この記事は2026年4月10日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「日米比較から見た生産性向上に資する企業行動の在り方」を一部編集し、転載したものです。
(Luiss Lab of European Economics "EUKLEMS & INTANProd")
前回は、無形資産(ビジネス革新)を中心とした複数の投資の組み合わせが企業の生産性向上に寄与する可能性を示した。本稿では、これまでの日本企業の投資行動を振り返るとともに、生産性向上を加速するために必要な企業行動を考察する。
これまでの日本企業は、バブル崩壊以降のデフレ環境下で、いわゆる「コストカット型経営」を推し進めてきた結果、中長期的な成長投資が抑制されてきた。図表は、日本で特に伸びが弱い無形資産(ビジネス革新)の投資について、その内訳を米国と比較したものである。いずれの資産への投資の伸び率も日本が米国を下回り、特に人的資本投資と組織資本投資はマイナスに落ち込んでいる。企業の生産性向上のカギとなる無形資産(ビジネス革新)の中でも、人的資本と組織資本に投資が十分に行われていない状況が確認できる。
2019年に学習院大学の宮川努教授らが実施した「生産性向上につながるITと人材に関する調査」では、ICT導入時における企業の対応として「既存のシステムを大きく変えずに利用した」と回答した企業が約半数を占めた。また、「従来の仕事のスタイルをあまり変えないようにカスタマイズしたシステムを導入した」と答えた企業も散見されるなど、業務プロセスや業務フローの改善といった組織資本に対する投資に消極的な傾向を示した。
同調査は、ICTの導入が仕事のスタイルの変化を伴っていない主な理由として、IT関連の専門人材の不足(≒人的資本に対する投資不足)を挙げている。このような企業では、ICTを導入する必要性自体は認識していても、それをどのように効率的に業務に活用するか十分に理解が深まっていない可能性がある。
その結果、ICTを導入しても業務プロセス等の見直しが伴わないまま「導入しただけ」にとどまり、生産性上昇効果が限定的になっているようだ。人的資本の蓄積が十分でない中でICTを導入することにより、組織資本が蓄積されにくいことがICTの効率的な活用に当たってのボトルネックとなっている。
日本企業はデフレ下でコストを抑えることが優先事項にあり、これまで十分な成長投資を行う余力がなかったといえる。裏を返せば、先行きの成長投資を通じた生産性向上の余地が大きいともいえる。
今後、AIなどのデジタル技術がさらに普及していく中で、そうした技術を活用する企業が、専門人材の育成や組織作り、デジタル技術の導入に伴う業務プロセスの改善といった支出により多くの資金を振り向けていくことが期待される。こうした取り組みが、日本企業のさらなる発展、ひいては日本経済の成長加速へと導く「第一歩」となるだろう。
みずほ総合研究所 調査部 エコノミスト/阿部 大樹
週刊金融財政事情 2026年4月14日号