AIを活用した対話型音声AI SaaS「アイブリー」。サービスと同じ名前の株式会社IVRyは、2019年の創業以来、中小企業からエンタープライズまで幅広い顧客層に支持を拡大している。

GPT-3の登場を機にAI対話システムへと進化を遂げ、電話データの解析を通じて企業の経営支援を強化。市場のAI受容と組織力の向上を成長のカギとし、電話応対の「当たり前」を再定義する未来を描いている。

AIへの注目も相まって、今後の拡大が期待される同社の事業だが、「電話」を事業の軸としたきっかけは、銀行融資の本人確認電話を営業電話と誤解し、無視し続けたことが招いた出来事だったという。

奥西 亮賀(おくにし りょうが)──代表取締役/CEO
1991年、兵庫県生まれ。同志社大理工学部大学院情報工学科(博士課程前期)でコンピュータサイエンスを学ぶ。 2015年、新卒で入社したリクルートで保険系新規事業EC事業に従事した後、2019年3月に株式会社IVRy(旧Peoplytics)を創業。 今後深刻化していく日本の人手不足に対して、様々なシーンでの法人コミュニケーションをソフトウェア/AIで スマート化。

株式会社IVRy

2019年3月設立。「最高の技術を、すべての人と企業に届ける」というミッションを掲げ、カスタム電話をカンタンに作成できる対話型音声AI SaaS「アイブリー」を提供。アイブリーは、24時間365日稼働するAIが、電話応答を自動化・標準化し、業務効率と顧客体験の質を同時に向上させるサービス。通話内容を自動で文字起こし・要約・分析し、FAQの自動生成や意図分類、KPIモニタリング・指標化まで対応。 SFAやCRM、主要データウェアハウスとの即時連携も可能。

目次

  1. 目次1毎月生んだ新規事業の7つ目がIVRyだった
  2. 目次2「早い」「安い」を実現するIVRyの技術力と汎用性
  3. 目次3組織の壁を乗り越える「本質的な対話」の重要性
  4. 目次4AIがつくる電話応対の「当たり前」と社会変革

目次1毎月生んだ新規事業の7つ目がIVRyだった

──チャットGTPを活用してサービス開発・提供を進めておられるとか。

奥西氏(以下、敬称略) はい。まずアイブリーというサービスは2020年に開始しました。高額で提供されていた自動応答システムを、当時月額3,000円から利用できるクラウドサービスとして主に中小企業向けに展開しました。

2020年当時、GPT-3の登場で汎用AIの可能性が示唆され、自社で小さなAIを作るのではなく、成熟した汎用AIを活用する戦略を決め、2023年までは、顧客接点の拡大と電話データの蓄積に注力しました。

2023年初頭のChatGPT API公開は、まさに待ち望んでいたAIでした。準備していたこともあり、すぐに対話型AIや通話データ解析機能の開発に着手することができ、同年からサービスを提供。ハルシネーション(注:特に生成AIが事実に基づかない情報を生成する現象)を起こさず自然な対話システムを構築しました。

現在は、このAI対話の精度とデータ解析の価値により、中小企業からエンタープライズまで導入が進んでいます。

──いくつかの記事や御社のウェブサイトを拝読して、事業内容は変わって現在の形になられたと知りましたが、電話という軸はずっと変わらないのでしょうか。

奥西 アイブリーに至るまで、異なる事業を試し、毎月1個ずつ立ち上げる中で、7個目にアイブリーが生まれたのです。立ち上げた事業は、すべて電話を軸にしてはいませんでした。電話、現在のアイブリーに注目し、注力すると決めたきっかけは、銀行融資の本人確認電話を営業電話と誤解し無視した結果、融資に落ちた経験です。

法人の電話には重要なものがあり、受ける側が電話をコントロールできる仕組みが必要だと痛感しました。

プロダクトコンセプトのLPを作成し、リスティング広告を試したところ、「明日からでも使いたい」という声が多数寄せられ、事業としての成功を確信しました。それで他の事業よりも成長性が高いと判断し、アイブリーを主力サービスとしました。

目次2「早い」「安い」を実現するIVRyの技術力と汎用性

── 現在のサービスの強みや競争優位性はどこにあると分析されていますか?

奥西 中小企業向けには「早く安く使える」点が強みで、月額数千円でAI対話による業務効率化を実現できるサービスは他になかなかありません。エンタープライズ向けでは、AI対話の精度が高く、ハルシネーションを起こさず業務フローに沿って対応できる点が優位性です。通話データAI解析機能もセットで提供し、迅速かつ安価な導入が可能です。

たとえば、レストランなどの予約をAIで受けた時、1件ダブルブッキングが発生するだけでも店舗にとっては大きな損害につながります。そういったことが起きないよう、誤った情報を回答しない安全性を追求しています。

安価で高精度なサービスを提供できる理由は、もともとGoogleアシスタントの開発に携わっていたAIエンジニアがIVRyに在籍しており、汎用的な対話システム構築を得意としているからです。

他社が個別構築するのに対し、私たちは汎用モデルでシステムを提供できる点が強みです。また、累積40,000アカウント以上のお客様から得た豊富なナレッジも、迅速なユースケース対応に貢献しています。

通話記録の分析については、「IVRy AI Analytics」という商品があります。AIが自動で通話データから解析を行い、たとえば「予約希望が10%あったが、実際に枠が空いていて予約できたのはそのうち何%で、断っているのは何%か?

不成立だった理由は何か?」といった情報を、自動で出力します。

また、「忘れ物の問い合わせが30%」「アルバイトの遅刻連絡が数10%」といった問い合わせの性質も自動で分類して表示します。

── 成長を遂げた秘訣や出来事、その背景についてお聞かせください。

奥西 成長の要因は二つあります。一つは市場的な要因で、2024年頃からAIがトレンドになり、市場に受け入れられ始めたこと。もう一つは組織力の向上です。そのタイミングで採用がうまくいき、社内のメンバーがこれまで積み上げてきたものの中から進化・成長している点です。

たとえば、CRMやSFAを提供する大手外資系企業でエンタープライズセールス責任者を務めていた人間が入社し、社内にナレッジがなかったエンタープライズセールスを立ち上げ、成功事例を示していきました。その結果、組織全体が新しいケイパビリティを獲得し、会社全体の成長に大きく貢献しているととらえています。

目次3組織の壁を乗り越える「本質的な対話」の重要性

──組織が大きくなる中で、多くの経営者が直面する「組織の壁」について、乗り越えた経験や、ぶつからないための施策はありますか?

奥西 組織が拡大する中で、IVRyで成功体験を持つ既存メンバーと、外部から異なる成功体験を持つ人たちの間で摩擦が生じることがありました。スタートアップであるIVRyにはもともと完璧なものが用意されているわけではないため、「これからどう良くしていくか」という議論や、異なる成功体験を持つ者同士のやり方の違いが複雑にからみ合い、難しくなっていたのです。

そこで実践していたのは、皆が「同じテーブルで同じ思っていることを言おう」ということです。それぞれの意見を聞き、皆が「IVRyを成長させたい」という気持ちは共通していることを確認します。プロダクトが世の中に届けば社会が良くなるという信念は同じでも、ちょっとしたやり方の違いやボタンの掛け違いで、おかしなコミュニケーションが起きるのです。

どちらの意見も完璧ではありませんし、どちらもすべてが間違っているわけでも、合っているわけでもありません。意見の整理を細かく丁寧に行うことを重視しています。そうすると、根本の考えは変わらない、この価値は変わらないが、やり方が少し違うだけだということに気づけます。

お互いにリスペクトし合い、表面的なコミュニケーションではない、本質的な対話をどう生み出すか、そしてそのタイミングが非常に大切だと、この1年で強く学びました。

── AIによる応答と人間によるコミュニケーションの線引きについて、どのようにお考えですか。

奥西 正直、明確に線引きできる答えは出ていないのが現状です。私の過去の経験で言うと、リクルート時代にUX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉が出始めた2014~2015年頃と似ています。当時はUXのやり方が分からず、様々な議論がありました。

しかし、結局はユースケースやビジネスモデル、ターゲットによって最適な解が変わるということが分かりました。

その際、改善の指針としてよく言われていたのが「フィジカルインタラクション(身体的な相互作用)の最小化」と「メンタルインタラクション(精神的な相互作用)の最小化」です。つまり、いかに早く目的を達成できるか、という点が重要です。

電話をかけてくるお客様には目的があり、その目的を1秒でも早く達成していただくために、どのような体験が良いのか、という点が私たちが絶対にぶれてはならないこだわるべきところです。人間による応対が常に100点かというとそうではないとも思っています。

人間らしいことがUXとして気持ち良い時もあれば、人間らしくないほうが気持ち良い時もあるので、お客様の目的が最短で達成できるようにすべきだと思っています。

目次4AIがつくる電話応対の「当たり前」と社会変革

──現在一番関心のあるトピックとその理由についてお聞かせください。

奥西 AIによって世の中が「変化するポイント」と「変化しないポイント」は何なのか、ということをできる限りゼロベースで考えるようにしています。事業開発やこれからの経営活動において、常識をどれだけ疑えるかが非常に重要だと考えているからです。

たとえば、SaaSビジネスモデルの事業数値における「良いとされる指標」は、10年以上変わらずに語られてきました。

しかし、AIの登場によってその変数の角度が変わっている、という議論がグローバルでは半年前から1年前頃から徐々に始まっています。

私たちの反省点は、AIプロダクトを開発しながらも、自社自身のプロセスやビジネスオペレーションに対する常識を疑えていなかったということです。これは常にアンテナを張れているかどうかの学びだととらえています。

── 今後の事業拡大の構想、未来構想についてお聞かせください。

奥西 プロダクトとしては引き続き、AI対話と、これまで活用されてこなかった通話データをどう活用して経営支援していくのか、という点に取り組みます。AI対話が電話応対の当たり前になり、電話データがAIを活用して経営に役立てられるのが当たり前になる、この二点を作っていきたいと思っています。

もう一つは、私たち自身のビジネスオペレーションや動き方も、AIオリエンテッドに変えていくべきだと考えています。何に投資するのかと問われれば、AI活用やAIをベースとした何かに投資する、ということなのかなと思っています。

── 電話応対が自動化された社会において、日本人の働き方や社会はどうあるべきだとお考えですか。

奥西 私が社会人になった2015年頃は、リクルートでも「紙からウェブへ」というタイミングでした。当時、「インターネットをベースにビジネスを変えていこう、作っていこう」と行動し、形に変えた人たちが、今では伝説的な存在になっています。

それと今のAIはかなり近い環境だと感じています。AIでやったほうが絶対良いと誰もが思っていても、変え方が難しい、大変だという状況です。

しかし、今このタイミングでAI化をどう進めるか、AIを活用してどう変えていくのかを実行した人が、これから10年後の伝説的な存在になるでしょう。そのような人が少しでも増え、彼らと一緒になって未来の日本や世界の基盤を作っていけたら良いなと思っています。皆で社会を変えていきたいです。

── 今後のIPOやM&Aといったファイナンス戦略についてお聞かせください。

奥西 IPO自体は進めていきたいと考えています。IPO後も成長を続けたいので、一定の規模以上でIPOを実現し、その後も伸びていくような戦略をしっかり仕込んだ上でIPOをしていきたいです。

── 最後に、アイブリーのサービス導入によるメリットをあらためて聞かせてください。

奥西 電話関連業務に困ったら、アイブリーを導入したり、お勧めしたりしていただければ嬉しいです。飲食店や宿泊業だけでなく、製造業や卸売業など、幅広い業種でご利用いただいています。たとえば、クレディセゾンやトヨタレンタリースなどでも使われています。

どんな場所でも、電話を一つレベルアップさせたい、電話での対話データを活用してクレームを検知したいといったニーズがあれば、アイブリーはAIを活用してサポートできます。

最近話題になっているカスハラ(カスタマーハラスメント)の検知もできます。カスハラを受けている社員をフォローしてあげることもできますし、カスハラを行う人がほぼ同じ電話番号であれば、ブラックリストに入れる、あるいはカスハラになりそうになったら自動でうまく止める、といったことも今後は可能になるでしょう。

電話関連業務を高度化したいと思ったら、ぜひアイブリーを使っていただきたいですね。

氏名
奥西 亮賀(おくにし りょうが)
社名
株式会社IVRy
役職
代表取締役CEO