この記事は2025年11月14日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「都心6区のオフィス空室率低下で、企業の移転先確保が困難に」を一部編集し、転載したものです。


都心6区のオフィス空室率低下で、企業の移転先確保が困難に
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当社は、ビルオーナー等から取得した募集データをもとに、2023年8月以降の都心6区(渋谷区、千代田区、新宿区、港区、中央区、品川区)における区別の空室率(募集ベース)を調査した。その結果、全エリアで空室率が低下傾向にあることが明らかとなった(図表)。25年8月時点では、特に渋谷区が0.9%、千代田区と新宿区が1.4%と空室がほとんどなく、移転先の確保が困難な状況となっている。

なかでも、最も空室率が低い渋谷区はかつて「ビットバレー」と呼ばれた歴史を持ち、現在もIT企業やメガベンチャーが集積する人気のオフィスエリアとなっている。若者文化の発信地としての魅力に加え、複数路線が交差する交通利便性、ベンチャーキャピタルや同業他社との交流機会の豊富さなどが評価されている。近年竣工した「渋谷スクランブルスクエア」や「渋谷ストリーム」といった大規模再開発ビルも満室状態が続いており、当社に対する募集の問い合わせも多数寄せられている。今後もこの傾向は継続し、空室率は低水準が維持されると見込まれる。

千代田区では「大丸有(大手町、丸の内、有楽町)」エリアを中心に空室率が低下しており、企業ブランド力の向上に資する立地として高い評価を受けている。当社と三菱UFJ銀行が実施したインターネット調査(注)では、オフィスワーカーと就活生が「大丸有」エリアを働きたい街の1位に選んだ。交通アクセスの良さや複合施設の充実も人気の要因であり、渋谷区よりも賃料水準は高いものの、今後も低空室率が続くとみられている。

新宿区では、25年5月以降に空室率が大きく低下した。代表的なオフィス街である「新宿」は、JR、地下鉄、私鉄が集まるターミナル機能に加え、行政・商業・文化など多様な都市機能が集積している点が特徴である。1980年以前に竣工した大型ビルも床不足の影響で空室率が急速に低下しており、今後5年間の大型新築オフィスビルの供給が限定的であることから、低水準の空室率が継続すると見込まれる。

このほか、港区、中央区、品川区においても同様の傾向が見られる。また、新築ビルの建築費の高騰により、採算が合わずに延期・中止となるプロジェクトも増加しており、今後の新築供給は限定的とみられる。企業にとっては、早期の移転計画や柔軟な立地の選定が、今後いっそう重要になると考えられる。

都心6区のオフィス空室率低下で、企業の移転先確保が困難に
(画像=きんざいOnline)

三菱UFJ信託銀行 テナントリーシング営業部 調査役/髙野 淳
週刊金融財政事情 2025年11月18日号