「すべての動物とその家族の幸せな生活のために」を理念に掲げ、国産無添加プレミアムペットフードのD2Cブランド、そして、ペットケアの総合企業として成長を続ける犬猫生活株式会社。代表取締役の佐藤淳氏は、顧客の信頼を得ながらビジネスを成立させつつ、動物福祉活動にも注力する「両軸経営」を掲げている。
両軸経営とはどのようなものなのか、事業の原点、そして海外進出を含めた未来への展望について、佐藤氏に聞いた。
企業サイト:https://corp.inuneko-seikatsu.co.jp/
妊娠した野良猫との出会いから始まった挑戦
── 犬猫生活が創業した原点には一匹の野良猫との出会いがあるそうですが、それを含め佐藤社長の経歴を教えてください。
佐藤氏(以下、敬称略) 前職はオイシックスで、その前には自分でECの会社を経営していました。結果的に、ずっとEC事業に携わっています。
自分で会社を経営していたとき、いわゆるスモールビジネスの域からなかなか出られず、事業を大きくするために、一度、ほかの企業で勉強しようとオイシックスに入社したのが経緯です。
いずれまた会社をつくって自分で事業をやろうと考えていたのですが、どのような事業にするかについて、二つの軸がありました。一つは、ビジネスとしてきちんと成り立つこと。もう一つは、自分が情熱を傾けられるものであること。この二つが揃うものを検討している中で、一匹の野良猫との出会いがありました。
ある日、痩せて弱っていた野良猫を家で保護したのですが、その子が実は妊娠していて、数日後に4頭の子猫を出産したのです。野良の母猫ですから栄養も十分ではなかったはずなのに、懸命に子猫を生み育てる姿を見て感動しました。その猫たちのご飯について考えたことが、創業のきっかけです。
もともと動物は好きでしたし、ビジネスとして市場を調査していく中で、ペット関連事業は成長性もありながら、課題も多く、自分が取り組むべきテーマだと考えるようになりました。考えていた二つの軸にも重なると思ったのです。
── オイシックスでの経験も、食品のD2Cという点で事業に影響しているのでしょうか?
佐藤 そうですね。オイシックスで培った食品のD2Cに関するノウハウは、犬猫生活の事業を始める上で非常に役立ちました。とはいえ、理想のフードづくりとなると苦労もあり、当初、20近くの工場に製造を断られてしまいました。
── その逆風の中で続けられた原動力は何でしょうか?
佐藤 グレインフリー(穀物不使用)のレシピでペットフードをつくりたいと考えていましたが、当時日本ではそのようなレシピでつくれる工場がほとんどありませんでした。
ないということは、それなりの理由が存在するはずで、その「できない理由」を突破できれば、事業としてチャンスが広がると考えたのです。
できない理由は、特に粒状にする工程でなかなか固まりづらいという技術的課題でした。これは、工夫次第で乗り越えられる課題だと確信していました。時間はかかりましたが、工場の皆さんと協力をしながら、私たちは諦めずに解決策を探し続け、製品化に至りました。
適正な期待値を得るための正直なプロモーション
── 顧客の98%が定期購入するという、非常に高いロイヤリティを誇るブランドを築いていますね。
佐藤 ロイヤリティの高さは、大きく分けて二つの軸で構築してきました。
一つは、お客さまとの接点における細やかな改善の積み重ねです。たとえば、商品と同梱する冊子の内容を初回と2回目で変えたり、メールの配信方法を工夫したり、お客さまが求めるものを提供できるよう、継続的に見直しを図っています。
もう一つの軸は、「信頼性」の構築です。ペットフード市場では、お客様がスペックだけで商品を選ぶのが難しい状況があります。また、昔は「安かろう悪かろう」というイメージが根強く、メーカーに対する不信感を持つ方も少なくありませんでした。
そのような中で、私たちは「信頼できるブランド」であること、そして「お客様にファンになっていただくこと」を重視してきました。
── 「信頼できるブランド」は、具体的にどのような要素から生まれるのでしょうか?
佐藤 信頼は、主に「誠実さ」と「専門性」という二つの要素から生まれます。
まず「誠実さ」ですが、私たちは利益のためだけに事業を行っているのではなく、わんちゃん猫ちゃんの幸せのために事業を行う姿勢を明確に示しています。その証が、動物福祉向上を目指す財団を自分たちで立ち上げ、その財団へ約20%の事業利益を寄付することです。
次に「専門性」です。フード事業だけでなく、動物病院・トリミングサロンの運営など、ペットケア事業全般に幅広く展開していることが、私たちの専門性を高めています。この「誠実さ」と「専門性」という二つの軸を、他にない形で提供している点が私たちの強みとなっています。
── そのような取り組みを、顧客に正しく伝えるための工夫はありますか?
佐藤 特別なことはしておらず、お客様と真摯に向き合うことが大切です。お客様の声に耳を傾け、伝わっていることと伝わっていないことを把握し、改善を続けています。カスタマーサポートは全て自社で運営していますし、商品開発チームや運用チームも、常にお客様へのインタビューを通じて、意見を拾い上げています。
── 顧客の声を聞く中で、理想と現場のギャップに気づかされたり、意外だったりしたことは?
佐藤 お客様に提供する情報量については、意外な発見がありました。フードを「どう選んだらいいかわからない」というお客さまの中には、フードに関する知識を深めて自信を持って選べるようになりたい、もっと多くの情報が欲しいという方も結構いらっしゃるんです。同梱物などの情報が多いと、お客さまを混乱させてしまうかもしれないと考えて、シンプルにした時期があったのですが、お客さまと向き合う中で、必ずしもそうではないことが分かってきました。
両軸経営は顧客の信頼だけでなく人材獲得にも好影響
── 財団での動物福祉活動を通じた「両軸経営」と、そもそもどうして財団を設立したかを教えてください。
佐藤 わんちゃんや猫ちゃんの保護活動に貢献したいという思いは、事業を始めた当初からありました。非営利活動をしている団体にフードの寄付や、個人的に金銭的な寄付などもしていましたが、それだけでよいのだろうか、という考えが強くなりました。
そして、考えた末、自分たち自身で財団を立ち上げ活動を行うというアイデアに至りました。
自分たちで非営利活動を運営することで、現場の課題をより深く知ることができます。また、信頼度や認知度が高まることで、会社を応援してくれる人が増え、会社が成長し、さらに多くの寄付を財団に送るという好循環を生み出せると考えたのです。出資いただいている株主からもこのアイデアに賛同を得られました。
── なぜ、両軸経営を実現できているのでしょうか?
佐藤 長期的な視点の重視が大きいと思います。財団の取り組みは、短期的に見れば利益的にマイナスに見えることもありますが、長期的な継続でほかにない競争優位性を確立できると考えています。
── 財団の活動が事業に対して良いフィードバックを生む関係性は、どのようなときに実感していますか?
佐藤 お客様との対話の中で、「財団の活動を応援しています」「購入のきっかけは財団への共感です」といった声が直接、届きます。こうした声を聞くたびに実感するのが、財団の活動がお客様との関係性に強く生きているということです。
金銭的な側面だけでなく、信頼という要素に活動が貢献していると感じています。
── シェルター運営に加え、最近では地方の動物病院をM&Aするなど、未開拓の領域へもチャレンジされています。地方の動物病院の後継者不足という課題は、今後より顕在化していくリスクですね。
佐藤 私たちは、グループ病院として都市部と地方の両方で動物病院を展開することを目指しています。
地方の病院は、後継者不足という課題を抱えていることが多いですが、それ以外の収益面では成り立っているケースも少なくありません。都市部の病院で若手が修行し、地方で数年活躍し、また都市部に戻るような、人材が循環するシステムを構築したいと考えています。
この取り組みにより、地方の病院の存続を支援し、動物たちが安心して暮らせる環境をつくりたいです。
── 採用など人材獲得の面でも両軸経営が生きていますか。
佐藤 ビジネススキルがありつつ、理念共感も高い、優秀な人材が集まっています。未経験者ももちろんいますが、多いのは特定の分野での経験を持ち実績を挙げた人々です。ビジネススキルを生かしながら、社会貢献もできるという点に共感し、「この会社ならロマンとそろばんの両立ができそう」と、興味を持って応募してくれるケースが多いです。
事業拡大をしつつ、これからも続ける両軸経営
── 今後、人材を拡大する計画はありますか?
佐藤 必要に応じて拡大する計画です。店舗ビジネスも展開する中で、必要となる人員は増えるでしょう。一方で、本社機能については、できる限り少ない人数で効率的に運営したいと考えています。
── グローバルには、台湾での販売実績もあります。海外への挑戦において、犬猫生活の強みをどう生かされるのでしょうか?
佐藤 わんちゃんや猫ちゃんは、どの国でも大切な家族の一員として受け止められています。そのため、質の高い、信頼できるフードを求めるニーズは、世界共通だと考えています。
殺処分に対する関心度やアプローチは国によって違いがありますが、それも徐々に同じ方向に向かっていくと信じています。日本のペットフードは、品質において世界に誇れるものだと考えており、その信頼性を武器に海外展開を進めたいです。
── IPO、上場についての考えを教えてください。
佐藤 上場は、事業を広げる上での資金調達となるだけでなく、信頼性をさらに高めるための大きなピースになります。特に、M&Aで地方の病院などと連携する際に、上場企業であるという安心感は、交渉での大きなアドバンテージです。
これにより、描いている成長戦略をより迅速に、そして大きく拡大できると考えています。
── 上場を経て出てくる次なる難題としては、どのようなものが想定できますか?
佐藤 連続的な成長という点では、国内事業の拡大が継続的な課題となります。フード事業だけでなく、動物病院や店舗のマネジメントなど、細かな大変さは多くありますが、着実に進めていくしかありません。
非連続的な成長という点では、M&Aによる事業領域の拡大、特に同じ思いを持つペット関連企業との連携が考えられます。また、海外展開も大きな挑戦です。まだ具体的な壁は見えませんが、世界規模で見れば日本はマーケットとしては小さいので、海外市場への進出は非常に楽しみです。
── 10年後、犬猫生活はどのような企業になっていたいでしょうか?
佐藤 国内においては、「一番信頼できるペット関連のブランドはどこか?」と問われた際、お客様から最初に名前が挙がるようなブランドになりたいと考えます。そのためには、認知度を高めると同時に、揺るぎない信頼を築く必要があります。
海外展開も、まだ具体的なスケジュールはないものの、「日本のペットフードといえば犬猫生活だよね」と世界に認識されるような存在を目指したいです。
── たとえば日本の殺処分率の低下など、動物福祉側での目標はありますか?
佐藤 日本を世界に誇れる動物福祉国家にすることを目指しています。
世界的に見ると、日本の動物福祉はまだ低いレベルにありますが、これを世界の上位に引き上げたい。殺処分ゼロはもちろんのこと、ペットショップのあり方や、飼い主も飼い主ではない人も、幸せに暮らせる状態をつくることが重要です。
犬猫生活が、そういった社会全体のルールを変えていくリーディングカンパニーとなれるよう、尽力します。
- 氏名
- 佐藤淳(さとう じゅん)
- 社名
- 犬猫生活株式会社
- 役職
- 代表取締役

