デジタルマーケティングの知見を活かし、競争の激しい化粧品D2C市場で確固たる地位を築いたエイチームウェルネス。その成長をけん引するのは、インハウス体制だからこそ実現できる圧倒的なスピード感と、「チーム力」を最大限に活かす組織文化だ。データと顧客心理を深く理解し、高速でPDCAを回し続ける同社の強みとは何か。長瀬拓也代表取締役社長に、事業成功の軌跡と今後の展望を聞いた。
企業サイト:https://wellness.a-tm.co.jp/
D2Cへの挑戦、マーケットの変化と新たな購買行動
── もともとエイチーム(現:エイチームホールディングス)の子会社であるエイチームライフスタイルが社名変更してエイチームウェルネスになったそうですね。
長瀬氏(以下、敬称略) 私は2010年にエイチームに新卒入社し、エンジニアとしてキャリアをスタートしましたが、デジタルマーケティングを担当し、現在でいう「ナビクル」や金融系メディアプラットフォームなどの集客を担い、リスティング広告やディスプレイ広告といったオンライン集客に特化した組織を作り上げてきました。
エイチームの強みであるデジタルマーケティング力を活かし、比較サイト・情報メディア等の事業領域を拡大してきましたが、市場の飽和を感じるようになりました。そんな中、女性の体調管理アプリ「ラルーン」の事業責任者を兼任することになり、ユーザー数120万人を超えるアプリのマネタイズ方法を模索する中で、D2Cビジネスに目をつけました。自社で商品を作り、ラルーンのユーザーに購入してもらうというアイデアです。
このD2C事業は、私たちのデジタルマーケティングノウハウがあれば、健康食品や化粧品分野でも成功できるのではないかという他社からの声もあり、本格的に調査したところ、大手企業もOEM先に発注して商品開発を行っていることを知り、現時点では自社にノウハウがなくても挑戦できると考え、2018年に初めて妊活サプリをリリースしました。
── リリース後は順調でしたか?
長瀬 薬機法や景品表示法への対応について、いまほど知見がなかったこともあり、広告の勝ちパターンを見いだせず、当初は苦戦しました。広告予算をかけてもCPA(顧客獲得単価)が80万円と高騰し、このままではスケールしないと痛感しました。そこで、薬機法・景品表示法を遵守した上で、ウェブマーケティングの強みを最大限に活かせる商品として、2020年3月に化粧品ブランド「lujo」を立ち上げ、ファンデーションを発売しました。これがヒットし、ブランドは徐々に成長していきました。
最初の決算期には年商1億円、翌年には年商数億円となりました。その後、現在の主力商品である「lujo ニードルセラム」がヒットし、その翌年には年商14億円、現在では年商20億円規模のビジネスへと成長しました。
私がエイチームウェルネスの代表取締役に就任したのは、この「lujo」が黒字化したタイミングです。現在は、「lujo」に加え、ターゲット層を広げるためにヘアケアブランド「レチスパ」も立ち上げています。「ラルーン」は事業譲渡済みで、現在は「lujo」と「レチスパ」の二つのブランドを中心に事業を展開しています。
── 化粧品領域は競合も多く、非常に厳しい市場かと思いますが、強みや競争優位性はどこにあると分析していますか?
長瀬 私たちの強みは、「売れる商品を作る力」と「売る力」の掛け合わせだと定義しています。「売れる商品を作る」という部分と、それをデジタルマーケティング力を活かして「売る」という両輪が強みです。より具体的に言うと、質の高いPDCAを高速で回転させられることです。
過去にデジタルマーケティングで様々なメディアを成長させてきた経験と、インハウス(内製化)でマーケター、デザイナー、エンジニアが一つの組織内にいることが大きいと考えています。たとえば、新しい広告施策を開始した場合でも、その日のうちにデータを確認し、改善点があればスピーディーにリリースできます。このスピード感が強みの一つです。
また、エイチームグループ全体の組織文化も強みです。チームワークを非常に大切にしており、情報共有が活発に行われています。マーケターの施策結果が部門内でクローズせず、全体に共有されることで、デザイナーから「こういうクリエイティブの方が顧客に響くのではないか」といった提案が出たり、エンジニアから「こういうデータが見れたら顧客理解が深まる」といった提案が出たりします。このチーム力こそが、PDCAを高速で回せる強みにつながっていると考えています。
── 大切にしている働き方や考え方があれば教えてください。
長瀬 私は社長になりたいという強い思いを持ってキャリアをスタートしたわけではありません。任された仕事に対して、期待以上の成果を出すことを心がけてきました。そうすることで、より大きな仕事を任せてもらえるようになり、それが今の立場につながっていると考えています。
経営者として最も重視しているのは、お客様からの期待に、どれだけ期待以上で応えられるかということです。これは、社内においても、お客様に対しても同じです。期待以上の価値を提供することを常に意識しています。
── その「期待以上で返す」という姿勢は、経営者としての強みにもつながるかと思いますが、ご自身の経営者としての強みについてはいかがですか?
長瀬 そうですね、お答えするのが恥ずかしいですが(笑)、先ほどの「期待以上で返す」という点につながるのですが、40年近く生きてきて、サービス精神は一つあると思っています。社内外問わず、相手が期待していなかったレベルまで応えることで、驚きや喜びを生み出せると考えています。想像を超えた商品やサービスを提供することで、お客様に喜んでいただくことができ、それが会社の成長にもつながると信じています。
また、柔軟性も強みだと考えています。社内では、メンバーからの提案に対して、誰が言ったかではなく、フラットに意見を受け止め、自身の情報や判断軸と照らし合わせて、良い点や改善点を検討します。化粧品業界やデジタルマーケティング業界はトレンドの移り変わりが激しいですが、そうした変化に対して、私自身も組織も柔軟に対応できます。
そして、ミッション達成のために「やりきれる」ことも強みです。あきらめが悪く、負けず嫌いなので、目標に対しては徹底的にやり抜くことができます。これは、幼少期に両親から厳しく育ててもらった経験や、なんでも器用にできる弟の影響もあり、物心ついた頃から負けず嫌いだったことが大きいかもしれません。
データ活用とプロダクト開発へのこだわり
── 化粧品市場は変化が激しいですが、今後のマーケットはどのように変化していくと考えていますか?それに対して御社はどのように対応していくか教えてください。
長瀬 化粧品市場全体としては、コロナ禍で一時的に落ち込みましたが、その後は右肩上がりですし、市場規模は拡大していくと考えています。EC化率も上昇しており、私たちのようなD2C企業にとっては戦いやすい市場になっていくでしょう。
一方で、薬機法や景品表示法等の法令が厳格化していくことで、デジタルマーケティングの難易度は上がっていくとも感じています。
特に、SNSの進化は顧客の購買行動に大きな変化をもたらしています。もはやSNSを使わない人はいないと言えるほど普及しており、このプラットフォームの成長や変化に乗り遅れないことが重要だと考えています。
今後は、TikTokショップのような新しいプラットフォームの活用も不可欠になると考えています。ライブコマースもさらに増えると予想していますが、そこでも私たちの強みであるPDCAの高速回転が応用できると考えています。
── マーケティングで最も成果が出ているチャネルや手法、データ活用における御社ならではの強みはいかがですか?
長瀬 安定して成果が出ているのはMeta(旧Facebook)ですね。一方で、安定はしないものの、成果が出るときは非常に大きいのがLINEです。LINEは、Amazonプライムセール、楽天スーパーセールといった大型セール期間中の広告出稿の影響を受けやすく、CPAが高騰することもあります。アルゴリズムもまだ習熟していない部分があると感じています。
しかし、Yahoo!とLINEの統合が進み、広告管理画面の統一が進む動きがあります。 この変化は、私たちのPDCA高速回転という強みを活かし、いち早くアルゴリズムを把握し、競合優位を築くチャンスだと捉えています。
AIの発展も大きく影響しています。GoogleやMetaでは、AIを活用した広告運用が主流になってきており、もはや人手を介さなくても運用できるレベルに達しています。私たちは以前からAIの活用を予測し、積極的に新しい自動化機能を導入してきました。その結果、人が時間を費やすべきはクリエイティブやLP(ランディングページ)の改善に集約されてきています。この「変わらない価値」に注力できることも、私たちの強みとなっています。
── 商品の開発やこだわり、工夫されている点はいかがですか?
長瀬 私たちは、とにかくテストをスピーディーに繰り返すことを重視しています。まず、「この商品が売れるのではないか」と考えたら、OEM先に試作品を製造いただき、社内アンケートを実施します。まずエイチームウェルネスのメンバーで試し、良い試作品ができたらエイチームグループ全体から協力を得て、非常に多くの意見を集めます。
たとえば、「lujo」のファンデーションやニードルセラムを開発する際も、130人ほどのメンバーに1ヵ月ほど試用してもらい、使用感などを細かくアンケートしました。その結果は、実際に世に出した際の顧客の反応と近い傾向を示すことが分かっています。
社内アンケートで良い感触が得られたら、パッケージデザインも社内で複数パターン作成し、マクロミルなどのアンケートツールを用いて、社外でのテストを行います。その際は一般的に販売基準とされる購入意向スコアよりも高い基準を設け、その基準をクリアした商品のみを販売開始しています。
私自身も「lujo」の商品を愛用しており、顧客のLTV(顧客生涯価値)ランキングでも上位に入るほどです。これは、美容への意識というよりも、自分が体験して良いと思ったものを、お客様にも届けたいという思いからです。
商品を持つことがステータスになるようなブランドへ
── 今後の組織体制について、どのように考えていますか?課題感についても教えてください。
長瀬 エイチームウェルネスの組織文化は、エイチームグループで定義されている共通の価値観である“Ateam People”に合致するメンバーが集まっていることが強みです。
結果として、リーダーシップとフォロワーシップを両方持ち合わせているメンバーが多いことが特徴です。指示待ちになりがちなフォロワーシップ重視の人材や、自分の意見を押し通しがちなリーダーシップ重視の人材が多い中で、私たちのメンバーは、リーダーとしてチームを巻き込みながらミッションを達成できる能力を持っています。今後も、このような人材を採用・育成していくことが、成長にとって最も重要だと考えています。
事業拡大に伴い、人員も増やしていきたいと考えていますが、その上で重要になるのが次世代のマネージャー候補の育成です。適切な裁量をメンバーに与え、シンプルに事業成長に取り組める環境を作っていくことが、採用力や競合優位性につながると考えています。
一方で、AIの進化は目覚ましく、優秀な秘書やアシスタントがいるような感覚で、一人で一つのブランドを立ち上げ、グロースさせることも可能になってくるかもしれません。究極的には、ブランドマネージャーしかいない組織という形も考えられます。AIをうまく活用することで、将来的には最強の組織が作れるのではないかと考えています。AIの活用と、マネージャー候補の育成による地に足のついた組織戦略を並行して進めていきたいと考えています。
── AIの進化によって、従業員の働き方や組織のあり方も大きく変わっていく可能性があるのですね。
長瀬 はい。AIの進化によって、社員の仕事がなくなるというよりは、むしろAIを活用して、より効率的に、より高い成果を出せるようになるという考え方が浸透しています。社員一人ひとりが、自分の仕事をただAIに置き換えるのではなく、AIを活用してさらに効率化し、新たな価値を生み出すことに注力できる環境を目指しています。
── 今後の事業拡大について、5年後、10年後のビジョンを教えてください。
長瀬 私たちのミッションは、「心くすぐる、ウェルネス体験を。」提供することです。デジタルマーケティングを通じて、お客様の解像度を高く持つことができるようになることで、お客様が本当に求める「良い商品」を作って提供し続けることができると確信しています。
今後5年、10年という期間では、「lujo」と「レチスパ」のさらなる成長はもちろん、新たなブランドも立ち上げていきたいと考えています。そして、お客様一人ひとりの個性をより豊かにしていくことを目指します。
現在、小売展開も進めており、「lujo」も「レチスパ」も、第一歩を踏み出せました。これにより、より多くのお客様に私たちの自信作をお届けしたいと考えています。
また、私たちの商品を持つことがステータスになるようなブランドへと成長させたいです。デジタルマーケティング、特に定期販売という手法だけでは、お客様に「詐欺っぽい」というイメージを与えてしまうジレンマがありました。
しかし、小売展開を通じて、お客様が自信を持って友人におすすめできるような、使用していることが誇らしい気持ちになれる商品を提供していきたいと考えています。
お客様との対話を大切にし、いただいたお声を商品やサービスに生かしていくことを5年、10年と継続することで、年商100億円規模の企業へと成長させることができると確信しています。
- 氏名
- 長瀬拓也(ながせ たくや)
- 社名
- 株式会社エイチームウェルネス
- 役職
- 代表取締役社長

