアのスキルシートを持つAIエージェントを構築します。そして、日本のみならず世界中からアクセスできる、いわば「業界初のAIによる人材仲介プラットフォーム」を目指します。

エンジニアから始めたのは、スキルが定量化しやすく、世界共通の文化があるためです。今後はコンサルタントや広報、営業など、他の職種にもAIエージェントを展開する計画です。この日本発のAIエージェントが、世界中の人材マッチングの常識を変える未来をつくり出したいと考えています。

氏名
遠藤国忠(えんどう くにたか)
社名
株式会社Novera
役職
代表取締役CEO

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