深刻化する日本の労働力不足に対し、外国人材の活用が課題となっている。しかし、その採用や定着には多くの企業が課題を抱えている。トクティー株式会社が運営する在留外国人材に特化したマッチングプラットフォーム「トクティー」は、なぜこの分野で強みを発揮できているのか。そもそもなぜ、杉原尚輔代表はこの分野で起業したのか。経緯から事業の強み、そして外国人材が日本経済にもたらす可能性について聞いた。
企業サイト:https://corp.tokuty.jp/
目次
副業で英語deダンス教室を運営、応募してきたフィリピン人女性の転職を手伝った結果……
── 社会課題に関心を持ったきっかけから教えてください。
杉原氏(以下、敬称略) もともと政治家だった父の背中を見て育ち、選挙の手伝いなどもする中で、公的な仕事に興味を持ったのが始まりです。社会に対して何か貢献したいという思いが根底にありました。
政治家や公務員になることも考えていましたが、大学院在学中に経験したリーマン・ブラザーズでのインターンや英国留学を通じて、ビジネスの世界で営業力をつけることも選択肢として見えてきました。外資系金融は大変な仕事だと聞いていましたが、成果を出せば一人前の社会人になれる近道だと考え、そのキャリアを選びました。
外資系企業では、成果にコミットすることが強く求められます。これは企業経営に似ており、自分ごととして取り組まなければポジションを失うという環境が、今のキャリアにつながる貴重な経験となりました。
── 社会課題の中でも、特に労働力不足と外国人材という分野に注力された理由は?
杉原 2015年、起業する1年前に外国人材市場に着目しました。2014年から2016年の2年間、ドイツ証券で働きながら副業で子供たちに英語でダンスを教える事業をしていました。その時、フィリピン人女性のアナさんが講師として応募してくれました。採用できなかったのですが、彼女は熱意のある方で、一緒に日本で就職活動を手伝ってあげました。その際、外国人向けの求人サイトがほとんどないことに気づきました。
この小さな出来事から、外国人材市場に大きなチャンスがあると感じました。国の政策を勉強をしていたこともあり、日本の人手不足が今後さらに深刻化することは見えていました。経験のない人材業界でしたが、この市場に挑戦したいと思い始めたのがきっかけです。点と点がつながった感覚でした。
在留外国人材に特化した独自のプラットフォーム
── 「ボーダレスでフェアに働ける環境」を掲げていますが、現在の日本における外国人の方の労働環境には、どのような課題があると考えいますか?
杉原 起業した当時と比べると、今はかなり改善されていますが、起業当時は外国人に対する偏見が強くあり、同じ仕事をする場合でも、想定される時給が異なるという状況がありました。
しかし、今はそのようなことは言っていられませんし、同一労働同一賃金という考え方も浸透しています。そもそも、ノンデスクワーク分野などでは日本人が集まらないのが現状です。したがって、外国人材の労働環境は正直、かなり改善されてきていると思います。外国人の方も良い条件で働けるようになっています。
── 御社の強みや競争優位性について教えてください。
杉原 多くの方が「技能実習」や「特定技能」の人材の採用というと、「海外から初めて日本に来る外国人材が来る」といったものを想定していると思います。建設業のように高いスキルが求められる業務もありますが、多くは海外から初めて日本に来て技能を学ぶケースです。彼らは日本語があまり得意でなく、日本の労働習慣に慣れていません。
一般的な人材会社が提供するサービスは、主に上記の海外から初めて日本に来る人材のマッチングです。しかし、トクティーの強みは、すでに日本で労働経験のある元技能実習生や、試験に合格して日本での労働経験がある特定技能人材をマッチングできることです。日本にいるため、すぐに採用後1-2ヶ月で入社し、即戦力として技術があり日本語も堪能な人材と企業をマッチングできます。これが他社にはない、我々の最大の強みです。
── 日本での労働経験がある人材をマッチングできるのは、なぜですか?
杉原 現在、約380社を超えるパートナー企業と提携しており、特定技能の求人を掲載すると、一気にそれらのパートナー企業から人材が提案される仕組みになっているからです。
これにより、通常ではなかなか見つからない在留の経験者の情報を集めることができ、企業とマッチングできるのです。供給力は一般的なサービスと比べて約130倍にもなります。
── 円安や他国の賃金上昇により、日本が外国人労働者から選ばれなくなっているという声も聞かれます。
杉原 まったくそのようなことはありません。日本は依然として選ばれています。たとえば、東南アジアで比較的発展しているベトナムは、今現在も、日本に最も多くの特定技能人材を送ってくれています。ベトナムの新卒の月給が約5万円程度であるのに対し、日本に来れば20万円程度から始まり、スキルがあれば30万円、場合によっては40万円近く稼ぐ人材もいます。まだまだ「ジャパニーズドリーム」は健在です。
── 海外のパートナー企業とのネットワークが強みである一方、特定の国・地域への依存によるリスクもあるのでは?
杉原 一般的な特定技能に特化した人材会社は、ベトナムとインドネシアの合計5社程度とつきあっているケースが多いです。
しかし、我々はベトナム、ミャンマー、ネパール、インドネシア、フィリピン、カンボジアなど、かなり幅広い国と提携しており、リスクを分散しています。地政学リスクは少ないと考えています。
緩和が進む在留資格制度と日本経済の未来
── 法的な規制、特に在留資格制度の要件厳格化などへの備えはどうしていますか?
杉原 全体としては緩和が進んでいます。2023年度までは特定技能の分野が12分野でしたが、2024年度より物流、林業、木材加工、鉄道の4分野が追加されました。
さらに2027年度には、産業廃棄物、倉庫、ホテルなどのリネンサプライ・クリーニングの3分野が追加されることも決まっています。本当に人手不足が深刻なので、緩和は今後も進むでしょう。
最後に、もともと建設と造船分野のみだった特定技能2号が、2024年度から全分野に広がったことです。特定技能2号は、難しい試験に合格する必要がありますが、在留期間の制限がなくなり、永住権も取得できる在留資格です。これは大きな変化です。
直近の選挙でも移民労働者に関する議論がありましたが、外国人材がいなければ日本経済はもはや回りません。不動産投資規制やルールの厳格化という話はありえますが、労働者数の制限を大幅に加えることは現実的ではないと考えています。
── 規制緩和が進むことで、他社の参入も増える可能性があるのでは?
杉原 既存の人材会社モデルは今後も増えるでしょうが、我々のプラットフォームは日々磨き込み、ユーザーエクスペリエンスを高めていますので、そこが競争優位性になると考えています。
また、特定技能人材はマッチング後の管理、つまり定期訪問や面談、教育といったフォローアップが必須です。我々はそういった部門のサービス拡充にも力を入れています。たとえば、特定技能2号になるための試験対策や、他社にはない手厚いフォローアップ頻度など、独自のサービスを打ち出しています。
── プラットフォーム事業ならではの難しさや課題はありましたか?
杉原 正直、大きな難しさというのはあまり感じていません。
もちろん、日々課題は発生します。たとえば、マッチング後のビザ申請書類をより効率的に作成したい、マッチング数が増えるがゆえにフォローアップがたいへんになる、といったことです。これらはエンジニアチームとともにプラットフォームのブラッシュアップを重ね、日々改善しています。
社員の半数以上が外国人。組織の多様性を力に変えるマネジメント
── 今後のマーケティング・営業戦略について教えてください。特に地方の経営者など、まだプラットフォームの存在を知らない層へのアプローチはどうするのでしょうか。
杉原 オンラインマーケティングが非常にうまくいっています。具体的な数字は控えますが、日々かなりのインバウンドの問い合わせが来ています。
加えて、多くの銀行や事業会社と事業提携を進めています。この業界でここまで提携できている会社は多くないでしょう。たとえば、JTBさんとはホテル、ぐるなびさんとは外食系といったように、多くのパートナー企業から日々リードをいただいており、潜在顧客はどんどん増えています。
エリアについては、人口の多い東京や大阪からの問い合わせが多いのは当然ですが、我々は最初から日本全国をターゲットにしています。特定のエリアに重点的にマーケティングを行うというよりは、全国展開を志向しています。
── 御社は外国籍の社員が多いそうですが、社員のマネジメントにおいて、工夫している点や苦労している点は?
杉原 我々の社員の半分以上が外国人であり、女性も多い職場です。宗教も仏教、ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教とさまざまです。そのため、文化や考え方、習慣も異なります。だからこそ、ルールは明確にすることを心がけています。誰もが理解できるようにルールを明文化するのです。
また、組織として運営するうえで、ある程度のことは言いますが、大前提として日本のやり方を押し付けすぎないようにしています。それぞれの社員にある程度の余白を持たせたまま、業務を遂行してもらう。そのような運営を心がけています。
たとえば、年功序列や残業といった日本的な慣習は、我々の組織にはありません。外国人の社員は定時で帰りますし、やるべきことをやっていればそれで良いという考え方です。私自身、以前の会社で外国人が多いチームにいた経験があるので、日本のやり方を押し付けないことの重要性を理解しています。それをやってしまうと、社員が嫌がって辞めてしまったり、パフォーマンスが低下したりするからです。我々の事業にとって、外国人材は不可欠ですから。
おかげさまで、外国籍社員の離職率はかなり低いですね。東南アジアでは平均勤続年数が短いという話も聞きますが、当社では比較的長く働いてくれています。今後も選抜を重ねながら拡大する方針です。
資金調達、DX、IPO、そしてアジアへの展開
── 事業拡大における資金調達計画も教えてください。
杉原 2021年から2022年初頭にかけてシードラウンドで資金調達を行いました。2022年から2023年は、プラットフォーム構築とテストに使う試行錯誤の時期でした。2023年末から少しずつ伸び始め、特に今年に入ってからは組織が厚くなり、事業が大きく成長しています。
以前は私がプレイングマネージャーとして先頭に立っていましたが、今は営業活動をほとんどしていません。メンバーが育ってきたことで、特にこの7月、8月あたりからトラクションが爆増しています。
ちょうど良いタイミングで、多くのVCから声をかけていただき、10月に資金調達を行うことができました。
── 今後5年程度の時間軸での構想も教えてください。
杉原 まず、ビザ関連のDXサービスを展開したいと考えています。ビザ申請は煩雑な手続きが多いので、それを効率化するサービスです。
将来的にはIPOも目指しています。IPOを実現すれば、我々が保有する在留外国人材のさまざまなデータを活用し、日本の企業が海外、特に東南アジアや東アジアに進出する際の支援をしていきたいと考えています。
我々自身が合弁会社を設立して海外進出することも視野に入れています。IPOによって資金が集まれば、東アジアや東南アジアに特化した商社のような存在になりたいですね。
── 読者の経営者の中には、外国人労働者は自社には関係ない、あるいは単純労働しかできないと考えている方もいるかもしれません。そうした方にメッセージをお願いします。
杉原 もはや日本市場だけで食べていける時代ではなくなっていくでしょう。そのため、海外進出を見据え、東南アジアや東アジアを攻めるための高度な人材を求める企業が増えています。そのような問い合わせも正直、増えています。
我々が今特化しているのは、ブルーカラーやサービス業の特定技能という領域ですが、近い将来、高度人材のマッチングも手掛ける予定です。今後、そういった人材の獲得競争は激化していくでしょう。したがって、外国人材雇用のノウハウを、それぞれの企業が早めに蓄積することをおすすめします。
- 氏名
- 杉原尚輔(すぎはら なおすけ)
- 社名
- トクティー株式会社
- 役職
- 代表取締役

