不動産の無償譲渡は主に地方を中心に増加しており、取得費用なしで不動産を入手できる方法として不動産投資の観点からも注目されています。しかし、取得手続きにはコストが生じるほか、リフォームや固定資産税等の負担で思わぬ損失が生じる可能性もあります。
本コラムでは、オーナーが不動産を無償譲渡する理由や、物件価格が0円で家が手に入るといわれる無償譲渡物件(0円物件)を取得するメリット・デメリット、無償譲渡以外に低予算で不動産投資を行う方法について解説します。
無償譲渡物件(0円物件)とは?
不動産の無償譲渡とは、土地や建物といった不動産を売買代金などの対価を受け取らずに他人に譲り渡すことです。いわゆる「0円物件」とも呼ばれ、物件情報サイトなどで価格0円と表示されることがあります。
通常の不動産取引では代金を支払うので「売買」になりますが、無償譲渡では対価が0円なので、法律上は「贈与」として扱われます。そのため契約時には贈与契約書を交わし、所有権移転登記も「贈与」によって行います。
一方で、物件価格が0円だとしても贈与税や登録免許税、不動産取得税など一定の税金や登記手続きにかかる費用などの諸費用は負担する必要があります。
特に物件の評価額が高い場合、受け取る側に贈与税が課されるケースもあります(一般に年間110万円を超える贈与は課税対象となります)。さらに、譲渡する側と受け取る側が個人か法人かによっても課税関係が異なり、個人間の贈与以外では譲渡所得税や法人税など別の税負担が生じる場合があります。
無償とはいえ法律的・税務的な手続きが伴うため、後述するデメリットも踏まえて慎重に進めることが大切です。
なぜ無償譲渡をする人がいるのか?
不動産を所有するにはコストがかかることから、活用ができていない場合には無償でも譲渡したいと考えるオーナーはいます。ここでは、オーナーが無償譲渡を検討する具体的なケースを4つ紹介します。
維持管理の負担を軽減したいから
高齢化や人口の減少によって、使われていない空き家や遊休地が増えています。空き家や遊休地は、所有し続ける限り管理の手間がかかり、風通しや清掃など最低限の手入れを怠れば建物は急速に傷んでいきます。そのため、「管理しきれないくらいなら誰かにもらってほしい」と考えるケースも少なくありません。
買い手がつかない不動産だから
立地がよければ駐車場や賃貸物件への活用も考えられますが、立地条件が悪い・賃貸需要もない物件は市場で買い手が見つからないこともあります。
例えば極端に不便な場所にある土地や、過疎地の空き家などは、有償では売却が難しくなりがちです。老朽化が激しい建物も同様で、通常の価格では買い手が現れないため市場価値が実質ゼロと見なされる場合があります。
このように有償では処分できない不動産を手放す手段として無償譲渡が選ばれることがあります。
解体費用や税金を回避したいから
使わない家屋をそのまま所有し続けると、年数が経つほど老朽化が進みます。加えて、安全に取り壊すには解体費用がかかり、更地にすると固定資産税の軽減措置がなくなり税負担が増える場合もあります。
住宅が建っている土地の200㎡以下の部分については、通常、小規模住宅用地としてその土地の固定資産税が6分の1に軽減されますが、2023年12月13日に改正された「空家等対策の推進に関する特別措置法」によって「特定空き家」や「管理不全空き家」に指定された場合には、土地や建物の管理が不十分な空き家として固定資産税の軽減措置が適用されなくなります。
こうした背景から、解体費用や増税リスクを回避するために早めに物件を手放したいと考える所有者もいます。立地条件等によっては空き家を活用できる可能性もあるため、空き家の活用法を検討している人はこちらの記事もご覧ください。
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その他の事情があるから
上記以外にも、無償譲渡にはさまざまな事情があります。
例えば、相続で得たものの利用予定がない不動産を処分したいケースです。田舎にある実家や土地を相続したものの、自身は都市部在住で使い道がない場合など、無償でもいいから譲りたいという動機となります。
また、いわゆる心理的瑕疵物件(事故物件)など、事件・事故のあった物件で買い手が付きにくい物件も該当します。こうした物件は市場価格が極端に下がるため、金銭的な利益よりも早く手放すこと自体が目的となり、無償提供に踏み切ることがあります。
いずれの場合も「とにかく早く手放したい」という所有者の事情があり、その受け皿として無償譲渡物件(0円物件)が成立しているのです。
無償譲渡物件(0円物件)の特徴・よくあるケース
無償譲渡に出される物件にはいくつか共通した傾向があります。まず多いのは地方の空き家や空き地で、築年数が古く修繕が必要なものがあります。また、単に無料というだけでなく譲渡に条件が付く場合もあります。さらに、流通経路としては不動産仲介サイトではなく空き家バンクや専門サイト、自治体の募集ページで見つかるケースが一般的です。
以下からは、それぞれの特徴について詳しくみていきましょう。
地方の空き家が中心
無償譲渡物件として募集されるものは、地方や郊外の空き家・空き土地が中心です。
過疎化が進む地域では使われなくなった住宅が増え、「タダでもいいからもらってほしい」と考える所有者が少なくありません。実際、自治体が運営する空き家バンクを見ると地方の物件が多く登録されています。
また、都市部でも郊外の不便な立地や、山間部・離島など一般的に需要が低いエリアの不動産が目立ちます。人口減少に伴い地方の空き家率は高まっており、例えば長野県軽井沢町や栃木県那須町などリゾート地でも管理困難な別荘が無償提供されるケースもあります。
このように、大都市より地方の物件が無償譲渡の対象となりやすいのが実情です。ただ近年では東京都内でも所有者高齢化や相続問題から空き家が増えており、一部で0円提供の事例も出てきています。
築古物件・要修繕物件が多い
0円といって譲り渡される物件の多くは、築年数が経過した古い建物です。長期間人が住んでいなかった空き家は老朽化が進んでおり、屋根や壁の破損、雨漏り、設備の不良など大幅なリフォームや建て替えが必要な状態も多くあります。
また、その費用は想像以上に高額になることもあります。長年放置されていた家屋にはシロアリ被害や構造上の欠陥など、簡単には発見できない問題が潜んでいる可能性があります。
状態の悪い築古物件が多い点を踏まえ、受け取る側は後述するデメリットにも注意が必要です。
条件付きの譲渡もある
無償で物件を譲り受ける際、場合によっては一定の条件が課されることもあります。
例えば「〇年以内に居住すること」「取得後10年間は転売しないこと」「地域の自治会活動に参加すること」などです。特に自治体が仲介するケースでは、移住者を定住させ地域活性化につなげる目的から「若い世代であること(例:40歳以下)」「10年間定住すること」といった条件を付与する例があります。
また、所有者個人から直接譲渡を受ける場合でも、「農地として活用すること」や「建物を解体して更地にすること」など、後々のトラブルを避けるための約束事が設定されることもあります。
無償譲渡物件(0円物件)の中には魅力的な要素がある一方、こうした条件付きで提供されるケースもあるため、契約前には条件内容をよく確認し、自分が履行できるか慎重に判断することが重要です。
専門サイトや自治体で募集される
無償譲渡物件(0円物件)を見つけるには、通常の不動産仲介サイトよりも空き家バンクや専門のマッチングサイトを利用するのが一般的です。地域によっては行政が移住希望者向けに「空き家無償提供」の募集を行っている場合もあります。
このように、一般の不動産市場とは別ルートで情報が公開されるのが無償譲渡物件の特徴です。興味がある人は専門サイトや自治体の空き家バンクを定期的にチェックするといいでしょう。
無償譲渡物件(0円物件)を取得する側のメリット
不動産の無償譲渡を受けることで、売買代金ゼロで不動産を取得できるほか、場合によっては収益源として活用できる可能性もあります。ここでは、不動産の無償譲渡により受けられる代表的なメリットを4つ紹介します。
売買代金がかからない
何といっても、無償譲渡により税金や登記費用以外の初期購入コストなしで不動産を取得できる点が最大のメリットといえるでしょう。自己資金が乏しい人やローンを組みたくない人でも、不動産を取得することが可能になります。
もともと不動産の取得に向けて貯蓄をしていた場合には、浮いた資金をリフォーム費用や諸経費に充てることもできます。また、住宅ローンを抱えずに済む心理的な余裕を得られる場合もあります。
活用次第で収益源となる
無料で譲渡された物件でも、活用の仕方次第では利益を生む資産に変えられることもあります。例えば譲り受けた家をリフォームして賃貸に出せば家賃収入を得られたり、民泊やカフェとして活用したり、あるいは綺麗に改修してから売却して利益を狙うことも可能です。
また、場所によっては更地にして駐車場経営をしたり、農地に転用して貸し出したりするなど、さまざまな土地活用の選択肢が考えられます。
ただし、運用には手間と費用がかかることや、譲渡時の条件があったり、また立地や物件の状態が良くなかったりする場合もあります。初期投資が少ない分、リフォームや運営に資金を回すこともできますが、周辺環境などを調べた上で事前に事業計画を立て慎重に進める必要があります。土地活用の種類について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
【関連記事】土地投資の種類は?初心者にもできる?メリットやおすすめの人とは
広い土地や付加価値のある物件もある
無償譲渡物件(0円物件)の中には、一見0円とは思えないような掘り出し物が含まれることもあります。地方の古民家で広大な敷地を持つものや、温泉源付きの土地など、付加価値の高い物件が提供されるケースがあります。
こうした物件にめぐり合えれば、通常では得られない不動産資産を持てるチャンスとなります。広い土地なら自分好みの家を新築したり、農園やドッグランを開設したりする夢も広がります。
また古民家好きな人にとっては、手を加えて再生することで唯一無二の住まいやカフェ・宿泊施設にする楽しみもあります。
状態次第では多額の修繕費が必要ですが、元手ゼロでレアな物件を手にできるのは無償譲渡ならではといえるでしょう。
地域のサポートを利用できる
昨今、多くの自治体が移住・定住促進のため空き家活用支援やリフォーム補助金制度を設けています。例えば老朽化した空き家を改修する際に一定額の補助が出たり、子育て世帯の移住には家賃補助やお試し住宅提供したりといった支援が受けらたりするケースもあります。
こうした制度を活用できれば改修費用の負担を減らせます。さらに、移住者に対する地域コミュニティからのサポート(近所付き合いや情報提供など)を得られる場合もあります。
地域ぐるみのバックアップを受けながら新天地での生活を始められる可能性も、無償譲渡物件(0円物件)の魅力のひとつと言えます。
無償譲渡物件(0円物件)を取得する側のデメリット・注意点
無料で譲渡してもらえるとはいえ、不動産を譲り受ける以上はさまざまなリスクやコストが伴います。ここでは、無償譲渡物件に関するデメリット・注意点を6つ紹介します。
完全に0円で取得できるわけではない
まず、前述したとおり、0円物件でも必要経費は発生するという点を認識しておく必要があります。
物件代金こそ0円でも、所有権移転の登記費用(登録免許税や司法書士への依頼料)や不動産取得税といった公的費用は自己負担となります。特に不動産取得税や登録免許税は土地や建物の評価額に応じて税額が決まるため、高評価の物件ほど税負担も大きくなります。
また、相続税評価額が基礎控除(110万円)を超える場合は贈与税も課税されます。さらに、登記手続きを司法書士に依頼すれば数万円~十数万円の報酬が必要です。
なお、譲渡者・譲受者の組み合わせによって税種が変わるケース(個人間贈与以外では所得税や法人税が発生する場合)もあるため、必要に応じて税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
維持管理コストが発生する
物件を譲り受けた後は、所有者として維持管理コストを負担していく必要があります。具体的には毎年の固定資産税・都市計画税(市街化区域の場合)などの税金がかかります。固定資産税は更地でも建物付きでも課税され、評価額に応じて毎年支払いが続きます。
また建物があれば定期的な点検や清掃、草刈りなどの管理が必要で、そのための費用や手間も負担となります。加えて、遠隔地の物件だと管理のために現地へ通う交通費・時間も掛かります。
そのため、取得前に将来の維持費をシミュレーションし、長期的に負担に耐えられるか見極めることが重要です。
リフォーム・解体費用がかかる
老朽化した空き家を安全に利用するために、大規模なリフォームが必要な場合もあります。屋根や柱など構造部分の補強や、水回り・内装の全面改修など、場合によっては数百万円単位の費用がかかることも珍しくありません。
建物が住めないほど傷んでいる場合は解体撤去費用が新たに発生します。木造住宅の解体でも延床面積100㎡で少なくとも100万円以上、鉄骨・RC造ではさらに高額になります。加えて、解体後の廃材処分費用や整地費用もかかります。
このように、0円物件の多くはそのまま活用できない前提で考え、必要なリフォーム・解体費用を計画に入れておく必要があります。できれば現地確認の際に専門家に同行してもらい改修必要箇所を確認する、事前に見積もりを取るなどして、経済的に無理のない範囲か判断することが大切です。
物件の品質リスクがある
無償譲渡に出される物件は長期間放置されていたものが多く、隠れた不具合のリスクが高い傾向にあります。例えば構造材の腐食や傾き、基礎部分の亀裂など重大な欠陥が潜んでいる可能性があります。
また古い住宅だと耐震性が現行基準を満たしておらず、大地震時の倒壊リスクも考慮しなければなりません。さらに、害虫・害獣の侵入による被害(シロアリ、ハクビシン等)や、井戸・浄化槽など設備面での問題も起こり得ます。
こうした瑕疵は、不動産会社を通じた売買であれば告知義務がありますが、個人間の無償譲渡では情報が十分開示されないケースもありえます。こうした品質面・心理面のリスクを抱えた物件である点を理解し、契約前にできる限り現地や近隣の情報を調べることが重要です。
契約・法務上リスクがある
有償取引の場合は不動産会社が仲介に入り契約から引き渡しまでサポートしますが、無償譲渡の場合には基本的に当事者同士ですべて進めることになります。
個人間の無償譲渡では、譲渡条件の交渉、贈与契約書の作成、登記に必要な書類準備・申請など、煩雑な手続きを自分で行う負担が生じます。さらに、「◯年後に再譲渡する際は元の所有者に連絡すること」等の特約が付く例もあり、将来の行動に制限がかかる場合もあります。
不動産取引や法律の知識がないと契約内容を十分理解できず、不利な条件を見落とすリスクもあります。そのため個人間取引では後日の紛争を避けるため、可能なら契約手続きを弁護士などの専門家に依頼し、契約書を公証人役場で公正証書にしておくと安心です。
購入後の計画をしっかりと立てる
最後に、「譲渡してもらった後どのように活用するか」の計画性も大切です。費用や労力を甘く見積もって物件を譲り受けた結果、「こんなはずじゃなかった…」と後悔する例は少なくありません。
例えば管理しきれず結局放置してしまえば、今度は自分自身が空き家の持ち主として悩むことになります。
そのため、維持管理や活用の具体的なプランを事前に立て、必要な資金や人手の目処をつけておくことが必要です。不動産の契約・登記・税金の知識も深め、費用負担の計画もしっかり立てた上で交渉に臨みましょう。また、取得後数年~数十年先まで見据えて、自分や家族がその物件とどう関わるか想像しておくことも重要です。
無償譲渡物件(0円物件)以外に少額で不動産投資を始める方法も検討しよう
無償譲渡物件(0円物件)は魅力的ですが、リスクも多いため誰にでもおすすめできるものではありません。もし「少ない資金で不動産に投資したい」という目的であれば、無償譲渡物件にこだわらず他の少額投資の手段も検討してみましょう。
以下からは、不動産小口化商品、不動産クラウドファンディング、REITと、少額でも始められる不動産投資の種類を解説します。
不動産小口化商品
不動産小口化商品とは、一つの不動産の権利を複数の投資家で分割所有する商品です。具体的には、不動産を数万円~数百万円程度の口数に分けて販売し、投資家はその一口単位で出資します。不動産の信託受益権を購入するタイプや、匿名組合出資・任意組合出資といった形態があります。
少額から不動産投資ができ、区分所有や一棟買いと比べて空室リスク等を共同で負担できるメリットがあります。現物不動産の共有持分を持てる商品もあり、相続対策として注目されるケースもあります。
不動産小口化商品の詳しい仕組みやメリット・デメリットはこちらの記事でも解説しておりますので、興味のある方は参考にしてください。
【関連記事】不動産小口化商品とは?クラウドファンディングとの違いやメリット・デメリットを解説
不動産クラウドファンディング
不動産クラウドファンディングは、インターネット上で複数の投資家から資金を集めて行う不動産投資です。
事業者(運営会社)はオンラインで投資家を募り、集まった資金をもとに不動産物件を取得・運用します。そして、運用で得られた賃貸収入や売却益を各投資家に分配する仕組みです。投資家はサイト上で公開されたファンドに1口1万円程度から出資でき、あとは事業者に運用を任せることが可能です。
不動産クラウドファンディングの仕組みやメリット、注意点はこちらの記事でも詳しく解説しています。
【関連記事】不動産投資クラウドファンディングとは?仕組みやデメリットを解説
REIT
REIT(リート:不動産投資信託)とは、証券取引所に上場している不動産投資信託のことです。多数の投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設、賃貸住宅など複数の不動産を購入・運用し、その利益を投資家に配当する金融商品です。
投資信託の一種ですが、株式のように市場で売買できるのが特徴で、証券会社の口座を通じて1口数万円程度から売買可能です。J-REIT(国内REIT)の場合、ほとんどが東京証券取引所に上場しており、日々価格が変動します。不動産から得られる賃料収入や売却益の90%以上を配当する仕組みで、年に1~2回分配金が支払われるのが一般的です。
株式投資に近い感覚で始められるので、株式投資の経験はあるものの不動産の現物取得に不安がある初心者はまずREITから検討してみるのもいいでしょう。REITについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
【関連記事】REIT(リート)と不動産投資を徹底比較!始めるならどちら?
(提供:manabu不動産投資 )
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