漫画メディアのSaaS提供とBPO支援で日本の漫画業界を革新している株式会社コミチ。ています。2018年にコミチを創業した代表取締役の萬田大作氏は、データサイエンスを駆使しヒットの再現性を高め、出版社を多角的にサポート。シャープのX(旧Twitter)「中の人」をCMOに迎えるなど、ユニークなマーケティング戦略を展開し、月間1000万規模のユーザーを獲得している。国内市場の踊り場をとらえ、今後はIP展開と海外市場への挑戦を通じて、「マンガを世界に知らしめる」という壮大なビジョンの実現を目指す萬田氏に迫った。
企業サイト:https://comici.co.jp/
目次
コミチの事業概要と急成長の軌跡
── 漫画のSaaS事業とのことですが、事業や組織の概要から教えてください。
萬田氏(以下、敬称略) 当社は漫画業界のBtoB SaaSとして、出版社の漫画メディアを運営支援しています。自社メディアを含め約25の漫画メディアを運営しており、小学館のような大手出版社から中小規模の出版社まで、さまざまな出版社の漫画メディアを支援しています。従業員数は現在約80人です。2022年頃までは小規模で事業を展開していましたが、この数年で急成長しました。
特徴は、漫画メディアのソフトウェア部分をクラウド上で提供するSaaS形式であることです。加えて、漫画メディアの運用を全面的に支援するBPOサービスも提供しており、これが当社の大きな特徴です。
もともと投稿サイトから始まりました。テキスト投稿サイトのnoteやイラスト投稿サイトのpixivが流行していたことから、漫画の投稿サイトで何か事業ができないかと考えたのがきっかけです。
しかし、漫画家は大手の出版社からデビューし、商業誌で活躍したいという思いが強いものだと感じました。そこで、ヤングマガジンや小学館のビッグコミック、秋田書店のチャンピオンクロスなど、さまざまな出版社の漫画メディアを支援する事業へとピボットしました。2020年頃から事業を拡大しています。
現在、今年の4月には200万会員を突破し、会員登録をしていない方も含めると、月間約1000万ユーザーに利用されるサービスに成長しました。
漫画版セイバーメトリクスの構築と、シャープ「中の人」参画
── SaaS形式であることが特徴とのことですが、この点を詳しく教えてください。
萬田 漫画編集部に対し、ヒットの再現性を高めるデータサイエンスを提供しています。漫画出版社は多岐にわたる業務を抱えているので、漫画家と二人三脚で作品作りに集中できるよう、当社がBPOやデータ提供を通じて支援しているわけです。今後はグッズ販売、アプリ開発、海外展開など、多角的な事業展開を進めています。これらに現在取り組んでいるところです。
独自のデータ分析について、興味深い例を挙げると、野球のデータ分析に「セイバーメトリクス」があります。大谷翔平選手がOPS1.0以上といった指標で語られるように、統計的に有利な指標が存在します。OPSやWARなどが有名ですが、当社ではその漫画版を開発しており、現在特許を取得しました。いわば「漫画版セイバーメトリクス」を構築しています。これを「マンガメトリクス」と称し、漫画作品のヒットの再現性を高める取り組みを行っています。
その他、当社の特徴的な点としては、シャープのX(旧Twitter)公式アカウントの「中の人」である、山本隆博が2020年から当社のCMO(最高マーケティング責任者)として加わったことが挙げられます。シャープのXアカウントの運用も継続しています。当社のオフィスにも来ています。
X運用のプロフェッショナルが加わったことで、漫画業界でさまざまなバズを生み出し、トレンドをとらえるメディア設計を行っています。このような仲間とともに、さまざまな出版社の支援を行っています。
── 幼い頃から漫画がお好きだったそうですが、いつ頃からこの業界で仕事をしたいと思うようになったのですか?
萬田 きっかけはコルクに入社したことです。『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』などの編集を手がけた佐渡島庸平氏が代表を務める会社で、私はCTOとして技術面で参画しました。
リクルート時代にスタートアップを立ち上げたいと考えており、自分で起業するか、既存の会社に参画するかを検討する中で、コルクへの入社を決めました。漫画自体は昔から好きでしたので、漫画業界に貢献できる仕事が良いと考え、入社しました。
── 特に2023年から2024年頃にかけて急成長を遂げたきっかけや出来事があったのでしょうか。
萬田 やはり、小学館様、秋田書店様、講談社ヤングマガジン編集部様といった大手出版社様を担当させていただけたのが大きいです。
2020年より講談社様の「ヤンマガWeb」もや、2023年から小学館様の「ビッコミ」、秋田書店様の「ヤンチャンWeb」手がけるようになり、さまざまな出版社の漫画メディアを支援できるようになったことが、一番の成長要因です。
── シャープのXの「中の人」がCMOとして入社された経緯は?
萬田 実は、当社が2018年から運営している投稿サイト「コミチ」に、「シャープさんの寸評、恐れ入ります。」というコーナーがあるのです。このコーナーは2019年から運営しています。2019年から毎週面白い漫画を選んで寸評していただいていました。
その中で、漫画業界でシャープさんの力を活かせないかと考え、その頃からずっとお誘いしていたので、5年越しです。原稿のやり取りはオンラインで行っていましたが、定期的に年に一度お会いし、近況をうかがいながら、入社のタイミングを見計らってずっとお誘いを続けていました。
データサイエンスが支える漫画マーケティング
── 御社ならではの強みや、今後の成長を支える大きな要因をどう分析していますか?
萬田 当社の強みはデータサイエンスです。エンタメ業界では、漫画家や編集者の才能、マーケティング力、プロデュース力に依存することが多い傾向にあります。しかし、データに基づいて事業を行うことはあまりありません。その点、当社がデータサイエンスに注力していることは、非常に特徴的だと考えています。
たとえば、最近始めたグッズ事業では、どのようなグッズが売れるか、どの作品にファンダムがあるか、いわゆる「推し活」のような需要があるかといったことをデータで分析しています。このようにデータ分析を活用することは非常に重要です。漫画作品作りにおいても、グッズ制作においても、独自のデータ分析手法を持っていることが強みです。
当社がマンガ制作に直接介入するのではなく、編集部の判断をデータで後押しする役割を担っています。
クリエーティブな分野では、才能や感性といった定性的な要素が重視されがちですが、そこに定量的なデータを提供することで、より自信を持ってヒットの再現性を高められると考えています。この独自のデータ分析手法が、当社の競争優位性です。
国内市場の踊り場と海外展開への挑戦
── 漫画業界の今後の市場成長性については、どのように見ていますか?
萬田 以前noteに記事を書いたのですが、国内市場は、現在踊り場に差し掛かっていると感じています。Xでも発信しましたが、電子書籍市場は過去10年間、毎年10%以上の成長を続けてきましたが、その成長が鈍化しています。
たとえば、2023年は約20%成長しましたが、2024年は数パーセントの成長にとどまっています。やはり、市場が踊り場に差し掛かっていると見ています。その中で、次の成長戦略はIP展開や海外市場だと考えています。
当社としては、そうした分野で支援できないかと考えています。業界展望としては、アニメや漫画といったエンタメコンテンツ、いわゆるクールジャパンが再び注目されています。その中で、IP展開に対するプラットフォーム的な動きをしている企業はまだ多くありません。IPの海外展開において、当社が貢献できると考えています。
── 紙媒体だけでなく、電子書籍もかなり成長が鈍化しているのですね。
萬田 数パーセントの成長率で、数%と伸びが鈍化しています。出版科学研究所のデータによると、電子書籍市場は過去10年ほど、毎年10%以上の成長を続けてきました。しかし、2024年は数パーセントの成長にとどまっています。やはり、市場が踊り場に差し掛かっていると見ています。
── 現在、月間1000万人以上のユーザーに利用されているとのことですが、マーケティング活動はどのように行っていますか?
萬田 CMOの山本を中心に、非常に丁寧なコミュニケーションを心がけています。
── 出版社への営業活動はどのようにアプローチされていますか?
萬田 日本には約3000社の出版社がありますが、漫画を専門とする出版社は200社程度です。当社は神田神保町にオフィスを構えており、クライアントの多くが徒歩圏内にあるのが特徴です。そのため、営業活動は私が担当することが多いです。
出版社の数はまだ増やせる余地があると考えています。今期もすでに8メディアをローンチし、現在25メディアを運営していますが、来年夏までにさらに5つの受注が決まっています。今後もさらに増えていくでしょう。
── ユーザー獲得についてですが、どのようなマーケティング活動を行っているのでしょうか。
萬田 これもCMOの山本を中心にチームで取り組んでいますが、たとえば中学受験をテーマにした漫画『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』(著・高瀬志帆)の事例があります。この作品では、「漫画の外にはみ出す仕掛け」を強く意識してマーケティングを行いました。
漫画を外にはみ出させるには、世間とリンクさせ「自分ごと化」してもらうこと、そしてX(旧Twitter)を中心に会話の土台を作ることが重要だと考えています。
たとえば、『二月の勝者』では、小学館様がプレスリリースを出し、複数のメディアを巻き込みました。当社はXの運用支援も行っているため、小学館様がPRを行い、クランクイン!やNEWSポストセブンといったメディアで記事が書かれ、ビッグコミックBROS.NETでも記事が掲載されました。
そして、中学受験本番前日の1月31日には、「明日、中学受験の本番を迎える君へ」というメッセージをXで発信しました。この投稿は17万回以上再生され、ビッグコミックBROS.NETの記事も「小学6年生の君へ」という形で発信しました。これらの投稿内容やタイミングは、当社が意識的に選び、行っています。
その結果、先生方からも反応があり、記事がランキング入りするなど、『二月の勝者』は中学受験を経験した親御さんたちがX上で「子どもに重圧をかけたくなる」といった共感の声を投稿するなど、オーガニックな広がりが生まれました。
これが「漫画の外にはみ出す仕掛け」であり、自分ごと化と会話の土台作りによって実現しています。このような運用を非常に丁寧に行っています。
── そうした戦略は、『二月の勝者』だけでなく、他の漫画でも事例があるのでしょうか?
萬田 はい、たとえば『ベルセルク』(著・三浦建太郎)では、英語のハッシュタグを使った記事投稿や、英語でのコメント返信などを意識的に行い、バズを生み出すような施策を行っています。
組織の強みと新卒育成への注力
── 今後、SaaSをどのようにブラッシュアップしていく計画ですか?
萬田 現在取り組んでいるのは、ウェブ版に加えて今月アプリ版をリリースすることです。ウェブやSNSを中心にコミュニケーションを図っていますが、リピートユーザーはアプリを求めていると考えるため、アプリを通じてアプローチを強化します。
また、先ほどお話しした「マンガメトリクス」のような分析ツールを編集部に提供したり、海外版サービスを展開したりすることも計画しています。海外版サービスは12月に公開予定です。
このように、出版社が取り組むべきIP展開や海外展開といった課題に対し、データサイエンスを活用しながら支援していきます。
── 組織について、現在の強みと課題、今後改善していくべき点があれば教えてください。
萬田 強みとしては、マーケティング力や、リクルートで事業責任者を務めていた役員がいることなど、組織としては少しずつ成熟していると感じています。
課題は、新卒メンバーの育成です。今年は初めて新卒採用を行い、来年4月には8人が入社予定で、大幅な増員となります。若手メンバーを含め、彼らをいかに育てていくかが、当社が注力すべき課題だと認識しています。新卒採用は当社にとって新たな挑戦です。
── 入社する方は皆、漫画が好きなのでしょうか?
萬田 基本的に、漫画が好きであることを重視しています。当社のミッションは「マンガを世界に知らしめる」ことです。漫画というエンタメを、日本だけでなく世界中で当たり前に楽しまれるものにしたいと考えています。映画やドラマはNetflixやAmazon Prime Videoなどで広く視聴されていますが、漫画はまだその域に達していません。これを当たり前のエンタメにすることが、当社のビジョンです。
その中で、当社の行動指針は「漫画愛を育む」「エンジニアリング思考を持つ」です。そのため、基本的には漫画が好きな人しか採用していません。
それだけでなく、「エンジニアリング思考を持つ」という点で、スタートアップ文化を理解し、自ら成長し、失敗を恐れずに前に進める人材を採用しています。
── 社員同士、漫画の話で盛り上がりそうですね。
萬田 はい。たとえば、福利厚生として「漫画手当」もありますから。月2万円まで好きな漫画を購入できる制度です。
「マンガを世界に知らしめる」未来構想
── 事業拡大におけるファイナンスについてですが、これまでの資金調達と、今後の計画について教えてください。
萬田 最初はエンジェル投資家である有安伸宏氏に投資していただきました。事業が軌道に乗ってからは、Z Venture Capital(ヤフーとLINEのホールディングス傘下のVC)に投資していただきました。その後、投稿事業から出版社支援へと軸足を移したことが、第二成長期を生み、小学館様や秋田書店様とのサービス受注が決まったことを機に、2023年に出資を受けました。
最近では、アプリ事業を開始するにあたり、多額の資金が必要となるため、三菱UFJキャピタル様や有安氏に追加で出資していただきました。
── IPOも視野に入れているとのことですが、時期など具体的な計画はありますか?
萬田 IPOについては、具体的な時期を公言することは難しいのですが、数年後、2〜3年後をイメージして準備を進めています。
── 思い描いている未来構想や、どのような世の中を実現したいかを教えてください。
萬田 未来構想としては、やはり「マンガを世界に知らしめる」というビジョンを掲げています。これを実現したいと考えています。
これまで、日本の事業は海外勢に後れを取ることが多かったように感じています。その中で、当社が果たすべき使命感としては、漫画業界において出版社連合で海外勢に打ち勝つことだと考えています。
たとえば家電業界では、製造面で韓国、中国、台湾勢が台頭し、かつて日本が強かった分野でも、音楽業界ではK-POPなどが台頭しています。漫画業界も韓国勢が強い部分もありますが、当社としては、漫画というエンターテイメントを、出版社連合で盛り上げ、漫画市場自体を大きくしていきたいと考えています。
- 氏名
- 萬田 大作(まんだ だいさく)
- 社名
- 株式会社コミチ
- 役職
- 代表取締役

