この記事は2026年3月27日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「日本企業の開業・廃業率が示唆する生産性向上のヒント」を一部編集し、転載したものです。


日本企業の開業・廃業率が示唆する生産性向上のヒント
(画像=K+K/stock.adobe.com)

(総務省「経済センサス」)

前回は、日本の経済成長に対して生産性が重要な役割を担っていること、そして生産性を高める方法として「企業の新陳代謝」と「投資の波及効果」の二つに着目することを説いた。今回は、企業の新陳代謝がいかに日本経済全体の生産性向上へつながるのかを分析したい。

まず、日本企業の新陳代謝の動向を開業・廃業の段階別に確認する。図表は、企業版の国勢調査ともいうべき「経済センサス」を用いて、日本企業全体の開業率と廃業率を示したものだ。

開業率は1970年代後半から80年代初頭までは平均6%程度だったが、90年代前半にかけて同3%程度に急低下。その後はアップダウンを繰り返しながら同4%程度で推移している。欧米主要国の開業率が10%前後であることに比べると、日本の開業率は低い水準にとどまっている。新興企業の少なさが新陳代謝の進展を阻んでいるといえる。

廃業率は90年代半ばまで3~4%だったが、90年代後半に上昇し、その後は6%前後で推移している。ただし、廃業には景気悪化による倒産や事業所閉鎖も含まれる。そのため、廃業率の上昇がすべて新陳代謝の面で望ましいものとは限らない。

こうした開業率や廃業率の変化は、日本経済全体の生産性にどの程度影響するのか。統計的な分析を行ったところ、開業率と廃業率がそれぞれ上昇すると、生産性の伸びが高まる「プラス効果」があることが確認できた。ただし、廃業率については財務が健全な企業の廃業が増えると、生産性の伸びが抑制される副作用があることも明らかになった。このことは、生産性との関係で廃業の内容が重要であることを示唆している。

最後に、生産性向上の観点から、企業の新陳代謝を促進する政策手段について考えたい。開業率を引き上げるためには、その担い手である起業家を増やすことが重要だ。大学などで起業家教育を拡充したり、高度外国人材の受け入れを増やしたりすることで、起業家の裾野を拡大させる必要がある。また、大企業などによる新興企業への出資・M&Aを支援する「オープンイノベーション促進税制」の要件を拡充し、新興企業の成長を資金面で後押しすることも、開業率の上昇につながる可能性がある。

廃業の面では、事業再生・再構築や事業承継・M&Aなどの支援を提供した上で、それでも事業継続が難しい場合、円滑な倒産・解散手続きによる「迅速な再出発」が可能な環境の整備が求められる。また、財務の健全な企業が一時的な経済ショックで廃業することを防ぐには、ショックを乗り切る資金繰り支援の実施や、第三者承継・売却支援を通じた事業継続の促進が有効だろう。こうした取り組みが、今後の日本の経済成長を支える牽引役として期待される。

日本企業の開業・廃業率が示唆する生産性向上のヒント
(画像=きんざいOnline)

みずほリサーチ&テクノロジーズ チーフ日本経済エコノミスト/服部 直樹
週刊金融財政事情 2026年3月31日号