東京ニュービジネス協議会(NBC)主催のカンファレンス「第3回 起業から成功への道 」が3月6日、開催された。今回のメインテーマは「革新」。日本経済がGDP世界5位に転落し、一人当たりGDPでは先進国最下位に甘んじる中、いかにしてこの停滞を打ち破るべきかを探るべく、ロッテホールディングス代表取締役社長 玉塚元一氏による基調講演、日本を代表する上場企業オーナーらによる議論が行われた。
玉塚元一氏が説く経営の原理原則:AGC、ファーストリテイリングを経てロッテへ
基調講演に登壇したのは、株式会社ロッテホールディングス代表取締役社長 CEOの玉塚元一氏。旭硝子(現AGC)でキャリアをスタートさせ、ファーストリテイリング、ローソン、そしてロッテと、異なる業態で変革を主導してきた氏は、自身のキャリアを俯瞰し、変革の本質を次のように語った。
「経営において最も大事なのはファクト(事実)をつかむこと。ロッテに入ってから、私は500人ほどの社員にインタビューした。各分野で『誰が一番本当のことを知っているか』を把握し、その人と定期的に会って話す。構造を変えるのはボトムアップではできない。CEOにしかできない仕事は、仕組みや構造、難易度の高い文化の変革にメスを入れることだ」
玉塚氏は、ファーストリテイリング時代に柳井正氏から学んだ「革新の3要素」を挙げ、特に「異分子の登用」の重要性を強調した。
「過去の延長線上で考えない外部人材をあえて混ぜることで、組織の硬直化を防ぐ。一番危険なのは『分かっているフリ』をしている人だ。プロとは圧倒的な当事者意識を持ち、役職ではなくミッションで仕事をする者のことである」
また、現代の経営者が向き合うべきAIについても、「AIによって組織の構造そのものが変わる」とした上で、「バックオフィスやサプライチェーンを全部の部門でやり直している。人が浮いてくる。日本では解雇できないから、その人たちをどう成長領域にシフトさせるか。新卒のスペックも、中途採用のスペックも、全部変わる。ものすごく構造が変わるということだ」などと指摘した。
上場オーナーが描く成長戦略:Ubicom・青木氏らが語る「AI時代の突破口」
パネルディスカッション第1部では、NBC会長を務める青木正之氏(株式会社 Ubicom ホールディングス 代表取締役社長 CEO)、有本隆浩氏(株式会社MS-Japan 代表取締役会長CEO)、河野貴輝氏(株式会社ティーケーピー 代表取締役社長)らが、変化の時代における意思決定について激論を交わした。モデレーターは、安藤広大氏(株式会社識学 代表取締役社長)が務めた。
Ubicomホールディングスの青木氏は、グローバルな開発体制を武器に、さまざまな分野でのDXをリードしてきた立場から、AI時代の経営者像を次のように定義した。
「AIによってビジネスモデルそのものが変わる。エンジニアの役割すら変容する中で、経営者は『何を成すべきか』という執念を持ち、決めたことをやり抜く実行力が問われている。変化を待つのではなく、自ら変化を作り出す側にならなければならない」
MS-Japanの有本氏は、深刻な労働力不足を「AIでリカバーする絶好の機会」ととらえ、次のように述べた。
「人材紹介という単一モデルから、管理部門・士業のプラットフォーム戦略への転換を進めている。人口減少はリスクではなく、世界一の管理系プラットフォームを目指すための追い風だ」
また、コロナ禍からのV字回復を遂げたTKPの河野氏は、インフレ局面での投資戦略について語った。
「空間再生から、あらゆる領域の『再生』へ。強固なバランスシートを武器に、M&Aや不動産の流動化を加速させる。インフレは実物資産を持つ者にとってチャンス。守りではなく、攻めの姿勢こそが革新を生む」
次世代リーダーの「解像度」が既得権益の壁に穴を開ける
第2部では、これからの日本を担う若手起業家たちが、「挑戦の解像度」をテーマに議論した。星野善宣氏(エスイノベーション株式会社代表取締役CEO)がモデレーターを務めた。
なかでも、宿泊と賃貸を融合させた居住モデルを推進する株式会社Unitoの近藤佑太郎氏は、既存の規制や慣習という「壁」に対する極めて前向きな解釈を披露した。
「壁は壁ではない。条件が決まるだけだ。民泊規制も、外国人の不動産規制も、条件が決まるだけ。その壁らしきものが右に振れているのか、左に振れているのかを見極めて、いかに上りのエスカレーターにするかを考える。それだけだ」
この姿勢は他の起業家にも共通していた。
山形県庄内地方で地域資本の循環を目指す株式会社SHONAIの山中大介氏は、地方での新規事業がいかに困難であるかに触れつつ、こう断言した。
「共感というのは結果論だ。自分がやったことに対して結果が出れば、応援者・共感者は増える。だから私は、(応援してくれる)3%の人と一緒にやってしまえばいい、とずっとやってきた。地元の成功者の中には、自分もかつては挑戦者だったから応援してくれる人がいる。その3%を見つけにいくこと、それだけだ」
農業界に革命を起こそうとしている株式会社栄農人(エナジー)の柳澤孝一氏も、その覚悟に呼応する。
「私は、農業をスポーツのようにかっこよく、稼げる職業へ変えたい。余計なことはせず、作ることだけに集中し、独自の流通網を構築している。日本の将来のために、現場の事実から逃げずに挑戦し続ける。単純にスーパーで我々のブランドを買ってもらう、その積み重ねが農業の未来を創る」
講演、ディスカッション後には大交流会も開催
カンファレンスを通じて浮き彫りになったのは、日本経済の再興には、トップの断固たる意思決定と、現場のファクトに基づく「構造の破壊と再生」が不可欠であるという事実だ。
「既得権益という魔物を大掃除し、もう一度日本を強く豊かで、世界に誇れる国にする」
主催者が冒頭で掲げたこの強い言葉を現実のものとするのは、本イベントで交わされたような、世代を超えた経営者たちの共鳴と、飽くなき革新への渇望に他ならない。AIという強力な武器を手に、構造改革を断行するリーダーたちが次々と現れるとき、日本の「失われた30年」は真に終焉を迎えるだろう。
なおカンファレンスには韓国からも関係者が出席。冒頭、韓国経営革新中小企業協会のキム・ミョンジン会長の祝辞が述べられた。また主催者を代表して、有本氏、青木氏、西川心二氏(株式会社アシスト 代表取締役社長)らがあいさつしたほか、東京証券取引所の池田直隆氏(上場部企画グループ統括課長)、 名古屋証券取引所の鈴木武久氏(執行役員 常務取締役)らも登壇した。
講演、パネルディスカッション終了後にはプログラムの締めくくりとして、登壇者・参加者が一堂に会する「大交流会」が開催された。
文/写真・ZUU online編集部