この記事は2025年11月21日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「高金利政策を維持するブラジル中銀、来年1~3月期に利下げへ」を一部編集し、転載したものです。


高金利政策を維持するブラジル中銀、来年1~3月期に利下げへ
(画像=Sondra/stock.adobe.com)

ブラジル中央銀行は11月5日に開催した金融政策決定会合で、市場予想どおり政策金利を15%に据え置くと発表した(図表)。政策金利の据え置きは3会合連続となる。

11月11日に発表された10月の消費者物価指数は、前年同月比で4.68%と前月から鈍化した。ただ、依然としてブラジル中銀の物価目標の上限(4.5%)を上回っている。

ブラジル中銀の金融政策を振り返ると、コロナ禍後には、比較的早期に利上げを開始し、2022年の年初には政策金利が10%を超えた。その後、インフレ鈍化を受けて利下げ局面になることはあったが、それでも政策金利は10%を超えて推移し、現在は他国に例を見ないほどの高水準にある。

教科書的には高政策金利は貸出を抑制するはずだ。しかし、ブラジル中銀が公表した金融安定報告書によると、民間貸出残高対GDP比率は拡大傾向にあり、利上げに伴う貸出抑制効果に疑問が残る。この点について、直近の国際通貨基金(IMF)の調査では、ブラジル中銀が政策金利を1%引き上げた場合、貸出金利は0.7%程度の上昇にとどまると指摘している。

金利感応度が低い背景として、貸出対象を限定する代わりに、低金利で、かつ政策金利と連動しない政府主導の貸出(earmarked credit)の存在がある。このような貸出はブラジルで全体の4割程度を占めている。

IMFは前出の調査では、足元の貸出額が増加している背景として「経済的背景」と「構造的背景」の二つを挙げている。前者については、ブラジルの失業率が歴史的低水準となるなど労働市場が堅調なことで、国民所得が増加し貸出が伸びたと分析する。後者については、フィンテック産業の発展を指摘し、IT技術と金融の融合による革新的な金融サービスが次々と導入されたことが貸出額の伸長に寄与したと説く。

これらの複合的な要因を背景に、ブラジルの貸出額は高金利政策に反して拡大してきた。しかし、足元では高金利政策の効果も出始めており、貸出の伸びは明確に鈍化している。また、ブラジルの経済成長率が2%台と軟調なことに加え、インフレ率も物価目標の上限に向けて鈍化傾向を示す。こうした点を踏まえれば、筆者は、ブラジル中銀が来年1~3月期に利下げに転じる可能性は高いとみている。

高金利政策を維持するブラジル中銀、来年1~3月期に利下げへ
(画像=きんざいOnline)

ピクテ・ジャパン シニア・ストラテジスト/梅澤 利文
週刊金融財政事情 2025年11月25日号