株式会社ウェバートン

ITインフラの「縁の下の力持ち」として様々な企業の下請けから始め、事業を転換。中小企業のIT課題を解決するネットワークインテグレーターとして、様々なサービスの「すき間」を埋めている株式会社ウェバートン。ITゼネコン構造の崩壊と中小企業のリソース不足という社会課題に着目し、「現場力」と「金勘定」を徹底する独自の組織文化を築き上げてきた。循環取引に巻き込まれるなどの困難を乗り越え、経営学を学び、組織変革を重ねてきた渡邊光五社長が語る、AI時代の事業展望と「コネクティングヒーロー」としての使命とは──。

渡邊光五(わたなべこういつ)──代表取締役社長
1974年7月生まれ。1995年、アルバイトでITインフラ業界(LAN工事会社)に入社。1997年、創業メンバーとして株式会社ウェバートンを立ち上げる。「地に足のついた楽天家であれ」をモットーに業種・業界にこだわることなく貪欲に現場を駆けずり回り、事業領域をファシリティからネットワークインテグレーターまで拡大。現在はIoTインテグレーション事業も手掛ける。大阪市立大学文学部史学科西洋史コース卒業。英国国立ウェールズ大学経営学修士課程(MBA)修了。東海青年連絡会事務局長、IoTビジネス推進コンソーシアム沖縄理事(ともに現任)。
株式会社ウェバートン
1997年創業。ICTインフラ環境を提案・設計・構築・サポートするネットワークインテグレーター企業。ITファシリティからセキュリティレイヤーまで幅広くインテグレーション提案することで、多種多様な企業様のオフィス基盤を安定させ、付加価値へ繋げている。「ICT現場力で一期一会を繋げる」の企業理念に基づき、顧客目線に沿ったICTインフラサービスを提供することを使命としている
企業サイト:https://www.weverton.co.jp/

目次

  1. 創業からネットワークインテグレーターへの転換
  2. ITゼネコン構造の崩壊と中小企業の課題
  3. 「現場力」と「金勘定」が育む組織文化
  4. 困難を乗り越える経営者の学びと組織変革
  5. 中小企業のIT投資意識とAI活用の可能性
  6. 「コネクティングヒーロー」が描く未来

創業からネットワークインテグレーターへの転換

── 大学の先輩たちと創業されたそうですね。

渡邊氏(以下、敬称略) はい。私は2代目ですが、家業ではなく、大学の先輩と一緒に立ち上げました。夜間の大学に通いながらアルバイトを探していたとき、音楽を通じて知り合った先輩の家族の会社で、ネットワークのケーブリング配線工事事業部が立ち上がることになったのですが、半ば「自分たちで勝手にやれ」という形で独立を促され、1997年に創業しました。

当時はITバブル前夜で、Windows 98などが登場し、法人にもパソコンが普及し始めた時代で、ネットワークケーブルの配線は新規性の高い事業でした。専門技術が必要な部分がありましたが、私たちはそのノウハウを持っていました。

創業期はパソコンやサーバーなどのハードウェアを販売する会社の下請けとして、ケーブリング工事などのファシリティ分野で事業を拡大し、東京にも進出しました。現在は大阪、東京、名古屋、沖縄で事業を展開しています。

「名より実を取る」ために、いろいろな会社の下請け作業をこなす中で、有線から無線へと時代が移り変わるのを感じました。

このまま請負体制を続けていては先がないと判断し、約10年前からITのレイヤーの中でもネットワークの部分に特化し、自社でもソリューションを提案する事業へと転換しました。現在、私たちはネットワークインテグレーションを事業の立ち位置としています。

かつてSIerの中にネットワークインテグレーターという役割がありましたが、今はハードウェアに依存するだけでなく、クラウドアプリケーションやセキュリティなど、多種多様なレイヤー構造になっています。

その中で、様々なITツールを繋ぎ、一つのサービスとして届ける、いわば「すき間を埋める」ニーズが非常に増えています。もともとのネットワークファシリティの部分と、ハードウェアからアプリケーションまでを繋げるネットワークインテグレーターとして、現在の事業を展開しています。

ITゼネコン構造の崩壊と中小企業の課題

── 転換の理由としては、やはりネットワーク技術の発展が一番大きかったのですか?

渡邊 社会的要因や背景ももちろんありますが、良い意味で私たちの事業領域に対する「欲」が出てきたという側面もあります。市場の拡大もそうですが、IT業界は業界構造の変化が極めて激しいのです。

ITゼネコンという言葉があります。建設業界で、大手ゼネコンの下にサブコン、さらにその下に下請け会社があるように、IT業界も5、6年ほど前までは同様の多段構造でした。NECや富士通、IBMといったメーカー系、NTT、KDDI、ソフトバンクといったキャリア系が元請けとなり、パソコンやサーバー、データセンターを販売し、その下にSIer、さらにその下に私たちのような会社、そしてまた下請け会社が連なる構造です。

しかし、この構造自体が今、崩れてきています。

大手企業は自社に情報システム部門や技術者がいるため、要件定義からIT構築まで自社でできますが、中小では、ハードウェアを購入した先の会社が、サービスとしてITの要件定義まで担ってくれるのが一般的でした。

ところが近年、ITリテラシーの向上やネットでの調達が容易になり、これまで無償で提供されていた中小企業向けのいろいろなインフラ構築や要件定義を担う存在がいなくなってしまった。

私たちはこれを「すき間」と呼んでいます。セキュリティ会社やシステム開発会社に相談しても、それぞれが自社の役割を「売り切っておしまい」という形で、全体をインテグレーションする企業が意外と少ないことが、ここ5年ほどで明らかになってきました。

社会課題としても、従業員1000人以下の企業では情報システム専任担当者は数名程度、100人以下なら兼務がほとんど。「彼はゲームが得意だから」「パソコンに詳しいから」といった理由で、他の業務と兼務している。

このような社会的な課題が見えたため、私たちはあえてそこに踏み込み、ネットワークインテグレーターという業態へと改めて舵を切りました。

「現場力」と「金勘定」が育む組織文化

── 事業拡大するにあたり、どのような点に注力されましたか?

渡邊 「現場力」の向上ですね。企業理念(「ICT現場力で一期一会を繋げる」)にもありますが、ネットワークインフラは人と向き合い、企業と対峙して初めて課題解決に繋がります。パソコンを操作するだけでは解決できないため、現場に行って調整するという姿勢を純粋に守り続けてきたことが、事業拡大の要因だと考えます。

── 社員の評価制度や人事面などで、何か独特な取り組みはありますか?

渡邊 当社ではほぼすべてのフィールドメンバーが「金勘定」をします。売り上げと仕入れを全員が把握しているということです。自分自身が直接関わる数字もあれば、関係している業務の数字もデータ化されており、それが現状の評価に繋がります。定量的な評価とも言えるのではないでしょうか。

IT業界では、エンジニアの原価意識が低く、自身の作業をどこかで無償だと考えてしまっている人が少なくありません。しかし、そうではありません。入社したらまず、コスト意識を持つことを徹底して教えています。

── 会社を経営する中で、ぶつかってきた壁や、最も困難だと感じたことは何ですか?

渡邊 間違いなく「人」ですね。従業員数50人に満たない会社ですが、長く事業を続ける中で、ハラスメントなどの問題が発生し、会社として決断を迫られることがありました。しかし、そうした経験があったからこそ、様々な仕組み作りや考え方の面で成長できたと思います。

もう一つは「お金」です。下請け企業は元請けのご機嫌を伺う立場になりがちです。良かれと思って対応していると、気づかないうちに循環取引に巻き込まれてしまうことがあります。ある日突然、税務署が調査に入ってくるという強烈な経験もしました。

そこまではまだ良いのですが、その後、いわゆる「トカゲのしっぽ切り」に遭い、非常に苦労しました。この経験から、事業転換だけでなく、私自身の考え方や仕事観をすべてリセットする必要があると感じました。そして、お客様に直接販売する力をつけようと、事業をシフトしたのです。

今では顧問弁護士を交え、第三者の目で契約や予算審査を厳しく行い、たとえひいきにしているお客様であっても、問題があれば断る仕組みを構築しました。

困難を乗り越える経営者の学びと組織変革

── 社員が30人や50人、100人と増えるにしたがい、組織の壁にぶつかると言われますが、どのように乗り越えましたか?

渡邊 マネジメントに関しては、自信がなかったため、経営学を学びに行きました。従業員に話を聞いてもらう環境を作るには、まず自分自身が学習しなければならないと考えました。従業員といわば「相思相愛」の関係を築くためには、経営者自身が学び続けることが不可欠です。30代でMBAを取得したのもそのためです。

従業員には本当に迷惑をかけながらも、あの手この手で試行錯誤を重ねました。組織体制を1年で変更したこともあります。今でこそ落ち着いていますが、東西体制やマトリックス組織など、いろいろな形を試しました。

私は年に一度、従業員と面談し、話を聞くようにしています。さらに、聞いたからにはそれを実行する推進力も重要です。上長は、ただ聞くだけでなく、それをすぐに実現させる仕組み作りをすることが大切です。そしてうまくいかなければ、すぐにやめることです。

また、最近は若手のキャリアに対する考え方が変化しているため、「辞めさせないための動きはあまりしなくて良い」と伝えています。

── 音楽活動の経験が、現在の経営にどのように生きているとお考えでしょうか。

渡邊 私は団体競技が好きで、様々な人とのハブになるのが得意なタイプです。カリスマ性があるとは思いませんが、バランサー向きだと感じています。

経営とは直接関係ありませんが、人脈作りにおいて音楽が意外と役立っていると感じます。音楽活動を通じて組織論を学んだこともありますし、好きなことを追求していると、同じような考え方を持つ人が集まってきます。

現在、趣味でバンドを組んでいるメンバーには、20歳近く年上の大先輩経営者や、外資系大手企業の元社長、公認会計士の先生など、様々な方がいます。趣味を通じてこうした人脈が広がるのは、非常に興味深いことだと感じています。

中小企業のIT投資意識とAI活用の可能性

── 顧客である中小企業が抱える課題には、どのようなものがありますか?

渡邊 「リソース不足」です。弊社のビジネスモデルは、大手企業の再販パートナーとして大手企業や官公庁をエンドユーザーとするものと、中小企業への直販の2つがあります。中小企業のお客様は、IT部門や情報システムに関するリソースがまったく足りていません。

これは、自社のIT環境に対して資本政策を行うという経営者層の意識や企業文化が、まだまだ根づいていないことが要因と考えます。

先日、学会で発表するためにデータを取ったところ、従業員一人当たりのIT投資額は、欧米諸国と比較して半分以下でした。社長に「従業員1人当たり、ITにどれだけお金をかけていますか」と尋ねて、即答できる人は10人に1人程度ではないでしょうか。

── ITへの意識が低いということでしょうか。

渡邊 そのとおりです。たとえば広告宣伝費は毎年予算を立てますが、IT予算は最近でこそ計上されるようになったものの、毎年中身は同じということがある。個人のスマホやデジタル環境には敏感なのに、会社のデジタルには鈍感になりがちです。また、何に使うかは情報システム担当者に任せきりというケースも少なくありません。

その理由は、デジタル環境を構築することが目的になっていたことです。今やDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉も浸透していますが、トランスフォーメーションした先に、各企業の価値向上や売り上げ拡大、顧客拡大といった目標があるはずです。

デジタルはあくまで手段であり、その先の価値をいかに向上させるかを考えるべきです。しかし、いまだに「デジタル化すれば勝手に良くなる」といったITツールを魔法の杖のように考えている人が多く、結果が出ないと兼務の情報システム担当者が責められるという状況です。そもそもITと経営の基本設計ができていないことが原因であることが多いのです。

とはいえ、社長へのコンサルティングばかりでは前には進みません。現場から突き上げて、仕組みとして、いかに早く納得した状況へと加速させていくかが、今、日本の中小企業が抱える課題だと考えます。

── 労働力不足が叫ばれる中、生産性向上のためにAIの導入が注目されていますが、特に中小企業にとっては導入も推進も難しいと感じます。

渡邊 疑問だらけだと思います。正解を求めがちですし、他社の動向も気になります。例えば、従業員20人の会社がAIを導入したいと考えたとき、いくらが適正価格なのか、おそらく分からないでしょう。

── 御社の事業内容とAIには、どのような親和性があるのですか?

渡邊 AIはアプリケーションではありますが、ハードインフラ側に近い仕組みとしてデフォルトで組み込まれるようになってきています。たとえば、Microsoftのようなソフトウェアは、ソフトウェア会社が単体で販売するというよりは、ハードウェアに付属していることが多いですよね。これは、ハードウェア寄りのインフラのデフォルトアプリと言えます。

最近では、セキュリティソフトウェアも同様です。EDR(Endpoint Detection and Response)のようなエンドデバイス向けのものや、UTM(Unified Threat Management)、SASE(Secure Access Service Edge)といったクラウドやネットワークゲートウェイに組み込むアプリケーション、つまりセキュリティソフトウェアの導入について、私たちにリクエストが来るケースが増えています。

生成AIに関しても、これまでは縦割りでメーカー依存だったものが、企業のセキュリティを担保するためのプラットフォームを提供するAI会社が増えています。

たとえば、バルクで導入すれば一人あたり月額1000円以下で、ChatGPTやGeminiのような複数の生成AIを使えるサービスがあります。これは、AIツールと個々のデバイスがダイレクトで接続するのではなく、一度プラットフォームベンダーのフィルターを介する仕組みです。生成AIと個人のナレッジの蓄積はされませんが、AIサーバー側には履歴が残らず、情報漏洩を防げるセキュリティメリットがあります。また、質問内容やアウトプットの蓄積により各企業独自のナレッジが形成され、その付加価値が人件費削減や競争力向上にも繋がるといったAIツールです。

このように、インフラ側にAIの仕組みがデフォルトとして入ってくるようになれば、私たちの出番はさらに増えると考えています。

「コネクティングヒーロー」が描く未来

── 今後、どのように会社を拡大していく計画ですか?既存事業の拡大なのか、あるいはまったく新規の事業を検討されているのか……。

渡邊 大きな軸としては、ネットワークインテグレーターとして事業を拡大していくことです。

現在、ファシリティやネットワークの設計構築がメインですが、今後はアプリケーション系、特にAIソフトウェアやセキュリティ関連の領域を強化していきます。ソフトウェア開発ではなく、AIやセキュリティツールをインテグレーションする立場です。

特にセキュリティは親和性が高く、セキュリティ会社とタイアップしてウェブサイトでも情報発信しています。従業員向けのセキュリティ教育やツール導入のニーズが増えているため、ネットワークインテグレーターの領域として、事業を拡大していく考えです。

サービスモデルの話に加え、販売先のレイヤーで見ると、現在、中小企業への直販が全体の売り上げの3割強を占めています。大手企業の再販は売り上げが大きく、プロジェクト規模も大きいですが、私たちは細かい案件をいかに多くこなしていくかを重視しています。そのためには、従業員という「人の資産」を増やしていく必要があります。

現在、フィールドメンバー20数人で年間3500件もの案件をこなしています。これは驚異的な数字で、他社からは「どうやってやっているのか」とよく聞かれます。一人あたり年間300件以上をこなすメンバーもいます。ブラック企業だと思われがちですが、従業員にはしっかり休みを取ってもらっています。

この高い生産性を実現しているのが、全国に100社ほどいるパートナー企業との連携です。このパートナーネットワークが弊社の強みであり、広範なサービスエリアをカバーできる理由です。

── ファイナンスや資本政策の観点から、将来的なIPOやエクイティでの出資の可能性は考えていますか?

渡邊 もちろん考えています。私の役割としては、IPOができる会社の資質を作ることにあります。私自身が直接IPOを主導するというよりも、最終的にいつでもできる環境を整えた企業体にしておきたいと考えています。

まもなく、動画を含めた弊社の新しいパーパスが配信されます。現在、参加しているメンバーが中心となってPR活動を進めていますが、「コネクティングヒーロー」として、摩擦のない社会をつくっていくことが私たちのパーパスです。ぜひご覧いただきたいです。また、「ウェバアイ」というキャラクターも仲間におります。

── ウェブサイトに掲載されているキャラクターですね。

渡邊 はい。電子から生まれた妖精で、性別は無く、ネットワークインテグレーターを推進していくダイバーシティの象徴です。ぜひご支援のほど、よろしくお願いいたします。

氏名
渡邊光五(わたなべこういつ)
社名
株式会社ウェバートン
役職
代表取締役社長

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