この記事は2025年12月19日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「全産業の経常利益は過去最高更新、26年も賃上げの勢いは継続へ」を一部編集し、転載したものです。
(財務省「法人企業統計季報」)
わが国の企業活動を財務諸表ベースで包括的に記録した「法人企業統計季報(四半期別調査)」によると、2025年7~9月期における全規模・全産業(金融・保険業を除く、季節調整値)の経常利益は前期比3.3%増加の31兆円と、3四半期ぶりに過去最高を更新した(図表)。
全規模ベースで業種別に見ると、製造業の経常利益は同5.9%増加の10兆円となった。3四半期連続の減少を回避し、ならしてみれば横ばい圏を保っている。
米国による関税率引き上げの影響などで、輸送用機械や業務用機械は軟調だったが、AI・半導体関連の需要拡大などを支えに、電気機械や生産用機械が堅調に推移した。同期には、営業外収益が経常利益の押し上げ要因となっており、為替相場が円安方向で推移したことが製造業の収益を下支えした側面もありそうだ。
非製造業の経常利益は同2.1%増加の21兆円となり、3四半期連続で過去最高を更新した。製造業とは対照的に拡大基調をたどっている。人手不足や賃上げを背景に、人件費を中心とする固定費の増加が経常利益の重しとなっているが、それを上回るペースで限界利益(売上高-変動費)の増加が続き、価格転嫁行動の定着が経常利益の押し上げ要因になっていることがうかがえる。
経常利益の増勢で見ると、おおむね横ばいの製造業と、拡大が続く非製造業で差異が生まれている状況が続く。もっとも、トランプ関税の収益下押し圧力に直面する中において、製造業が深刻な下振れを回避し底堅さを保っているとも評価できる。わが国全体で見た企業の収益環境は、おおむね堅調と総括できよう。
賃上げの原資となる企業収益の堅調さは、26年の賃上げの持続性を見通す上で重要だ。労働分配率(人件費が付加価値に占める割合。付加価値=経常利益+人件費+減価償却費+支払利息等で計算)も低下基調に歯止めがかかっておらず、企業の稼ぐ力の高まりとの対比で人件費の伸びは鈍い。企業全体では、賃上げの余力がまだ存在することを示唆している。
企業収益の面だけではなく、労働需給や物価情勢といった他の外部環境面から見ても、26年も賃上げの勢いが持続しやすい素地が整っているといえよう。深刻な人手不足が長期化するなど、労働需給の逼迫が企業側の賃上げの誘因となる状況は続いている。
前回(12月16日号)で取り上げたように、労使間の交渉材料となる物価も、足元では高止まりの様相を示す。厚生労働省による民間主要企業の集計ベースでは、25年の春季賃上げ率は5.52%に達する。トランプ関税の影響で25年よりも幾分伸びが縮小する可能性はあるが、26年も5%以上の賃上げが実現する公算は大きい。
SBI新生銀行 グループ経営企画部 金融調査室 シニアエコノミスト/森 翔太郎
週刊金融財政事情 2026年1月6日号