この記事は2026年3月2日に配信されたメールマガジン「アンダースロー(ウィークリー): 長期と超長期金利のマクロ・フェアバリュー」を一部編集し、転載したものです。
アンダースロー(ウィークリー): 長期と超長期金利のマクロ・フェアバリュー
長期金利(国債10年金利)と超長期金利(国債30年金利)のマクロ・フェアバリューは、名目GDP(前年比、12QMA)、企業貯蓄率と財政収支を合わせたネットの資金需要(対GDP比%、マイナスが強い)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国債10年金利、緩和的金融政策のコミットメントの強さを表すダミー変数(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0とする)で推計できる。名目GDP成長率の3年移動平均との相関関係が強く、国債市場は遅れて動くようだ。現在の長期金利はマクロ・フェアバリューとほぼ同水準で、超長期金利は積極財政によるネットの資金需要の回復をより強く織り込んでいるようだ。
直近公表値の2025年7-9月期のネットの資金需要2.7%を前提 長期金利のマクロ・フェアバリュー 2.1% 超長期金利のマクロ・フェアバリュー 3.1%
実質賃金が減少して家計が困窮する中、緊縮財政から積極財政に転じ、所得税と消費税の減税や給付金などによって、家計を支えることが急務になっている。政府は、官民連携の投資拡大の積極財政によって高圧経済とし、家計の実質所得を押し上げようとしている。日銀に強い経済成長と物価安定の両立のデュアル・マンデートを課し、政府との連携を求めている。政府は、国会同意人事の日銀審議委員の候補として、浅田統一郎氏(野口氏の後任)、佐藤綾野氏(中川氏の後任)を提示した。両氏とも、日銀のデュアル・マンデートに深い理解があるとみられる。両氏の就任後の日銀政策委員会の分布図はハト派とタカ派でバランスする。政府の強い経済成長を求める意向が日銀人事で改めて明らかとなり、地政学上のリスクも極めて高まっているため、日銀の早期の利上げはより困難になったとみられる。
長期金利推計式
国債10年金利(%)=0.54+0.30 名目GDP(%、前年比、12QMA)+0.26 米国10年金利(%)-0.15 ネットの資金需要(対GDP比%)-0.06 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)-0.63 緩和的金融政策ダミー(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0) ;R2=0.93
超長期金利推計式
国債30年金利(%)=1.36+0.31 名目GDP(%、前年比、12QMA)+0.26 米国10年金利(%)-0.12 ネットの資金需要(対GDP比%)-0.05 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)-0.82 緩和的金融政策ダミー(2016年4-6月期から2024年10-12月期まで1、2025年1-3月期から7-9月期まで0.75、他は0) ;R2=0.92 1988~99年のデータは1999年時点の10年金利とのスプレッドを適用して延長
図1:植田日銀総裁下の政策委員の分布図(浅田氏と佐藤氏が就任した場合)
図2:国債10年金利のマクロ・フェアバリュー
図3:国債30年金利のマクロ・フェアバリュー
以下は配信したアンダースローのまとめです
政府が提示する日銀審議委員の候補のプロフィール(2月25日)
政府が国会同意人事に提示すると報じられた日銀審議委員の候補である佐藤氏、浅田氏のプロフィールです。両氏とも、政府が日銀に課した強い経済成長と物価安定の両立のデュアルマンデートに理解があるとみられます。
佐藤 綾野
青山学院大学教授
日本成長戦略会議人材育成分科会構成員
専門分野及び関連分野:国際金融論, 経済政策論, 計量経済学、マクロ経済学
参考
第17回勉強会「今、日本経済に必要なこと」講師:青山学院大学経済学部教授 佐藤 綾野氏 | 責任ある積極財政を推進する議員連盟
共著
・原田泰・飯田泰之編著『高圧経済とは何か』金融財政事情研究会
・原田泰、佐藤綾野『昭和恐慌と金融政策』日本評論社
浅田 統一郎
中央大学名誉教授
著書
『成長と循環のマクロ動学』日本経済評論社 1997
『マクロ経済学基礎講義』中央経済社 1999
『ミクロ経済学の基礎』中央経済社 2002
ESGマクロ指数の改善はまだ弱い(2月27日)
日本経済の質を表すESGマクロ指数は、2025年10-12月期に+0.93と、7-9月期の+0.87から改善した。2024年4-6月期の0.58を底に、改善のトレンドが続いているが、まだ弱い。鉱物性燃料の依存の低下とテクノロジーの進歩によって、E(環境)の寄与度は2022年7-9月期の底から、改善のトレンドを続けている。売上高経常利益率の上昇と企業貯蓄率のピークアウトによって、G(ガバナンス)の寄与度も2024年10-12月期の底から改善のトレンドが続いている。しかし、S(社会)の寄与度は2025年4-6月期で底を打ったようだが、改善の動きが鈍い。女性就業比率は大きく上昇してきているが、家計の貯蓄率の低下による家計のファンダメンタルズの悪化が下押し圧力となっている。実質賃金が減少して家計が困窮する中、緊縮財政から積極財政に転じ、所得税と消費税の減税や給付金などによって、家計を支えることが急務になっている。
ESGマクロ指数は、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のそれぞれを代表する二つのマクロ指数を総合した、CACIB独自のものである。1997年月期からの四半期データで、合計で六つの指数のZスコアを単純平均したものである。0が長期平均となり、プラス・マイナス1を超えると、大きな局面変化が起こっていることになる。積極財政による家計支援と官民連携の成長投資の拡大で、ESGマクロ指数はプラス1を上回り、日本経済の景気回復の質が著しく向上していることが示されるとみられる。
10-12月期のE(環境)のマクロ指数の寄与度は+0.29と、7-9月期の+0.31から若干悪化した。E(環境)のマクロ指数は、鉱物性燃料への依存度とテクノロジーの進歩でとらえる。鉱物性燃料への依存度は、財務省公表の貿易統計の鉱物性燃料輸入額(当社季節調整値)の、内閣府公表の名目GDP(1四半期ラグ)に対する割合をとる。低下が改善とする。テクノロジーの進歩は、貿易統計の輸出価格指数の、日銀公表の企業物価統計の円ベース輸出物価指数に対する比率をとる。企業物価統計では品質調整を行っている一方で、貿易統計は行っていない。テクノロジーが進歩し、日本の輸出品の品質が向上すれば、比率は上昇することになる。原発の再稼働と原油価格の低下によって、鉱物性燃料への依存度は低下トレンドにある。一方、投資不足などによって、テクノロジーの進歩のペースは鈍化してしまっているようだ。
10-12月期のS(社会)のマクロ指数の寄与度は+0.20と、7-9月期の+0.13から改善した。S(社会)のマクロ指数は、家計のファンダメンタルズと女性の社会進出でとらえる。家計のファンダメンタルズは、日銀公表の資金循環統計の家計の資金過不足(家計部門+対家計非営利団体)の、名目GDPに対する割合をとり、家計貯蓄率(1四半期ラグ)として表す。家計がしっかりとした資産を形成できることが、社会の安定につながると考える。女性の社会進出は、総務省発表の労働力統計の女性就業者数の全就業者に対する割合をとる。女性の就業率の上昇は顕著だが、家計の貯蓄率の低下によるファンダメンタルズの悪化が引き続き大きな下押しになっている。
10-12月期のG(ガバナンス)のマクロ指数の寄与度は+0.44と、7-9月期の+0.43から若干改善した。G(ガバナンス)のマクロ指数は、企業の資本効率と利益率でとらえる。企業の資本効率は、資金循環統計の企業の資金過不足(非金融法人+金融機関)の、名目GDPに対する割合をとり、企業貯蓄率(1四半期ラグ)として表す。低下が改善とする。企業は借入れや株式で資金を調達して事業を行う主体なので、企業の貯蓄率はマイナスであるべきだ。プラスの企業貯蓄率は、リターンが低い資本を積む行為で、資本効率が悪いことを示す。利益率は、財務省公表の法人企業統計の全規模全産業経常利益の、売上高に対する割合をとり、売上高経常利益率(1四半期ラグ)として表す。利益率の改善は、経営効率の改善を示すとともに、企業の付加価値の向上も示す。円安と販売価格の引き上げで企業の収益性は著しく向上している。一方、企業の貯蓄率がピークアウトはしたものの高止まり、収益から企業の国内支出(投資・賃金)の増加を通じた、内需の成長の好循環にはまだ至っていない。
図1:日本経済のESGマクロ指数
図2:E(環境)
図3:S(社会)
図4:G(ガバナンス)
日本経済見通し
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