NEXUSホールディングス株式会社

群馬県沼田市で1995年に創業し、全国68店舗のパチンコホール「D'STATION」を展開するNEXUSホールディングス。2025年7月、英国ブリストル大学を首席卒業し、LSE大学院で社会科学を修めた星野万里氏が、33歳で代表取締役社長に就任した。

創業者である父の理念を受け継ぎながら、業界の負のイメージ払拭、組織の筋肉質化、そして知的財産への投資という新領域への挑戦を掲げる。グローバルな視点と柔軟な発想を武器に、パチンコ業界の常識を覆す経営改革が始まっている。

星野万里(ほしの ばんり)──代表取締役社長
1991年、群馬県沼田市生まれ。高校卒業までを地元で過ごしたのち、イギリスへ留学。名門ブリストル大学の政治・国際関係学部を首席卒業。その後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院で社会科学を研究。大手遊技機メーカーを経て2022年、NEXUS入社。営業本部長代理を経て、2025年7月、代表取締役社長に就任。グローバルな視点で業界改革をリードする。
NEXUSホールディングス株式会社
1995年に群馬県沼田市で創業。全国にパチンコホール「D’STATION」を68店舗展開するアミューズメント企業。先進的な設備導入と地域密着型の店舗運営を強みに、フィットネス・飲食事業など多角的に事業を展開。エンターテインメントを通じて地域社会に新たな価値を創出し、業界の枠を超えた持続的な成長を続けている。

目次

  1. 英大学院で受けた恩師のアドバイス
  2. 負のイメージを払拭、伝統と革新の両立を
  3. 「人を大事にする」文化と組織改革
  4. IP投資、資金調達

英大学院で受けた恩師のアドバイス

── 会社の「原点」についてですが、4歳の頃に自宅から1号店が始まったそうですね。

星野氏(以下、敬称略) 当時は群馬県の沼田市という、人口も少ない田舎でした。そこで1号店を出したのですが、父は当初「数店舗出せれば良いほうだろう」と考えていて、会社がここまで大きくなるとは本人も思っていなかったようです。

もともと運送業から始まりましたが、経営がうまくいかず、手形の支払などで資金繰りに苦労していました。「なんとか現金収入を確保できる商売はないか」と考え、父が必要に駆られて始めたのがこの事業のきっかけです。それが運良く成功し、ここまで成長できたことには、感慨深いものがあります。

── 自身が経営に携わることを意識し始めたのはいつ頃からですか?

星野 幼少期は、将来ビジネスをやろうとはまったく考えていませんでした。転機はイギリスの大学院時代です。博士課程に進むか迷っていた時、恩師から「君はビジネスの世界に行ったほうがいい」とアドバイスを受け、初めて実業界で働くことを意識しました。

当初は外資系のコンサルティング会社なども受けていましたが、父は私のキャリアについて一切口出しせず、「好きなことをやれ」と大学院まで行かせてくれました。その感謝の気持ちが根底にあり、父の会社を手伝い、より大きく盛り上げたいという想いから、この事業に携わることを決めました。

負のイメージを払拭、伝統と革新の両立を

── 30年の歴史の中で、会社が最も飛躍した時期やきっかけは?

星野 大きなものは2つあります。1つ目は出店戦略です。この業界では自社物件で出店するのが一般的でしたが、弊社はテナントとして入ることで出店スピードを速めました。1号店をオープンした1995年、業界の市場規模はピークにありました。その後は縮小傾向にありましたが、だからこそ周りが弱くなったことで我々が出店する余地が生まれ、規模を拡大できたのです。

2つ目は2017年のM&Aです。九州の13店舗を金融機関からの大きな資金調達によって買収しました。もちろんリスクはありましたが、これが成功し、今では九州で20店舗以上を展開する最大規模の法人となっています。直近ではこのM&Aが最大の転機です。

── 現在、乗り越えるべき「壁」は何だと考えていますか?

星野 「伝統と革新の両立」です。創業者の理念や大切にしてきた価値観を文化として残しつつ、組織の仕組みや考え方を時代に合わせてアップデートする。

このバランスを取るのが非常に難しい。そのため、私自身が社員、特に経営幹部層と一人ひとり、丁寧に対話を重ね、今後のビジョンや理念を自分の言葉で語れるようにすることが大事だと考えています。

── ホール業界が持つ「負のイメージ」というのは切っても切り離せないテーマですが、この負の側面の本質はどこにあると考えていますか?

星野 非常に複雑な要素がからんでいると思います。社会的には、射幸性の問題が指摘されることもあります。

ただ、文化的な賭け事というのは時代や社会状況によって価値観が変わる「リミナル」(両義的)なものだと考えています。宝くじのように良いイメージを持たれるものもあれば、そうでないものもある。

本質的な問題は、業態そのものというより、その周辺領域や歴史的な要素が強いと感じます。法規制導入のもとで業界全体がクリーン化に努め、断ち切ってきました。

── そうしたイメージを払拭するため、社会との隔たりをなくすような取り組みも意識しているそうですね。

星野 はい。社長就任後すぐに、現場スタッフのユニフォームを一新しました。かつてこの業界では、マイナスなイメージへの反動から、ホテル並みのフォーマルな接客や身だしなみが追求されてきました。

しかし時代は変わり、今はより親しみやすさが求められています。服装という見た目を変えることで、受ける印象は大きく変わります。パーカーやTシャツといった新しいユニフォームを導入したことで、お客様からも「親しみが持てる」と高評価をいただいていて、社員がより自然体でコミュニケーションを取れるようになったと感じます。

他にも身だしなみ規定の廃止や役職呼びの撤廃など、社内でも時代にそぐわない慣習は積極的に取り除いています。

「人を大事にする」文化と組織改革

── 「伝統と革新」という点で、逆に変えずにDNAとして受け継いでいくものは何ですか?

星野 「人を大事にする」ということです。弊社では、それは社員の能力を見定める以前に、人間的に信用できる人物かどうかを優先するということです。

信頼をベースにした組織づくりを父は徹底してきましたし、それ故に愛社精神の高い社員が多いと感じます。この文化は、伝統として持ち続けていきたいです。

── 愛社精神が高く、勤続年数が長いベテランの存在はありがたい一方で、生産性向上を考えるとジレンマに陥るものです。「収益性の高い筋肉質な組織を作る」という方針を掲げる中で、年功序列ではなく、変化を促すために具体的にしていることはありますか?

星野 日本には勤続年数の長い社員を大事にする文化はありますが、それだけを優遇し続けるわけにはいきません。貢献度を鑑みて、時には、役職の変更をしてもらったり部署を異動してもらったりといった苦しい判断も必要でした。

そうした際にも、なぜ会社がこの決断を下したのかを必ず対話によって丁寧に説明します。そして処遇に関しても、本人のこれまでの会社への貢献を最大限考慮し、不公平にならないよう判断しています。

── 今後の経営戦略についてお伺いします。主力であるホール事業の「D'STATION」の優位性はどこにありますか?

星野 意思決定のスピード感です。物件候補が上がってからグランドオープンするまでの期間は、業界でも最速レベルだと自負しています。

ただし今後は、スピード感を維持しつつも、出店前のデューデリジェンス(事前調査)をより徹底し、確実に収益を上げられる「強い店づくり」に重点を置きたいと考えています。ただ出店数を増やしてシェアを拡大することには、固執しないように考えています。

── フィットネスや飲食など事業の多角化は、ホール事業や業界イメージの刷新に対して、どのような役割を担うと考えていますか?

星野 これまでの多角化は、フィットネスや飲食、温浴施設など、設備投資や人件費のかかる「ハコモノビジネス」という同じ事業形態の枠内でした。

私がこれから目指すのは、事業「形態」そのものの多角化です。まったく違う領域に勇気を持って飛び込み、会社の事業ポートフォリオを多様化させたい。そうすることで、この業界で一つ抜きん出た存在となり、「こういう成長戦略もある」という道を他の企業にも示していければと考えています。

── 従来の「ハコモノビジネス」とはまったく異なる事業形態に参入する上で、これまでの強みだけでは戦えない可能性もあります。新たな武器、新しい戦い方はどのようなものになりますか?

星野 それは、私自身の若さと、それに伴う柔軟な発想です。経営者としての経験はまだ浅いかもしれませんが、先代にはない国際的な知識やネットワーク、そして固定観念に縛られずに新しい領域へ挑戦できる勢いがあります。

その強みを活かした具体的な戦い方が、「新規事業をプロジェクト単位でとらえ、外部から最適な専門人材を登用する」というアプローチです。

多くの日本企業が社内人材を中心と考えますが、私たちはプロジェクトごとに世界中からベストなチームを作る。この機動力と柔軟性こそが、これからのNEXUSの新たな武器になります。

IP投資、資金調達

── 事業形態の多角化について、インタビュー記事で「テクノロジー関連の知的財産(IP)への投資」という壮大なビジョンを示しています。その狙いを教えてください。

星野 IPは、うまくいけば非常に大きくスケールできる可能性があり、そこに面白さを感じています。今、手元にある案件は、建築資材やEVバッテリーに使える素材といった産業系のテクノロジーです。こうしたIPは、一つ持っているだけで世界的に拡大できる可能性を秘めています。

もちろんプロセスは複雑で時間はかかりますが、成功すれば非常に大きな事業になる。私自身が最前線に立って、国内外のネットワークを広げながら案件の掘り起こしをしています。

── 大規模な投資について、今後の資金調達や資本戦略はどう考えていますか?

星野 これまでは金融機関からの間接金融が中心でしたが、正直なところ、社内に財務の専門家が少なく、資金調達力は課題でした。

しかし、国内や海外投資を加速させるためには、資金調達力の強化が不可欠です。そこで、私が就任してからの9月に、グローバルで実績のあるCFOを外部から招きました。彼を中心に、グループ全体の資金調達力を底上げしたいと考えています。

── 将来どうなっていきたいか、最後にあらためて教えてください。

星野 私が目指していることを一言で言うと、「変わらないために、変わり続ける」ということです。創業者の理念という会社の根幹を守り続けるために、時代に即した対応が求められる財務やガバナンスといった部分は、積極的に変えていかなければなりません。

企業の存在価値は、その理念をいかに新しい時代に合わせて翻訳し続けられるかで決まると思っています。合理性と人間味の両立を常に意識し、会社の存在意義を高めたいです。

氏名
星野万里(ほしの ばんり)
社名
NEXUSホールディングス株式会社
役職
代表取締役社長

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