この記事は2025年12月12日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「戦略物資化で高値更新の銀価格、26年上期は70ドル台に上昇も」を一部編集し、転載したものです。


戦略物資化で高値更新の銀価格、26年上期は70ドル台に上昇も
(画像=288 Studio/stock.adobe.com)

2025年は、銀に対する評価が大きな転換期を迎えた年といえる。「脱炭素」「人工知能」(AI)といった産業分野で重要性が高まり、戦略物資としての取り扱いに変わりつつあるためだ。

米政府は11月6日、「重要鉱物資リスト」に銅などと共に銀を追加したと発表した。これは、米政府が経済安全保障面で、銀が「米経済活動に不可欠」と同時に「供給リスクが高い」と判断したことを意味する。

国際的に銀は、19年から大規模な供給不足が続いている。仮に銀価格が高騰しても、銅やニッケルといった非鉄金属の副産品としての供給が主軸となるため、安易に供給量を増やすことができない構造的問題を抱えている。それ故、銀は今後も数年間、供給不足が続く可能性が高い。

一方で、25年の銀の産業用需要は、19年比で29%の増加が見込まれている。太陽光パネル向け需要の急増に加え、AI産業を支えるデータセンターや電気自動車向けにも、需要は拡大しているためだ。銀は主要金属の中で最高水準の導電性を有し、配線やプリント基板などの先端部品で不可欠な素材といえる。

こうしたなか、米国のドナルド・トランプ政権の政策不透明感から、銀在庫を確保する動きが強まることも、需給を一段と不安定化させている。10月にはインドなどで銀の投資需要が急増すると、ロンドン現物市場で銀地金の供給が需要に追い付かなくなる「スクイーズ」状態に陥った。

銀リースレート(1カ月物)は通常ゼロに近い水準だが、10月には一時40%に迫る状態になった。この影響で、ロンドン現物市場の銀在庫は10月に過去最大量の流入を記録し、おおむね半月程度でスクイーズ状態は解消された。

しかしこれは、ニューヨーク市場や上海市場から国際相場よりも割高になったロンドン現物市場に、大量の銀地金が持ち込まれた結果であり、供給制約の強さが解消されたわけではない。特に上海先物取引所の認証在庫は、過去10年で最低水準にとどまっており、瞬間的な需要拡大が発生すると、再びスクイーズが発生することへの警戒感は強い。

銀上場投資信託(ETF)の投資残高は25年1~11月期に前年同期の2.3倍のペースで増加した。インドでは銀が融資を受ける際の担保として認められる制度変更もあり、銀地金への投資ニーズが拡大している。

今後は、①(銀相場と連想しやすい)金相場の高騰、②銀需給の逼迫、③銀の戦略物資化の動き──の三つの要因により銀価格を押し上げる展開が続く見通しだ。年初の1トロイオンス=31.7ドルが今年10月には、50ドルを突破して過去最高値を更新したが、12月上旬には60ドルに迫る展開になっている(図表)。再びロンドン現物市場や上海市場などでスクイーズが発生すると、26年上期に70ドルを試すリスクも想定したい。

戦略物資化で高値更新の銀価格、26年上期は70ドル台に上昇も
(画像=きんざいOnline)

マーケットエッジ 代表/小菅 努
週刊金融財政事情 2025年12月16日号