地域コミュニティアプリ「ピアッザ」を運営するPIAZZA株式会社。創業から10年、当初の広告モデルから「まちづくりプラットフォーム」へとビジネスモデルを大きく転換させ、大手デベロッパーや国からも注目を集める。その急成長の裏には、顧客との対話から生まれた事業ピボットと、テクノロジーとリアルを融合させた独自の戦略があった。地域社会が抱える課題を解決し、人と人が支え合う「新たな時代のインフラ」を目指す同社の野望に迫る。
目次
広告モデルから「まちづくりプラットフォーム」へ
── 創業から10年経ち、ビジネスモデルが大きく変わってきたとうかがいました。
矢野氏(以下、敬称略) 創業当初は、地域コミュニティプラットフォームに広告を掲載いただくメディア事業を主軸としていました。これは、フリーペーパーやチラシといった紙のローカルメディアをDX化する狙いがありました。
しかし、ここ数年でビジネスモデルが大きく変化し、現在は「まちづくりプラットフォーム」として、デベロッパー様などが手がける街の再開発を包括的に支援する事業が主体となっています。
── 「まちづくり」ですか。具体的にはどのような社会課題の解決を目指しているのでしょうか。
矢野 私たちが向き合っているのは、「地域の持続不可能性」です。人口減少、高齢化、そして町内会の衰退といった問題は、地方都市だけでなく都心部でも深刻化しています。これらの問題は、突き詰めると「担い手不足」「非効率」「財源確保」という3つの課題に集約されます。私たちは、これらの課題に対するソリューションを提供しています。
まず「担い手不足」に対しては、私たちが開発・運営する地域コミュニティアプリ「ピアッザ」が有効です。現在18万人以上のユーザーがいますが、住民同士の情報交換だけでなく、町内会の担い手探しや地域企業の求人など、地域の人材プールとしての役割を担い始めています。
次に「非効率」という点では、地域の運営にはまだまだテクノロジーの介在価値があると考えています。例えば、街の掲示板に貼られているイベント情報を、スマートフォンのカメラで撮影してアップロードするだけで、自動的にデジタル化・構造化し、要約やマップ表示まで行う技術で特許を取得しました。このように、地域のアナログな部分をテクノロジーでアップデートしています。
そして三つ目の「財源確保」については、私たちが提供する「ピアッザ」やコミュニティ施設、地域の不動産に設置したデジタルサイネージなどを活用し、ユニークな広告媒体を開発しています。そこで得た収益の一部を地域に還元することで、持続可能な活動の財源を生み出しています。これらの取り組みを通じて、持続可能なまちづくりを実現したいと考えています。
創業の原体験は、見知らぬ隣人の優しさ
── そもそも、矢野社長がこの事業を始めようと思われたきっかけ、原体験について教えていただけますか。
矢野 大学時代に土木や都市計画を学んでいたこともあり、もともと「まちづくり」には強い関心がありました。直接のきっかけは、二人目の子どもが生まれた直後に事故に遭ってしまったことです。個人的に非常に大変な時期だったのですが、そのときに助けてくれたのが、同じマンションに住む、顔も名前も知らないご近所さんでした。
この経験を通じて、グローバルにつながれる現代において、すぐそばにいる地域の人やサービス、自治体の情報などを意外に知らないという課題を痛感しました。昔の、それこそ縄文時代から都市には「広場」という機能がありましたが、現代の都心で物理的な広場を作るのは簡単ではありません。だからこそ、デジタル上に現代の「広場」を創りたい。そんな思いでこの会社を創業しました。
顧客の声が導いた、BtoB事業への転換
── 創業時の思いから、デベロッパーなどを主な顧客とする現在のBtoB、あるいはBtoG(自治体向け)の事業モデルへ転換されたのは、どのような背景があったのでしょうか。
矢野 お恥ずかしい話、私自身もこの展開はあまり想定していませんでした。もともとは、地域住民の方々には無料でプラットフォームを提供し、地域の広告市場のDX化でマネタイズできると考えていました。
しかし、事業を進める中で、私たちのプラットフォームが「まちづくり」という文脈で非常に価値がある、とお客様から気づかせていただいたのです。ある時期から、大手デベロッパー各社様から「ピアッザはこんなことに使えないか?」「こんなことはできないか?」といったお問い合わせが急増しました。お客様の課題に向き合い続けた結果、自然と現在の事業モデルにたどり着いた、というのが正直なところです。
── 具体的にはどのようなニーズがあったのでしょうか。
矢野 近年、首都圏を中心に街の再開発が活発ですが、国や自治体はデベロッパーに対し、単に建物を建てるだけでなく、賑わいの創出や防災機能の整備といった「地域貢献」を求めるようになっています。これは「エリアマネジメント」と呼ばれるソフトのまちづくりですが、この活動を行うことで、ハード面で建物の容積率が緩和されるといったメリットがあるのです。
ただ、デベロッパー様がこれらの活動をすべて自社で行うのは簡単ではありません。そこで、私たちのプラットフォームが注目されました。「ピアッザ」を活用すれば、地域住民を巻き込んだイベントの企画・運営や、情報発信が効率的かつ大規模に行えます。住民と街の作り手であるデベロッパーとの関係性をより密接にし、親和性を高めることができるのです。
唯一無二の「一気通貫」ソリューション
── 市場における貴社のポジションや、競合との差別化について、どのように分析されていますか。
矢野 まず、地域住民のユーザー様から見た場合、例えば不用品の譲り合いができる「ジモティー」さんと比較されることがあります。ただ、ジモティーさんがモノの取引に特化しているのに対し、「ピアッザ」はあくまで地域住民同士のコミュニケーションが主体です。「おすすめの整骨院は?」「子どもの習い事は?」といった日常のやり取りや、自治体からの情報収集などが中心であり、似ているようで提供価値が異なります。
一方、BtoBのエリアマネジメント業界では、まちづくりコンサルティング会社やイベント運営会社などが競合となり得ます。しかし、この業界の業務は都市計画の立案から、実際のコミュニティ施設の運営、その後の展開までと非常に幅広く、これらを一気通貫で提供できるのは、私たちの知る限りでは弊社だけです。通常であれば3社ほどに分割して発注される業務を、弊社なら1社で、しかも「ピアッザ」というデジタルプラットフォームを核にすることで、経済的にも効率的にも展開できる。この点がお客様から高く評価されているポイントだと考えています。
次なる一手は「地域の人材」の流動化
── 事業が大きく成長した要因は、やはりデベロッパーとの取引拡大にあったのですね。今後の事業展開について、現在注目しているトピックはありますか。
矢野 はい。今、私が最も価値を感じ始めているのが「地域の人材」です。実は、「ピアッザ」の利用者には「地域で働きたい」と考えている方が非常に多くいらっしゃいます。これは私たちにとっても偶然の発見でした。
現在、弊社は正社員20人ほどですが、8つのコミュニティ施設運営(現在は5施設で稼働中)や多数のプロジェクトを自社開発のプロダクトで回せています。なぜこれが可能かというと、「ピアッザ」を通じて地域の方々にスタッフとして協力していただいているからです。「地域に貢献したい」「空いた時間で少しだけ働きたい」という潜在的なニーズは、私たちが考えている以上に大きい。
この仕組みを、今後は自治体様や企業様向けに展開していきたいと考えています。公園の水やりやマンションの清掃など、地域には人手不足の仕事が溢れています。テクノロジーで効率化する側面ももちろんありますが、地域に眠っている力を活用することで、新たな価値を生み出せると確信しています。まさに「地域の人材事業」が、私たちが次に取り組むべき領域です。
── ウェットな人間関係を重視する、ある種ノスタルジックなコミュニティを目指しているのかと想像していましたが、少し違うようですね。
矢野 ええ、まったく違います。実を言うと、私自身が人見知りで、密なご近所付き合いは得意ではありません。四六時中、誰かと話したいという欲求もない。だからこそ、このサービスを作ったのです。
私のような人間でも、いざという時に地域とつながれる手段がスマートフォンの中にあれば、すごく助かるじゃないですか。ぎっくり腰になった時に、近所の評判の良い整骨院を教えてもらえる。必要な時に、必要な分だけ、都合よく地域にアクセスしたい。それが現代人の本音だと思うのです。
私たちは、昔ながらの濃密な関係性を強制したいわけではありません。むしろ、そうした付き合いが苦手な人でも、ライトに関わり始められる「きっかけ」を提供したい。芝刈りのグループに参加してみたり、お祭りで神輿を担いでみたり。関わりたい時に、関わりたい分だけ。それが、私たちが目指す「令和の時代のご近所付き合い」です。
上場を見据え、社会インフラとしての成長を目指す
── 地域社会のインフラとして、唯一無二のポジションを築かれました。この先、どのような成長曲線を描いていこうとお考えですか。
矢野 サービス面では、まちづくりプラットフォームとして、地域にあるさまざまな資産の流動化を手がけていきたいと考えています。組織面では採用を強化し、将来的にはIPO(新規株式公開)も視野に入れています。資本市場にアクセスすることで、M&Aなども含めたより大きなスケールで地域課題の解決に取り組める体制を築きたい。地域に関わる企業が一丸となって社会に向き合える、そんな未来を創っていきたいです。
私たちは、これからの「建てるだけではない、持続可能なまちづくり」を定義していく会社です。建物を建てた後の「運用」フェーズがますます重要になる時代、そこにテクノロジーを駆使して新たな価値を提供していきます。事業連携でも、サービスのご利用でも、あるいは先輩経営者の皆様からのアドバイスでも、どんな形でも構いませんので、私たちの挑戦に少しでもご関心をお持ちいただけたら、これほどうれしいことはありません。
- 氏名
- 矢野晃平(やの こうへい)
- 社名
- PIAZZA株式会社
- 役職
- 代表取締役CEO