家庭用太陽光発電から事業を始め、オンサイトPPA(第三者所有モデル)の先駆者として市場を切り拓いてきた株式会社オルテナジー。業界参入の理由は、代表の髙橋眞剛氏が、太陽光発電に情熱を注いだ父を見て育ったことだという。現在は、日本の太陽光マーケットを席巻している中国メーカーに協業を提案、やがて来ると見ている蓄電池の時代に業界の主導権を握るべく準備を進めている。代表取締役の髙橋氏に、全プロセスを内製化する独自の強み、サイバーセキュリティを核とした革新的なマーケティング戦略、そして事業構築への尽きることのない情熱について聞いた。
企業サイト:https://altenergy.co.jp/
目次
特許取得も市場は縮小、オンサイトPPAの先駆者へ
── 事業開始の経緯について教えてください。
髙橋氏(以下、敬称略) もともと私の父が“太陽光おじさん”と呼べるような存在で、平成初期から太陽光発電に強い関心を持ち、東日本ではおそらく初めて系統連携(自前の発電設備を送配電網に接続すること)を実現した人物でした。
その姿を見て育ち、「その場でエネルギーを作って、その場で使う」という地産地消の理念に大きな可能性を感じていました。そして、家庭用太陽光の売電制度が始まる2009年ごろから、再生可能エネルギーに関する新規事業の構想を練り始めました。
当時の再生可能エネルギー業界への参入方法は、大手メーカーの販売代理店になるのが一般的でしたが、それでは面白くない。そこで、太陽光パネル設置工事の際に、屋根に穴を開けない独自の工法を開発しました。「雨漏りを絶対にしない」をコンセプトに架台を設計し、特許を取得しました。この架台は累計で100億円以上を売り上げるヒット商品となりましたが、10年ほどで市場は縮小していきました。
その後、事業の軸足を家庭用から産業用へと徐々に移しました。世の中がFIT向け(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)のメガソーラーに沸くなか、私たちはあえて産業用の自家消費型太陽光発電に注力することにしたのです。
その転機が訪れたのは2017年ごろです。電力会社から電気を買うよりも、太陽光で自ら発電したほうがコストが安くなるという価格の逆転現象が起きました。このタイミングを好機と捉え、本格的に産業用自家消費型の分野に参入しました。
しかし、すぐに壁にぶつかります。企業に対して営業をかけても、1億円規模の設備を即決で購入する会社はほとんどありません。成約率は1%にも満たない状況でした。そこで事業モデルを根本から転換する必要に迫られました。
私たちが考案したのは、当社の資産でお客様の工場の屋根などに太陽光パネルを設置させてもらい、そこで発電したクリーンな電気だけを適価で買っていただく仕組みです。これが現在「オンサイトPPA」と呼ばれるモデルで、当社が独自に事業化したものです。
── 事業化の例がほかにない中で、どうやって伸ばしたのでしょうか。
髙橋 この事業を展開するなかで、当社のコアコンピタンスを何にすべきか熟考した結果、「データ」であると確信しました。
エネルギーが遠方の巨大な発電所から送られてくる集中型の時代から、各所に分散した電源から集める分散型の時代へ移行する。そう考えたとき、エネルギーを統合管理するデータプラットフォームが不可欠になると見越したのです。
オンサイトPPAはエネルギーを供給し続けるサービスですから、毎月現地におもむいてメーターを検針するわけにはいきません。そのため、遠隔でデータを収集・管理するIoTの仕組みを自社で構築する必要がありました。これを外部に委託するのではなく、自社の核心技術にしようと決断し、モニタリングシステムを開発。バージョンアップを行いながら、継続的に顧客へ提供しています。
そして近年、新たな課題に直面しています。将来的に日本の電力の3〜4割を担うとされる再生可能エネルギー発電所が、驚くほどサイバーセキュリティ対策が手薄であるという現実です。
もしセキュリティが脆弱な発電所がサイバー攻撃を受け、一斉に停止させられたら、大規模なブラックアウトが発生しかねません。これはもはや一企業の事業リスクではなく、国防に関わる重大な問題です。
ここに新たな事業機会を見出し、当社既存のモニタリングシステムと、サイバー攻撃をブロックする通信システムなどを一体化したプラットホームの開発に、パートナー企業の協力を得て着手。エナジーHUB(旧称:ソーラーグリッドPPH)として既にリリースしています。2023年から続くこのプロジェクトに、現在、経営資源を大きくシフトしています。今では、サイバーセキュリティ事業から発電所建設業、再エネ業界でのビジネスマッチングを支援するコンサルティング事業まで、再生可能エネルギー業界でバランスの取れた事業ポートフォリオを構築しています。
事業立案のスピードを支えるのは「社内の誰に対しても文句を言える文化」
── 御社の強みは先駆者であること、そしてセキュリティやITの技術力があることでしょうか。
髙橋 ええ。ただ、より根本的な強みは別にあります。それは、事業企画からマーケティング、営業、設計、施工、オペレーション、メンテナンスに至るまで、すべてのプロセスを一社で内製化している点です。これは再生可能エネルギー業界では極めて珍しい体制です。
なぜ内製化にこだわったかというと、安定的な高収益体制を継続させるためです。我々の業界を分析すると、結局のところ最も収益的に安定しているのは工事会社でした。それならば、多くの事業活動を「工事を受注するためのマーケティング活動」と位置づければ良いと考えました。
そして、効果的なマーケティングを行うには、全プロセスの正確な情報を自社で把握していることが絶対条件です。だからこそ、すべてに深く関与するこの体制が、私たちのゆるぎない強みとなっています。
同時に、私の「事業構築が好き」という特性も、会社の成長を支える大きな要因です。驚くほど飽きっぽい性格なのですが、裏を返せば、常に新しい事業のアイデアを考え続けているということです。他社の事業構想を聞いても「それは数週間前に検討して却下した案だな」と感じることが多く、事業立案のスピードには自信があります。
そのスピードを支えているのが、社内の誰に対しても文句を言える文化です。世の中のコミュニケーションの多くは成立していないと感じています。たとえば、指示した課題が1週間後に全く見当違いの形で上がってくる。これでは実質2週間を無駄にしたことになり、PDCAの観点から大きな問題です。私は多数のプロジェクトを並行して進めているため、週に何度もミーティングはできません。だからこそ、週1回の定例で、コミュニケーションの質を極限まで高める必要があります。
そのためには、誰もが誰にでも率直にクレームを言えることが重要です。最近導入した360度評価では、マイナス評価をつけることで「あなたに文句がある」と明言させるのです。これはネガティブな行為ではなく、期待の裏返し。この文化を徹底することで、コミュニケーションの速度と密度を掛け算で高めていく。これが良い効果を生んでいると感じます。
また、「お金だけで人生を語るのは馬鹿馬鹿しい」という私の価値観も、大胆な経営判断を可能にし、結果として会社の成長を後押ししているのかもしれません。
商社・保険会社での経験が育んだ「市場を創る」視点
── 大学卒業後すぐの起業ではなく、総合商社や外資系保険会社に入社されたとか。
髙橋 最初に総合商社に入社しました。配属先は貴金属部で、ディーラー業務を担当しましたが、過剰な根回し文化に馴染めず、「ここではない」と感じていました。そこで2年目に、人事部に対して「私を中国に留学させなければ会社にとって損失だ」というレポートを提出したのです。祖父が中国で築いた人脈を使えば、会社に貢献できるという算段でしたが、直属の上司を飛び越えて直談判した結果、国内の関連会社へ左遷されてしまいました。
その左遷先で「好きにしていいよ」と言われたのですが、入社2年目の若者に「やりたいこと」などすぐに見つかるはずもなく、出社後15分でやることがなくなる日々が続きました。そこで国会図書館に通い詰め、徹底的に貴金属市場を勉強しました。
その結果、ある貴金属工業製品の国内流通で7割のシェアを獲得するという成果を上げました。貴金属の知識を活かしてデリバティブを組み、今でいう工業薬品のECプラットフォームのような仕組みを構築したのです。これが大手メーカーの目に留まり、次々と顧客を紹介され、1年少しで社長賞を受賞するに至りました。
しかし、事業が軌道に乗りパッケージ化できてしまうと、また暇な日々が戻ってきます。再び国会図書館に通い、次のネタを探しました。そこで大手住宅設備機器メーカーが抗菌トイレの開発で困っているという情報を掴み、抗菌素材を扱うアメリカのサプライヤーを探し出してコストダウンの提案をしたところ採用され、これで二度目の社長賞を受賞しました。
左遷された身でありながら社長賞を2回も取ったことで、入社4年目に社内でも花形である電子本部に引き抜かれました。商社では本部間の異動は転職に近い。それなら、と当時勢いのあったプルデンシャル生命保険に転職しました。
私は新規事業ばかり手掛けてきたため、決まった「型」がありませんでした。常に効率の悪さに悩んでいた時、「営業のプロにしてやる」という言葉に惹かれたのです。実際に営業ノウハウを学び、マーケットにも恵まれ、相当な成績を上げることができました。「生命保険という、人が欲しがる優先順位の低い商品が売れるなら、世の中のほぼすべての商品は売れる」という絶対的な自信を得ました。
しかし、誰かが作った商品を売り続けることに、次第につまらなさを感じるようになりました。「もっと自由に市場を創るべきだ」と。そう思ったとき、商社で左遷された先で没頭した新規事業の日々が懐かしくなり、自分の道はこっちだと確信しました。そして、「理想の上司がいないと嘆くなら、お前がそれになればいい」という知人の言葉に後押しされ、起業を決意しました。
── そこでオルテナジーを創業されたのですか?
髙橋 いえ。まず創薬ベンチャーを立ち上げましたが、資本政策の未熟さから、自分が作った会社をクビになるという苦い経験をしました。次に中小企業に入り、社内ベンチャーとしてデータベースマーケティングの会社を設立。3年で単月黒字化を達成したのを機に独立し、満を持して設立したのがオルテナジーなのです。
中国メーカーを排除せず、蓄電池の時代を見据えて準備
── 再生可能エネルギー市場の将来性をどう見ていますか?
髙橋 間違いなく主要電源になり、市場は今後さらに拡大していきます。
── 多岐にわたる業務をワンストップで手掛けるとなると、人材採用は大変なのでは?
髙橋 非常に苦労しています。特に、これまで「3K」などと言われてきたブルーカラーと呼ばれる現場の仕事は、インフラを維持する上で極めて重要です。
彼らの仕事を正当に評価し、体系化していくことも、当社の「次世代につなぐ」という使命の一つです。地方の優れた技術者が、マーケティングや営業のスキルがないために下請けに甘んじている。この構造を改善するための様々な取り組みも始めています。
── 今後のマーケティング戦略について教えてください。
髙橋 日本の太陽光マーケットは中国メーカーの製品が席巻しています。もはや彼らを排除するのではなく、いかに協業するかを考える段階です。なかでも、基幹部品であるPCS(パワーコンディショナー)で圧倒的なシェアを持つのがファーウェイ社です。彼らの強みは、PCSにSIMカードスロットを搭載し、スマートフォンようにデータ通信・遠隔制御を可能にしたことでした。
当社はそのスロットに独自のSIMカードを挿すことで、ファーウェイ社を含む他社が一切接続できないセキュアなソリューションを、パートナー企業と開発。それが日本各地の太陽光発電事業者から多くの引き合いをいただいている、先ほども紹介した「エナジーHUB」です。
これは既存のサイバー攻撃対策よりも圧倒的に安価で安全性が高い。この取り組みは経産省のワーキンググループでも評価されています。これが我々のマーケティング戦略の核心です。製品の根幹を押さえることで、いつの間にか市場の主導権を握る。いわゆるデファクトスタンダード戦略であり、国のお墨付きを得るデジュール戦略でもある。上下から攻めることで、この市場は我々が取ったと自負しています。
もちろん、「エナジーHUB」はファーウェイ製品だけでなく、様々なメーカーの機器と接続可能です。今後は蓄電池の時代が来ますが、そこでも業界の主導権を握れるよう布石を打っています。
正直、この事業単体では儲かりませんが、「我々はセキュリティに特化しています」という一言は、大手企業にとって何物にも代えがたい価値を持ちます。また、この技術を応用し、全国に約80万ヵ所ある野立て太陽光発電所を対象に、PCSのリニューアル需要を狙ったサブスクリプションサービスも開始しました。これが大変好評で、年間数千ヵ所のペースで契約を獲得できる見込みです。
エネルギーマーケットは巨大であり、深掘りできる要素は無数にあります。現在の事業を拡大させると同時に、先に述べたブルーカラーの地位向上にも本気で取り組んでいきたい。今後は資本増強も必要なので、ビジョンに共感し、出資を検討いただける方には、ぜひお声がけいただきたいと思います。
- 氏名
- 髙橋 眞剛(たかはし しんご)
- 社名
- 株式会社オルテナジー
- 役職
- 代表取締役CEO

