ICS-net株式会社

日本では、本来食べられるはずの食品が、年間464万トンも誰にも知られることなく廃棄されているという。フードロスの根深い課題に、真正面から挑むのがICS-net株式会社である。同社が運営する食品原料プラットフォーム『シェアシマ』は、単純なマッチングサイトではない。業界特有の商習慣の壁を乗り越え、独自のコーディネート思想で食の未来を創造しようとしている。

小池祥悟(こいけ しょうご)──代表取締役
1975年年、9月生まれ。
1998年、大学卒業後、マルコメ(株)にて生産、営業~商品開発まで網羅的に従事。2017年、食品業界での経験を活かしICS-netを創業。食品製造を未来へつなぐことを目指し、プラットフォーム「シェアシマ」を展開。日本の食資源を守りながら、持続可能な産業改革に挑戦している。
ICS-net株式会社
2017年創業。大切な食資源を有効に活かす手段として誕生した「シェアシマ」は、食品メーカーの課題解決を支援するB2Bプラットフォーム。食品原料データベースや製品検索、OEMマッチングを通じて商品開発や販路拡大を後押しする。さらに業界内の情報共有を促進し、効率的な取引を実現。未利用資源の活用や食品ロス削減にも注力し、持続可能な食品産業の基盤づくりに挑む。
企業サイト:https://www.ics-net.com/

目次

  1. 「売買できない」食品原料プラットフォームの正体
  2. コンビニ弁当の廃棄問題、その「もっと手前」にある巨大なロス
  3. 「フェーズに合わない投資だった」──経営者として直面した資金と組織の壁
  4. 食料危機は必ず来る。社会課題解決の先に見据える未来

「売買できない」食品原料プラットフォームの正体

── シェアシマというサービスについて教えてください。

小池氏(以下、敬称略) シェアシマは、食品の原料を探せるプラットフォームです。重要なのは、サイト上で直接売買はできない、という点です。原料を売りたい企業が情報を掲載し、それを探している企業がサイト上でコンタクトを取れる、という仕組みになっています。

ただ、原料のマッチングだけでは事業の伸びしろに限界がありました。そこで次に立ち上げたのがメディア事業です。サイトを訪れた方々にとって有益な、食品原料や業界にまつわる専門的な記事を発信し、メディアとしての価値を高めています。

さらに2020年の夏頃、コロナ禍で事業者がプレゼンする場を失っている状況を見て、オンラインセミナー(ウェビナー)事業を始めました。我々の会員を集め、原料や技術をアピールしたい企業にプレゼンの場を提供する。これが「商品開発セミナー」です。

他にも、商品の共同開発や製造委託先を探せるOEM検索サービスや、商品開発者向けの製品データベースなど、多角的にサービスを展開しています。

── サイト上で直接売買するのではなく、あくまで出会いの場を提供するということですね。

小池 はい。しかし、やってみて分かったのが、Webサイト上では売り手と買い手が自律的にマッチングすることはほとんどない、という現実でした。

考えてみれば当然で、企業のブランドを背負った新商品を開発するための原料を、通販サイトで気軽に買うわけがないのです。特に日本の食品業界は、問屋の介在が当たり前の商習慣。ネットで完結するという文化がまだありません。

そこで我々は、ただの「マッチング」から「コーディネート」へと舵を切りました。売りたい企業が「誰に、何を、どう売りたいのか」をヒアリングし、我々が抱える買い手の会員の中から最適な相手を探し出し、両者を引き合わせる。泥臭いですが、この人手を介したコーディネートこそが、今の我々が提供できる価値だと考えています。

コンビニ弁当の廃棄問題、その「もっと手前」にある巨大なロス

── 事業の根幹に据えている「食品ロス削減」について、この市場には、どれほどのポテンシャルがあると考えていますか?

小池 我々が解決したいのは、世間でよく語られるコンビニ弁当の廃棄のような「最終製品」のロスではありません。そのもっと手前、製造過程で発生する「原料」のロスです。

食品製造業は全体で約31兆円の市場ですが、その約3%が原料段階で捨てられていると我々は試算しています。金額にすると、実に1兆円近い規模です。

── 原料のロスというと具体的にはどのようなものですか?

小池 唐揚げ弁当を作る工程を想像してください。我々が問題にしているのは、売れ残った唐揚げ弁当そのものではなく、その唐揚げを作るために用意した衣用の小麦粉が100kg余ってしまった、といったケースです。膨大な量の原料が、活用されることなく廃棄されているのが現状です。

日本の食品業界は非常に真面目で、一度でもクレームが出た原料は使わない、規格から少しでも外れたら販売しない、といった厳格な文化があります。それが品質を支えている一方で、まだ使えるはずの多くの原料が捨てられる一因にもなっています。この「原料ロス」の領域は、まだ誰も本格的に手をつけていない、巨大な課題なのです。

「フェーズに合わない投資だった」──経営者として直面した資金と組織の壁

── 社会的な意義も大きい事業ですが、経営者として最も困難だったのはどのようなことでしたか?

小池 これまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。事業を成長させる上での資金計画には常に心を砕いてきましたし、計画通りに進まないことや理想のシステム開発が遅れるなど、経営者として多くの壁に直面してきました。

組織づくりにおいても、試行錯誤の連続でしたね。いわゆる「組織の壁」も経験し、メンバーが増える中で全員が同じ方向を向いて進むことの難しさを痛感した時期もあります。現在は、少数精鋭で一体感のあるチームを重視しており、それこそが今の我々のフェーズに適した形だと考えています。

── より大きな組織を目指していた時期があったのですか?

小池 ありました。振り返ると、事業の成長フェーズと、資金や人材への投資のペースに少しズレがあった時期もありました。

特に、人とシステムへの投資を積極的に行いましたが、当時の私は経営者としてまだ未熟で、優秀な人材が活躍できるだけの土壌を十分に用意できていなかった。事業の足元を固めながら成長することの重要性を学んだ、貴重な経験です。

── 以前からIPOを目指すと公言されていますが、そこに向けて最大の課題は何だと認識されていますか?

小池 売り上げです。そして、そのトップラインを上げるために必要なのが、僕自身に足りていない「ベンチャースピリッツ」だと思っています。

──ベンチャースピリッツとはどのようなことをイメージしていますか?

小池 もっと挑戦していく姿勢です。そして何より、ユーザーのことをどこまで真剣に考え、ユーザーの利益になることを追求できるか。それこそが我々の提供価値であり、それを進化させ続けなければなりません。

突き詰めた提供価値がプロダクトに昇華されたとき、お客様は黙っていても有料会員になってくれるはずです。そのステップを愚直に踏んでいくことが、IPOへの道だと信じています。

食料危機は必ず来る。社会課題解決の先に見据える未来

── 食の未来についてどう考えていますか?

小池 遠くない未来、世界的な食料危機は必ず来ると考えています。人口は増え続ける一方で、日本の一次産業は衰退し、食料自給率は低いままです。この大きな課題に対して、我々は「食品原料ロスをなくす」というアプローチで貢献したい。

先ほどお話しした通り、最終製品のロスに取り組むプレイヤーはいても、原料ロスという根源的な問題に挑んでいる企業は世界的に見てもほとんどありません。

ここに我々の存在価値があります。日本の、ひいては世界の食の仕組みを、原料の段階から変えていく。それが我々の描く未来です。

食品業界の方に、ぜひ一度「シェアシマ」をのぞいてみてほしいです。有益な情報がきっと見つかるはずですから。そして、我々の挑戦に少しでも共感いただけたなら、ぜひ応援していただきたい。この大きな社会課題を解決し、食の未来を変えていくには多くの力が必要です。

氏名
小池祥悟(こいけ しょうご)
社名
ICS-net株式会社
役職
代表取締役

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