「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」をミッションに、M&Aプラットフォームを軸に多角的な事業を展開している株式会社M&Aクラウドは、創業当初の逆風を乗り越え、ファーストムーバーとして市場をけん引してきた。在学中の起業も経験した及川厚博代表取締役CEOに、M&A市場の変遷、スタートアップM&Aの成功要因、経営者としての哲学、そして今後の展望について聞いた。M&Aが経営の不可欠な選択肢となる時代において、同社が目指す未来とは──。
逆風を乗り越え、ファーストムーバーとして市場をけん引
── これまで多くのサービスをリリースされていますが、どういったものがあるのでしょうか。
及川氏(以下、敬称略) 当社の事業変遷は、2018年4月にM&Aクラウドというプラットフォームの立ち上げから始まりました。これは、買い手企業が実名で買収ニーズを公開し、売り手がエントリーするM&A版リクナビのようなサービスです。
その後、大規模案件の売主からの要望に応え、M&Aアドバイザリーチーム「MACAP」を設立。また、プラットフォーム上でマイノリティ出資のマッチングが多数成立していたことから、スタートアップ向けの資金調達プラットフォーム「資金調達クラウド」を立ち上げました。
さらに、M&Aアドバイザーのフリーランス化の波をとらえ、「M&Aクラウドエージェント」を展開。2024年末には、M&A仲介会社向けにプラットフォームを開放する「M&Aクラウド for Advisors」をリリースし、M&A領域で多角的な事業展開を進めています。
── 創業当初、同業他社などから強い反発があったそうですね。
及川 買い手を掲載するサービスを開発する際に反発がありましたね。もともと、前例のないサービスでしたので、反対されることは予測していました。
しかし、人材や不動産といった他業界にメディアが存在するのにM&A業界にはない構造に疑問を感じ、必ずメディア化が進むと確信していました。私自身のM&A経験からも、このサービスが必要だと強く感じたのです。
買い手企業へのヒアリングでは、ソーシング費用や手数料を抑えたいニーズが多く、CFOの力が強いグロース市場の企業からは「案件さえあれば買収できる」という声も聞かれました。売り手側のリテラシーも高まり、M&Aが成立するセグメントは確実に存在すると考え、事業を始めました。
当社の強みはM&Aプラットフォームそのものです。プラットフォームを基盤に多角的な事業を展開し、効率的なマッチングを実現。買い手企業を実名で掲載することで、売り手への信頼性の高い提案もできます。
成長要因は、M&A市場が成長産業であること、そしてファーストムーバーとして世の中にないサービスを先行提供してきた点です。他業界の成功モデルをM&A業界に適用する「タイムマシン経営」のようなアプローチで、いち早くシェアを獲得できたことが、当社の強みであり成長を支えてきました。バトンズのようなプラットフォームとは、事業承継の小型案件とIT系・大型案件というすみ分けができており、共存しています。
スタートアップM&Aの成功要因と市場の変化
── プラットフォーム運営を通じて見えたことはありますか?たとえば成功するM&Aに共通する企業カルチャーや、成功しやすいシナジーのパターンなど。
及川 スタートアップM&Aの成功には、“買い手ありき”という点がきわめて重要です。事業承継型M&Aが明確な評価基準があるのに対し、スタートアップは赤字でも株価が高いケースが多く、買い手とのシナジーがなければ正当化できません。売り手が「成長のために買い手のアセットを活用したい」と考えている場合の方が、M&Aは成功する傾向にあります。
また、日本のスタートアップM&Aは増加傾向にあります。2013年頃に組成された多くのVCファンドも現在満期を迎えつつあり、投資先を売却せざるを得ない状況です。
また、IPOにおける時価総額100億円問題もあり、M&Aを選択する流れができています。グロース市場の時価総額100億円前後の企業は、買収によって企業価値を高めなければならず、経営方針含めて買収ニーズが高まっています。
その他にもM&A仲介市場では、仲介会社が増えすぎたことで単価が下がり、業績が芳しくない企業も見られます。そのため、M&A仲介やアドバイザーを「卒業」し、買い手企業の買収担当として事業会社へ転職する人が増え、買い手側が買収機能をインハウス化する流れが来ています。
経営者としての強みは「志にピュアであること」
── 経営者としてのこだわりや大切にしていることを教えてください。
及川 経営者としての私の強みは「志にピュアであること」です。経営者として「こうしたい」という志に対し、とことん純粋に取り組むことを大切にしています。
世の中の社長は純粋ではないと感じることがあり、たとえば志を達成するうえで、そんなにゴルフをする必要があるのか、もっと成長を重視し優秀な人材を積極的に採用すべきではないか、といった疑問を抱くことがあります。そうした志に対して純粋に取り組むことを心がけており、それが私の強みです。
もう一つは「逆算思考」です。日本の経済の未来像を描き、M&A業界が他業界の進化をたどる形でどのように進化するかを見立てます。その中で、どのような事業やアセットを持つ会社が成功するかを他業界の事例も踏まえて予測し、それを基に組織を構築し、事業を創出していくアプローチです。
課題としては、未来を見据えすぎた発言で周囲がとまどうことがある点です。また、市場変化に対応して戦略を素早く調整し、組織をあわせることをドラスティックかつスピーディーに実行しすぎると、組織がカオス状態になりすぎてしまうことです。
それこそ、まさに今現在、100人の壁を乗り越えている最中です。当社のようにM&A領域で次々と新規事業を立ち上げ、プラットフォームビジネスのプロダクト開発カルチャーとM&Aアドバイザリーの営業カルチャーを社内で両立している企業は珍しく、これが成長の原動力である一方で、時には弊害を生む原因にもなってしまいます。何をどこまで共通化し、何を共通化しないかを明確に定めることがきわめて重要だと考えており、新たな組織軸のアップデートに取り組んでいます。
M&A市場の未来とM&Aクラウドの展望
── 今後の展望を教えてください。
及川 M&A仲介業界がレッドオーシャン化し、買い手側でインハウス化が進む一方で、日本のM&A件数自体は過去最高を更新しています。仲介は厳しい状況ですが、プラットフォームは伸びるという構造です。
当社はプラットフォームをさらに拡大していきたいと考えており、買い手企業向けに新たなM&Aプロダクトを開発したり、仲介会社向けのプロダクトも強化していくことを検討しています。人材業界や不動産業界で個人エージェントが乱立しているように、M&A仲介業界でも同様の「ロングテール化」が進むと予測しています。そのため、小規模なM&Aアドバイザーや仲介会社を強力に支援するプロダクトを開発し、M&Aプラットフォームを大きく成長させていきたいです。
また、PMI領域について、当社が直接的なサポートを提供しているわけではありませんが、M&Aクラウドは買い手と売り手が直接マッチングできるため、仲介を挟まずに踏み込んだ質問ができる利点があります。
M&Aで失敗する要因として多いのは、高値づかみによる減損と経営陣の離脱が挙げられます。どちらの問題についても、直接話し合い、踏み込んだ質問も可能なプラットフォーム環境が解決につながることがあると考えています。
── M&Aを考えている経営者や、M&Aの事業に関心があるビジネスパーソンに伝えたいことはありますか?
及川 M&Aを初めて検討する経営者の方々には、M&Aの入門編としてM&Aクラウドをぜひ活用していただきたいです。多数の案件が掲載され、100社以上のM&A仲介会社も利用しています。ご自身のM&A戦略を具体化する前に、どのような案件が市場に出ているのかを把握することがきわめて重要です。
M&Aによる買収で会社を成長させることは、今後の経営において不可欠な要素となるでしょう。ご自身が「何のためにM&Aをするのか」を深く考え、M&Aクラウドを気軽に利用していただきたいです。
現在、当社は採用活動も全方位で積極的に行っています。M&Aとテクノロジーを両立している企業は珍しく、成長領域にテクノロジーを導入して事業を進めることはきわめて面白い分野です。
今後、独立、転職、VCファンド進出など、どのようなキャリアを歩むにしても、M&Aの知識はあらゆる場面で役立ち、市場価値を大きく高めることにつながるでしょう。M&Aはきわめて面白い領域です。M&Aクラウドに興味をお持ちなら、ぜひ仲間になって欲しいです。
- 氏名
- 及川厚博(おいかわ あつひろ)
- 社名
- 株式会社M&Aクラウド
- 役職
- 代表取締役CEO

