2017年の創業以来、見積もりプラットフォーム「ミツモア」と現場業界特化型SaaS「プロワン」を展開し、サービス産業の生産性向上に寄与する株式会社ミツモア。代表取締役CEOの石川彩子氏は、事業成長のカギを「ロマンと算盤」の両立に見出し、高速開発を可能にする多様なグローバルチームを強みとしている。
AI時代を見据えたサービス設計や、自律的に価値を創造し続ける組織づくりへの挑戦について、石川氏に聞いた。
企業サイト:https://meetsmore.com/
高速開発を支えるグローバルチームと「ロマンと算盤」の経営哲学
── 社名と同じプラットフォームのミツモアは創業時から続いているそうですね。
石川氏(以下、敬称略) はい。ミツモアは2017年に創業しました。創業時から現在まで継続しているのが「ミツモア」というプラットフォーム事業です。このプラットフォームは、エアコンクリーニング、引っ越し会社、税理士など、あらゆる見積もりを簡単に取得できるサービスで、現在も当社の売上を支える柱です。
2020年ころからは「ミツモア」のサービスを拡張し、ソフトウェアの見積もりも取得できる法人向けのプラットフォームを展開しました。
さらに、2022年から2023年ごろにかけてはSaaS事業「プロワン」を立ち上げました。プラットフォーム事業を通じて多くの業者さんと取引する中で、彼らが抱える課題が集客だけではないことに気づいたためです。「プロワン」は現場業界特化のオールインワンSaaSとして、現在非常に大きく成長しています。加えて、発注業務のデジタル化を支援する「ハッチュー」も展開しています。建設業界などにおける受発注業務の効率化を実現するサービスで、アナログな業務プロセスをオンライン化することで、業界全体の生産性向上に貢献しています。
── 創業時、見積もりプラットフォーム事業に着目したきっかけについて教えてください。
石川 起業するにあたり、私は常に大きな市場で勝負したいと考えていました。いわゆる物販の領域では、Amazonや楽天などのECサイトが多数存在し、効率化やオンライン化がすでに進んでいます。
しかし、業者選びや見積もりが必要な複雑なサービス分野では、オンライン化がまったく進んでいない状況でした。この巨大な未開拓市場に、当社が新たな価値を提供できるのではないかと考え、サービスを展開することにしました。
── 三つの事業を展開され、ここまで成長されてきた御社の強みや、その大きな要因はどう分析していますか?
石川 最大の強みは、開発力にあると考えています。プラットフォーム「ミツモア」もSaaS「プロワン」も、非常に高速で開発を進めるチームがそろっています。開発水準はグローバルレベルで、エンジニアの約7割から8割が外国人です。グローバル標準でのプロダクト開発が進んでいるというところで、開発力、プロダクト力が当社の最も大きな強みです。
良いものを作り、それをしっかりと販売し、マネタイズすることは非常に重要です。良いものを作るだけでは売れませんから、事業側も非常に強い布陣で臨んでいます。開発力がきわめて高いのはもちろんですが、事業側もそれに劣らずしっかりとした体制で事業を推進できています。
── 創業当初の開発体制はどのような形だったのですか?
石川 CTOを含め、エンジニアは3人程度でした。現在は業務委託のメンバーも含めると、100人に近いチームになっています。
── 経営者として、こだわりや譲れない点、大切にされていることは何ですか?
石川 私は「ロマンと算盤」という言葉が大好きです。サービスにはロマンがあるべきだと考えています。それは、市場に新たな価値を創造し、社会に提供するというロマンです。既存の市場に似たようなプロダクトを投入し、オペレーションの強さだけでシェアを奪い合うようなやり方は好みません。いかにこの世に新たな価値を提供できるか、というロマンの部分を重視しています。
そして、もう一つは算盤です。どれだけロマンがあっても、稼げなければ意味がありません。従業員のお給料が上がり、株主にも還元できるような、持続可能な事業でなければなりません。このロマンと算盤をいかに両立させるか、という点を大切にしています。
── コンサルティングファームでの経験が、現在の経営に活かされている部分はありますか。
石川 はたから見ているのと、自分で実際にやってみるのとではまったく違います。自分で経営してみて初めて、身をもって痛感することばかりでした。ロマンと算盤についても、経営を始めてから強く感じるようになったことです。コンサル時代はかなり昔のことなので、当時の経験を今振り返ってどうこうということはあまりありません。
市場の未開拓領域に挑む優位性と顧客開拓戦略
── 戦っている市場、特に見積もりプラットフォームの成長性や、競争優位性について教えてください。
石川 プラットフォーム「ミツモア」とSaaS「プロワン」では、それぞれ市場環境が異なります。
まず「ミツモア」についてですが、引っ越しなど特定の分野に特化した見積もりサービスは他にもあります。
当社の優位性は、サービスがオンラインで完結し、見積もりを完全に自動化することで、事業者の業務効率を大幅に向上させている点です。他社の多くは、マッチングはオンラインで行うものの、その後の電話連絡や現地調査、見積もり作成は業者任せというケースがほとんどです。
当社は、いかに自動で見積もりを出し、現地調査を減らし、業者の方々の業務効率を上げられるかに注力しています。その結果、例えば引っ越しの見積もりは他社と比べても圧倒的にリーズナブルな価格で提供できていますが、これは業者の皆さんの手間を削減できているからこそ実現できるものです。
次に「プロワン」ですが、これは現在非常に大きく伸びています。中規模の事業者から、誰もが知るような大企業まで、幅広くご利用いただいています。
このソフトウェアも、いかに業務を効率的に行えるかをカギとして開発しており、残業を減らしながら売上を増やせることを目指しています。市場環境としては競合が少なく、最も大きな競合はExcelだと言えるかもしれません。
── 顧客獲得や開拓はどのように行っていますか?
石川 中小規模の事業者に対しては、ウェブ広告やSEOなどのマーケティング的なアプローチでオンライン集客を行っています。一方、大手企業に対しては、オフラインでのアプローチ、具体的には銀行からのご紹介や、既存のお客様からのグループ会社へのご紹介などが効果的です。
「ミツモア」プラットフォームはウェブからの集客が中心ですが、「プロワン」SaaSの場合、大手企業はほぼ紹介経由です。中堅企業では、紹介とオンラインからの獲得が半々といった状況です。エンタープライズ企業ほど信頼性が重要になるため、紹介が大きな役割を果たしています。
認知度向上とAI・SaaSによる産業革新
── 今後のマーケティング計画について教えてください。
石川 これまでは顕在化しているニーズを刈り取るような集客マーケティングが中心でしたが、今後は「認知」や「ブランド」の強化にも力を入れていきます。具体的には、テレビCMの検討や広報機能の強化、発信量の増加などを進めています。これまではデジタル広告に偏重していましたが、「ミツモア」や「プロワン」としての価値を改めて言語化し、多角的にアプローチする方針です。
また、業界ごとの認知度向上も非常に重要です。たとえば「プロワン」はガス業界において、まもなく最も使われているソフトウェアの一つになるでしょう。このように、特定の業界で確固たる地位を築くことも目指しています。
── 商品やサービスのブラッシュアップはどう進める計画ですか?
石川 AIの登場により、今は時代の大きな節目を迎えています。サービスの設計思想を根本的に変えなければならない時期が来るかもしれません。具体的な内容はまだお伝えできませんが、ソフトウェアSaaSやプラットフォームの中にAIエージェントが自然に溶け込み、真の意味での効率化や自動化が実現できる世界観は、非常に重要だと考えています。
また、あえて時代に逆行するようなことを言うと、「プロワン」のようなソフトウェアは、複数のサービスを併用することで「SaaS疲れ」を引き起こすことがあります。そこで、私たちはソフトウェアの統合、いわゆる「コンパウンド」を進めていきたいと考えています。基幹システムやERPといった、これまでSIerやERPベンダーが担ってきた領域を、SaaSとAIの力でいかにディスラプトしていくか。これは常に考えていることです。
この構想は、新しい事業として展開するのではなく、現在のプロダクトの拡張性と柔軟性を高めることで実現を目指します。当社のプロダクトは大企業にもご利用いただける高い拡張性を持っているため、カバー範囲と柔軟性をさらに向上させます。
自律的に価値を創造し続ける組織へ
── 組織面の強みと課題について教えてください。
石川 組織の強みは、さきほどもお話しした開発力の高さです。それに加えて、事業に非常に真っすぐで、一生懸命なメンバーが揃っていることも大きな強みだと感じています。
当社の従業員は、多様性を重視する方針のもと、さまざまなバックグラウンドを持っています。ハウスメーカーやビルダーで営業をしていた現場業界出身者、IT企業出身者、外資系コンサルティングファーム出身者、日系大手企業出身者など、非常に幅広い人材が集まっています。現場の叩き上げもいれば、エリート街道を歩んできた人もおり、多様性に富んだ面白い組織です。40代くらいまでであれば、デジタルへの適応も問題なく進んでいます。
課題としては、各事業部ごとに異なる課題感があるものの、全社のファイナンス状況を踏まえ、売り上げ、成長、利益のバランスをどのようにとるかという戦略を、各事業部が考え抜くという点では、まだ発展途上だと感じています。三つの事業部があるため、全体最適を意識した戦略策定をさらに強化する必要があります。
── 資金調達の計画について教えてください。
石川 これまでエクイティ(株式)とデット(負債)の両方をバランス良く活用してきました。資本コストを考慮しつつも、デットに偏りすぎないようエクイティも厚く調達することを意識しています。
幸いにも、これまで良い条件で資金調達ができています。今後もこの方針を続け、デットとエクイティを組み合わせながら事業拡大を進める計画です。
── 最後に、今後事業や会社のみならず、広く社会に対して思い描いている未来の構想を教えてください。
石川 我々は一貫して、人々の生活を効率化するサービスを作り続けたいという思いがあります。今後もその気持ちは変わりません。
最近興味があるのは、社会がものすごいスピードで変化し、AI革命のような進歩が続く中で、「常に新たな価値を提供し続けられる会社とはどのようなものか」という問いです。
創業者がいなくなると急に勢いを失う会社は少なくありません。創業者は新たな価値を創造したからこそ創業者ですが、その経験を持つ人がいなくなると、既存の事業だけで何とかしようとし、結果として時代から取り残されてしまうケースがよく見られます。日本の多くの大企業が抱える課題とも言えるでしょう。
そうならないために、社会の変化に合わせて自律的に価値を創造し続けられる会社、組織とはどのようなものなのか。これが今、私が最も興味を持ち、実現したいテーマです。
当社のミッションは「日本のGDPを増やし、明日がもっといい日になると思える社会に」です。人口が減少していく社会において、いかに労働生産性を上げるかという点にフォーカスしています。「ミツモア」も「プロワン」も、労働生産性向上という観点から作られたサービスです。そうしたミッションを非常に重視し、常に新たな価値を作り続けられる会社組織を築きたいと考えています。
- 氏名
- 石川 彩子(いしかわ あやこ)
- 社名
- 株式会社ミツモア
- 役職
- 代表取締役CEO

