この記事は2026年3月27日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「インフレと雇用状況の悪化懸念でFRBの金融政策判断は困難に」を一部編集し、転載したものです。
米国では、トランプ政権による「米国第一主義」に基づいた対外関係の再構築が加速している。関税措置の強化や軍事力の行使、不法移民への厳格な取り締まりが継続されており、国際・国内社会における地政学的・政策的不確実性は極めて高い状態にある。
2月28日には、米国とイスラエルがイランへの軍事作戦を開始し、イラン最高指導者のアリー・ハメネイ師を殺害した。これに対してイランは、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を強行。ハメネイ師の次男、モジタバ・ハメネイ師が専門家会議により新たな最高指導者に選出された。
新指導部が前指導部と同様の反米姿勢を継続するとの見方から、戦争の長期化が懸念され、WTI(West Texas Intermediate)原油先物価格は一時1バレル=119.48ドルまで急騰した。その後、イランによる中東各国のインフラ・民生施設へのドローン・ミサイル攻撃など、中東全域への戦火の拡大が危惧され、足元でも100ドル付近で推移している。米軍が制空権を掌握し、ホルムズ海峡の安全航行が早期に回復するとの見方もあるが、依然として不透明感は拭えない。
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月17、18日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)で、FFレート誘導目標レンジを予想どおり2会合連続3.50~3.75%に据え置くことを決定した。FOMC声明文では「中東情勢が米経済に及ぼす影響は不確実」と明記された。
FRBのパウエル議長も記者会見で「中東での出来事が米国経済に与える影響は不確実」と声明文をなぞった。その上でパウエル議長は「短期的にはエネルギー価格の上昇が全体的なインフレ率を押し上げるが、経済への影響が及ぶ範囲や期間を把握するには時期尚早」と述べた。さらに「関税ショックやパンデミックを経て、今度は規模・期間ともに相当なエネルギーショックに直面しており、こうした事態がインフレ期待に悪影響を及ぼすことを懸念している」と強い警戒感もあらわにした。
こうした発言やイラン情勢の長期化懸念を背景に、FF先物市場では早くも次の一手として利上げを織り込み始めている。不確実性の高まりによる原油高は、短期的にはFRBが政策目標の一つとする物価指標のPCEデフレーターを押し上げる要因となる(図表)。一方で、エネルギーコストの上昇は個人消費や住宅投資、設備投資を抑制する要因にもなる。世界規模では、原油と液化天然ガス(LNG)の供給不足が、日本、EU、アジア諸国の経済活動を減退させる可能性がある。
FRBはインフレの上振れを警戒しつつも、雇用状況の悪化を同時に注視せざるを得ない。現時点では、利上げが現実的な選択肢となる可能性は依然として低いと見込まれる。
第一生命経済研究所 主任エコノミスト/桂畑 誠治
週刊金融財政事情 2026年3月31日号