長崎県雲仙市に本社を置く宅島建設は、1946年創業の老舗総合建設会社。三代目社長の宅島寿孝氏は、地域に深く根差し、公共・民間工事を通じて地元経済を支える一方、社員を「家族」ととらえる独自の経営哲学を貫いている。それはM&Aで事業を多角化し、グループ全体で500人規模に成長する原動力となった。地域への「感謝・誠実・報恩」を胸に、未来を担う人材育成や外国人労働者支援にも注力し、100年企業を目指すその挑戦とは──。
創業から建設業への転換、そしてグループ拡大
── 社長は現在、何代目ですか。
宅島 私は宅島建設の三代目です。父もグループの会長として、いまだに元気に飛び回っています。社長に就任したのは2010年、39歳の時でした。
建設業全般で様々なことを手がけていますが、長崎県や雲仙市、島原半島を含む地元の公共工事に数多く携わらせていただいています。民間工事では建築を主体としており、匿名で工事を発注いただくこともあり、これが当社の強みだと感じています。地元の人々に育ててもらったという思いが、当社の根底にあります。宅島建設では建築の比率が70%を占め、そのうち民間工事が8〜9割を占めます。
当社には「地域に育てていただいた」という思いがあり、恩返しをしたいという気持ちが強いので、地域振興にも力を入れています。
実際、私が小さいころから、お祭りの花火協賛など、様々な地域活動をおこなっていたのを覚えています。長崎県の中学校世代のサッカー大会「宅島グループ杯 長崎県ジュニアユースサッカー選手権大会」は、今年で33回目を迎えます。若い世代の育成を応援したいという思いがあります。また、昨年からはお年寄りの皆さんへの感謝を伝えるため、グラウンドゴルフ大会も開催しています。
── これまで経験された中で、最も大きな壁や困難だったことは何ですか。
宅島 私自身はあまり困難を感じるタイプではないのですが、建設業は政権交代などの影響で厳しい時期が何度かありました。受注が厳しく、売り上げが上がらない、利益も出ないという時は、やはり厳しかったという思いがあります。
そのような中でも、社員の皆さんが誰一人として会社を離れることなく、文句一つ言わずに付いてきてくれたことが大きかったと思います。特別なことでつなぎとめていたわけではありませんが。
従業員数は今、宅島建設単体で約100人ですが、宅島グループ全体では現在約500人です。当社の歴史をたどると、今でいうM&Aのような形で、様々な業種の会社がグループに加わってきました。40年、50年前からそうした動きが繰り返されてきたのです。観光バス会社やプロパンガス会社など、様々な会社が当グループに加わっています。
私たちが立ち上げたというよりも、既存の会社がグループに入ってくるという歴史がずっと繰り返されてきました。背景には後継者不足などの様々な事情が当社に持ち込まれたことがあります。
アフターケアの積み重ねで信頼を築く
── 建設業、建築業の市場自体の成長性について、どのようにお考えですか。
宅島 ある程度整備されたとはいえ、道路の新設や維持管理の必要性は今後も続きますし、将来的に建設業がなくなることはないと考えています。建築においても、老朽化した建物の再開発は都会だけでなく長崎でも進んでおり、今後もこの動きは続くと見ています。
一方で、いつどこで起こるか分からない災害への対応は、地元の建設会社として重要な役割です。
土木工事は公共工事が中心ですが、昔のように話し合いで調整する時代は終わり、今は役所との特別な付き合いはまったくありません。したがって、民間の営業に力を入れています。建物の引き渡しで終わりではなく、むしろ引き渡し後のアフターフォローをしっかり行うことに注力しています。実際、継続受注が多く、お客様から取引を打ち切られることはなく、長くお付き合いいただけることがありがたいですね。
その理由としては、不具合が見つかった際にすぐ対応できる体制を整えていることではないでしょうか。現場でその場で解決できることはすぐに処理し、検討が必要な場合は解決策を練って提案し、実行する。この繰り返しです。お客様が困っている時に、すぐに電話対応できることは大切だと考えています。
── 複数社の中から御社が選ばれる場合、お客様はどのような点を評価されるのでしょうか。費用だけでなく、他の要素もあるかと思います。
宅島 お客様によって評価のポイントは異なります。単純に安さを求めるお客様もいれば、「安かろう悪かろう」では困るというお客様もいます。
当社としては、引き渡し後も長いお付き合いをしたいということをお伝えしています。建物はメンテナンスが不可欠ですから。長期的な関係につなげるためには、事前のフォローが重要です。丁寧に説明し、こまめに顔を出し、営業担当者自身の信頼をまず築くこと。そして受注からアフターフォローまでの一連の流れを受注前の段階でしっかり説明し、信頼関係を構築することが大切だと考えています。信頼は地道に築いていくしかありません。
地域活動の源は「感謝・誠実・報恩」
── 今後の商品やサービスのブラッシュアップについて、お客様との接し方や、小さな課題をどのように改善していくのでしょうか?
宅島 社員一人ひとりの力が会社の魅力につながると考えています。社員が人間力を磨き、成長できる場を提供し続けることが重要です。
── 現在の新しい取り組みには、どのようなものがありますか。
宅島 建設業の魅力を伝えるため、これから社会人になる若い世代へのアプローチを始めています。特に売り上げの7割を占める建築は、お客様に大きな決断をいただくため、事前に会社の名前を刷り込んでおく必要があります。
それぞれの年代に合わせた対策を講じています。幼稚園や保育園には、サンタに扮した社員がプレゼントを届ける活動を20年以上続けています。小学校では出張授業、中学校・高校ではラジオで情報発信、大学生はインターンシップで受け入れています。
また、ご高齢の方にはグラウンドゴルフ大会も開催するなど、すべての年代の方々に向けた活動を懸命に考えて実行しています。
事業として結果が出るとしてもずいぶん先のことでしょう。それでもこうした活動をするのは、当社の経営理念である「感謝・誠実・報恩」に基づいています。今後さらにこの活動を加速させていきます。
背伸びせず、自然体で地道に……
── 御社の組織面での強みと課題を聞かせてください。
宅島 組織の強みは、創業から社員を家族ととらえ、充実した福利厚生を提供している点です。特に少子化が進む中で、出産祝いは1人目10万円、2人目20万円、3人目30万円と増額したいと考えています。
また、勤続40年を超えるベテラン社員が多く、彼らが会社をけん引していることも強みです。一方で、この経験とノウハウを次の世代にどうつなぐかが課題です。
また、当社だけでなく業界全体が抱える人材不足という課題もあります。当グループでは約20人の外国人労働者がおり、この春からはベトナム出身の女性スタッフが彼らの生活支援や日本語学習のケアを担っています。この外国人労働者への支援体制と、全世代へのアプローチという二つの取り組みが、当社の他社と異なる点だと考えています。
── 20代、30代の採用もされていると思いますが、組織構成としてはベテランが多いのでしょうか。
宅島 いえ、当社の平均年齢は40歳少しです。各年代がバランス良く、むしろ若い人が多いかもしれません。長年会社を支えてきたベテランが各部門の中心にいることが強みです。
── 最後に、今後の経営や事業の展望について教えてください。
宅島 背伸びせず、自然体で地道に事業を進めていきたいです。やはり人が財産です。私はいつも社員に「早く寝て、睡眠をしっかり取ること」を伝えています。体が一番大切ですから。
長崎県、島原半島、雲仙市は本当に素晴らしいところです。自然も温泉も美しく、山の幸、海の幸も豊富です。全国の出身者にはぜひ帰ってきてほしいですね。
- 氏名
- 宅島 寿孝(たくしま としたか)
- 社名
- 宅島建設株式会社
- 役職
- 代表取締役

